星馳せる英雄は空を翔ける   作:MuliPhein

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第22話。
色々ぶっ込んでいきます。


職場体験へ

 ヒーロー名も付け終わり(爆豪は結局決まらず、保留)その後職場体験の概要を説明された。

 指名があった者はリストから。指名がなかった者はあらかじめ雄英側からオファーした四十件から選び、各自体験に赴く。

 とはいっても体育祭の注目度の関係上、出久、アルス、焦凍、爆豪の四名に指名率が偏ってしまっており、特に出久とアルスは既に四桁に登る。焦凍の方も四桁に届くか届かないかという数字で、爆豪は三桁の指名が来ている。

 そんな中から一件選ぶ訳だが……指名率の高い四名は特に苦戦していた。

 

「えっ、“バトルヒーロー・ガンヘッド”の事務所!? ゴリゴリの武闘派ヒーローの事務所だよね! 麗日さんがそこに!?」

「うん! 指名来てた! 最初は13号先生みたいな活動してる事務所にしようかなって思ってたんやけど……爆豪くんとの試合で思ったんだ。強くなればそんだけ可能性は広がるし、やりたい方向の一点だけ見てても見聞狭まるなって。……まぁ、最終的には救助が主のヒーローになるつもり!」

「成る程…!」

 

 麗日は以前以上に自分の方針を明確に決めている様だ。それを聞いた出久は素直に応援の言葉を贈る。

 一方アルスは、ひとり自分宛てのオファー表に目を通していた。

 

「(“ドラグーンヒーロー・リューキュウ”事務所……姉さんも指名出してたんだ…おれに…しかも一番上……)」

 

 リストの一枚目の一番上。真っ先に竜間龍子(リューキュウ)の事務所の表記があった。

 指名が始まったその瞬間にアルスへと指名を入れたのだろう。抜かりない。

 

「(……姉さんは、取り敢えず第一候補…かな。他は)…………えっ」

 

 リストを捲る内、目に入ったヒーローの名に、アルスは目を見開いて停止した。

 困惑。焦燥。疑問。複数の感情が入り交じり、上手く呼吸できない。

 

「……アルス、どうした?」

 

 アルスの後ろの席に座る常闇が、アルスの様子がおかしい事に気付き声を掛けるも……アルスは反応すら見せない。声が掛かった事にすら気付いていないらしい。

 

「どうして……アンタが、いる……」

 

 震える声で、前述した感情を声に乗せてアルスはその名前をひとり呟く。

 

「……“おぞましきトロア”…!」

 

 星馳せと最も深い因縁を持つ魔剣の死神が、何を思ったか同じ容姿と異能、名を持つアルスへと指名を入れていた。

 

 

 

◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 

 日を重ね、職場体験当日。

 雄英ヒーロー科1年A組は現在、ひとつの駅に各々のコスチュームが収まったアタッシュケースを持ちながら集合していた。

 

「コスチューム持ったな。本来公共の場じゃ着用厳禁の身だからな。落とすなよ」

「はーい!」

「伸ばすな。“はい”だ芦戸」

「先生、竜間はどこですか? まだ来てないみたいですが……」

 

 相澤が持ち物の有無の確認やらを行い、いざ出発……という手前で、尾白がアルスの姿がない事を言及すると、相澤はボサボサの長髪を掻きながら答える。

 

「竜間は先んじて出発済みだ。アイツは体格上、新幹線にゃ乗れん。飛んで日本の最北……北海道まで移動だ」

「うわ、大変そー……」

 

 北海道までとなると、かなり長旅の筈だ。しかも車や新幹線等に頼らず単独で。その事実に耳郎は素直に大変そうだと述べる。

 そんなA組の心配など知ったこっちゃないと言わんばかりに、相澤はさっさと出発する様促し、皆それに従って自身の行先の電車、あるいは新幹線が停まるホームへと足を運んでいく。

 ふと、出久と麗日はひとりさっさと移動しようとする飯田に気付き、声を掛けた。

 

「飯田くん。……本当にどうしようもなくなったら、遠慮なく言ってね。…友達だろ」

「…………ああ」

 

 飯田は笑いながら、短くそう返した。

 その笑みはひどくぎこちなく、また繕っている笑みであると、二人は分かっていた。

 それでも、強く声を掛けられなかった。

 

 出久は、この日の出来事をやがて後悔する事となる。

 

 

 

 

 

 緑谷出久が体験先、グラントリノなるヒーローの事務所へ新幹線で四十五分掛けて赴いた。

 そして戴いた住所に辿り着くとそこは…………あんまりにもボロッボロの建物だった。

 

 さて、出久がこんな場所に赴くきっかけは、ヒーロー名考案の日の放課後、突然オールマイトから追加でもう一件指名が入った事を告げられた所から始まる。

 グラントリノ。そのヒーローはオールマイトが雄英生として学業に励んでいた際、一年のみ雄英に就いてはオールマイトをミッチリ鍛えたのだという。

 オールマイトの先代の盟友であり、個性『OFA』の事も存じているとの事。

 ……しかし、その話をしている間のオールマイトは、普段の彼からは想像できない程ガチ震いし、声にも恐怖の感情が滲み出ていた。

 

 そんなオールマイトの様子に恐れ慄いた出久だが、オールマイトの先生から指名された事もあり、グラントリノの元へ職場体験に来た訳である。

 

「雄英高校から来ましたー…緑谷出久です…よろしくお願いしま…………あ」

「あああっ死んでる!!」

 

 扉を開けるとそこには……赤い液体の中に沈む、小柄な老人の姿があり、出久は思わず絶叫してしまう。

 

「生きとる!!」

「生きてる!!」

 

 しかし件の老人は元気に起き上がり、出久はホッと胸を撫で下ろした。

 なんでも切っていないソーセージにケチャップを掛け、運んでいた所盛大に引っ転んだらしい。

 

「誰だ君は!!」

「雄英から来た緑谷出久です!」

「何て!?」

「緑谷出久です!!」

「誰だ君は!!」

「(や…ヤベェ!!)」

 

 突然漫才でもやらされているのかと思う程の事態。

 グラントリノは彼で間違いないだろうが、認知症でも来てるのだろうか。さすがに聞き間違いが多すぎる上、名前まで間違える始末。相当仕上がっている。

 

「(取り敢えず到着の報告も兼ねて、この人の仕上がりっぷりをオールマイトに報告───)」

「撃ってきなさいよ。ワン・フォー・オール」

「ッ!」

 

 突然の衝撃。上から殺気に程近い敵意が玄関の真上の壁に到達するのを感じ取った出久は、脊髄反射でフルカウルを発動しつつ、右手の中指をデコピンの様に折り曲げ、“ソレ”の到達と共に上方に向けた。

 

「ほほう! 中々いい反応してるじゃないか」

 

 そこに居たのは、先程までしれっと出久のアタッシュケースを弄っていた老人……グラントリノの姿があった。

 

「(何だこの人…気配が急に……!)」

「だが……個性の制御法…あの正義バカのオールマイトが教えた感じじゃねぇな。誰から教わった?」

「え、ええっと……同級生の竜間アルスくんに」

「体育祭二位の奴か! わざわざライバル強くするたあ、思ってたより面白ぇ奴だなあ」

 

 先程までの物忘れが激しい老人のフリをやめたグラントリノからは、歴戦の戦士の雰囲気が漂っていた。

 出久はふと思い返す。どことなく言い回しやトボケ方が、己が師であるオールマイトと共通している事に。

 

「さァて……まずはコスチューム着ろ。どの程度できるか、知っときたいからな」

「ッ…はい、よろしくお願いします!!」

 

 その言葉を皮切りに、緑谷出久の職場体験が本格的にスタートしたのだった。

 

 

 

◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇

 

 

 

 アルスが北海道までに通る道のりとして、早朝に自宅から青森の北海道に向かう船が出る港までノンストップかつ最速で直行。

 港には午後二時程に到着し、近場のコンビニで昼食を買いつつ船に乗って羽休め。

 北海道に到着してからすぐに翼を広げ、再び飛行して移動する。

 その間にもアルスは、今回の職場体験先……おぞましきトロアが何故この世界に存在し、何故自分を指名したのかが分からず、ずっと気掛かりで仕方なかった。

 

「(もしも……もしもトロアがあの世界…“異修羅”内の人物…本人だと仮定した場合……おれを殺す為に指名した可能性も、ある)」

 

 もしそうだとすれば、因果的には仕方ないのかもしれない。

 かつて星馳せアルスはおぞましきトロアを襲撃し、先代トロアを殺害しながら光の魔剣を強奪した。

 しかし、トロアには息子がいた。“聖域のヤコン”という彼はトロアの名と跡を継ぎ、二代目のトロアとして星馳せから光の魔剣を取り返す為にワイテ山脈から出てきた、という経緯がある。

 竜間アルスは星馳せアルスとは別人だが、トロアの方はそれを知る由もない。

 物語と同じ様に、アルスを倒す為に指名した可能性も十分にある。

 

「(用心するに越した事はない……でも、戦いたくはないなあ……)」

 

 そう思いながらも飛び続け、気付けばもう日は沈み始まっており、アルスは一層飛行速度を上げた。

 しばらくして、指定された住所近郊に差し掛かった。

 広大な森の上を、アルスは低速低空で飛行しつつ、住所が記された資料を何度も見返す。

 

「たしか……この辺の筈……」

 

 保護眼鏡を外して周囲を何度も見渡してみるも、夕方で森の中も暗いためよく見えない上、近場にそれらしき建物も見当たらない。

 仕方なく上空から探そうかと考えたアルスは上昇しようと資料を鞄に仕舞い、高く飛び上───

 

“啄み”

 

 ───がろうとした矢先、翼膜に刺突。

 痛みと共に血が吹き出し、咄嗟に上昇を中断する。間違いなく刺突された筈なのに、近くに刃物が転がっておらず、またアルスの翼には何も刺さっていない。

 アルスはこの攻撃を知っている。

 

「(不可視の…遠隔刺突、“啄み”……魔剣“神剣ケテルク”の、奥義……まさか)」

 

 アルスは刺突が飛んできた方向を見る。

 襤褸の様な外套と、ボサボサの長髪に赤く輝く眼光。そして人間(ミニア)とは思えない巨躯。

 背中や、外套の下には無数の魔剣を隠し持つその男は、アルスがよく知る人物の容姿と瓜二つだった。

 

「……“おぞましき…トロア”

 

 その男から発せられる殺気と遜色ない敵意。

 アルスは歩兵銃(マスケット)に弾を装填し、戦闘態勢に移った。

 

「……さあ。どの魔剣が望みだ…星馳せアルス」

 

 目の前の男…おぞましきトロアは、冷たい声でそう問い掛けながら、魔剣の柄に手を掛けた。




次回、『魔剣の死神と鳥竜(ワイバーン)の冒険者』
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