タイトル通りの内容。
体育祭が終わり、振替休日を含んで二日が過ぎ、登校日。
この日は傘が必須な程の大雨が降り、通行人は皆色とりどりの傘を差して歩いていた。
そんな天気でも、例外的に傘を差さずに歩く……否、
名を竜間アルス。
体躯の関係上、公共交通機関を利用しにくい彼は、基本的に空で移動する。
そんな彼は今、自らの体躯に合わせて誂えたカッパを着込んで空を飛んでいた。
翼の動きを阻害せず、かつ防水性にも優れている。
そんなカッパだが、リューキュウがわざわざアルスの為に特注で購入したもの。
『雨の日はこのカッパを着てちょうだい。風邪を引いたら、元も子もないわよ』
なんと言うべきか、リューキュウはアルスに対してかなり過保護というか、かなり干渉してくる。
俗に言うブラコンという奴だろう。そんなリューキュウのブラコンっぷりにアルスは特に気にしていない上に、いつもの事だと流している節があるが……それ以上に、彼女が自分にお金を掛けてくる事が申し訳ないとすら感じている。
ふと、アルスは下の方を見た。広い街並み。その道路で、明らかにこちらを見た上で手を振っている子供がチラチラ居る。
それに気付いたアルスは、取り敢えず手を振り返すと、空に居るアルスにも聞こえてくる程の黄色い悲鳴が響き渡る。
「(おれのファン…? ……いや…自意識過剰かな)」
そんな筈ないと思いながら、アルスは一層早く翼を羽ばたかせ、空を翔けていった。
傘を差して歩いていた出久が校門に差し掛かった頃、空から翼を羽ばたかせる音が聞こえてきて、振り返るとそこには水色のカッパを着込んだアルスの姿があり、出久のすぐ後ろで空から着陸する。
「あ。アルスくんおはよう」
「…おはよう、出久。雨、凄いね」
「そうだね。というかアルスくん、雨の日はカッパ着るんだ」
「…龍子姉さんが、特注で用意してくれたんだ。……言っちゃアレだけど…過保護なんだ。姉さん」
「凄いなリューキュウ……」
リューキュウが意外にもブラコンであるという事実に、出久は変わらず驚きを隠せずにいる。当初から抱いていたイメージとはかけ離れた姉弟愛に、若干引いてすらいた。
そんな中。
「何呑気に歩いているんだ!! 遅刻だぞ! おはよう緑谷くん、アルスくん!」
「カカカカッパに長靴!! お、おはよう飯田くん!!」
黄緑のカッパと黒い長靴を履いた飯田が、急ぎ足ながらも綺麗な姿勢で歩いてきて、並んで歩く出久とアルスに朝の挨拶を交わす。
「…おはよう、天哉。でも……まだ遅刻じゃないよ。予鈴、五分前だし…」
「雄英生たるもの、十分前行動が基本だろう!!」
その様子に、出久とアルスは足を止めると、お互いの顔を見合わせた。
飯田の様子に、違和感を覚えたからだ。まるで、無理矢理いつも通りの雰囲気を装っている様で……
「……兄の件なら、心配ご無用だ。要らぬ心労を掛けてすまなかったな」
昇降口でそう言われ、二人は声を掛けようとするも、飯田は教室へさっさと向かってしまった。
その様子はまるで、今は二人と話したくないと言われている気さえした。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆
ヒーロー科1年A組教室。
体育祭が終わって間もない事もあってか、大体の生徒が登校中に声を掛けられたらしい。
ひとり、小学生からドンマイコールされた瀬呂は、アルスを以ってしてもちょっと可哀想と感じた。
「アルスくんは声掛けられたん?」
「…おれは飛んで移動するから、声は掛けられなかったよ。……でも、小学生くらいの子達に…手を振られたな」
「ケロ。微笑ましいわ」
「……でも手を振り返したら、悲鳴を上げられたな。嬉しそうにも見えたけど…時間なかったし、さっさと飛んできたから、確認はしてないけど」
和気あいあいと、そんな会話を繰り広げている内に、アルスが相澤が教室に近付いている事を察知し、全員に着席を促した。
相澤がおはよう、の一言と共に教室へ入室する頃には、既に全員席に着いている。
「相澤先生、包帯取れたのね。良かったわ」
「婆さんと竜間の処置が大袈裟なんだよ」
相澤の治療にはアルスも少しだけ携わった。
詞術の四系統の内の一つ、生術は基本的には治療に用いられる。それを高い練度で扱えるアルスは、休日中に一度呼び出されて相澤に生術を掛けたりもしていた。
「んなもんより、今日の“ヒーロー情報学”だが……ちょっと特別だぞ」
特別。その言葉に教室全体に緊張が走る。抜き打ちテストでもあるのかと警戒の念を強めていたが……
「“コードネーム”……ヒーロー名の考案だ」
『胸膨らむやつきたあああああっ!!!』
心配していた事とは正反対の、むしろ誰もが楽しみにしていたであろう行事に、分かりやすく騒ぎ出す。……も、相澤の鋭い眼光で即座に静まり返った。
というのも今回のヒーロー名考案には、プロからのドラフト指名が関係しているという。
本来指名が始まるのは経験を積んだ二年生から三年生辺り。だが今回一年にも使命が入った理由として、将来性を見込んだ上での興味。
ただ、卒業までにその興味が削がれてしまえば一方的にキャンセルされる事もざらにあるとか。
因みに今回入った指名は、大きく分けて四人に偏りが入っている。
上から順に…緑谷出久。竜間アルス。轟焦凍。爆豪勝己。
それ以外にも大小問わず指名が入っている者もいれば、そもそも指名されてすらいない者もいる。
「これを踏まえ……指名の有無関係なく、いわゆる職場体験に行ってもらう。お前達は一足先に経験してしまったが…プロの活動を実際に体験し、より実りのある訓練をする…という事だ」
そのためのヒーロー名。誰もが皆、心を踊らせている中で、ピシャリと教室の扉が開かれた。
「仮のものであったとしても、適当なものを付けちゃったら地獄を見るわよ!!」
現れたのは、18禁ヒーロー・ミッドナイト。相変わらずの際どいコスチュームを身に纏い、楽しそうに語る。
「この時の名が世に認知され、そのままプロのヒーロー名になってる人は多いからね!!」
「ま、そういうこった。それに、将来自分がどうなりたいたいのか。名を付けることでイメージが固まり、そこに近付いていく。“名は体を表す”とは、そういう事だ」
それだけ告げて、相澤はいつもの寝袋に身を包み、後はミッドナイトに引き継いだ。
配られたホワイトボードを受け取り、皆自身のイメージを表す名を考案していく。
「(……“名は体を表す”、か)」
そんな中でアルスは、一際難しそうに顔を顰め、ホワイトボードと睨めっこをしていた。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆
───十五分後。
「……じゃ、そろそろ出来た人から発表してね!」
『(発表形式かよ!?)』
まさかの公開処刑。仮に出来ていたとしても、中々度胸がいる事態に、全員困惑する。
そんな状態でも億さず、青山優雅は壇上に上がり、手にあるボードを掲げ、その名を告げる。
「“輝きヒーロー・I can not stop twinkling”。意味は、『キラキラが止められないよ☆』!」
『(短文!)』
名前というより英語の文章。こんなのがOKされるのかと疑問に思ったのも束の間、ミッドナイトがIを取ってCan'tにした方が呼びやすい、という助言を与えた事からOKらしい。
そんなんでいいのか。
「じゃあ次アタシね! リドリーヒーロー・エイリアンクイーン!!」
「
「ちぇー」
『(バカヤロー!!)』
まさに地獄絵図。
初手で変な名前が出てきたせいで、大喜利みたいな空気となった。まさに地獄。
「ケロッ。じゃあ次、私いいかしら。“梅雨入りヒーロー・
『(梅雨ちゃん!!)』
ここに来て救世主。可愛らしくもヒーローらしいヒーロー名が出てきた事で、流れが変わった。
偶然か必然か、地獄に等しい空気を変えた蛙吹を讃えるように、教室内でフロッピーコールが巻き起こる。
───それから。
流れが変わった事で、次々とヒーロー名が決まっていく。
切島鋭児郎。ヒーロー名“剛健ヒーロー・烈怒頼雄斗”。
耳郎響香。ヒーロー名“ヒアヒーロー・イヤホン=ジャック”。
…………などなど、順調に決まっていく中。
「“爆殺王”」
「そういうのはやめた方が良いわね」
爆豪勝己が、妙に殺気立った名前を出てきて、当然ながらミッドナイトは即却下する。
「……教育委員会に、訴えられそうな名前」
『ブフッ!』
「んだと竜間ァ!! あと笑った奴誰だ!!」
とまあ、そんなやり取りを繰り広げながらも名前は決まり……残るは、再考の爆豪勝己と、まだ決まっていない飯田天哉、緑谷出久、そして竜間アルスの計四名。
「(名前……名前、か……)」
その中でも、一際アルスは悩んでいた。
ヒーローらしい名が思い浮かばないのもある。同時に、自分がヒーローらしい名を名乗っていいのか。それが、一番の悩み所だった。
心の奥底に巣食う、己が本性。
だからこそアルスは、
「(……これしか、ないよな)」
ホワイトボードに六文字書き上げたアルスは教卓の前に立つと、その名前を皆に見える様に発表する。
「……“星馳せアルス”」
同じ容姿。同じ能力。そして……同じ名前。
アルスがよく分かっている事だった。どれだけ中身が別物でも、きっと本質は変わらないのだと。
「竜間くんも名前……でも、その前にある“星馳せ”って?」
「……二つ名、みたいなものです。一応、意味があって……この
「いいわね!!」
星馳せの由来は、星を股に掛ける冒険者であるアルスの事を指していた。
だが、竜間アルスは
───竜間アルス…もとい星馳せアルス。
次回以降、職場体験篇スタートです。