闇に呑まれていた鬼の娘を500年かけて看病した仙人が、異国で恋愛小説の餌食に……   作:時代に遅れている

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今回は旅人視点もあります。

視点の切り替わりがわかりにくいかもしれませんがよろしくお願いします。


雷電将軍と不思議な空間

「ふぅ……」

 

俺は釣り竿を軽く引き上げながら、水面に目を落とした。陽射しが水面で揺らめき、時折小さな波紋が広がるだけ。餌に食いつく気配は、これっぽっちもない。

 

隣では、平蔵が器用に釣り糸を垂らしながら、相変わらず軽口を叩いている。

 

「ふーん、君って案外ロマンチストなんだねぇ。」

 

「……何の話だ。」

 

俺は眉をひそめた。まったく、この探偵は油断も隙もない。

 

「千代さんに簪を贈ったんだって?ん?」

 

ちらりと横目で睨むと、平蔵は楽しそうに笑った。

なぜ、俺はこいつと共に釣りなんてしているのか。それは今日旅人たちと木漏茶屋で合流する予定だったが、神里家が妙に慌ただしく、近くにいた神里家の家人を名乗る者に追い返された。仕方なしに気晴らしに釣りをしていたら、ひょっこりこの男が現れたというわけだ。

 

「……何でお前が知っている。」

 

「そりゃあもう、巫女さんたちが楽しそうに話してたからね。特に宮司様、千代さんの顔が真っ赤になってるのを見て、随分ご満悦だったよ?」

 

……やはり神子か。俺がいないところで余計な話を広げているに違いない。

 

「それにしても、簪を贈るなんて、君にしては粋な計らいじゃない?」

 

「別に、千代が欲しそうにしていたから買っただけだ。」

 

「へぇ〜?」

 

平蔵はにやにやしながら俺の顔を覗き込んできた。

 

「で、それが簪だってことはちゃんと分かってた?」

 

「……まぁ、アクセサリーの一種だろう?」

 

「はぁ〜〜。」

 

わざとらしくため息をつくと、平蔵は俺の肩をぽんぽんと叩いた。

 

「これが"鈍感仙人"なんて呼ばれる所以か〜。」

 

「……は?」

 

「いいかい?簪っていうのは、昔から特別な意味を持つ贈り物なんだよ。特に、男性が女に贈る場合はね。」

 

「……」

 

「まぁ、詳しくは自分で調べなよ。」

 

俺が黙り込むのを見て、平蔵はいたずらっぽく笑った。

 

「それにしても……」

 

「今日は神里家のお嬢さんたちと木漏茶屋で会う予定じゃなかったのかい?」

 

「……ああ、だが何やら屋敷の様子がおかしかった。それに、神里家の家来を名乗る男からも追い出された。」

 

「……ふむ。」

 

平蔵は一瞬だけ真剣な表情を見せた。

 

「それにしても、釣れないね。」

 

俺は水面を見つめながら言った。針先には、まるで魚が興味を持たないかのような静寂が広がっている。

 

「まぁ、釣りとは気長に待つものだ。気を鎮めるにはちょうどいい。」

 

「まぁーー」

 

平蔵が口元に笑みを浮かべたその時、

 

「僕たちの方はすでに敵の網にかかってたみたいだけど……ね!」

 

 

ばさり、と背後の茂みが揺れたかと思うと、平蔵が身体を軽くひねり、片足を後ろに蹴り出す。その足先から、風の元素を凝縮した小さな玉が生み出され、一直線に飛んでいった。

 

「ぐはっ!」

 

風の玉をまともに喰らった武士の男が、茂みから吹き飛ばされて転がり出てきた。

 

俺はゆっくりと立ち上がり、竿を地面に立てかけた。

 

「……最初から気づいてたのか。」

 

「まぁね。釣り竿を垂らすより先に、潮の匂いとは違う汗の臭いがしてたから。」

 

平蔵は肩をすくめながら、転がっている武士を見下ろした。

 

「やれやれ、せっかく釣り日和だったのに。」

 

俺は武士に歩み寄ると、踏みつけるでもなく、ただ静かに問いかけた。

 

「誰の指示だ。」

 

武士は顔を歪めながらも口を噤んでいる。だが、身体は震えていた。平蔵の一撃が、ただの不意打ちではないと理解しているのだろう。

 

すると、

 

???「俺からの指示だ。」

 

「やはりお前か、」

 

「大河原五右衛門」

 

「なんだ?あまり驚いていないようだが」

 

「まぁ想像するに容易かったからね」

 

「で?俺たちに手を出したのは先日の恨みってところか?」

 

俺は静かに五右衛門を見据えた。

あの時、鳴神島の民たちの前で叩きのめした――それを根に持たれていたのは、最初から分かっていた。

 

五右衛門は口元を歪め、下卑た笑みを浮かべた。

 

「フン、言ったはずだ。俺たち天領奉行はこの国の秩序を守ると」

 

「自分勝手な判断で兵士を動かしたやつのセリフとは思えなかったからな……すっかり忘れてたよ」

 

俺と平蔵は静かに構える。

 

「おっと、俺たちに手を出すのはやめといた方がいいぞ?」

 

「何?」

 

「蒼雲さん!」

 

背後から鳴神大社の巫女をしている稲城蛍美が走ってきた。

 

「どうした?」

 

「千代さんが……千代さんが天領奉行の方に!」

 

「何!?」

 

「いや〜本当に手強かった。巫女さんと目狩り令の実行を止めに入った彼女を捕まえるのがな」

 

「流石は伝説の鬼姫様だ。こーー」

 

「ちょっといい?」

 

「ここ紺田村の民の中で神の目を持っている人はいなかったはずだけど?」

 

 

「君は部下を使って自作自演の劇で千代さんを捕まえって事でいいかな?」

 

「流石は鹿野院平蔵。鳴神島の住民の情報を覚えているとはな。そうだ。あれは俺たちの自作自演だ。」

 

「俺を捕まえるためにそこまでするか……」

 

「一つ聞く。どうやってあの千代を捕まえた?アイツは長年戦闘に参加していなかったとはいえ将軍に仕えていた鬼姫。お前たちなんかにーー」

 

「それは確かに、あのまま戦っていたら捕まえられなかっただろう。」

 

「だがお前の名前を出したらあっさりさ。詳しくはそこの巫女さんに聞いた方がいいだろう。」

 

俺は拳を強く握りしめた。

胸の奥が、怒りで煮えたぎるような感覚に包まれる。

だが、俺はまだ平静を保っていた。――いや、保たなければならなかった。

 

「……詳しく聞かせろ。」

 

俺は稲城蛍美に静かに促した。彼女は苦しそうに唇を噛み締めながらも、言葉を続けた。

 

「千代さんは……神の目を持っている村人と私を守ろうとして、奉行所の侍たちに立ちはだかりました。」

 

「その時、彼らが蒼雲さんの名を出してきたんです。『蒼雲は罪がある』とか『今すぐ来なければ捕らえて処刑する』とか……」

 

「千代さんは……迷わず隙を見せてしまいました。」

 

……クソッ!

 

俺は唇を噛み締めた。

千代がそんな安い挑発に乗るわけがないと、どこかで信じたかった。

だが、同時に、アイツなら――優しい心の持ち主のアイツなら他人のためにも何の迷いもなく命を懸けるだろうとも知っていた。

 

五右衛門は、それを狙っていた。

奴は、人の優しさすら利用する、最低のクズだった。

 

得意げに顎をしゃくり上げる五右衛門の顔が視界に映る。

 

「思惑通り、隙を見せたおかげで、拘束することができたってわけだ。」

 

その言葉に、俺の中の怒りが静かに燃え上がった。

 

隣にいた平蔵が、声をひそめて囁いた。

 

「蒼雲、今回は本当に危ないかもしれないよ……」

 

「何だ?」

 

「まだ君には話してなかったけど、今日は千手百目神像で"ある儀式"があるんだ。」

 

「百個目の神の目を、雷神様が直々にはめる――それがメインだ。だけど……」

 

「当日になって、"レクリエーション"として追加された項目がある。」

 

「……罪人を、雷神様の御前で斬る、ってね。」

 

俺は目を細めた。

平蔵がここまで不安を露わにするのは、滅多にないことだった。

 

「……つまり、千代を処刑するってことか。」

 

「……うん、そう考えるのが普通だと思う。」

 

五右衛門は勝ち誇ったように肩をすくめた。

 

「今から行ったって無駄さ。儀式はもう始まってる。どんなに走ったって間に合わねぇよ……!」

 

その瞬間、俺は静かに呟いた。

 

「眠れ――永遠にな。」

 

次の瞬間、俺は自身の掌に水元素を凝縮させる。

龍が巻き付いたような形の、水の剣――《倶利伽羅剣》を作り出し、それを一閃。

 

ドシュッという鈍い音とともに、五右衛門の首元へ刃が食い込んだ。

 

もちろん、殺しはしない。

過去に結んだ誓い――人を殺さない、という契約だけは守る。

 

だが、意識を、二度と戻さないように。

眠ったまま植物状態へと追いやる、それが俺の一撃だった。

 

五右衛門は、抵抗する間もなく地面に崩れ落ちた。

 

「……っ!」

 

周囲にいた兵士たちが息を呑む。

だが、俺はもう一切の言葉を交わすつもりはなかった。

 

すぐに地を蹴り、全力で駆け出す。

目的地はただ一つ――千代を救うために、雷神の居る場所へ。

 

(千代……今行く。絶対に、お前を――守る!)

 

俺の心臓が激しく鼓動を打ち、全身の血が煮えたぎる。

ただ一人のために、俺は風を切り裂き、城下へと駆け続けた――。

 

一方その頃――。

 

旅人たちは「木漏茶屋」へと向かっていた。

静まり返った茶屋の空気に、パイモンが不安げに顔をしかめる。

 

(稲妻城での生活も慣れてきたけど……そろそろ次の行動に移る時だね)

旅人は心の中で思う。

 

「おかしいな……今日はやけに静かだぞ。いつもとまるで違う。」

 

パイモンも周囲を見渡しながら、太郎丸のもとへ駆け寄った。

 

「まさか、またオイラたちを揶揄ってるのか! ……トーマー!トーマー!」

 

だが、太郎丸はただ吠えるだけで、トーマの姿はどこにも見えない。

 

「おいおい、出てこいよー! 分かってるんだからなー!」

 

パイモンが叫んでも、何の返事もない。

旅人も、そしてパイモンも異様な空気を敏感に感じ取った。

 

「それに……蒼雲もいないな。」

 

パイモンが旅人の顔を見ながら言う。

いつも絶対に遅刻などしない彼が、姿を見せないのは異常だった。

 

「なんか嫌な予感がするぞ……」

 

するとそこへ、急ぎ足で駆けてくる影があった。

白鷺の姫君――神里綾華だ。

 

「お二方、トーマと蒼雲さんを見かけませんでしたか?」

 

息を整えながら問いかける綾華に、パイモンが応じる。

 

「えっ? オイラたちは知らないぞ? トーマはおまえと一緒じゃなかったのか?」

 

綾華は表情を引き締めた。

 

「……まずいですね。ここに来る途中、トーマが天領奉行に捕まったと聞きました。」

 

「えっ!」

 

驚くパイモンを横目に、綾華は続ける。

 

「将軍様は千手百目神像の前で百個目の神の目の『目狩り儀式』を行う予定です。そして、百個目の神の目の持ち主……つまり、トーマが儀式の犠牲になる可能性が高いのです。」

 

「まさか……トーマのために準備された儀式だったのか!?」

 

パイモンが叫び、旅人も唇を引き結ぶ。

 

(そんな……トーマを、儀式のために……)

 

綾華は苦しげに続けた。

 

「将軍様と天領奉行は、目狩り令の成果を示すため、この儀式を利用するのでしょう……!」

 

「いけない、急がなければ……!」

 

焦る綾華に、旅人は静かに手を伸ばした。

 

「落ち着いて。……綾華、君が動けば、社奉行全体が将軍様に敵対することになる。」

 

パイモンも慌てて付け加えた。

 

「そうだぞ! 普通の人まで巻き込んじまう!」

 

だが、綾華は首を横に振る。

 

「それでも……彼を、トーマを見捨てるわけにはいきません。彼は、私の友人なのです……!」

 

パイモンは歯を食いしばった。

 

(くそっ……なんでこんな時に蒼雲もいないんだよ……!)

 

その時だった。

 

「お嬢様!」

 

駆け寄ってきた使いの者が、慌ただしく報告する。

 

「実は、ここに来る予定だった蒼雲様の件ですが……天領奉行の者たちにより、行く手を阻まれているとのことです!」

 

「なっ……!」

 

綾華の顔色が一気に青ざめた。

 

「嘘だろ!?」

 

パイモンも驚愕し、旅人は冷静に状況を整理しようとする。

 

(……つまり、蒼雲も危険な状態にある。今頼れるのは、自分たちだけだ)

 

綾華は悔しそうに唇を噛み締めた。

 

「……やはり我慢なりません。私が直接助けにーー!」

 

だが、パイモンがすぐに叫んだ。

 

「だから落ち着けって! オイラと旅人が代わりに助けに行ってやるから!」

 

「え……?」

 

「安心しろ! 友達の命に関わることだ、オイラたちは絶対に失敗しない!」

 

旅人も静かに頷いた。

 

「トーマは、俺の大切な友達だ。必ず、助ける。」

 

綾華は数秒、揺れる瞳で二人を見つめた後――

静かに、深く頭を下げた。

 

「……はい。どうか、ご無事をお祈りしています。」

 

旅人とパイモンは力強く頷き、すぐさま身を翻して駆け出した。

二人の心は一つ――

「絶対に、皆を救い出す」と、ただそれだけだった。

 

俺たちは急いで木漏茶屋から駆け出し、天守閣の広場へとたどり着いた。

 

(間に合え……!)

 

しかし、広場にはすでに多くの民衆が集まり、緊迫した空気に包まれていた。

視線の先には、巨大な千手百目神像、そしてその前に縛られたトーマと、さらに千代の姿が見えた。

 

「……あれ?君は……?」

 

トーマが千代に気づいて、小声で話しかけるのが見える。

 

「千代……」

彼女は少し困ったように返事をしていた。

 

「君が……! 君が彼の言っていた千代さんか!」

 

 

「えっと……彼って、蒼雲のこと?」

 

「そうさ。何度か一緒に行動したことがあるからね。その度に、君の話をよく聞いてたんだ。」

 

トーマは、笑ってみせた。

けれど、その手は後ろに縛られたまま、情けないと自嘲するように続ける。

 

「まぁ……今はこんな情けない姿だけど。」

 

千代は少し困った顔をして、それでも優しく微笑んだ。

 

「そっか……」

 

「今は彼が助けに来てくれるのを待とう。」

 

 

 

目の前には、雷電将軍が立っていた。

その姿は堂々とした威厳に満ち、三つ編みにされた長い紫の髪、朝顔のような花の簪、そして淡い紫の着物。

全身から放たれる圧倒的な雷のオーラに、周囲の空気がビリビリと震えていた。

 

(あれが……雷電将軍……)

 

彼女はすでにトーマの神の目を手にしかけている。

それを、神像にはめ込もうとしているのがわかった。

 

「おい!あれ、千代じゃないか!」

 

パイモンが俺の隣で叫ぶ。

 

「トーマだけじゃない!千代まで……奉行所の奴ら、一体どれだけのことをしたら気が済むんだよ!」

 

(もう、迷っている暇なんかない!)

 

俺は、神の目が離れていくのを見た瞬間、無意識に体が動いた。

 

「旅人ォォォ!!」

 

パイモンの声が聞こえた。

 

俺は駆け出し、雷電将軍の手に飛んでいく神の目を奪い取った。

雷電将軍と、真正面から向き合う形になった。

 

その時だった。

 

「 奴を捕えろ!」

 

「行くぞ!」

 

周囲の兵士たちが俺に襲いかかってくる。

だが――

 

「はあっ!!」

 

俺は雷の力を剣に宿し、兵士たちを次々と弾き飛ばしていった。

 

「旅人!」

 

「来てくれたのか!」

 

トーマの声が聞こえた。

俺はすぐに彼らのもとに駆け寄り、後ろ手に縛られた縄に手をかける。

 

「間に合ってよかった……!」

 

千代はじっと俺を見つめていた。

 

(あれ……なんかすごく、残念そうな顔してない?)

 

「おい……あからさまに残念そうな顔をするなよ……」

 

パイモンがぼそっとつぶやいた。

俺は苦笑いしながら縄を解こうとした――その時だった。

 

「くっ!」

 

俺の手に、強烈な雷の一撃が走る。

雷電将軍が、無言で俺に雷を放ったのだ。

 

(しまった――!)

 

彼女はゆっくりと空中を歩くように近づいてくる。

そして、低く、冷ややかな声で告げた。

 

「神の目がなくとも……元素力を扱える……あなたは例外。」

 

「例外、それは永遠の敵。」

 

俺は震える体を無理やり支えながら、雷電将軍を見上げた。

 

(これは……やばい……!)

 

雷電将軍の胸元から、ひとつの刀が引き抜かれる。

 

(胸の中に……刀を……!?)

 

周囲にいた民衆たちが、いつの間にか消えていた。

光も影も、崩れ落ち、俺は奇妙な空間に隔絶されていた。

 

「千代! トーマ! パイモン!」

 

俺は叫んだ。だが、声は虚しく響くだけだった。

 

(ここは……何だ!?)

 

「あっ……!」

 

辺りを見回しても、千代も、トーマも、パイモンも、誰の姿も見えない。

ただ、薄暗く不気味な世界が広がっている。

 

 

見上げると、巨大な鳥居が幾重にも重なってそびえ立ち、空には真っ暗な太陽のようなものが、鈍く光を放っていた。

全てが重苦しく、息苦しい。

 

その時だった。

 

「…………」

 

無言で佇む一人の女性――雷電将軍が、俺を見据えていた。

さっきまでの儀式の場とは違う、異様な雰囲気を纏い、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 

(……やっぱり、あれが雷電将軍……)

 

俺が身構えるよりも早く、彼女は腰に携えていた薙刀を手に取り、一気に地を蹴った。

 

「あなたは永遠から最もかけ離れた存在……」

 

「とても興味深いです」

 

低く、静かな声だったが、同じ声のはずなのにどこか別人のようにも感じた。

 

(……声が、さっきと違う?)

 

違和感を覚えた瞬間――

 

ガキィィンッ!

 

鋭い薙刀の一閃が、俺の剣と激しくぶつかり合った。

 

「よそ見ですか?」

 

雷電将軍の声がすぐ間近から響く。

 

「くっ!」

 

俺は咄嗟に剣を立て、必死に彼女の一撃を受け止めた。

重い。まるで山そのものが襲いかかってきたかのような、凄まじい力だった。

 

(この神……本気だ!)

 

汗が額を伝い落ちる。

この異空間に逃げ場などない。

雷電将軍と俺、ただふたりだけの、命を賭けた戦いが、今始まった――!

 

(くっ……来る!!)

 

雷と闇が交錯する、孤独な戦場。

俺は、必死に剣を抜き、雷電将軍の刃を受け止めた!

 

俺は剣を構え、目の前の雷電将軍を睨みつけた。

彼女は無言のまま、薙刀に高濃度の雷元素を纏わせると、一気に間合いを詰めてくる。

 

「っ!」

 

ギリギリで体を捻り、迫る雷刃をかわした。だが、将軍は止まらない。

雷を帯びた薙刀が連続して振るわれ、まるで稲妻の連打のように俺を追い詰めてくる。

 

(速い! 一撃一撃が重い上に、この手数……!)

 

俺も負けじと、片手剣を素早く振り連撃を繰り出す。

剣圧と剣圧がぶつかり合い、空気が弾ける。

 

間合いを取ろうと後退した瞬間、雷電将軍が薙刀を振り上げ、雷元素の斬撃を飛ばしてきた。

 

「くっ!」

 

風元素を纏い、剣を一閃――

俺は自らも風の刃を飛ばし、雷の斬撃をかき消す。

 

(力の差はある……でも、隙は必ずあるはずだ!)

 

俺は風の力を右手に集中させ、手のひらに真空の渦を作り出す。

空気が唸り、周囲の空間が歪む。

 

「ハァ!」

 

真空の渦を雷電将軍に向けて放ち、連続した風元素ダメージを与えた。

だが、将軍は怯むことなく、雷如く一閃――!

 

「!」

 

目の前にいたはずの彼女が、まるで雷そのもののような速度で突っ込んできた。

剣で受け止めるが、衝撃が全身を駆け抜ける。

 

(重い!)

 

後方に吹き飛ばされる俺。

すぐに体勢を立て直すが、その間に雷電将軍は上空に跳躍し、周囲に雷を一斉に落とす体勢に入っていた。

 

「やらせない!」

 

俺はすかさず、大地に手をつき岩元素を活性化させる。

地面から隆起した荒星が盾となり、落ちる雷を防いだ。

 

バリバリと岩の表面に雷が弾け飛び、煙と砂埃が舞い上がる。

 

視界を覆う煙の中、俺はさらに竜巻を召喚する。

風の竜巻が地面を這い、障害物を巻き込みながら雷電将軍へと突進していく。

 

だが――

 

雷電将軍は体を雷霆で纏い、周囲に稲妻の奔流を放った。

風の竜巻は砕け散り、俺も強烈な雷撃で弾き飛ばされる。

 

「ぐっ……!」

 

だが、俺も負けてはいられない。

すぐさま地を踏みしめ、今度は岩の振動波を起こす。

周囲の地面を震わせ、環状の岩山を立て、雷電将軍との間に距離を作り出した。

 

「……なかなか、粘るのですね。」

 

静かに雷電将軍が呟き、迅速の雷影を三つ放つ。

紫電の槍のようなそれらが、一直線に俺を穿とうと迫る。

 

(かわしきれない!)

 

俺は荒星の影に飛び込み、盾にして雷影を防いだ。

荒星が砕け散るが、その間に俺も最後の力を振り絞る。

 

風の力を高め、剣を振りかぶる。

 

「ハァアッ!!」

 

剣から飛び出した巨大な風の刃が、雷電将軍を包み込む。

だが、彼女も身に纏う雷霆の加護で一気に押し返してきた。

 

(……これ以上は持たない。)

 

お互いに最後の一撃を交錯させた後、自然と距離を取る形になった。

静寂が戻り、互いに深く息をつく。

 

目の前の雷電将軍はなおも揺るがぬ眼差しで俺を見据え、薙刀を静かに構え直していた。

 

(……やるしかない。)

 

俺も剣を握り直し、再び構える。

 

(まだ……俺は倒れない……)

 

そう思った矢先だった。

俺は片手剣に雷元素を纏わせ、全力で突進する。

 

しかし――

 

雷電将軍は静かに身を捻り、俺の突進をかわすと、薙刀を逆手に持ち、素早く俺の脇腹に打ち込んだ。

 

「がはっ!」

 

体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。

意識が一瞬遠のいた。

 

(くそ……ここで、終わる……のか……)

 

倒れ伏した俺の目に、暗く、歪んだ空が映った。

空間が崩れ落ち、再び元の場所――千手百目神像の前に戻ってくる。

 

人々のざわめきが聞こえた。

 

その中で、パイモンの叫び声だけがはっきりと耳に届く。

 

「旅人!!」

 

パイモンが駆け寄ってきた。

小さな手が俺の肩を必死に揺らしてくる。

 

「だ、だめだよ!起きろよ!旅人!」

 

その横で、トーマが急いで地面に転がる槍で後ろ手に縛られた自分の縄を解き始めた。

歯を食いしばり、焦りを押し隠しながら。

 

「……っ、持ちこたえてくれよ旅人!」

 

一方で――

 

千代は、自らの力で縄を断ち切っていた。

鋭い目で雷電将軍を見据え、倒れた俺の前に立ちはだかる。

 

両手を広げて、まるで庇うように。

 

「……っ!」

 

パイモンはただ驚愕して声を上げた。

 

「お、おい!」

 

「千代、無理だって!!」

 

だが、千代は一歩も引かなかった。

雷電将軍が、静かに俺たちの前に立つ。

 

胸元から抜き放たれる、無慈悲な刀。

 

再び振りかざされる――

 

「やめて!!」

 

千代の叫びが響く。

 

雷電将軍の動きが、ほんのわずかに、止まった。

 

「影……もうやめよ。」

 

「こんなこと、神子も、眞も、誰も望んでないよ……!」

 

雷電将軍の紫の瞳が、わずかに揺れる。

だが、その動揺は一瞬だった。

 

「…………」

 

無言で、再び刀を振り上げた。

 

(だめだ、間に合わない――!)

 

その時。

 

「えい!!」

 

トーマが、解いたばかりの縄から抜け出し、槍を全力で投げた。

狙いは雷電将軍。

 

だが――

 

雷電将軍は僅かに身体を傾け、槍を難なく躱す。

 

そして、冷たく俺たちを見下ろすと、容赦なく刀を振り下ろそうとした。

 

パイモン「うわぁぁぁ!!」

 

千代「ぅ………!」

 

(……これで、終わりなの――?)

 

千代の胸に浮かぶ、過去の記憶。

 

あの時、あの漆黒の災厄の中で、自分を断罪したあの刃。

 

(また、あの時みたいに……斬られるの?)

 

(まだ影に謝ってないのに……)

 

(まだ、蒼雲に――伝えてないのに……)

 

刹那。

 

「ガキィィィン!!」

 

甲高い金属音が響いた。

 

目の前で――

雷電将軍の刀を、誰かが受け止めていた。

 

「……間に合ったな。」

 

濃い水色の衣、腰に揺れる龍紋の飾り。

 

蒼雲だった。

 

「相棒!!」

 

「遅いぞ!!」

 

「蒼雲……!」

 

彼は苦笑しながらも、押し込んでくる雷電将軍の刀を受け止めたまま、静かに言った。

 

「遅れて……すまなかったな。」

 

その背中は、俺たち全員を守るように、大きく、頼もしかった。

 

 




なんというか前回に千代さんのことを見られたから襲われたとでも思ってください。

あと誰からの蒼雲のことを聞きたいかとかあったら教えてください。

稲妻篇が終わったら続きは何が良いか 選択によって稲妻篇の最後が変わる。

  • 璃月篇(海灯祭)※この話の本編
  • 引き続き稲妻篇
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