司「役者たるもの、やはり様々な経験を積まねばな!」 作:司単推しの豆腐
顔合わせが済んだあと、オレは清々しい気持ちでセカイに訪れていた。
初めてあのステージに訪れたときはどうなることかと思ったが、案外どうとでもなるものである。
そんなことを考えながらオレは押し寄せてきているぬいぐるみたちの対応をしていた。
「ツカサクンツカサクン!ヒサシブリ!」
「キョウハナニスル?」
…ふむ、顔を見せたらすぐ戻るつもりだったが…。
もう少し遊んでもいいか。
「そうだな…ならばピアノを弾いてやろう」
「イイノイイノ?!」
「もちろんだ、オレも最近弾けていなかったしいい機会だ」
「ヤッター!」
わちゃわちゃと嬉しそうな声をあげながらピアノがある方に向かっていく。
オレもそちらに向かおうとすると
「やぁ、司くん。来ていたんだね」
「む、カイトか。あぁ、またしても一段落ついたから顔を出そうと思ってな。
何をしようというわけではなかったが…」
「そうだったんだね」
会話が途切れるとカイトは悩んだような様子を見せる。
カイトのことだから何か用があるのだろうと思い、少し待つ。
数秒経って、カイトは話し出す。
「…実はこのセカイには、人を呼ぶことができるんだ」
「…なんだと?」
幼いころから訪れて以来、一度も聞いたことのない新情報に目を見開く。
この非現実的な現象を人に共有する、考えたこともなかった。
正直なところ、オレが作り出した妄想の類と考えていた時期もあったのだから、思いもよらないのは当然といえるだろう。
しかし、それが事実としても気になることがある。
「それが本当ならば…なぜ今急にそれを…?」
今まで言わなかった理由も気になるが、なぜ今なのだろうか。
今までではいけなかった理由が…?
そこまで考えてこれ以上考えても答えが出ないであろうことを悟り、カイトの答えを待つ。
「司くんに夢を叶えるための仲間ができたから、かな」
「…それは」
…確かに、アイツらは仲間だといえる。
いや、しかし。
「……もちろん、これは司くんに決定権がある。
司くんがこのセカイを共有したい、このセカイに呼びたいと思ったなら言ってほしい」
「…」
オレは、オレは…。
「…ツカサクン?ドウカシタノ?」
「ダイジョウブー?」
ぬいぐるみたちの声で意識が目の前に戻ってくる。
…そうだ、ピアノを弾いてやるといったのだったか。
「今でなくとも、大丈夫だよ。今は少し、考えるだけでいい」
「…そう、か。すまんカイト」
濁った考えが溜まった頭を切り替えてぬいぐるみたちについていく。
こんな調子では上手くピアノも弾けんだろう、さっさと気持ちを替えなければ。
「…頑張ってね、司くん」
▲▽▲
「はぁ…」
昨日カイトに言われたことについて考えていたら寝不足になってしまった…こうならんように気を付けていたというのに。
自身の不甲斐なさにため息をつきながら、昼飯を食べるのにちょうどいい場所を探す。
…むぅ、どこも何人かのグループがいるな…。
混じるのも気まずいし…どうしたものか。
「…司先輩?」
突然、後方から声がかかる。聞き覚えのある声だ。
「…む、おぉ冬弥か!久しぶりだな!」
「はい、お久しぶりです。何度かテレビで見ていましたが…お元気そうで何よりです。それに、咲希さんも」
「あぁ、本当にな。体調がよくなってよかったと心から思うぞ」
会話が弾みながら、時計をちらりと見ると、時間がかなり経ってしまっている。
早く場所を見つけねば昼休みが終わってしまうな。
「司先輩は昼食はもうすまされましたか?」
「いや、まだだ。食べようと思ってもいかんせん場所がな…」
「そうでしたか…なら、友人が空いてる場所を見つけたそうなんですが、一緒に食べませんか?」
「構わんが…そちらのご友人は大丈夫なのか?」
「はい、今聞きましたが構わないそうです」
ならば、久しぶりに誰かと昼食をとるのもいいだろう。
後輩とのコミュニケーションにもなるしな。
~~~
「紹介するぞ、彰人。俺が尊敬する先輩だ」
「初めまして、東雲彰人です」
「あぁよろしくな、東雲。オレは天馬司だ」
冬弥に連れられ訪れた場所にいたのは、少しばかり軽薄そうな見た目に反して礼儀正しい青年だった。
「天馬先輩…ホントにウチの学校にいたんすね」
「…む?それはどういうことだ?」
前にも神代が同じようなことを言っていたような気がするな…。
「どういうこと…って言われても、噂になってる、ってことぐらいすかね。ウチの学校にいるらしい、って」
「そうなのか……道理で」
「道理で、って…気にしたりしないんすか?」
「あまりしないな。まぁ本人の前でそんな話をするわけもないからな」
「へぇ…まぁそうっすよね。…つか、そんなことより俺からしたら冬弥が関わりあったことの方が驚きなんすけど」
そうして冬弥に質問が投げかけられると、黙々と食べ進めていた手を止めて話し出す。
「以前、幼いころ司先輩のお母様にピアノを習っていたことがあってな…そのころからお世話になっているんだ。
彰人も知っていると思うが、先輩はピアノがとてもお上手なんだ」
「いや、わかんねえよ。聞いたことねぇし」
「……嘘だろう?『星影のメロディ』とか、聞いたことがないか」
「…アレ、先輩のやつだったのか」
冬弥と東雲が二人で話を膨らませていて、冬弥にも仲のいい友人ができてよかった、と思いながら自身がもってきた昼食に舌鼓を打つ。
ちょうど、食べ終わるころには予鈴が鳴る数分前だった。
「…急にお邪魔してすまなかったな。いい時間だった、ありがとう」
「いえ、こちらこそまたご一緒させてください」
「おい、冬弥そろそろ行かねえと遅れるぞ」
「分かった、すぐ行く…では、また」
そういって、二人は教室へと戻っていく。
…さて、そろそろオレも戻らなくてはな。
~~~
放課後、オレは帰路についていた。
今日は練習も打ち合わせもない、完全オフの日だ。
やることもないし、なにをしようか。
…そういえば、明日ノートが必要だが家にないんだったか?買いに行かなくては。
そう思い、オレは近場に買いに出かけることにした。
「…おっ、あった」
特にほかにほしいものもなかったオレは、ノートの会計をし退店する。
よし、目当てのものも買ったしかえ「…あら?」
またも懐かしい声がして後ろを振り返る。
「…む、おぉ雫ではないか!」
「司くん久しぶりねぇ!」
今日は昔馴染みとよく会うものだ…最も雫と会うのは然程久しぶりという気はせんが。
「前に会ったのはいつだったか…」
「あの音楽番組のときじゃなかったかしら?司会の人が優しい…」
「あれ以来か…」
「そういえば、雫もアイドルを辞めたのだったか」、そう言おうとして口を噤む。
皆、オレのように本意で引退するわけがない、むしろそんなのはごく少数だろう。
少なくとも雫はそっち側だ、言うべきではない。
「…司くん?」
「あぁ、なんでもない。そんなことより…」
「…あら?雫と…天馬くんじゃない」
またもや聞き覚えのある声がする。
最も雫や冬弥のように昔、というわけではないが。
「愛莉ちゃん!」
「桃井さんか!久しぶりだな」
今日はよく珍しい顔ぶれと出会うことである。
そういえばここに三人も元アイドルがいるのか…よく考えたらすごい光景だな。
「…ねえあの人たちって」
「多分…」
ひそひそとした話し声が耳に届く。
前にもこんなことがあったような…?
「ちょっ…移動するわよ」
「のわっ!?」
「…あら?」
急に手を引っ張られて引きずられる。
な、なんだというんだ?
「…ここならいいかしら?」
そういって桃井さんに連れられたオレたちは喫茶店に訪れていた。
桃井さんはどこか呆れたような表情をしている。
「アンタ達ねぇ…元とはいえアイドルなんだからもう少し気にしなさいよ」
「ごめんなさいね、愛莉ちゃん」
「す、すまん…」
それは、そちらもそうだろう、と思ったが気にしているからこその発想だと思い、押し黙る。
なんにせよ、無駄な面倒ごとを作らないためにも必要なことではあるだろうからな。
「はぁ…それで、なんの話をしてたの?あんな道端で」
「なんの…まあ、しいて言うならただの昔話…か?」
特に大した話もしていなかったしな…正直あのままならすぐに解散していたと思うが。
「ふぅん…そういえば、気になることがあるんだけど」
「む、なんだ?」
「天馬くんってなんでアイドルを辞めたの?」
「あ、それ私も気になってたわ、ほら司くんってすっごく楽しそうにアイドルをしてたじゃない?
それに他の子との仲もよかったって…」
……これは、あと何回聞かれたら最後になるのだろうか。