体育祭、一週間前。
いつもの訓練場で、出久は低空を飛ぶアルスを追い掛けていた。
アルスの攻撃から逃げる、という課題を通過した出久が次に課せられたのは、その逆である『五分以内にアルスを捕まえる』というもの。
アルスは魔具・魔剣・詞術の全てを封じた上でひたすら出久から逃げ続ける訳だが、空中はアルスの領域。
当然地を踏んで跳び上がり、短時間しか空中にいられない出久は、広い空を低空と言えど有り得ない挙動と速度で駆け抜けるアルスには、走って追い付くのがやっと。
「(駄目だ…! 遅い、遅い!! もっと速く、無駄を減らせ! アルスくんに追い付かないと!)」
自己暗示しつつ、自身の動作をその場で素早く省みて、可能な限り即座に改善する。
出久は痛いほど理解したのは、逃げる時と違って身体の使い方に加え、思考の使い方の違い。
逃げる時は避けに入る瞬間の加速力や反射神経、そして攻撃先の予測が主だった。
詞術はある程度軌道を定めて放つ。例として石の礫を飛ばす際に最初の放物線さえ視てしまえば、着弾先を多少であれど割り出せる。故に一週間は掛かったものの五分逃げ切る事に成功したのだ。
しかし、追う側となれば話は別。
アルスは低空ではあるがほぼ常に空中におり、またその機動力も幼馴染の爆豪勝己とは比にならぬ速さがあり、走って追い付くのが精一杯。
フェイントを入れても、姿をくらませて立ち回ってもアルスは時に脊髄反射で……時に並外れた予測で逃げ切っていた。
この時点で出久は、
「(焦れ、緑谷出久! この試練を乗り切らなきゃ、僕は……!)」
出久は地面を蹴り、空に躍り出る。
捕まえなきゃ。アルスに、友達に……追いつく為に!!
───その瞬間。出久の手から黒い奔流が溢れ出した。
「「!?」」
二人は驚愕する。
その奔流は四方八方に伸びていくと、ビルの壁や窓……手当り次第破壊していく。
「(なん、だ…コレ!? 止まれ……止まれ止まれ止まれ!!
出久は焦る。
急いで個性を止めようとするが、彼の制御下から外れたのか、全く止まらない。
「出久……!」
アルスが友の異変を傍観する訳もなく。
“キヲの手”、“凶剣セルフェスク”を抜いて出久に向かって突っ込む。
その手にある魔鞭を振るった光景を最後に、出久の意識は途切れた。
……表層上の、ではあるが。
出久は目を覚ます。
仄暗い、先の見えない地平。意識、身体の感覚が曖昧で、状況が上手く飲み込めない。
『よォ坊主!!』
「!?」
突然声を掛けられた。
現れたのは、ゴーグルを着けた禿頭の男性。
初対面。だが前から……それこそ個性を譲渡されてからずっと“気配だけ”は知っていた様な……
ともかく、話し掛けられたのなら答えねば。
しかし、出久の口の感覚が無い。
『おォい! 口がないのか!』
出久が思ったことと同じことを言った。
以外にもユーモアがある。
未だ状況を飲み込めていない出久を置いてけぼりに、男は話していく。
なんでも、
それらは出久が上限を引き上げていくにつれ、徐々に目覚めていったのだという。
そして出久が先程発現した黒いエネルギー……『黒鞭』と呼ばれるそれは、目の前にいる彼が生前持っていた個性。
黒鞭発現の引き金を、出久は『アルスを捕まえたい』という意志によって引いた事で発現。
あとは、前述の通りだ。
すると、男の身体がモヤとなって少しづつ消えていく。
会話出来る、時間制限がやってきたようだ。
去り際、男は出久に宣告する。
お前には、これから
……と。
そこで、裏面の出久の意識は途切れた。
その後、出久は意識を取り戻した。
気を失った出久を保健室に連れていったアルスは、今日の特訓は中断し、出久の様子を見ながら解散する事に。
その後出久が最優先したのは、黒鞭の制御。
アルスと特訓してきた影響で無意識下での身体強化は出来るようになっていたが、黒鞭を加えて並列処理を行える様にならないというのが難点だった。
幸いにも鞭の扱い、及び並列処理においては最も参考にできる人物がいた。
アルスだ。
魔鞭“キヲの手”と同時に、その他の魔具・魔剣に加えて詞術や
『並列処理のやり方…か。簡潔に言うのなら……その時に必要な道具を出し入れする、って感じだけど…』
アルスから教わった並列処理のコツ。
それは、黒鞭を並列して発動する上でかなり参考になった。
出力の感覚を掴むことから始まり、僅か二日で身体強化と並列発動も可能となり───
「……ォォォオオオ!! 捕まえ、たぁ!!」
「ッ!」
体育祭三日前に、遂にアルスを捕まえる事に成功した。逃げる特訓よりも早く、アルスに追い付く事を可能とした、出久の努力が垣間見える瞬間であった。
そして開催前日、出久に新たな個性が発現する。
それは───
◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
「(もう立て直した…!)」
体育祭第一種目、障害物競走。その終盤である地雷原『怒りのアフガン』。
出久が見たのは、最先端にてギミックの網に捕らわれた筈のアルスが、手にある魔鞭“キヲの手”を巧みに振るい、網を滅多切りにしては即座に体勢を立て直し、再びゴールに向けて空を翔ける様子。
その光景に、出久も焦りを示すがすぐに冷静さを取り戻す。
「(地雷を避けながらじゃ遅い。かといって地雷を避けるために大きく飛び上がればアルスくんと同じ様に足止めされるだけ。……なら!!)」
出久が取った選択肢。
それは誰が見ても無謀であった。だが、どうこう言ってる暇は出久にはない。
出久は跳び上がり、敢えて地雷を踏み付ける。
起爆の直前に跳び上がり───爆ぜた地雷の爆風を推進力に、前方に大きく飛び上がった。
「(できた! 二回目……ここ!)」
着地に合わせてもう一度地雷を踏み…先程と同じように前に躍り出る。
素人には不可能な行為。だがそれは、アルスに鍛えられた出久だからこそ成立する芸当。
半ば直感ではあるが、観察せずとも気配で地雷の位置を探り……爆風を最大限利用して前に出る。
個性で強化された身体能力。アルスが仕込んだ危機察知能力。このふたつが欠ければ、成立しない前提条件。
そして遂に出久は、現状四位……即ち、爆豪と轟の後ろに到達する。
「(くそっ、まだ遠い! 次の着地予定ポイントに地雷はない…考えろ、考えろ…!)」
出久は己の手札を早急にリストアップする。
そして……
「(これなら……)」
ここに来るまで、あるものを
使い時があるのだとすれば、今。
「(実戦はまだ……ぶっつけ本番…! ……けど!!)」
……上等だ!!
出久の前方6〜7mに、爆豪と轟。
この二人を、
両の手の甲から黒鞭を伸ばした出久は、瞬く間に目の前で並走する幼馴染と推薦入学の同級生に巻き付ける。
「ッ!?」
「んだ、これ!?」
「二人共、ごめん!!」
ピンと張った黒鞭の張力に耐える出久は、空中で姿勢を整えると右脚を曲げると……
「二人のことを」
踏み台にさせてもらう!!!
叫びながら、出久はそう宣言する。
そして出久は曲げていた右脚で────空中を蹴った。
「ッ…!! 離せ、緑───」
「んだとォ!? 離しやがれクソデ───」
二人が言い切る直前。
深緑と深紅の残光を残して、
その事に驚愕する二人の間を、強烈な衝撃と旋風が駆け抜ける。
それは、遥か先にいるアルスの元にも及び……
「(何か、来る…?)ッッ!?」
深緑の閃光をその身にまとい、アルスが知るそれを遥かに上回る速度で接近してきたのは……緑谷出久。
あの距離から一瞬で到達した出久は……あっという間にアルスを追い越した。
「(3rd・“発勁”)」
体育祭前日。出久に発現した二つ目の個性。
3代目OFAの個性“発勁”は、一定の動作を繰り返す事で運動エネルギーを蓄積し、任意のタイミングで放出する。
ただし、動作を繰り返して溜めるという手間がある事。溜めるための動作が単調故に見抜かれたら追撃される恐れがある事など、使い所は見極めねばならず、出久が言及したように、本格的に使用したのは今回が初めて。
だが、その恩恵は出久が想像する以上に大きかった。
黒鞭の張力を利用した加速。
OFA20%。
そして、発勁。
この三つを組み合わせる事により、瞬間的ではあるが、自壊のリスクを負うことなく……その最高速度は、100%中の80%の出力に匹敵する。
───擬似80%!!!
出久が引き出せる出力が伸びれば、理論上はほとんどノーリスクで100%の威力と速度を引き出せるだろう。
だが、今はこれで十分。
アルスを追い越し……
「(ッ、体勢が…!?)」
副次的に生じた突風と衝撃が、アルスの飛行姿勢を崩した。
「(やっぱり……出久はすごいやつだ)」
───出久は、おれなんかより、ずっとすごいやつになる。
アルスの予感は当たっていた。
今日まで生きてきて、飛ぶ姿勢を崩された事などほとんど無かった。
かなり遠い距離に居た筈なのに、瞬く間に距離を詰めるどころか、自分すら追い越した。
本当にすごい。出久は、既に空中最速であるアルスの領域に片足を踏み入れていた。
なんとか体勢を整える。だが、その間に出久はゴールゲートの目前にいた。
もう、追い付けない。ならばアルスのする事は、ただひとつ。
「クッソがァァァ!!! 俺の前に出るんじゃねぇ、クソナードォォォ!!!」
絶叫し爆破で加速しながら全速力で駆ける爆豪。そして氷で滑走しつつも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる轟が、アルスへと距離を詰める。
「(二位は、譲らない)……“地走り”」
アルスが壺から零した液体が落ちると、そこを起点とした火炎が登り、後続を妨害。
炎が立ち昇るのと同時期に、アルスは出せる限りの最高速度で空を翔ける。
『おいおいおい!! 竜間の独走かと思いきや、一瞬で追い付いた緑谷が追い抜き!! おいイレイザー、お前のクラスすげぇな! どんな教育してんだよ!?』
『俺は何もしてねぇよ。アイツらが勝手に火ぃ付け合ってんだろ』
ゲートの通路を走る。
追い付かれてもいいように、全速力で。
『さァさァ、序盤の展開から誰が予想できた!? 今、一番にスタジアムへ還ってきたその男───』
誰よりも速くステージに戻ってきた少年が、ゲートの中から姿を現した。
緑谷出久の存在を!!
ブレゼント・マイクの実況を皮切りに、大歓声が巻き上がった。
「(やった…やったよ、オールマイト!!)」
教員の観戦席にいるオールマイトを見た出久は、彼へとガッツポーズを取りながら、笑みを浮かべる。
遅れて後続がスタジアムに入ってくる。
ある者は悔しそうに。
ある者は素直に賞賛し。
ある者は焦燥を募らせる。
「(やっぱり……眩しいな、出久は)」
アルスは、嬉しそうにガッツポーズをしている出久を見ながら、ひとり出久を大きく賞賛していた。
雄英体育祭 第一種目『障害物競走』。
1位通過───緑谷出久。
【個性:OFA】
聖火の如く引き継がれてきた個性。緑谷出久は九代目に当たる。
継承者の身体能力を蓄積し譲渡するものであり、使用者は蓄積された能力を引き出し、身体能力を底上げできる。
余談だが、歴代継承者の個性の発現順は、本小説の作者が決まりがないと判断し、黒鞭と変速以外は変更している。
【次回予告!】
出久「やった…アルスくんに勝った!」
アルス「おれも、驚いた。…次は負けない」
出久「それは僕だって同じ……え、もう時間なの!? なんか早くない!?」
アルス「たしかに、早いな…」
出久「次回、【奮闘騎馬戦】! さらに向こうへ!」
2人「Plus ultra!」
ヒロアカキャラで異修羅構文を書くか否か。
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書いてほしい
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いらない