司「役者たるもの、やはり様々な経験を積まねばな!」 作:司単推しの豆腐
そのあとのあんスタコラボの時期の悪さに静かにキレ散らかしてました。
「…なぜ、だろうか」
まずは原因の究明だ。
それが分からねば、どうもできない。
痛いほどの沈黙の中、オレは神代が話すのをただ待つ。
「簡単な話だよ。君がアイドルを辞めたからさ」
「…なに?」
どういうことだ?それが何故誘いを断ることにつながるのだ?
「分かっていないようだから言わせてもらうけれど…君にどんな理由があったのかは知らないけれど、君はアイドルを辞めたんだ。
つまり折れたんだろう?
それなのにショーの世界へと入ろうとしている……。
申し訳ないのだけれど、「アイドルは大変だったからもう嫌だ、でもショーくらいならオレでも…」と思っているとしか感じないね」
…正論だな。オレは事務所以外には特になにも言わずに去った。
そのツケが今、回ってきているのだろう。
最近アイドル時代のファンに対して少し対応が甘かった。
オレはもしかしたらその時のことを悔いているのかもしれない。
ファンを裏切ったように感じていたのかもしれない。
反省はしなければならない。
だが、後悔だけはしたくなかった。
それだけは、アイドルの頃のファンにも、オレの夢に対しても失礼だ。
だから、オレの返答は決まりきっている。
「…オレはアイドルを始めたこと、やめたことに全くもって後悔はない。
全てがオレに、オレの夢にとって必要だった。」
「……アイドルが夢では、なかったのかい?」
「あぁ、あくまで過程だ」
これを言うのも何度目だろうか。
気まずい沈黙が場を支配する。
そしてしばらくして、神代の考えはまとまったのか、またもオレに質問してくる。
「なら、その夢ってなんだい?」
「オレの夢は『スター』になることだ」
「…スター?」
神代はよくわからない、といった風に首をかしげる。
「あぁ、舞台の上で観客を、人々を笑顔にする『スター』だ」
「…それなら、やはりわからない。
その夢ならアイドルでも達成できるんじゃないかい?」
あぁ、うむ。これだけならアイドルでもできる。なにもショーやる必要なんて微塵もない。
それでも、
「オレが憧れたのはショーという舞台の上の『スター』だ。
それ以外は嫌だ」
自分でも子供のような理屈だな、と思うが、それでいい。
夢を追う理由は、否定されたって変わらないものだ。
「…案外強情なんだね、君も」
「意外か?」
「いや、納得がいったよ」
神代はオレを、面白いものを見つけたかのように微笑みながら見つめてくる。
「君となら、実に良いショーができそうだ」
「…!ということは!」
「うん、よろしくね。司君」
「あぁ!こちらこそよろしくな!神代!」
当面の課題はクリアした…ならば、あとはショーをすることを考えていればいい。
ようやく、『スター』への道が開けたのだな…!
…懸念点があるとすれば、人はやはり少ないな。
神代がいるから何とかなるかもしれんが、それでも流石に…。
「その代わりの条件、と言っては何だけどね…」
「む…?なんだ?なにか問題でもあるのか?」
「いや、僕と一緒にとある人も入れてほしくてね。
人手不足のそちらにとっても悪い話ではないだろう?」
確かにこちらからすれば願ってもない話だが…。
「それはありがたいのだが…流石に何の知識もない者を指導したりするのはできんぞ?」
「それに関しては心配しなくても大丈夫だよ。お気に召すこと間違いなしさ」
「なら構わんが…」
笑みを絶やさぬ様子に一抹の不安を覚えつつも、まぁ大丈夫だろう、という楽観で蓋をする。
「それで、顔合わせをしたいのだが…空いている時間はいつだろうか」
「もう一人のほうはわからないけど、少なくとも僕はいつでも構わないよ」
「そうか、なら今日集まりがあるから放課後に来てくれ…あぁ連絡先を交換してもらってもいいか?
そちらのほうがいろいろスムーズだろう」
「構わないよ」
そういいながら連絡先を交換する。
目に見えて進捗が分かるのは大変すばらしいことだ…そういえば鳳さんとはしていなかったな。
今日にでもしておこう。
「助かる…それで、場所なんだが──」
なんにせよ、放課後が楽しみだ!
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放課後、ワンダーステージへと訪れたオレは目を疑っていた。
「…なぁ、オレは“人”が来ると聞いていたし、お前もそういってたと記憶しているんだが?神代」
「その認識は間違っていないと思うよ、僕はそう言っていたはずさ」
「そう、だよな…なら今目の前のはなんだ?」
「僕と一緒に来た“人”だよ」
そう、か…人か、これ。
「…いや、そんなわけないだろう?!?!コレの、どこが人なんだ!!!」
「なにが人かの証明…とても難しいね。哲学的観点から見ればこれも人であるとする意見も…」
「オレは一般論の話をしているんだ!」
「わぁ…!すっごーい!ねえねえ、これって動くの?」
「うん、動くよ。まずは歩いたり手を動かしてみせようか」
なんだ、これは…オレがおかしいのか?
「…しかし、これでは人手不足の根本的な解決にはならないな…。
これも結局のところ、神代頼みではあるし…」
「あぁ、それなら心配いらないよ」
「…?何故だ?」
「作ったのは僕さ。でも自立思考機能はないし、操作しているのも僕じゃない」
…なら、今はどうやって動いて…?
そこまで考えて、一つの可能性に気付く。
コイツ、悪戯がうまくいった子供のような顔をしおって…。
「……結局、本当に一緒に来ているのは“人”なんだな?」
「うん、でも少し恥ずかしがり屋でね。
ロボットでショーに参加させようと思っているんだ」
正直、思うところがないわけではないが…別に構わないだろう。
「…しかし、表に出れないということは裏方に専念ということか?」
「フフフ…それは実際に見てもらったほうが早いだろうねぇ」
…やけにもったいぶるが、それほどまでにすごいのだろうか。
内心期待が高まりながらも先ほどのロボを見る。
「…正直、そこまで高性能なようには見えんが?」
「司君はショーにはなにが必要だと思う」
「む…そうだな、やはり激しい動きに耐えうる身体能力、観客に疲れを見せないための体力。あとは無難に声が通ることや演技力だろうか?」
まだまだあるが、基本はこれだろう。
すると神代はにやりと笑って、
「体力の心配はロボだからいらないよ。そして動きだけど…やれるかい?」
「……なんだあれは…」
そばにいる神代の説明が頭に入らないほどオレはロボの動きに見入っていた。
あの短い脚からは想像できないほどの華麗なステップ。
操作方法はわからないが、操作主はかなりのやり手だろう。
「!楽しそう!!あたしもやるー!」
…それを目で追って再現できている鳳さんも何者なんだ…?いや、むしろ鳳さんのほうが若干速い。
「…身体ってあんなに速く動くんだな」
「フフ、すごい身体能力だねぇ。あれを再現するのはなかなかに骨が折れそうだ」
「…衝撃が上書きされたが、あの動きができるのは凄いな……」
実際、人ではできない動きが表現できるというのは強みだろう。
しかもこの感じだと、他にもなにかありそうだ。
「もう一つは操作主の特技なんだけどね。実際にやってもらおうか」
神代が合図を出すと、ロボットから音楽が流れだす。
『~♪』
そして、先ほども少ししゃべっていた操作主であろう少女の声が聞こえる。
透き通った綺麗な歌声、技術的に上手いことは疑いようがなく、思わず黙ってしまう。
アイドル活動をしている時でもこれほどまでに上手い人はなかなかいなかった。
やがて、音楽は鳴りやむ。
始めに称賛を浴びせたのは鳳さんだった。
「…す、すっごーい!!お歌、とってもじょうずだったね!」
「うむ、いや本当に素晴らしかった。これならば、あの時のお前の自信も納得がいく」
「お気に召したようでなによりだよ」
あぁ、けれど、一つ残念なことは。
「これほどまでの歌声を持つ人に直接会えないのは…とても残念だな…」
「うんうん…あたしもお話したかったなあ」
「フフ…話ならロボット越しでもできるよ。
直接会えるかどうかは…その時のお楽しみさ」
まぁ、いいか。人には人のペースというものがあるからな…。
急かすものでもないだろう。
「しかし、このメンバーならば行ける気がしてきたな…」
「うんうん!とってもわんだほーい!だね!」
「だからなんなのだそれは?!」
「…とても、賑やかだねぇ」
『また、ショーをしたい』
「…こんなので、できるわけないじゃん」