体育祭篇、完結です。
「……さあ、第二ラウンドといこうか、アルスくん!」
「……もちろん」
出久からの言葉を皮切りに、微かに口角を上げたアルスは翼を広げ、飛翔。空中最速の名に恥じぬ速度で空を翔け抜け、魔鞭と楔の魔剣を振るう。
相変わらず常軌を逸する程に速い。慣れない“オーバーレイ”だけでは、もしかしたら捌けない可能性すらある。
そこで、出久は趣向を変えてみる事にした。
「(───左上腕二頭筋。右肩)」
出久へと殺到する凶剣を最小の動作で回避。次に来る“キヲの手”を上体を後方に逸らす形で避けた。
予測。攻撃の軌道を読むのではなく、攻撃の
「(肋骨辺りに“凶剣セルフェスク”が数発。打ち出した直後を……)」
「“逆羽”」
出久の読み通り、アルスは半端な奥義を放つ。……故の、綻び。そこを突き、“オーバーレイ”で身体の稼働速度を超えた動きで屈む事で避け───
「“セントルイススマッシュ・エアフォース”!!!」
許容上限を瞬間的に超えた上で放たれた、横薙ぎの蹴りによる巨大な風圧。
「ッ…くっ…!」
それはアルスも例外ではない。それも“逆羽”の威力と命中率を上げる為に距離を詰めていた事が仇となり、その風圧を至近距離で受ける事になる。
故にアルスは風圧に煽られ……後方に大きく吹き飛んだ。
「【
そこでアルスは、力術を唱える事で自身に逆方向の慣性を与えて風圧に抗い、何とかステージに踏み留まる。
「……やっぱり、一筋縄じゃいかないよね」
「…さすがに、今のは焦ったよ。……“逆羽”は避けられた上、おれが吹き飛ぶくらいの風圧を撃ってくるんだもの」
アルスは一層警戒心を強める。
先程の動きといい、こちらの動作を読みながら動いている様に感じた。出久が、こちらの動きに慣れてきたのだろう。
「(完全に慣れる前に……)」
「(アルスくんの技に対応して、確実に隙を突いて……)」
倒す!!
一瞬の静止と静寂。
その均衡を先に破ったのは、緑谷出久。個性で強化された脚力から成されるその走力は、瞬く間にアルスとの距離を詰めていく。
対してアルスは翼を羽ばたかせ、空へ。
そして鞄から多孔質の球体の魔具を取り出しては投げ飛ばす。
「……“腐土太陽”」
無数の穴から吹き出した泥の刃が出久目掛けて殺到する。
それを“デラウェアスマッシュ・エアフォース”を連射し、泥を散らして撃ち落としていく。
刹那、出久の背後。殺気に近い敵意。
出久は気付く。先の“腐土太陽”は、あくまでも目眩しだったのだと。
「……“キヲの”───ッ」
その魔具の名を言い切る直前、出久の背中から無数の黒鞭が発生。魔鞭含めた、アルスの全身が雁字搦めに拘束される。
「そう来ると」
その言葉が出久の口から出てきて、ようやくアルスは理解する。この状況へと誘われた事に。
出久が振り返りながら、拳を構える。
その拳は、赤い閃光を帯びている。ここまでの戦闘で、出久は常に“
雑に放出すれば、アルスを仕留める機会を無碍にするだけでなく、アルスという最強の
千載一遇。
避けようにも黒鞭がそれを邪魔し、“腐土太陽”も先程使用してしまった為、その泥を盾にする事もできない。この距離では、詞術で壁を作ろうにも詠唱を締め括る前に拳が到達する。
「思ってたよ…!!」
“デトロイト・スマッシュ”!!!
発勁の、赤い光が放出しながら放たれた拳は、今度こそアルスの腹部を的確に撃ち抜いた。
爆発よりも凄まじい衝撃がステージ全体を駆け巡り、出久達が立っていた所と、場外の壁から巨大な土埃が上がった。
「(……やっぱり…出久は……すごいや)」
激痛と共に意識を失う直前、アルスは
「───竜間くん、場外! 勝者、緑谷出久くん!! 今年の雄英体育祭、一年優勝は……緑谷出久くんよっ!!!」
数秒の静寂の後……スタジアム全体から大歓声。
その結果に驚く者。出久の勝利を信じていたが故に喜ぶ者。そんな中で一番驚いていたのは、他でもない出久自身だった。
「勝っ、た……? アルス、くんに…?」
アルスへと拳が到達した感覚。視線の先には壁に衝突して気絶しているアルスの姿。
それを何度も確認した末……ようやく、出久は勝利したという事を実感する。
「ッッッ!!」
出久は涙を流し、ガッツポーズを。教師観戦室の方に向き直ると、拳を突き出した。
その様子を……トゥルーフォームのオールマイトが涙と共に笑みを浮かべて見守っていた。
「(やりましたよ、オールマイト! “僕が来た”って…!!)」
涙を溜め込んだその目には、きっとその様な思いが宿っているのだろう。
「(凄いじゃないか……緑谷少年!!)」
愛弟子が勝ち抜いた事。それまでの努力をアルスに並ぶ程知っているオールマイトは、言葉にせずとも、出久を褒め讃えたのだった───
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆
「それでは、これより表彰式を始めます!」
表彰台等の準備を終え、遂に始まるは表彰式。激闘の体育祭も、終わりが近付いていた。
三位。爆豪勝己、及び、飯田天哉。
二位。竜間アルス。
一位。緑谷出久。
飯田は諸事情により、早退してしまった為不在。
決勝戦で気絶していたアルスも目を覚まし、容態はそこそこ酷いが…生術とリカバリーガールの治癒によるゴリ押しで、表彰式には参加する事となった。
「それでは、メダル授与よ! 今年メダルを贈呈するのは……」
「私がメダルを───「我らがヒーロー! オールマイト!!」───きた……」
被った。オールマイトが絡むと、定期的にグダるのは何故だろうか。
それはさておき、気を取り直したオールマイトは、早速三位からメダルを贈呈していく。
「まずは爆豪少年! 派手で力強く、すごい戦いだったよ! おめでとう!!」
「……ッス」
出久もアルスも、てっきり騒ぎ散らすのかと思っていたのだが……妙に爆豪が大人しい。
二人揃って思わず困惑してしまった。
「竜間少年。最後は実に惜しかったね」
「……はい。まさか、あそこまで読まれてるとは、思ってなかったので」
「それでも君の強さは目を見張るものがあるのは間違いないさ! その強さを、これからもっと伸ばしていけるよう頑張りたまえ!!」
賞賛とメダルに加えて贈られる助言に、アルスは頷いた。今年は負けてしまったが、来年こそは勝つという思いを込めて。
「そして……堂々の一位、緑谷少年! 優勝おめでとう!!」
「ありがとうございます……オールマイト!」
「……本当に見違えたさ。個性の反動で身体を壊してばかりだった君が、今やこの舞台の頂点にまで登り詰めた。緑谷少年のたゆまぬ努力が実を結び、ここに至る事を可能にしたんだろう。これからの緑谷少年の活躍に期待しているぞ!!」
出久の首に金メダルをかけると、オールマイトは嬉しそうにハグをする。
相変わらず滝の様な涙を流していた出久だが、その表情はとても嬉しそうだ。
誰だってこの表彰台に立つ可能性はあった。
推薦入学者の焦凍も。並外れた攻撃力と防御力、自律性を備える常闇も。それこそA組を初めとして、B組、果てにはヒーロー科以外の生徒まで。
今回はこの四人だっただけ。
オールマイトは告げる。次代のヒーローの芽は、着実に育っていると。
「それでは最後に、皆さんご唱和ください!!」
『PLU「お疲れ様でした!!!」ULTRA…………え?』
誰もが突っ込んだ。そこは“Plus ultra”だろうと。
結局最後の最後でグダってしまうも、なんやかんや雄英体育祭は幕を閉じたのだった。
次章から色々ぶっ込んでいく予定。
乞うご期待。