お久しぶりです。久々の投稿ですが、決勝戦は前篇後篇で分ける事にしました。
それではどうぞ。
『さァリスナー、遂に決勝戦だ! 双方、ヒーロー科A組! 数多の道具を駆使して空を翔ける
友にして
「……やっと、本気で
「そうだね。負けないよ、アルスくん」
「おれだって。潔く負ける気はないよ、出久」
その言葉を皮切りに、出久は構えに入りアルスは頭部に取り付けられた保護眼鏡を掛けた。
誰が見ても、双方戦闘態勢は万全であるというのが分かる。
『START!!!』
「“黒鞭”!!」
「“キヲの手”」
プレゼント・マイクが試合開始の合図を口にするのと全く同時。出久の手から伸びた黒鞭と、アルスが鞄から取り出した魔鞭“キヲの手”が瞬く間に双方へと殺到し、衝突する。
一~二秒程拮抗した後、二人の鞭は弾かれる。
初撃が防がれる事は想定済みであった出久は、もう片手にも黒鞭を生成。今度は五指から糸の様に細めた黒鞭で横薙ぎに振るう。
対してアルスは焦る様子も見せずに“キヲの手”を巧みに振るい、黒鞭を難なく薙ぎ払っていく。
「最初から鞭同士のぶつかり合いや!」
「緑谷もアルスも、同じ様に鞭使い。中距離において優秀な鞭で様子見をしつつ攻撃に移るのは、当然と言えよう」
観客席にて、常闇踏陰は冷静に二人の心情やどう動くのかを読み解いてはそう口にする。
しかし常闇には理解している事がある。出久とアルスの違いを───
「だが……この状態が拮抗するのなら、緑谷は押し負けるだろう」
「……なるほどな」
常闇が口にした言葉に、焦凍は頷いた。出久と一際仲のいい麗日はどうして、と問い掛けると常闇の代わりに焦凍が答える。
「緑谷とアルス……あいつらの鞭の扱いや練度には、どうしても差が生まれる。…特にアルスは、緑谷とは比にならねぇくらい鞭を使い込んでるだろうし……このままじゃ、緑谷は───」
二人の操る鞭が幾度となく衝突し、その度に火花が散る。
アルスは無表情かつ、いささか余裕ありといった様子であるのに対して出久は両手から黒鞭を放ち、たったひとつしかない魔鞭“キヲの手”と渡り合っていた。
……だが、言い方を変えれば…出久は両の手を用いて攻撃に移っているのに対し、アルスは三本腕の内の、たったひとつで攻撃を捌いているのだ。
「(……分かっていたけど。鞭の練度があまりにも高い…! 格が違う…!)」
出久から冷や汗が伝う。
否応無しに理解する、アルスとの鞭の扱いにおける練度の差。
アルスは片手かつたったひとつの鞭だけで出久が操る無数の黒鞭を易々と捌いている。
黒鞭を発現から並列思考に組み込める様になって間もない出久には、アルスの様な万能の適性を持つ相手には分が悪い。
「(どうにか隙を……)なっ!?」
出久がアルスの手の動きを注視しようとしたその瞬間、無数の黒鞭の弾幕の隙間を巧みに縫い、アルスの“キヲの手”の切っ先が出久の元へと到達する。
「……“
竜間アルスが独自に編み出した、“キヲの手”の鞭術。あらゆる攻撃の隙間をすり抜け、相手を穿つ技。
それを持ち前の危機察知能力でギリギリで回避する出久。しかし避けきれずに“キヲの手”の切っ先が出久の頬を掠り、鮮血が流れる。それに伴い、伸ばされた無数の黒鞭が霧散して消失してしまう。
アルスが引き伸ばした魔鞭を手元に戻すと、勢いをつけて再びその切っ先を伸ばす。“蝮”だ。
「(……なら)」
出久はギリギリまで“キヲの手”を引き寄せ、頭の位置をズラしながら、自身へと到達した魔鞭を逆に掴む。
「!」
「捕まえた!」
鞭そのものが鋭利な刃物の様に鋭い魔鞭を鷲掴みにしてただで済む訳がなく、鞭を掴む出久の手から鮮血が零れる。
それでも出久はお構い無しに
爆発的に跳ね上がった膂力に、アルスは踏ん張れず出久の元に引き寄せられてしまう。
勢いよく飛んできたアルス目掛け、出久は拳を構え……
「“デトロイト・スマッ”───」
アルスを殴る……直前に右側に飛び退いた。
先程まで出久が立っていた所にアルスは難なく着地し、出久は素早く体勢を整えてアルスの方を見る。
自身の胴に隠す様に、三本目の腕が握っていたのは…古びた短剣の形をした───
「“ヒレンジンゲンの光の魔剣”…!」
「……読まれるとは、思わなかったな」
淡々とそう告げるアルスだが、本当に読まれるとは思わなかったらしい。その声には驚愕の感情が乗っていた。
出久の元に引き寄せられる直前、鞄から光の魔剣を取り出し、出久の攻撃に合わせて斬りつけるつもりだったのだ。
とはいえ直撃させれば出久の身体は真っ二つに両断され、そのまま死んでしまう。その為アルスは体操着を微かに裂く程度で留めるつもりだったのだが……出久に読み切られて間合いの外に逃げられてしまい、攻撃の動作に移るまでもなかった訳だが。
「……やるね」
素直に賞賛の言葉を贈るアルスだが、出久は額から流れる汗を拭いながら余裕なくアルスを見る。
「(強い……上、反応速度や判断を下して動くまでが、僕よりもずっと速い…!!)」
改めて、アルスの思考速度の速さと鍛え抜かれたが故の高い身体能力。そして三本の腕を駆使した魔具・魔剣・詞術の同時行使。
何度も思う。隙が無さすぎる。
「(認識は追い付いてる。でも、身体が追い付いてない)」
出久は自身とアルスにある差を改めて振り返った。
アルスの攻撃の動作と速度は大体追えている。だが、認識が追い付いていても身体が遅れてしまい、被弾しかけている。
対してアルスはどうか?
出久の動きを見て、最善を見出してはすぐに動き出し、出久からの攻撃をほとんど被弾せずに過ごしている。この時点で、かなりの差が生じてしまっている事を、誰よりも出久が理解していた。
「(考えろ。考えろ緑谷出久…! どうすれば、アルスくんの速度に追い付ける!)」
自壊前提で“OFA”の出力を上げるか。
……否。負傷による激痛、及び慣れぬ出力によって身体が軋み、却って速度が落ちる。
では、歴代継承者の個性は?
今出久が扱えるのは、“黒鞭”と“発勁”のみ。現在四肢に“発勁”はある程度溜まっているとはいえ、使い所を誤れば急加速に伴う慣性で、罠を張られた場合停止できない。
“黒鞭”はどうだろうか?
だが、中距離を担ったりする上で必須の上、それでアルスの速度に適応できる訳ではない。
「(…………まてよ?)」
緑谷出久は、ある答えに辿り着く。
同時にそれは、大きすぎる賭けでもあった。成功する保証が、全く無いのだから。
それでもやる外ない。それ以外に、アルスには届かない。
出久は黒鞭を起動。
しかしその発現法は、今までのそれとは遥かに異なっていた。
「(皮膚直下に黒鞭を這わせるんだ。腕に。足に。胴に。指先に。果てには、眼球に至るまで……!!)」
出久の全身に黒鞭が這い回り、皮膚や指先、顔に黒い紋様の様なものが浮かび上がる。
その黒い紋様は眼球にすらまとわりつき、出久の背や腕から黒鞭が溢れてきて……とても、ヒーローの姿とは思えない。
「“黒鞭”……“オーバーレイ”!!」
その様子に目を細めつつ警戒を強めたアルスは、魔鞭“キヲの手”の技、“蝮”を振るいながら、鞄から取り出した磁力の魔剣、“凶剣セルフェスク”の楔を飛ばす。
「(左から“キヲの手”。こっちは僕で…右から来る“凶剣セルフェスク”は黒鞭で操った身体で…!)」
左腕から黒鞭が伸長し、複雑に飛び交いながら高速で殺到する魔鞭を迎撃すると、右側から飛んでくる魔剣の楔をデコピンの衝撃……“デラウェアスマッシュ・エアフォース”で撃ち落とす。
しかしながら、その動きはどことなくぎこちなさが目立つが……全く同時に襲ってくる攻撃を、全く同時に撃ち返した。
「(成功! ……いや、まだだ。早くモノにしろ。じゃなきゃ、アルスくんに対応されて終わるだけだぞ!)」
“オーバーレイ”。本来はある個性の反動を帳消しにして動く為に即興で編み出した技だ。
皮膚直下に黒鞭を這わせ、全身を操作する荒業であり、無闇矢鱈に使えば当然負担が来る。
出久は考えた。認識と全く同時に動作出来れば…と。その答えがこれだ。黒鞭は出久の思考と、ある程度はリアルタイムで操作できる。
それを上手く利用すれば……アルスの攻撃を認識した瞬間に黒鞭を操作して迎撃に移る事も、可能なのではないだろうか。
その読みは正しかった。複数方向からの無数の攻撃を、出久は迎撃する事に成功した。
本来の用途は全身操作だが、それと比べればマニュアル性は低い反面、むしろ思考に余裕ができる利点がある。
『出久は……言っちゃ悪いけど、だいぶ出遅れてる。このままじゃ、かなり工夫しないと……勝ち残れないと思う』
いつしかアルスが言った言葉が蘇る。
この試合の中、出久は常に工夫し続け、進化を繰り返しているのだ。
「……さあ、第二ラウンドといこうか、アルスくん!」
「……もちろん」
【あとがき】
改めまして、お久しぶりです。
最近仕事が忙しすぎて全く執筆できず、少し前に余裕ができてきてちまちま書いてきて、ようやく上げさせていただきました。
次回、後篇。