闇に呑まれていた鬼の娘を500年かけて看病した仙人が、異国で恋愛小説の餌食に……   作:時代に遅れている

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修学旅行明けで感染性胃腸炎にかかった者です。

今は薬を飲んで安定していますが、きつい……

体調が優れていない時に書いたものなんでおかしいところがあるかもしれませんが……目をつぶってほしいです。

次回のコーナーは甘雨の姉君から蒼雲について語られます。

あとアンケートのご協力ありがとうございました。双方共にかなりの票集まったので、時間があれば人妻ルートも書こうかなって思っています。


永遠を見守る神櫻の下でーー

社の奥へと足を踏み入れた瞬間——

 

 俺の視界に飛び込んできたのは、一際巨大な櫻の木だった。

 

 だが、それはただの櫻ではなかった。

 

 その幹は、まるで狐が身を丸めるような形をしており、枝の先端は天へと伸び、まるで霊獣の耳のようにそびえている。

 

 その姿はまるで、神の加護を受けた獣が眠りながらも、この地を静かに見守っているかのようだった。

 

 木肌は滑らかで、かすかに紫の光を帯びている。

 

 幹の表面を覆う文様は、まるで神聖な文字が刻まれているように見え、時折雷のような輝きが走る。

 

 満開の花は、淡い桜色ではなく、どこか妖艶な紫がかっており、風が吹くたびに光の粒となって散っていく。

 

 その根元には、朱色の門が佇んでいた。

 

 それは単なる鳥居ではない。

 

 その門は、まるで櫻の木と一体化するかのように根元に組み込まれ、神秘的な輝きを放っている。

 

 そこはまるで——神域。

 

 この世とあの世の狭間に存在する、異世界の扉のようだった。

 

 そんな圧倒的な光景を前にして——

 

 「どうじゃ?」

 

 八重神子の声音が、微かに得意げな響きを帯びていた。

 

 「稲妻を見守る御神木——神櫻は?」

 

 俺は圧倒されながらも、息を整え、口を開いた。

 

 「これは……立派な——」

 

 しかし、その言葉を遮るように、千代がぽつりと呟いた。

 

 「ない……。」

 

 その声音は、驚愕よりも、むしろ確信に満ちていた。

 

 俺は思わず振り返る。

 

 「え?」

 

 千代は、じっと神櫻を見上げていた。

 

 その瞳には、懐かしさではなく、理解し難い"違和感"が宿っている。

 

 そして——

 

 「こんな櫻、元々なかったはず……。」

 

 その言葉が、静かに社の境内に落ちる。

 

 俺は思わず八重神子の方を振り返った。

 

 「神子……この櫻は、いつ植えたんだ?」

 

 彼女は微かに目を細め、俺たちを見つめた。

 

 「いや……。」

 

 静かに、しかしはっきりと告げる。

 

 「千代がいた頃には、すでに植えてあったはずじゃが……?」

 

 まるで、五百年の時を超えた"記憶の齟齬"が、今この場で露わになったようだった。

 

 (……どういうことだ?)

 

 神櫻は、昔からここにあったという。

 

 だが、千代は、それを知らないという。

 

 これは——時間の流れがもたらした、単なる記憶違いなのか?

 

 それとも——

 

 「"何か"が、神櫻の存在を覆い隠していたのか……?」

 

 俺は、目の前にそびえる櫻を改めて見上げた。

 

 神域の光を放つその御神木は——まるで、長い眠りの中で"誰か"に語られることを拒まれていたかのように、沈黙を守っていた。

 

朱色の社の静寂を破るように、八重神子が口を開いた。

 

 「まぁ、そんなことはさておき——主ら、気になることがあるなら妾に聞くとよい。」

 

 彼女は楽しげに目を細めると、桜の花びらが舞う中でふっと微笑んだ。

 

 「もちろん、神櫻以外で、じゃ……。」

 

 俺はその余裕な態度に小さくため息をつきながら、千代を一瞥する。

 

 「ならまずは俺から……でいいよな?」

 

 千代は言葉を発さず、ただ小さく頷いた。

 

 俺は再び神子へと視線を戻し、核心へと切り込む。

 

 「じゃあまず、千代についてだ。」

 

 神子は興味深そうに眉を上げ、扇を軽く開く。

 

 「ほぉう。汝の疑念は彼女についてとは……。」

 

 その口元には、どこか愉快げな笑みが浮かんでいる。

 

 「熱い何かを感じ——」

 

 俺はすかさず冷たい視線を向ける。

 

 神子は「ふむ」と喉を鳴らした。

 

 「たいものじゃ。」

 

 どうやら、このまま話を逸らすつもりはなさそうだ。

 

 俺はゆっくりと口を開いた。

 

 「じゃあ、話を戻すぞ。」

 

 「俺は500年前、『漆黒の厄災』と呼ばれるアビスとの争いで、海魔と対峙していた。その時——璃月港にたどり着いた一隻の船に、彼女が乗せられていた。」

 

 神子は静かに俺を見つめたまま、黙って話を聞いている。

 

 俺は続けた。

 

 「俺が聞きたいのは、ここからだ。」

 

 「彼女の過去について——そして、どうやって璃月の港にたどり着いた船に乗せられたのかについてだ。」

 

 神子は少し目を細めた。そして、ゆっくりと扇で口元を隠しながら、思わせぶりな声で言う。

 

 「ふむ。」

 

 「ところで、その問いに答える前に汝に問う。」

 

 「汝は何者で、いつから生きておるんじゃ?」

 

 俺は眉をひそめる。

 

 (……俺のことか?)

 

 神子はじっと俺を見つめながら続けた。

 

 「それに——」

 

 「千代の様子を見る限り、汝が気づいておらんだけで、相当思い入れがあるようじゃ。」

 

 俺は驚いて千代の方を向いた。

 

 千代は何も言わない。

 

 ただ、静かに俯いていた。

 

 その肩はわずかに震え、普段の堂々とした彼女の姿とはかけ離れている。

 

 俺は訝しげに彼女の表情を窺おうとしたが——

 

 (……顔を見せない?)

 

 不思議に思い、下から覗き込もうとすると、彼女はあからさまに顔を背ける。

 

 さらに横に回り込もうとすると、必死に逆方向を向いた。

 

 かろうじて見えた耳が、ほんのり赤く染まっている。

 

 (……? どうして顔を見せないんだ?)

 

 俺は訳が分からず、ただ首を傾げるばかりだった。

 

 そんな俺の反応を見て、神子は微笑を深めた。

 

 「ふふ……。」

 

 「それに、ここまでの回復を見せたのも驚いた。」

 

 その言葉に、千代の肩がぴくりと揺れる。

 

 神子の視線には、何か確信めいたものが浮かんでいた。

 

 だが——

 

 俺は何も気づいていない。

 

 ※説明しよう。蒼雲は"そういうこと"に関して鈍感すぎる節がある。

 

その紫の瞳には、揺るぎない好奇心と探求心が宿っていた。

 

 「一体、何者なんじゃ?」

 

 彼女の問いは、単なる興味ではなく、真剣な問いかけだった。

 

 俺は静かに息を整え、一瞬だけ千代の方を見やる。

 

 彼女は未だ俯いたままで、さっきよりもほんの少し落ち着いたようだったが、まだ何かを考え込んでいる様子だった。

 

 俺は軽く息を吐き、八重神子へと視線を戻す。

 

 「ふぅ……いいだろう。」

 

 「まずは自己紹介からといこう。」

 

 俺は改めて背筋を伸ばし、ゆっくりと口を開いた。

 

 「俺は蒼雲。」

 

 「璃月で3700年ほど前、つまり岩王帝君が璃月港を建てた時と同じくらいの時から、帝君に仕えていた仙人だ。」

 

 

 

 「な………!」

 

 八重神子の瞳がわずかに見開かれた。

 

 その鋭い狐の目が、今は珍しく驚きを隠しきれない様子だった。

 

 俺は続ける。

 

 「俺は、水の力と穢れを祓う仙力を使って、戦場で傷ついた兵や仲間の仙人を癒してきた。」

 

 「千代に関してだが、あまりにも酷く汚染されていたし、傷も深かったからな。」

 

 「治すのに500年もかかっちまった。」

 

 そう言うと、神子はじっと俺を見つめながら、ゆっくりと息を吐いた。

 

 「……つまり……つまりじゃ……。」

 

 再び俺の顔を見つめ、まるで何かを確認するかのように目を細める。

 

 「汝は、甘雨の姉君以上の仙人であると?」

 

 その言葉に、俺は軽く眉を上げた。

 

 「ま、まぁ……そうなるな。」

 

 (ん? 甘雨の姉君?)

 

 俺は一瞬考えた。

 

 つまり、こいつは甘雨よりも年下なのか?

 

 意外だった。見た目は俺よりずっと大人びているように見えたが……。

 

 神子は腕を組み、軽く唸った。

 

 「うーむ。」

 

 そして、何かを考え込んだ後——

 

 「そうなると、主のことは『蒼雲の兄者』と呼べばよいのか?」

 

 「……は?」

 

 俺は思わず言葉を詰まらせた。

 

 神子はまるで当たり前のことのように、にこやかに微笑んでいる。

 

 俺は軽く頭を振り、慎重に言葉を選んだ。

 

 「いや……そう畏るな。」

 

 「俺は当然のことをしたまでに過ぎない。」

 

 「神子様の好きに呼んでくれて構わん。」

 

 そう言いながら、俺は軽く手を振る。

 

 「ただし——」

 

 「童とか、尊敬の入る呼び名はやめてくれ。」

 

 神子は俺をじっと見つめ、ふっと愉快そうに笑った。

 

 「ほほう、謙遜するのは仙人の流儀かの?」

 

 「それとも……ただの照れ隠しか?」

 

 妖艶な笑みを浮かべる神子の視線が、どこまでも俺の反応を楽しんでいるようだった。

 

 (……こいつ、完全に俺をからかっているな?)

 

俺はそんな彼女の様子をちらりと見やり、静かに口を開いた。

 

 「それは——俺がまだ、罪を清算できてないからだ………。」

 

 その言葉を聞いた神子は、俺をじっと見つめる。

 

 「……………。」

 

 長い沈黙。

 

 紫の瞳が、まるで俺の心の奥底を探るかのように揺らめく。

 

 だが、それでも俺はその視線を真正面から受け止める。

 

 そして——

 

 「それより、神子様。」

 

 「俺はアンタの問いに答えた。」

 

 「お前も俺の問いに答えてもらおうか?」

 

 俺の言葉に、神子は軽く唇を開き——

 

 「うむ。」

 

 小さく頷いた。

 

 だが、すぐに千代へと視線を移し、少し困ったように目を細める。

 

 「……千代には、少し酷かもしれんがな……。」

 

 その言葉の意味を、俺はまだ知らなかった。

 

 「蒼雲。」

 

 「汝は千代について、どこまで知っている?」

 

 俺は一度息を整え、頭の中で思い返しながら答える。

 

 「雷電将軍の古くからの親友で、稲妻の与力としても活躍。」

 

 「だが、500年前の『漆黒の厄災』で、この世のものとも思えない化け物と対峙した時、その怪物に呑まれた。」

 

 神子は静かに聞いている。

 

 俺は続けた。

 

 「その後、怪物の腹を掻き切って脱出できたものの、アビスの力で汚染され、敵も味方も判別がつかなくなり——」

 

 「ついには、雷電将軍に刃を向けた。」

 

 千代がぎゅっと拳を握るのが分かった。

 

 俺は気にせず、事実を述べる。

 

 「その後は、将軍によって鬼族としての角と腕を切り落とされ……」

 

 「さらに、その後は何者かに"化け物"として斬られた。」

 

 そう言った瞬間、神子の眉がわずかに動いた。

 

 俺はそれに気づいたが、気にせず言葉を締めくくる。

 

 「というところまでだ。」

 

 神子は扇をゆっくりと開き、考えるように指先で縁をなぞる。

 

 そして、ぽつりと呟いた。

 

 「……ふむ。」

 

 俺は腕を組み、軽く肩をすくめる。

 

 「まぁ、俺の知るのはこれくらいだ。」

 

 だが、神子はじっと俺を見つめたまま、次の問いを投げかける。

 

 「千代自身に、聞いたりは?」

 

 俺は少し眉をひそめ、即座に答えた。

 

 「そんな体験をしたなら、かなりのトラウマがあるはず……。」

 

 「過去の嫌なことなんて、せっかく悪夢から覚めたってのに、再び呼び起こすことはないだろ。」

 

 その瞬間——

 

 「…………ふふ。」

 

 神子が、くすりと笑った。

 

 俺は怪訝そうに彼女を見つめる。

 

 「おい、何がおかしい。」

 

 すると、神子はゆっくりと千代へと目を向け、優しく微笑んだ。

 

八重神子の紫の瞳が、どこか遠い記憶をたどるようにゆらめいた。

 

 彼女はゆっくりと口を開く。

 

 「よいじゃろ。」

 

 「主がそこまで知っておるなら——逃げてきた後の話をしてやろう。」

 

 その言葉に、俺は無意識に息を詰めた。

 

 千代は俯いたまま、ただじっと黙っていた。

 

 神子の扇が、静かに閉じられる。

 

 そして、彼女は静かに語り始めた。

 

 「あれは千代がここの社の下の森——鎮守の森に逃げ込んできた時のことじゃった。」

 

 風がそよぎ、満開の神櫻の花びらが静かに舞い散る。

 

 その光景を背に、神子はまるで過去を映し出すかのように、穏やかに言葉を紡ぐ。

 

 「あの時の千代は——まるで意思を持たぬ、獣のようじゃった。」

 

 「本能のままに暴れ回り、牙を剥き、かつての理性も誇りも、すべてが霧散しておった。」

 

 その言葉を聞いた千代の肩が、わずかに震えた。

 

 俺は言葉を挟まず、ただ静かに耳を傾ける。

 

 「そして、汝が知るように——彼女は"化け物"として斬られた。」

 

 神子の声が、ほんのわずかに低くなる。

 

 次に続く言葉が、これまでのどの話よりも重いものであると、俺は直感で悟った。

 

 「それも——」

 

 「実の息子に、じゃ。」

 

 「……!!」

 

 俺は息を呑み、隣の千代を見やる。

 

 千代は俯いたまま、微動だにしない。

 

 だが、その拳は今にも血が滲みそうなほどに強く握られていた。

 

 神子は淡々と話を続ける。

 

 「息子に斬られた千代は、その場で力尽き、倒れた。」

 

 「そして——息子は何も言わず、その場を立ち去った。」

 

 その言葉の刃が、千代の胸を深く抉るのが分かった。

 

 俺は思わず神子を止めようとしたが——

 

 「……だが。」

 

 彼女はわずかに目を伏せ、まるで自分の中の記憶をそっとなぞるように、声を落とした。

 

 「その後、狐斎宮様が、化け物が斬られていたと聞いて鎮守の森へとやって来た。」

 

 「そこには——もはや、かつて笑い合った友人の変わり果てた姿があった。」

 

 静寂が降りる。

 

 まるでこの社全体が、五百年前の記憶に染まったかのように、あたりの時間が止まったように思えた。

 

 神子はふっと視線を落とし、静かに微笑む。

 

 「だが……肩に乗っておった妾から見ても、それは惨いもので——」

 

 「生きておるとは、とても思えんかった。」

 

 「……じゃが、狐斎宮様は、千代が生きておると信じた。」

 

 「それは、親友を信じる者の確信——そして、奇跡を願う者の祈りじゃった。」

 

 その言葉に、俺は千代の横顔を見た。

 

 彼女は俯いたまま。

 

 だが、その肩は小さく震えていた。

 

 「狐斎宮様は、その場を離れる前に妾にこう伝えた。」

 

 そして——

 

 神子は再び俺を見据え、狐のような笑みを浮かべた。

 

 「『我が友人である鬼を、船に乗せて、このお札を貼って送り出せ』と。」

 

 その言葉の響きが、俺の心を深く揺さぶる。

 

 「それから——」

 

 「千代は、主のいた璃月港へとたどり着いたというわけじゃ。」

 

 言葉がすべて紡がれた後、俺は静かに息を吐いた。

 

 目の前の八重神子は、すべてを語り終えた表情をしている。

 

 しかし、その余韻はまだこの場に漂っていた。

 

 (実の息子に斬られた……だと?)

 

 俺は拳を握る。

 

 千代がどれだけの苦しみを抱えていたのか、ようやく理解し始めた。

 

 (彼女は、自分の意思ではなく、呑まれたのだ。)

 

 (それなのに——自らの血を分けた息子に、"化け物"として斬られた。)

 

八重神子の問いが、静寂の中に落ちる。

 

 「さて——汝はこれを聞いて、どう思う?」

 

 俺はすぐには答えられなかった。

 

 隣にいる千代の震える肩が、彼女の胸に渦巻く感情を物語っていた。

 

 (実の息子に……斬られた。)

 

 その言葉が頭の中を何度も巡る。

 

 それがどれほどの痛みを伴うものか、俺には計り知れなかった。

 

 戦場で傷ついた者を何度も見てきた。

 

 命を落としかけた者を何度も救ってきた。

 

 だが、血の繋がった家族に刃を向けられ、命を奪われかける——そんな絶望を、俺は知らない。

 

神子「何をじっとしておるんじゃ……?」

 

蒼雲「?」

 

神子「はぁ、妾は空気が重くなるのは好まない主義なんじゃ……」

 

「妾がこの話を聞いての感想をまとめたのはーー」

 

「主が千代の息子に手を出してどう思ったか?についてじゃよ」

 

俺の思考が、ぐらりと揺らいだ。

 

 (息子? ……息子!?)

 

 まるで雷に打たれたかのように、神子の言葉が頭の中で反響する。

 

確かに先程の話がインパクトが強すぎて何も疑問には思ってなかったが……息子だと!?

 

 俺は思わず、神子を指差した。

 

 「ちょっと待ってくれ、神子様。」

 

 神子は面白そうに微笑みながら、俺を見つめている。

 

 「なんじゃ?」

 

 その余裕たっぷりな表情が、ますます俺の困惑を煽る。

 

 「……さっき、"息子"と言ったか?」

 

 神子は軽く首を傾げ、まるで当たり前のことのように頷いた。

 

 「うむ、言ったが?」

 

 俺は一瞬言葉を詰まらせ、それから慎重に確認するように尋ねる。

 

 「それってつまり……」

 

 「千代には"子供"がいるってことか?」

 

 神子はくすりと笑いながら、俺ではなく千代の方を見た。

 

 「なんじゃ……千代。」

 

 「まさか、その事も教えておらんかったのか?」

 

 千代は俺と目を合わせないまま、少しだけ肩を竦める。

 

 「……別に、話す必要もなかったし……。」

 

 神子は、扇を軽く揺らしながら溜め息をつく。

 

 「仕方ないの〜。」

 

 そして、俺へと向き直り、軽く微笑む。

 

 「蒼雲。そう、千代には"二人の息子"がおる。」

 

 俺は、その言葉を飲み込むのに数秒かかった。

 

 そして、ようやく理解が追いつき——

 

 「それってつまりーー」

 

 「つまり、主はーー」

 

 神子が扇を閉じ、にやりと笑う。

 

 「知らぬうちに"人妻"に手を出したのじゃ。」

 

 「は?」

 

 「はぁぁぁ!?」

 

 まるで雷が落ちたかのような衝撃が、俺の頭の中を駆け巡る。

 

 神櫻の下、社の静寂を破るほどの俺の叫びが響き渡った。

 

 (人妻!? ……千代が!?)

 

 確かに、目覚めた時から美しいとは思っていたが……まさか人妻だったとは!?

 

 俺は思わず千代の方を見たが、彼女は顔を伏せたままだった。

 

 その耳は、先ほどよりもさらに赤く染まっている。

 

 (……本当に人妻なのか? いや、でも……。)

 

 神子は楽しげに口元を扇で隠しながら、肩を揺らして笑う。

 

 「ふふふ……。」

 

 その声には、明らかに"からかい"の色が滲んでいる。

 

 千代が静かに顔を上げ、神子を鋭く睨みつける。

 

 その瞳は、わずかに恥じらいと怒りが入り混じっていた。

 

 「……神子。調子に乗りすぎだよ。」

 

 「蒼雲で遊ばない。」

 

 その低く冷たい声に、神子はひらひらと手を振った。

 

 「ふふ……おお、怖い怖い。」

 

 それでも、笑いが止まらない様子だ。

 

 だが、彼女はすぐに態度を改め、少し真剣な表情になると、軽く咳払いをした。

 

 「冗談じゃよ。」

 

 「確かに千代には二人の息子がおるが——」

 

 「その二人は養子で、自ら産んだ子ではない。」

 

 俺はようやく、安堵の息を吐いた。

 

 「……つまり?」

 

 神子は軽く微笑み、さらりと言い放った。

 

 「つまり……千代は"独り身"じゃ。」

 

 その瞬間——

 

 千代が顔を背ける気配がした。

 

 俺は、何とも言えない沈黙を噛み締めながら、再び神子を睨んだ。

 

 彼女はただ、愉快そうに微笑んでいるだけだった。

 

八重神子は微笑を崩さぬまま、口を開いた。

 

 「さて、次は千代。主の番じゃ。」

 

 彼女は紫の瞳を細め、千代をじっと見つめる。

 

 「五百年の時も経ったのじゃ。少しくらい、疑問があるじゃろ?」

 

 千代はゆっくりと顔を上げた。

 

 その瞳には、わずかに迷いが宿っている。

 

 「……うん。」

 

 彼女は境内を見渡し、遠く霞む稲妻の風景をじっと見つめる。

 

 昔と同じようで、どこか違う。

 

 五百年前に見ていた景色とは、微妙に色合いが違っていた。

 

 「稲妻も……変わっちゃったね。」

 

 そう呟く彼女の声には、懐かしさと、わずかな寂しさが滲んでいた。

 

 そして、彼女は神子を見つめ、核心へと迫る。

 

 「今、"目狩り令"っていう……神の目を押収する命が出てるんでしょ?」

 

 その言葉を聞いた瞬間——

 

 神子の表情が、僅かに動いた。

 

 驚愕と、戸惑い。

 

 まるで"なぜ千代がそれを知っているのか"と問いただしたいかのような顔をする。

 

 だが、すぐに彼女は俺へと視線を向け、納得したように小さく頷いた。

 

 (いや、単に帝君から聞いただけなんだが……。)

 

 俺は肩を竦めながら、心の中でそう呟いた。

 

 「ねぇ、神子……。」

 

 千代が、慎重に言葉を選ぶように口を開く。

 

 「目狩り令は本当に……雷電将軍、"眞"が下したの?」

 

 「なにかの間違いなんじゃ……?」

 

 その問いに、神子は扇を閉じ、静かに目を伏せた。

 

 まるで、どう答えるべきかを迷うかのように。

 

 だが——

 

 やがて彼女は顔を上げ、千代をじっと見据えた。

 

 「……そういえば、汝は知らなかったんじゃったな。」

 

 「今、稲妻を統治しているのは"眞"ではない。」

 

 その言葉を聞いた瞬間、千代の瞳が大きく見開かれる。

 

 「……え?」

 

 微かに震える声が、静寂を破った。

 

 俺は隣で黙って聞いていたが、すでにただならぬ空気を感じ取っていた。

 

 神子は、ただ静かに告げる。

 

 「眞は——"死んだ"。」

 

 雷が落ちたかのような衝撃が、その言葉と共に境内を満たす。

 

 千代の呼吸が、一瞬止まった。

 

 「異国の地に出向いた先で、な……。」

 

 「そ……そんな……。」

 

 千代の足元が、ぐらりと揺らいだように見えた。

 

 彼女の表情から、見る見るうちに血の気が引いていく。

 

 まるで、自分の知っていた世界が音を立てて崩れていくのを目の当たりにしているようだった。

 

 神子は、さらに続ける。

 

 「そして——」

 

 「今、稲妻を統治しておるのは——」

 

 「"影"が作った人形。"雷電将軍"じゃ。」

 

 千代は、かすかに震えながら、唇を噛みしめた。

 

 その目は、強く閉じられ、開かれようとはしない。

 

 まるで、この現実を受け入れたくないとでも言うかのように——

 

 だが、耳を塞ぐことはできなかった。

 

 (……眞? 影?)

 

 俺は、二人のやり取りを聞きながら、ふと疑問が浮かぶ。

 

 だが、俺だけが"何のことか"を理解していない。

 

 眞とは誰だ? 影とは?

 

 雷電将軍が"作られた存在"とは、一体どういうことなんだ?

 

 (俺だけ……置いてけぼりにされてる気が……)

 

 「そっか……眞は、異国で死んじゃったんだ……。」

 

 その言葉には、驚きや悲しみだけではなく——受け入れようとする"覚悟"の色が滲んでいた。

 

 だが、彼女の拳はわずかに震えている。

 

 俺は千代の横顔をじっと見つめ、言葉を探した。

 

 「千代……。」

 

 その名を呼ぶ。

 

 だが、彼女は俺の方を向かない。

 

 ただ、神櫻の奥にある何かを見つめているようだった。

 

 神子もまた、彼女の言葉を待っている。

 

 長い沈黙のあと——

 

 千代は、ゆっくりと口を開いた。

 

 「私からしたら……なんであんな危険な状況で、異国に出向いたのか。」

 

 「私には分からないけど……。」

 

 「でも——眞のことだから、何か案があってそこに行ったんだよね。」

 

 彼女の声には、雷電眞への揺るぎない信頼が滲んでいた。

 

 まるで、かつて共に過ごした日々を思い返すかのように——

 

 そして、千代は神子へと視線を向けた。

 

 「ねぇ、神子?」

 

 「眞は今……どこにいるの?」

 

 神子は、一瞬だけ目を伏せる。

 

 そして、ゆっくりと顔を上げ、櫻の大樹へと視線を向けた。

 

 その表情には、どこか寂しげな色が宿っていた。

 

 「……あっちじゃ。」

 

 千代の目が、神子の指し示す方へと向かう。

 

 俺も、同じように目を向けた。

 

 ——神櫻。

 

 この地を見守る御神木。

 

 霊獣の姿を宿し、雷電将軍の神域を象徴する存在。

 

 俺はゆっくりと息を吐き、言葉を紡ぐ。

 

 「……つまり、神櫻は"ご神体"でもあったわけか……。」

 

 神子は、目を細めながら頷いた。

 

 「……まぁ、そうじゃな。」

 

 俺たちは、ただ神櫻を見つめていた。

 

 その根元に眠る、かつての稲妻の雷神。

 

 雷電眞。

 

 千代は、まるで雷に打たれたかのように、その場所をじっと見つめた。

 

 「……眞が、ここの下に……。」

 

 その言葉は、ひどく儚く、そして重かった。

 

 ——五百年。

 

 彼女が失われた時間の中で、ただひとり生き続けた大切な存在。

 

 その魂が、今もこの地に眠っている。

 

 千代の瞳が揺れる。

 

 俺は静かに彼女の横顔を見つめながら、そっと拳を握った。

 

 (千代……。)

 

 彼女は、この現実を受け入れることができるのだろうか。

 

 それとも——

 

 この場所で、過去の影を追い求めるのだろうか。

 

神櫻の下、千代はしばらくの間、何かを考え込むように沈黙していた。

 

 その視線は遠くをさまよい、まるで五百年前の記憶を手繰り寄せているかのようだった。

 

 しばらくの間、神櫻に向けて手を合わせた。その後、

 

 「神子、もう一ついい?」

 

 ふと、静かに問いかける。

 

 八重神子は、興味深そうに扇を揺らしながら応じた。

 

 「なんじゃ?」

 

 千代は、そのまま神子をじっと見据え——

 

 「斎宮は……どうしたの?」

 

 「!?」

 

 その言葉に、神子の瞳が微かに揺れた。

 

 俺は思わず眉をひそめる。

 

 (斎宮……狐斎宮のことか?)

 

 (聞いた感じだと、神子よりも格上の存在で、千代とも親しい間柄だったようだが……。)

 

 神子は、目を細める。

 

 その唇には微笑が浮かんでいるものの、その表情の奥にはどこか懐かしさが滲んでいた。

 

 そして、ゆっくりと口を開く。

 

 「………ふふふ。」

 

 「安心せい、千代。」

 

 「狐斎宮様は、少し前に宮司の仕事に疲れたと——妾に"宮司の仕事を押し付けた"のじゃ……。」

 

 「……え?」

 

 千代の声が、少し間の抜けた調子になった。

 

 俺も、思わず額に手を当てる。

 

 「……はぁ。」

 

 「じゃあなんで、面倒事が嫌いなアンタが、宮司の仕事なんか引き受けたんだよ?」

 

 八重神子を見れば、気まぐれで自由気ままな性格をしているなんてすぐ分かる。

 

 そんな彼女が、大社の宮司などという責任ある立場を"素直に"受け入れるとは到底思えない。

 

 神子はニヤリと笑い、扇を開きながら優雅に肩をすくめた。

 

 「よくぞ聞いてくれた、蒼雲よ。」

 

 「もちろん妾も初めは断った——しかしな。」

 

 神子の紫の瞳が妖しく光る。

 

 「狐斎宮様は、妾を"巧妙な罠"で嵌めたのじゃ……!」

 

 俺は眉を上げる。

 

 「……その罠ってなんだ?」

 

 神子は神妙な顔を作り、まるで大事な話をするかのように声を潜めた。

 

 俺たちは、自然と彼女の言葉に引き込まれる。

 

 「それは——」

 

 俺は息を呑む。

 

 「それは?」

 

 千代も興味深そうに神子を見つめる。

 

 そして、神子は——

 

 「"油揚げ食べ放題"になるという条件じゃ。」

 

 「…………は?」

 

 一瞬の沈黙。

 

 俺はしばらくその言葉の意味を理解できず、千代も同様に呆然としている。

 

 そして——

 

 「はぁぁ!? そんな理由!!」

 

 思わず叫んだ。

 

 神子は涼しい顔で言う。

 

 「妾は何も悪くないぞ?」

 

 「宮司などという責務を負う代わりに、毎日好きなだけ油揚げを食べられるのじゃぞ?」

 

 「むしろ、これほどの好条件はなかろう?」

 

 俺は、頭を抱えた。

 

 (こいつ……500年も生きているくせに、考え方が完全に食い意地の張った妖狐じゃねえか……!)

 

 千代も、呆れたような、それでいて懐かしげな笑みを浮かべた。

 

 「……神子、昔から変わってないね。」

 

 神子は扇で口元を隠しながら、得意げに微笑む。

 

 「ふふふ、妾は何年生きようと変わらぬ美しさと知恵を持つからの。」

 

 「それに、うまい話には乗る主義じゃ。」

 

 「……ただし、その油揚げが"本当に食べ放題"だったのは最初の一年だけじゃったがな……。」

 

 神子はそう言って、少し恨めしそうに遠くを見つめた。

 

 どうやら、狐斎宮もまた、彼女の上を行く策士だったらしい。

 

 俺は、呆れながらも思う。

 

 (神子が今の地位にいるのは、狐斎宮の策略によるものだったのか……。)

 

 (なんというか、稲妻の巫女ってのは、どいつもこいつも"一枚上手"だな……。)

 

 神子の語りは、俺たちの緊張を解き、ほんの少しの笑いをもたらしていた。

 

 「その後の狐斎宮様は、テイワット各地を回る旅に出た。」

 

 神子は軽やかに微笑みながら、紫の瞳を細める。

 

 「じゃから、安心してよいぞ。」

 

 その言葉を聞いた千代は、ふっと安堵の息を吐いた。

 

 「……ほっ。」

 

 その肩の力が少し抜けたのを見て、神子は満足げに頷いた。

 

 「さぁ、もう夜も更けておる。」

 

 「今宵はここに泊まるがよい。」

 

 神子はそう言って、扇を優雅に閉じる。

 

 ——つまり、今夜はこの社に泊めてくれるということか。

 

 「助かる。」

 

 長旅の疲れもあるし、一晩ゆっくり休めるのはありがたい話だった。

 

 俺と千代は神子の案内で、大社の敷地の端にある静かな社へと連れて行かれた。

 

 そこまでは、よかったのだが——

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 俺と千代は、社の中央にぽつんと置かれた"一つの布団"を見下ろしていた。

 

 いや、正確には"一つしかない布団"だ。

 

 しかも、少し大きめで二人でちょうどいいサイズ。

 

 俺はしばし沈黙した後、隣に立つ千代へと目をやる。

 

 彼女もまた、戸惑った表情を浮かべていた。

 

 「……おい、女狐。」

 

 俺は眉をひそめ、振り返る。

 

 「これはどういう——」

 

 バァンッ!

 

 俺の言葉が終わるよりも早く、勢いよく襖が閉められた。

 

 そして、外から響いてくる神子の楽しげな声。

 

 「ごゆっくり〜♪」

 

 俺は思わず、天井を仰いだ。

 

 (……やっぱり、こいつは人々を弄ぶために生きているんじゃないか?)

 

 千代は静かに俺を見つめ、問いかける。

 

 「蒼雲。どうする?」

 

 俺は深いため息をつきながら、肩をすくめた。

 

 「はぁ……面倒くさい。」

 

 「俺は浮遊しながらでも寝れるからな。」

 

 「千代がその布団で寝な。」

 

 千代は一瞬ためらったものの、ゆっくりと頷いた。

 

 「……分かった。」

 

 彼女が布団に入るのを見届けると、俺は軽く空に浮かび、そのまま静かに目を閉じた。

 

 ……だが、夜が更けるにつれ、俺の頭の中には一つの疑念が浮かび始めた。

 

 (神子の話……なんか、妙に引っかかるな……。)

 

 狐斎宮が宮司の仕事を押し付けて去った——

 

 確かに、それ自体はおかしなことではないように思える。

 

 だが、どうにも違和感が拭えない。

 

 俺は静かに目を開け、宙に浮いたまま社の外へと出た。

 

 夜の鳴神大社は、静寂に包まれている。

 

 月明かりの下、俺は社の奥へと足を運び、書物の保管庫へと忍び込んだ。

 

 神子に気づかれぬよう慎重に扉を開き、古い記録を探る。

 

何やら転生やら、明らかに歴史と関係ないふざけた書物も多くあった。

 

 しばらくして、ある書物の一節に目が留まった。

 

 「鳴神大社は魔神戦争以前から建てられ、その初代宮司は狐斎宮であった。」

 

 ……つまり、五百年前の時点でも彼女は宮司を務めていたということだ。

 

 (なら、なんでそんな人物が"仕事に疲れた"なんて理由で宮司を手放したんだ?)

 

 狐斎宮ほどの人物が、そんな軽い理由で職を譲るだろうか?

 

 俺はページをめくりながら、考えを巡らせる。

 

 その時——

 

 背後から、突如として冷たい声が響いた。

 

 「何をコソコソしておるんじゃ?」

 

 「ば、化け狐!?」

 

 驚いた俺が振り向いた瞬間——

 

 ピキッ……!!

 

 空気が一瞬張り詰める。

 

 そして——

 

 ドカァン!!!

 

 雷が俺のすぐ横に落ちた。

 

 辺りに火花が散り、空気が焦げる。

 

 俺は思わず後ずさりしながら、眉をひそめる。

 

 「おい!……夜中にこんな雷を落とすな!」

 

 神子は俺を見下ろしながら、妖しく微笑む。

 

 「妾を"化け狐"呼ばわりとは……。」

 

 扇で軽く唇を隠しながら、楽しげに目を細める。

 

 「これは、折檻が必要かのう?」

 

 俺は彼女の態度に肩をすくめつつも、目を細めた。

 

 「……それより、狐斎宮のことだ。」

 

 「お前、何か隠してるな?」

 

 神子は俺の言葉に、ふっと微笑んだ。

 

 その笑みは、まるで俺が気づくことを"待っていた"かのような、不敵なものだった。

 

 「ふふふ……。」

 

 「さて、どうかの?」

 

 月明かりの下、俺と神子の視線が静かに交錯する。

 

 果たして、狐斎宮の真実とは——?

 

 




キャラクターストーリー1
「聖転魔祓真君」——忘れられし清浄の龍

璃月の歴史に名を刻んだ仙人たちの中で、聖転魔祓真君の名を知る者は少ない。だが、かつて岩王帝君と共に戦場を駆け抜けたこの仙人は、確かに存在した。

彼は龍の姿を持ち、穢れを祓う仙力を宿していた。その仙力と、自ら生み出す清浄なる水とを混ぜ合わせた「聖水」は、病を癒すことはできずとも、傷を塞ぎ、邪を払う力を持っていた。

戦場を駆ける癒し手
聖転魔祓真君は、昼にはその聖水を刃へと編み上げ、敵を斬り伏せた。そして夜には、負傷した兵士や仙人の傷を癒し、再び戦場へと送り出す。その身は決して休まず、誰よりも多く戦い、誰よりも多くの命を救おうとした。

しかし、すべての命を救うことはできなかった。傷の深すぎる者、すでに息絶えた者、あるいは戦火に呑まれた者——彼がどれほど手を伸ばそうとも、届かぬ命はあった。

歴史から消えた仙人
奇妙なことに、彼の名を刻んだ碑も、彼を称えた書も、ほとんどが残されていない。それは偶然ではなかった。

彼は、自らの手が及ばずに失われた命に対する償いとして、己の記録を消し去ることを選んだのだ。誰の記憶にも残らぬことで、その罪を背負い続けようとしたのである。

だが、一つだけ、彼の名が記された書が残っている。それが**「璃月帝仙秘話録」である。その一節には、彼が漆黒の海魔と対峙したこと、そして、闇に呑まれた異国の鬼の娘**を救ったことが記されている。

それが事実であるのか、それとも伝説にすぎぬのか——今となっては、誰にも確かめることはできない。ただ、璃月の古き霊峰に耳を澄ませば、今もなお、穢れを祓う水の音がどこか遠くで響いているのかもしれない。

稲妻篇が終わったら続きは何が良いか 選択によって稲妻篇の最後が変わる。

  • 璃月篇(海灯祭)※この話の本編
  • 引き続き稲妻篇
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