星馳せの転生者 1
地平の全てを恐怖させた“本物の魔王”を、何者かが打ち倒した。名も存在も定かではない“勇者”を決めるべく、黄都によって開かれる六合上覧。その参加者のひとり、
彼は最強種、
「……いや。誰も予想できないでしょ。その星馳せアルスに生まれ変わるだなんてさ」
そう一人つぶやくのは、
彼には、所謂『前世の記憶』なるものがある。熱狂的ではないが、書籍を買って読む程度の『異修羅』と呼ばれるライトノベルの読者であり、その中でも『星馳せアルス』というキャラクターを推していた。
とはいっても前世の自分が何故死んだのか、またかつての自分の名前や誕生日も曖昧で、辛うじて性別が男であったことを含め、覚えている記憶の方が少ない。
とは言っても星馳せアルスというキャラクターの姿形で生まれたのなら、そのキャラクターが住まう世界なのだろうか、と考えていたのだが……
「『彼方』……にしては荒廃してないどころか、むしろ発展してるよね。それに、
異修羅世界における異世界、『彼方』。“客人”がかつて住み、逸脱の何かを備えた“客人”を追放する世界。
アルスは最初、自分は『彼方』の方にいるのかと考えた。
しかし、今アルスがいる世界は作中で描写される『彼方』とはだいぶ異なるどころか、人族や魔族、鬼族に類似する見た目の者が非常に多い。
「…ほんとに、何がどうなってるんだろう」
アルスは自身に起きた事、これからどうなるのかが全く分からず、ひとり悩む。
そんな中、自分の元にひとりの
◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
竜間龍子。個性『ドラゴン』。
後にリューキュウと呼ばれるヒーローとなる彼女が『それ』を見付け出したのは、本当に偶然だった。
普段通らない、たまたま通り掛かった道にある小さな路地。その入り口で座り込む、小さな蜥蜴を見付けた。
否。蜥蜴というには、その体躯は幼稚園児並みに大きく、腕がある場所から翼が生え、三本の前肢が垂れ下がっていた。
彼女は、直感的にこの容姿の“個性”の子供だと認識した。心配になり、屈んでは優しく声を掛ける。
「……だれ?」
「私は龍子。竜間龍子よ。ぼく、お母さんとお父さんはどうしたの?」
「…しらない。きがついたら、ずっと…ひとりだったよ……」
「ッ…!」
捨て子、あるいは浮浪児。しかも奇形の幼子だった。
様子からして、自らの状況をまだ掴みきれていないらしい。
「名前は、分かる?」
「……“アルス”」
苗字は、と聞いた。分からない、と返ってきた。
意を決した彼女は、座り込む彼へと手を差し伸べる。
「そう、アルス君ね。……私と一緒に来てくれる? 大丈夫、あなたを助けたいだけだから」
その手をしばらく見つめたアルスは、その小さな翼を龍子の手に添える。彼女の想いに、答えた証明でもあった。
結果、龍子が家にアルスを連れ帰った後、彼女がアルスの親を探したが既に故人だった。大きな事故に巻き込まれたらしい。
縁者もおらず、アルスは天涯孤独の身であったが、竜間家が彼を引き取る事になり、アルスは龍子の弟に。
この日を以って、ただのアルスだった彼は『竜間アルス』となったのである。
「龍子姉さん」
「どうしたの、アルス」
「ヒーローって…なに……?」
ある日、アルスは物心ついた時から傍らにあった大きな鞄を持ちながら、龍子にそう問い掛けた。
龍子は知る由もないが、アルスは転生者。彼女の家族となり共に住む事になってからというもの、この訳の分からない世界についてを知ろうとしていた。
アルスの問いに一拍置いて、龍子は答える。
「ヒーローというのはね、誰かを助けるお仕事なのよ。アルスも…ヒーローになりたいの?」
「特には、考えてないけど……でも」
アルスは自らの翼を見る。
かつて龍子の手を取った小さな翼。彼女の手の温もりは、未だに残っている。
助けられた命。右も左も分からない己を、救ってくれた人。ならば。
「おれも、龍子姉さんみたいに…なりたい、かな…」
それが、矮小な一羽の
その願いへ向けて、アルスは成長する道を選ぶ。それを、龍子は否定することはなかった。
───それから、十年と数年の年月が過ぎた。
本作のアルスは原作とは中身が違う為、喋り方以外相違点が多いです。
2025/03/31 ー追記ー
コメントでご指摘いただいたので、ちょこっと本文と設定弄ります。