常闇くん、技名長いし漢字ムズいから執筆に時間掛かるけど好き。
「な…なにが、起こったんだ…!?」
緑谷出久VS轟焦凍。
この戦いの決着にて、何故出久だけがステージに留まれたのか。事態を理解しきれていない面子は思わずそう呟く。
「……多分…出久は焦凍を蹴り飛ばしたあと、僅かに残ってた氷か何かに、黒鞭か“黒鎖”を巻き付けて……自分自身を支えたんじゃないかな。…あるいは、出久自身が根性で踏み留まったか……」
『(地味に否定できないの最後に出たな……)』
アルスの考察に一同妙に納得してしまう。
とはいえ真偽は出久本人に聞く他ない。
「……あれ、天哉は…?」
「飯田くんなら、さっきすれ違ったよ」
「出久…お疲れ様。いつの間に居なくなってたんだ……?」
既に居なくなっていた飯田と、入れ違いで戻ってきた出久。どうやら観客席に戻る際にすれ違い、軽く談笑してきた様だ。
「そういえば……焦凍は…?」
「轟くんなら、リカバリーガールの所で治療中だって」
「……あんな勢いよく蹴っ飛ばしたら…ね」
「うっ」
一方その頃。
『リカバリーガール出張保健所』に備え付けられているベッドに寝かされていた轟焦凍は目を覚ます。
「……あぁ…負けたんだっけな」
身体は未だにズキズキと痛む。思い出すのは、先の出久との試合。
焦凍は思う。
緑谷出久は強かった。
入学当初は自身の個性で身体を壊し続けていたというのに、いつの間にか制御法を見出し、更には新たな派生を引き出した。
自身のように複数の能力を持つ様な個性を、この短期間で実戦可能な領域まで使いこなして……
「(俺は……俺は、何やってたんだろうな)」
己が個性の強力さにかまけた挙句、
その結果が、これだ。何より自分は───
「(……目ぇ、逸らしちゃ…駄目だよな。
焦凍は決意する。
母のいる、病院に行こう。会って話をして……手を差し伸べて、救い出さないといけない。
他の誰でもない、自分が。
でなければ……自分の原点を思い出させてくれた
二回戦、第二試合。
飯田天哉VS上鳴電気。
この試合は、誰がどう見ても呆気ない結果で幕を閉じた。
おおよその流れを説明すると……
まず、上鳴が飯田のレシプロを警戒したまではいいが、放電ブッパ以外何も考えていなかったらしい。
勿論飯田の方も上鳴の放電を警戒しており、放電される前に『トルクオーバー・レシプロバースト』を発動。
その結果為す術もなく腹を蹴られた上鳴は踏ん張れず、あっさり吹っ飛んでいき、場外。
一発K.O.だった。南無。
「電気は……ほんと、妙な所で考えなしに、なるな……」
控え室に備え付けてあるモニターでその様子を眺めていたアルスは、呆れながらそう呟く。
これに関しては、完全に上鳴本人の気の緩みが大きい。それがなければ善戦……場合によっては勝てた可能性すらあったというのに。
「……そろそろか」
試合の時間が近付いていることに気付いたアルスは、控え室を後にする。
二回戦、第三試合。
竜間アルスVS常闇踏陰。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆
『さぁさぁ! このままの熱量でお届けするぜぇ!! 二回戦、第三試合!! 竜間アルス対常闇踏陰!!!』
ステージ上で相対するは……
「…アルス。俺は、お前に挑戦したいと、ずっと思ってきた」
「……うん」
「勝つのは、俺だ。空中最強であるお前の上を行く。この二週間で編み出した、技の全てを以って……!」
「……望む所だよ」
常闇の強い決意を聞いたアルスも、強い闘志を顕にする。
二人の準備が整ったことを確認した審判役のミッドナイトと、実況のプレゼント・マイク。
『START!!!』
「
『アイヨッ!!』
開始の合図と同時に、常闇は
「……“キヲの手”」
対して、アルスは魔鞭で牽制を図る。不規則な動きで飛んでくる
「はあっ!!」
「ッ…」
刹那、アルスの腰部に衝撃。
いつの間にか背後に回っていた常闇がアルスを蹴り付けていた。
しかし体躯ともとの身体性能の差でアルスはよろけることも、大きな手傷を負う事も無かったが…一瞬。ほんの一瞬、注意が逸れる。
『オリャア!!』
「ぐっ…!」
そのほんの僅かな隙を見逃さず、
「常闇の奴、竜間に一撃入れたぞ!!」
その様子を見ていたA組の面々は純粋に驚愕する。
入学して今日に至るまで、アルスに攻撃を当てる事ができた者はほとんどいないが故の反応であった。
「……やるね、踏影」
「まだ終わりではないぞ。纏え…
常闇の言葉に呼応した
「“
“
その状態となった常闇を、警戒の念を示しながら構えるアルス。
「“黒き
両者睨み合う中、先制したのは常闇だ。
両腕に
しかしそれを許すアルスではない。
“キヲの手”で防御しつつ、いつの間にか取り出していた楔の魔剣を散弾のように打ち出すと───
「【
力術を唱え、“凶剣セルフェスク”の刃を多種多様な方向から常闇に向けて飛ばす。
それに気付いた常闇は伸ばした腕を瞬く間に引いて、防御に移る。
魔剣の楔は常闇の身体を覆う
「(やっぱり硬いな、
アルスは試合開始からずっと、
しかし、純粋な防御力や攻撃力の高さに加え、常闇自身がアルスの飛行を妨げる立ち回りを取る為、思うように探れずにいる。
「(……“原因を考えて、対策する”)」
この場の誰よりも思考を回していく。考えうる原因…その全てを浮かべていき、
しかし相手側もそうはいかない。アルスの機動力を殺す事が常闇の狙い。故に攻撃の手は緩めない。
とはいえアルスもされるがままではない。
鞄からひとつの多孔質の球体を取り出すと、それを投げ飛ばす。
「……“腐土太陽”」
その名を口にするのと同時に、球体から無数の泥の刃が射出され常闇に殺到する。
“腐土太陽”という、泥を操る魔具。
勿論当たればタダでは済まない。アルスの目的はこの魔具による牽制。泥の刃が放たれたその時には、アルスは既に飛翔している。
泥が着弾する。しかしそこに常闇の姿はない。
「───言っただろう、アルス。『空中最強であるお前の上を行く』と!」
「ッ…“凶剣セルフェスク”!」
アルスは反射的に楔の魔剣を盾状に配列し、
衝突音と共に振り返る。そこには……
「と、常闇が……」
「
そう。
その光景に、誰もが驚きを隠せないが、アルスだけは冷静に分析する。
「……
「その通りだ。初見で原理を見破られるとは思わなかったが……お前に追いつくが為に編み出した技。名を……“黒の堕天使”!」
“黒の堕天使”。
常時浮遊している
正史では、『速すぎる男』の異名を持つヒーローの元で得たヒントを元に編み出したものだが、アルスという身近に空を飛べる存在がいた事で、早期で身に付けたのである。
「……なるほど。空中戦、か……でも」
途端、アルスが前方に全速力で飛翔。
一息で、常闇の懐まで詰める。
「……空は、おれの領域だ」
そう言ってアルスは“キヲの手”、“凶剣セルフェスク”を振り抜く。対して常闇は空中で“深淵暗躯”に移行。
「『深淵暗躯・
本来なら両腕の爪で近接攻撃を行う
魔鞭と楔が、ほぼ同時に跳ね返される。
「ッ、まだ……」
アルスが“凶剣セルフェスク”の柄を振るう。
飛び散った魔剣の楔が、偶然か必然か常闇の全方位に散らばっており……
「……“凶剣セルフェスク”」
楔の魔剣が、一斉に襲い掛かる。
「甘いッ!!」
それでも常闇は、“深淵暗躯”の爪で薙ぎ払い、“凶剣セルフェスク”を全て弾き返す。
しかしそこで手を止めるアルスではない。
「【
追撃として熱術を唱えると、虚空から一筋の熱線を放つ。
それを見た常闇は慌てた様子で“黒の堕天使”に移行。熱術をによる熱線を回避する。
その様子を見ていたアルスは気付く。
「(……そういう事か)」
アルスは理解する。
それを実行する以前に、常闇が再び“深淵暗躯”に移行すると、先程とは違って直線的に腕を伸ばす。
“宵闇よりし穿つ爪”という。“黒き腕の暗々裏”とは異なり、直線であるが故に最速で伸ばすことができる技である。
しかしアルスは左右に移動する訳でも、上昇する訳でもなく……急降下して回避する。
「【
アルスは詞術の詠唱を始めると、地面が変形を始める。
「【
それは先程、騎馬戦で見せた一発限りの簡素な
常闇はようやくアルスの狙いを理解する。急いで追撃に移るが、もう遅い。
工術の詠唱が終わり、形成された
再度翼を羽ばたかせては飛行を再開し、その間に降下しながら取り出した魔弾を装填する。そして180度回っては上を向き、
「……“雷轟の魔弾”」
銃口から放たれた雷光は空を登る。
本来落ちる筈の雷霆は、天を裂いて体育祭の会場を照らした。
アルスにおける遠距離攻撃の最高火力。
それは、本来
◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
「今のは……“雷轟の魔弾”…!?」
「こ、こんなヤベェ威力なのかよ…よく生きてたな、俺……」
稲光が収まると、アルスが放った雷撃のそれを受けた事のある上鳴は恐れ慄く。
“雷轟の魔弾”という、雷撃を放つ魔弾。直撃すれば、大抵の生物は即死だ。上鳴電気の『帯電』の個性ならば受け切れるが、蓄電量によっては危うい場合もある。
先の騎馬戦ではアホになる手前まで放電し、蓄電量にも余裕があったからこそ、アホになる程度で済んだ。
出久達はスタジアムを見る。
そこには、地面に倒れ伏す常闇。その周辺には楔の魔剣が漂っており、彼から出てきていた
その原因たるアルスの周囲には炎が漂っている。熱術だ。
「……やっぱり、
「何故……分かった……」
「……おれが撃った、熱術。あれを避ける時、かなり…焦ってたでしょ……? それで、“おや?”…って思ったんだ…」
常闇の一挙手一投足をしっかり観察し、対策し、割り出した。
竜間アルスの、勝利に対する執念が
「……まだ、だ」
不意に、常闇が呟く。
その目は、未だ諦めていない。
「
『……フミカゲ』
常闇踏陰は自身の周囲を取り巻く楔の魔剣をものともせずに立ち上がる。
未だ闘志に燃えるその瞳を、
「……
誰がどう見ても負けに決まっている。
それでも常闇踏陰という男は、諦めていないのだ。
その強い強い闘志が幸を成したのかは定かではないが……ひとつ、彼自身に変化が訪れる。
紫のような色合いの紋様が顔から始まり全身に及び───
───彼の足下の影が、影にあるまじき動きで蠢いた。
次回、『決着、及び準決勝までの小休憩』。