ひとりの父親であらせられる後藤直樹との対決が決まり、隼人はバイクを整備していた。今後の未来を左右する対決だ……だから尚更負けられない。
「お、隼人こんな時間にバイクの整備か?」
「親父か。まあな」
「隼人……明日何かあるのか?」
「分かるのかよ」
「ああ。同じバイク乗りに嘘は効かないぞ」
家から出て来たのは隼人の父親、小田切文太。ハーレー乗りでありかつて地元で恐れられていたレディースの総長であった母親を射止めた事が有名だ。文太は傍らに座りタバコに火を着ける。
「明日、負けられない戦いがあるんだ」
「なるほどな。ぷはぁ……隼人。もし大切な物を守るなら絶対に勝ちやがれ。いいな?」
「ふっ……言われなくてもやるさ」
バイクの整備を終えた隼人は眠りに着く。そして翌日の夜……赤いハチロクと隼人のcb400sfが唸りを上げる。直樹もまた車の整備を行い、準備万端だ。
「隼人君……」
「心配すんなひとり。必ず勝ってやるさ」
「信じてます……でも……無理もしないでください。私は隼人君が無事ならそれでいいです。だから」
「…っ!?」
ひとりはそっと隼人の頬にキスをする。
「私はお父さんの車に乗りますけど……応援してます!」
「ひとり……」
ひとりはそう言って車へ乗る。やがてハチロクとcb400sfが同時に走り出す。ギアを1、2、3、4と上げる隼人。しかし直樹は更にハチロクを加速させる。
「(やっぱり速いな……けどよぉ、負ける訳にはいかない)」
「(ふっ。元々走り屋をしていたんだ。甘く見ないでもらおうか)」
直樹はバックミラー越しに写る隼人に差を着けてゆく。隼人は更にギアを上げるが横からの風によりふらつく。
「(風が強い……どうする……)」
この時隼人の脳裏に過るのは仮面ライダーブレイドで見たスリップストリーム。車の真後ろへ行き風を凌ぐ……そして車の横を抜けてウィリー走行へ移る。
「隼人君!?」
「彼は何をする気だ!?」
ひとりと直樹が驚愕する中で、隼人はバイクごと飛ぶとガードレールの上を走行―――そしてハチロクを追い抜きアクセルを全開にする。
「なんというテクニックだ……まるで漫画じゃないか!?」
「(隼人君……)」
焦る直樹を気にしつつひとりは祈る……隼人の勝利と無事を。急カーブに差し掛かり隼人は膝スリしてスピードを維持する。対するハチロクもドリフト走行で踏ん張る。
「(ひとりとの恋愛を諦めたくねぇんだっ!!!)」
初めて自分が好きになった異性……ひとりと笑い、楽しくデートをこれからもしたい。だから隼人は負けられないという気持ちをバネにしてハチロクを切り離す。
「うおおおォォォォ!!」
「馬鹿な!彼から離れてゆく!」
直樹はスピードを上げる……しかし隼人のcb400sfが一足先にゴール地点に辿り着く。そしてハチロクも後に続いて辿り着く。
「はぁ、はぁ、はぁ………」
「……隼人君!」
「おわ!?」
助手席にいたひとりが隼人を抱き締める。そして直樹が運転席から降りる。
「小田切隼人君。僕の負けだ……君は凄いな」
「いいや。ひとりが好きだからこそここまで踏ん張れただけです」
「そうか。ひとり………そして隼人君。君達は真剣なんだね」
直樹の言葉に隼人とひとりは頷く。
「分かった。君達の恋愛を認めよう」
「ありがとうございます、お義父さん」
「はははっ。これからはよろしく頼むよ」
隼人と直樹は握手を交わし、ひとりは安心して笑みを溢す。朝日をバックに直樹の許しも出た隼人とひとりの恋愛はこれからも続く。