星馳せる英雄は空を翔ける   作:MuliPhein

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第23話。
この組み合わせはねぇだろ、という方は閲覧注意。
それと、戦闘シーン短くてすみません。


魔剣の死神と鳥竜(ワイバーン)の冒険者

「……さあ。どの魔剣が望みだ…星馳せアルス」

 

 突然の襲撃。現れたのはおぞましきトロアその人。

 矢張り、自分狙いで指名したらしい。“星馳せ”ならば指名に乗るだろうと読んだ上か。

 

「……別に要らない。それはアンタのものだろう」

 

 トロアからの問い掛けに、アルスは歩兵銃(マスケット)の銃口を向けながら返答する。

 双方一触即発。互いの動きを読み合っている為に、動かない。

 

「勘違いをするな」

 

 途端、アルスの返答にトロアがそう言い出す。その眼からは更に強い殺気が吹き出した。アルスを以ってしても硬直してしまう程に。

 

「どの魔剣で斬り殺されたいのか……そう聞いている」

「……アンタに恨まれること…した覚えがないんだけれど」

 

 実際問題、初対面だ。

 アルスは小学校高学年になった辺りで本土に引っ越してきたし、それまではリューキュウの出身地…沖縄に住んでいた。北海道に来たのも今日が初めてだし、そもそもトロアの存在も最近知ったばかり。

 恨まれるのは筋違いもいい所だ。

 

「惚けるな。父を殺し、光の魔剣を強奪したのは……体育祭で光の魔剣を扱っていた貴様以外に考えられん!」

「(…………ああ、そういう)」

 

 どうやらアルスの個性で具現化し、取り出した光の魔剣を奪われたものであると勘違いをしている様だ。

 それならば話は早い。勘違いであると説明すれば、さすがのトロアも矛を収めてくれるだろう。

 

「……あの、それは単なる勘違」

 

 言い切る刹那、アルスは頭部を横にずらす。

 不可視の、引き延ばされた刺突が、背後の木に大穴を開けて倒れ落ちる。“啄み”という奥義によるものだ。

 

「御託はいい。光の魔剣を返してもらう」

 

 そう宣言しながらトロアは魔剣を手に駆け出す。

 アルスは苦虫を噛み潰したような表情と共に発砲。非殺傷を目的としたゴム弾がトロアへと殺到するが、ジャラリと鎖が軋む音と共に何かがゴム弾とトロアの間に割り込み、ゴム弾を弾き飛ばす。

 

“ファイマの護槍”

 

 “ファイマの護槍”という。高速で動くものに対して自動追尾して動く魔剣。銃撃に反応され、防がれてしまったが…アルスは既に飛翔している。

 

「……“腐土太陽”

 

 泥の魔具、腐土太陽。多孔質の球体から飛び出した無数の泥の刃が次々とトロアへと殺到する。

 しかし。

 

ネル・ツェウの炎の魔剣“ムスハインの風の魔剣”。……“叢雲”!!」

 

 刹那の間に炎の魔剣と風の魔剣に持ち替え、炎の魔剣から放たれた炎熱の奥義を、風の魔剣の突風で延長。泥の魔具を焼き払ってもなお止まらず、炎の斬撃はアルスの元へ。

 

「ッ…! “凶剣セルフェスク”……“逆羽”!」

 

 高速で飛び上がり炎を避け、アルスは磁力の魔剣“凶剣セルフェスク”を取り出しては、半端でしか再現できていない奥義を放つ。散弾の如く撃ち出された無数の楔は、雨の様にトロアへと降り注ぐ。

 

「何故貴様が“凶剣セルフェスク(それ)”を持っているのかは、後でじっくり聞かせてもらう。……“逆羽”!!」

 

 対してトロアはアルスと同じ“凶剣セルフェスク”を握り…“逆羽”という奥義を放った。

 同じ魔剣、同じ奥義。……だが。

 

「うぐっ…!?」

 

 練度の差は、魔剣士であるトロアの方に軍配が上がる。

 アルスの放った凶剣の楔はトロアの刃に尽く弾かれ、そのままアルスへと到達。全身の至る所にザクリと突き刺さると、磁力の力で魔剣を通してアルスの身体を操り、トロアはアルスを木へと叩き付けた。

 辛うじて重要な臓器、及び血管は避ける事に成功しているが……出血量が多く、このままでは死ぬ。

 

「(……何本か…深いとこに、刺さってる……抜けなくはない……けど…トロアは、それを許しちゃ……くれない……!)」

 

 磁力の力が強すぎて中々身動ぎができない。

 その間にもひた、ひた、と死神の足音が木霊する。このまま何もしなければ、殺されるだけ。

 

「(……使うしか…ないのか…?)」

 

 他の腕と違って、“凶剣”の刃が刺さっていない三本目の腕で鞄の中を漁る。手触りがあったのは、自身の手よりも遥かに小さな“何か”。

 これを不意打ちで使えば、勝機はある。

 ただしそれは、相応の代償を払う必要があり、その末に自分は実質的に死ぬ。

 

「(……いや)」

 

 しかしアルスは“それ”から手を離した。代わりに古びた短剣……“ヒレンジンゲンの光の魔剣”を手に取る。

 

「……まだ、おれは…死ねない……おれの帰りを……待ってる人がいる、から…! “慄き鳥”!」

 

 空中自走の魔剣、“慄き鳥”が鞄に取り付けられた鞘から飛び出し、高速回転と共に飛行。瞬く間にトロアへと向かい、貫かんと突進する。

 

「魔剣使いに」

 

 トロアが“神剣ケテルク”を抜く。不可視の刺突、“啄み”という奥義で“慄き鳥”を直接(・・)刺突する。

 軌道と回転を乱され、“慄き鳥”が自走能力を失い宙を舞う。そしてそれを、トロアが神剣を納刀し、先程まで神剣を掴んでいた手で掴んだ。

 

「魔剣で勝てると思うな」

 

 反撃と言わんばかりにトロアが“慄き鳥”を飛ばそうとする。

 しかし“慄き鳥”はトロアが飛ばす寸前、光の粒子となって消滅した。当然、トロアもまた困惑を隠せず、一瞬硬直する。

 ほんの一瞬。“凶剣セルフェスク”の拘束が緩む。

 その一瞬で事足りる。空中最速の生命体、竜間アルス……もとい、星馳せアルスには。

 

“ヒレンジンゲンの光の魔剣”!!」

 

 全身全霊、身体の全てを高速飛行と攻撃に意識を向け、アルスは今までにない程の速度で飛翔する。

 当然、いきなりそんな速度で突っ込まれてはトロアも反応が遅れ……遂にアルスはトロアの懐に。

 そして光の魔剣がトロアに到達する…………寸前、アルスの身体が力無く墜落し、慣性のまま地面を転がった。

 同時に手にしていた光の魔剣がこぼれ落ち、先の“慄き鳥”同様、光の粒子となって消滅する。

 

 アルスは気絶していた。

 過剰な出血により、アルスの肉体と意識は既に限界に到達していたからだ。

 

「……魔剣が消えた…だと? …………まさか」

 

 トロアが先の魔剣達の様子から何かに気付くと、手にしていた魔剣を───

 

 

 

◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 

 ───ぜんぶ、おれの…宝……アイツの……おぞ■しき■■■の、魔剣……ぜんぶ……ほしいな……………

 

 ───違う。そんなの、いらない。だってあれは彼のものだから。

 

 ───いいや。光の魔剣も。凶剣も。風の、炎の、毒と霜の魔剣も。護槍だって……ぜんぶおれの……宝。

 

 暗い微睡みの中。アルスは誰かからの囁き声を静かに、だが微かな怒りを孕んだ声と共に否定していた。

 ……否。誰かではない。自分…アルス自身の声(・・・・・・・)だ。

 

 分かっていた事だ。例え容姿や能力が同一で、中身が別人であったとしても、自分が“アルス”である限り、常に内側には際限のない欲望が横たわっている。

 リューキュウの……竜間龍子に拾われてから、アルスはその欲望を完全に近い領域で押し込み、封じ続けてきた。

 

 欲望に従ってしまえば、きっと傷付けなくていい人を傷付けてしまうからだ。

 

 だが、アルスにとって全く予想できなかった事態が起こる。

 

 おぞましきトロアとの邂逅だ。

 

 “星馳せ”と最も深い因縁を持ち、なおかつ“星馳せ”はトロアが所有する魔剣の内、ふたつを欲した。

 個性で再現されたものではなく、文字通りの“本物”の魔剣を持つ存在。

 故に、アルスが押さえ込み続けてきた冒険者(簒奪者)の欲望が、少しづつ目を覚ましていく───

 

 

 

 

 

「…………っ、うぅっ」

 

 全身が軋む様に痛い。

 意識の浮上と共に目を覚ましたアルスの視界に映ったのは、全く知らない木造の天井。

 

「気が付いたか」

「ッ!」

 

 アルスは咄嗟に身構える。

 先の戦闘で嫌という程に聞いた低い声。魔剣士、おぞましきトロア。

 しかし今の彼からは敵意の念を感じない。よく見ると、傍らには医療キットが置かれている。困惑する中でアルスは自身の身体に包帯が巻かれている事に気付く。

 

「……すまなかった。俺の勘違いで、仮にも職場体験生であるお前に重症を負わせてしまった」

「…あ……えっ……」

 

 謝られた。当然アルスは驚愕しながら硬直する。

 そんなアルスの様子を気に留めず、トロアは続けた。

 

「……数年前に光の魔剣を奪われ、取り返す事に躍起になった中、体育祭で光の魔剣を使っているお前を見て、お前が犯人だと思ってしまい、気が早まりお前を攻撃してしまった。本当に申し訳ない」

「……いや、気にしないで…下さい。……いきなり斬り掛かられた時は…驚いたけど…」

 

 ……心から謝罪している事を早々に理解したアルスは、もう謝らなくていいと、トロアを説いた。

 そしてアルスは、自身の持つ光の魔剣や“慄き鳥”、“凶剣セルフェスク”を初めとした魔具・魔剣がどういうものなのかや、制約等をトロアへと告げる。

 

「……お前の個性で具現化された魔具や魔剣は、お前以外が使おうとすると消えるのか。理解した」

 

 アルスの個性の概要を知り、トロアは納得する。

 実際、アルスが放った“慄き鳥”を手にした際、魔剣から想念を感じなかったし、すぐに手元から消えた。文字通り再現されているが故の事象の様だ。

 

「……兎に角、俺がした事は立派な傷害だ。訴えても何ら構わない。だからお前は、傷が癒え次第一度…………」

「いや…大丈夫です。勘違いさせる様な事をした、おれにも非があるし……それに…おれがトロアを体験先に選んだのは、理由がある」

「理由?」

「魔剣の奥義を……完成させたい」

 

 アルスは力強い信念がこもった眼差しでトロアを見据えながらそう宣言する。

 

「魔剣の奥義を……だと?」

「……おれの扱う奥義は…もう分かってるかもだけど……だいぶ、中途半端で……だから、奥義の練度を上げて……もっと、強くなりたい。その為に…魔剣の使い手であるトロアを選んだんだ」

「…………そうか」

 

 しばしの沈黙の後、トロアは納得の意を示し……

 

「……分かった。お前を攻撃してしまった詫びとして、俺がお前に魔剣の奥義を叩き込んでやる」

「……よろしく、お願いします」

 

 異修羅本編(ほんらい)なら、絶対に有り得ない組み合わせ。魔剣を取り立てる怪談と、世界最強の冒険者。

 その二人が、仇敵ではなく魔剣の師弟として始まった瞬間であった。




次回、『各々の成長具合と交差する思惑』
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