星馳せる英雄は空を翔ける   作:MuliPhein

27 / 28
第25話。
色々詰め込んだせいで長々しくなりました。


銃と魔剣とヒーロー殺し

 職場体験、三日目の早朝。

 日もまだ登り切っていない中で、おぞましきトロアは背負う無数の魔剣の内のひとつ……“神剣ケテルク”を握る。

 

「(“啄み”)」

 

 心の中で奥義を唱えながら、その技の動作を取る。しかし実際は技が放たれていない。そして流れる様な動作で次の魔剣を取る。

 

「(“烏合”“抱卵”“啼声”───)」

 

 自然な動作で、次から次へと別の魔剣を取り、その魔剣の奥義の動作を繰り返す。その様子はまるで剣舞。魔剣という超常の刀剣の技を極め抜いたが故の動きであった。

 

「───“群羽歌唱”!!」

 

 “音鳴絶”から“凶剣セルフェスク”に。“凶剣セルフェスク”から“ネル・ツェウの炎の魔剣”に。“ネル・ツェウの炎の魔剣”から“神剣ケテルク”に。四本の魔剣を刹那の間に持ち替えた上での四連撃で締め括る。

 

「……トロア」

 

 魔剣を収める中、静かな声が聞こえてきて、トロアは振り返る。三本腕の鳥竜(ワイバーン)、アルスが玄関から顔を覗かせていた。

 

「……朝ごはん、できたよ」

「…わかった」

 

 その言葉と共にトロアは家に入る。

 テーブルの上には卵焼きや焼き鮭、味噌汁と白米。The・和食なメニューが並んでいた。

 二人はいただきます、と手を合わせて箸を取ってから一切言葉を交わさない。三日目にして、この二人はまだ打ち解けきれていなかった。

 

「(……矢張り)」

 

 味噌汁を啜りながら、トロアはひとつ考え事をしていた。それは───

 

「(俺の知る“星馳せ”と違いすぎる。物語の(・・・)“星馳せ”は、もっとこう……)」

 

 トロアの頭にある“星馳せ”は、礼儀正しいとはいえない存在の筈だ。どこまでも貪欲で、多くを欲する底なしと言って遜色ない、冒険者の欲望。

 しかし、目の前の“星馳せ”はどうだろうか。一応ながらも礼儀正しく、底無しの欲望も今の所見受けられない。

 それどころか…………

 

「(料理が…上手すぎる)」

 

 とても鳥竜(ワイバーン)とは思えない程の料理上手。初めて料理をやらせた際は、正直絶句した。あまりにも上手い。そして美味い。正直自分の作る手料理に戻れるだろうか……といった具合だ。

 ……まあ、アルスとて父が作ってくれた料理の味は再現できなかった為、まだ大丈夫な筈。

 

「「…………」」

 

 変わらず、沈黙。

 箸が動く音。食器を取ったり置いたりする音、時に味噌汁や茶を啜る音以外は文字通りの無言。

 

「「…………アルス/トロア」」

 

 不意に、互いが同時に声を掛ける。

 まさか声を掛けるのが被ると思ってなかったのだろう。双方硬直し、再び沈黙する。

 

「……お前から話せ」

「いや……トロアからでいいよ」

「構わない。話せ」

 

 気まずそうに互いに譲り合い……トロアの圧に根負けしつつもしばし悩んだアルスは、遠慮気味に口を開く。

 

「…変な事、聞くんだけどさ……」

 

 ───トロアは…“異修羅”って本……知ってる?

 

「…………は?」

 

 

 

 

 

「……薄々もしかして…って思ってたけど…まさかトロアもおれと同じ(・・・・・・・・・)だったなんて。…まだ、信じられないや」

「同感だ」

 

 朝食の食器類を片付けながら、先程までのお通夜みたいな雰囲気とはうって変わり、アルスとトロアは楽しく談笑し始めた。

 その理由はトロアの正体。なんとトロアもアルス同様、トロア…もといヤコンの外見・能力を持って生まれてきたのだという。

 その事にはアルスの方も薄々気付いていて、今日声を掛けて初めて知ったのだ。

 

「トロアは…前の自分の記憶はあるの…?」

「いや、ない。……自分がこの身体の者とは別の存在だ、という自覚と、“異修羅”の物語の…ほんの一部しか記憶していない。…それ以外は、何も」

「…おれもなんだ。四歳くらいの時は…うっすらと覚えてた。……でも、前の自分の事が……もう思い出せない」

 

 再びお通夜の如く静まり返る。

 二人からすれば特に隠している事柄ではないものの、進んで話す様な内容でもない。この話題を打ち明けたのは、アルスはトロアが初めて。トロアはクウロを含めると、二人目だ。

 

「……正直、少し…安心した。おれみたいな人が…他にもいたんだって」

「俺もそう思う。……終ぞ、父さん…先代のトロアにも打ち明けられなかったからな」

「…………そっか。……まあ、言いにくいよね。この話は」

 

 トロアの言葉に、アルスも同意する。

 実際アルスは、自身の正体を出久達クラスメイトや姉の竜間龍子(リューキュウ)にも教えていない。

 伝えたら間違いなく混乱させてしまうだろうし、要らぬ誤解を生んでしまうかもしれないと思うと、尚更伝える気が引ける。それを踏まえると、この話題は墓まで持っていくのが正解なのかもしれない。

 

「……そう考えると、俺は先入観だけでお前を攻撃してしまった事になるな…」

「……しょうがないよ。おれも、トロアと同じ立場なら…多分攻撃してるだろうし。……痛っ」

 

 腕に巻かれた包帯を抑えたアルスは、目を細める。

 トロアとの戦闘で負った傷は、未だ癒えていない。トロアの手厚い治療と生術を用いてもなお、アルスは本調子ではない。

 先日から始まった奥義の鍛錬も、かなり無茶をした上で行っている。

 

「……今日は奥義の鍛錬は無しにする」

「……でも」

「そもそも、お前がここにいるのは職場体験なのだから、一応ヒーローらしい事もやらねばならないだろう」

「……それもそうだね」

 

 自分の容態を考えると、無理は禁物だ。トロアの意見は当然のものと言える。

 食器の片付けを終えた後、コスチュームに着替えたアルスは、トロアと共に町へと赴いた。

 

 

 

 さて。ふたりが町へとやって来て始めた事。それは……

 

「……何故に、ゴミ拾い…?」

 

 ゴミ袋とトングを手に、町中のゴミを拾って集めていく。なんとも地味な活動だ。

 

「ボランティアでやっているだけだが……不満か」

「……不満じゃないよ。本来…ヒーローは奉仕活動だから」

「その通りだ。(ヴィラン)と戦い、捕縛する。災害時の救助活動も当然大切だが……町の景観をよくする事も、大切な務めだからな」

 

 トロアの大きな背中を追い掛けながら、アルスは目に付くゴミを拾いつつ、彼の挙動を注視する。

 ゴミ拾いを行いながらも、周りの様子を常に気にしている。

 いつ敵が現れてもいいように警戒を怠らないのは、さすがプロと言うべきか。

 

「……そう言えば、トロア」

「なんだ?」

「…この世界の魔剣は…“異修羅”と同じ様に、出元が分かっていないのかな」

 

 魔剣。それは超常の異能を備えた刀剣。

 その魔剣達は、“彼方”から流れくるという説が最有力とされるが、誰が、なんの目的があって作ったのかは定かではない。

 この世界にも詞術同様、魔剣が存在し、おぞましきトロアがそれを回収して回っている。

 

「……いや。この世界の魔剣は皆、列記とした起源がある。……確認するが、聞くか? 聞いて気持ちのいい内容ではないが」

「……興味あるから…お願い」

 

 ゴミ拾いをしながらも、トロアは語る。

 超常黎明期から少し経った頃、とある個性を持った男がいた。

 “触れた者の個性を刀剣として具現化する”個性。

 更にはその男が度が過ぎるほどの刀剣マニアである事もあって、手当り次第に魔剣を生み出し、コレクションしていったという。

 しかしその個性には、致命的な欠点があった。

 それは、魔剣として具現化された個性の持ち主が該当の剣に触れると、持ち主に個性が還るというもの。

 それがあった事もあり、男は中々魔剣の数を増やせなかったそうだ。

 

 …………しかし、もしも個性の持ち主が魔剣に触れる前に死んだ場合、どうなるのだろうか。

 

 当然、永久的に魔剣は遺る。

 それに気付いた男は、個性を魔剣に変えた後に持ち主を殺す事で、着々と魔剣の数を増やした。

 最終的に男は多方面から恨みを買っていた事もあり、魔剣を使う暇すら与えられずに集団からの暴行を受けた末に死亡という、因果応報・自業自得の結果に終わったのだが……彼の死後もなお、魔剣は残り続けた。

 一振りだけでも戦況を左右しかねない魔剣達は日本各地に散らばり、時に(ヴィラン)に。時にヒーローに渡るのを繰り返す中、数十年前にある男がヒーロー・(ヴィラン)問わず、魔剣の所有者から魔剣だけを奪い、姿を消すという通り魔じみた事件が増えていった。

 

「……それが俺の父、初代トロアだ」

 

 ヒーローの身でありながら魔剣を奪う行為を繰り返すトロアの行動に、さすがの公安もまずいと判断した様で、トロアにある役割を与える事にしたという。

 それが、魔剣の管理と収集。

 魔剣を奪われぬ様に管理しつつ、必要と判断すれば魔剣を戦闘に用いる。必要とあらばトロアの行動を隠蔽する事も約束した。

 その結果、おぞましきトロアの活動を世間は知る事はなく、存在の噂から都市伝説に発展したのだ。

 

「……というのが、魔剣と、おぞましきトロアの経緯だ」

「……なんか、おれが思う以上にいわく付きすぎないかな…魔剣…………」

「それは俺も思った」

 

 訳ありどころか、相当ないわく付き。今トロアが持ち歩く無数の魔剣も、元は誰かの個性だったもの。怨念とか溜まってそうで恐ろしい。

 そんな折、アルスの携帯に着信が入った。画面を見ると、リューキュウからだ。

 トロアにも許可を取り、リューキュウからの着信に応答する。

 

「……もしもし」

『あー!! アルスやっと出たー!!』

「…うるさ」

 

 聞こえてきたのは、アルスの先輩に当たる波動ねじれの声。スピーカーにしていないのに、この声量。トロアにも聞こえた様で、驚いたのかギョッとしていた。

 

「……なんで龍子姉さんの携帯で電話してるの…?」

『だってアルスの番号知らないし〜! それよりアルス! どうしてリューキュウ(うち)の事務所に来なかったの!? なんで、どうして!?』

「…………」

 

 この時点でアルスは既にゲンナリとしていた。彼から伝わる想念でトロアの方も大体察したらしく、やや同情的な視線を送っていた。

 

「……おれにだって事情はあるし…今のおれの課題は、姉さんの所じゃ……解決できないから」

『え〜! でもでも、リューキュウなら『ねじれ、変わって頂戴』あ、ちょ』

 

 電話の先からは、アルスにとって最も聞き慣れた姉の声。波動が講義する声をBGMにしながら、リューキュウが通話に移る。

 

『もしもし、アルス? ごめんなさいね、ねじれが勝手に』

「ううん、大丈夫。……でも、もうちょっと手網握ってほしいかな……」

『善処するわ。……職場体験、選んでくれなかったのは残念だけど、そのおぞましきトロア? って方の所で、沢山学んできなさい。その代わり、インターンでも指名するし、その時は必ず受けるのよ?』

「…分かってるよ。元々そのつもりだし」

『そう? それなら全然構わないけれど……兎に角職場体験、頑張ってねアルス。それじゃあ、また機会があったら連絡するわ』

「うん。姉さんも気を付けて」

 

 その言葉を最後に、姉弟は通話を切った。アルスが携帯を仕舞うのと同時に、トロアがやってくる。

 

「最初に出てきた少女は……彼女か?」

「違う」

 

 トロアからの質問に、アルスは間を空ける事すらなく、最速で否定した。

 

 

 

◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 

 夕方、グラントリノ事務所にて。

 

「……すっかり…俺の動きに……慣れやがって。俺の攻撃が、全く当たらねぇぞ…この野郎」

「す、すみません……」

 

 古い床の上に転がるのは、オールマイトの先生であった老人ヒーロー、グラントリノ。

 外傷はほとんどない。というよりも、倒れ伏しているのは体力の限界が原因である。

 対して出久は体力切れを起こすどころか、むしろピンピンしている。グラントリノという機動力において出久を上回る相手を前に、出久は体力にも余裕がある上に無傷。

 

「(アルスつったか? どんな殺気や攻撃をコイツにぶつりゃ、ここまで反応できる様になんだよ)」

 

 テレビ越しでは分かりにくいが…アルスの攻撃の殆どは当たれば死に直結するものが多い。

 出久を殺してしまわぬ様、細心の注意を払っていた訳だが……それでも出久からしてみれば「当たったら死ぬ」と、本能が認識するには十分すぎる。

 

 グラントリノは、それを知る由がない。

 

「……つっても、俺相手での組手続けてっと、変な癖付くかもな。んじゃ、次行くぞ! 職場体験だ!」

 

 その言葉と共に、出久は修繕され所々新しくなったコスチュームを身に纏い、(ヴィラン)退治に赴く事となった。行き先は渋谷。都市部は特に犯罪発生率が高い為、そこで経験を積ませる方針らしい。

 タクシーで駅まで行き、新幹線で移動。到着頃は夜になるが……出久が懸念していたのはそこではない。

 飯田だ。

 新幹線は彼の体験先である保須を横切る。ヒーロー殺しにやられた兄、インゲニウムの仇討ちに動いているのではと、気にならなかった訳ではない。

 心配の念を募らせながら出久達は渋谷へと赴く為、タクシーで駅まで移動し、新幹線へと乗り込んだ。

 

「(飯田くん……)」

 

 新幹線で移動中、先程メッセージアプリで送ったメッセージが、未だ既読にならない。

 いつもなら早い段階で返信してくれるのに、それがないのが出久には不安で仕方なかった。

 

 

 

◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 

 北海道、夕方。

 日も傾き始める中で、二人は相当量のゴミが積まれた荷台を推し進めていた。

 

「結構…集まった」

「そうだな」

 

 アルスもゴミ集め、ゴミ探しがすっかり楽しくなってきた様で、トングとゴミ袋を持ちながら足下を注視し、楽しそうに歩いている。

 時折アルスが見せる幼さに、トロアもすっかりほっこりとしていた。

 

「なあおい、アレ、竜間じゃね!?」

「ウソ! 体育祭の二位の!」

 

 そんな中、幼い少年少女の声が聞こえてくると、六~七人ほどの小学生らしき子供がアルスへと駆け寄ってきた。

 

「わっ、ちょ……」

「ホンモノだあああ!」

「すげー、ほんとに腕三本あるー!」

「銃カッケー! 触ってもいい!?」

「駄目だよ……誤射したら、シャレになんない……!」

 

 足下に子供達が群がられては揉みくちゃにされるアルス。

 その様子を、トロアが楽しそうに見守る中、彼の携帯に着信が入る。それに気付いたトロアは電話に出た。

 

「あ、あの…竜間さん!」

「な、なに…どうしたの…?」

 

 そんな中、群がってくる子供達から一歩引いた所からアルスを見ていたひとりの男の子が、勇気を振り絞って声を掛けてきた。

 その様子に、アルスに飛び付いていた子供達も一斉に停止する中、件の男の子は鞄を漁ると、ひとつのノートとペンを取り出し……

 

「こ、これにサイン……書いて下さい!!」

「……へ…サ、サイン…………!?」

 

 アルスが生まれてからおよそ十六年。

 おそらく最も困惑した瞬間であった。

 

「ぼ、僕……体育祭で竜間さん観た時から、その…ファンなんです! まさかこんな早く会えるなんて思わなくて…!」

 

 嬉しそうに早口で語る男の子に、アルスはひとりの親友の姿を重ねていた。きっと彼ならこうするだろうと思うと、緊張の念も薄れてしまう。

 気を取り直して頬を緩めたアルスは、身を屈めると…差し出されたノートを受け取る。

 

「…どこに、書けばいいかな」

「あ…ノ、ノートの裏面で…!」

「わかった」

 

 男の子からの要望に応え、サラサラと文字を綴っていく。

 “ALUS THE STAR RUNNER”……ノートの裏側には、そう書き上げられていた。

 

「……?」

「“ALUS THE STAR RUNNER”。おれのヒーロー名…“星馳せアルス”を…英語で書くと…こんな名前になるんだ……」

「ッ! カッコイイ…!」

 

 キラキラと目を輝かせ、アルスからのサインを嬉しそうに眺める男の子を、アルスは微笑ましそうに見つめていた。

 

「あ! あと…握手もいいですか!? 三本の腕、全部で!」

「……腕三本は、欲張りだね」

 

 そう言いつつも、アルスは快く了承し男の子と三本の腕を交互に用いて握手を交わした。

 

 

 

 

 

 その頃、緑谷出久は新幹線で携帯のメッセージアプリを注視していた。

 未だ飯田からの返信が来ない為に、心配の念を募らせる中で、突然新幹線が停止する。

 何事かと出久も辺りを見回し始めた途端、車体を何かが突き破ってきた。

 人。身なりからして、ヒーローだろうか。

 突き破ってきたヒーローに追従する様に、誰かが入ってくる。

 

 脳みそを剥き出しにした、青っぽい体色のスレンダーな大男。

 

 その容姿に、出久には心当たりしか無かった。

 

「(脳無!?)…って、うわっ!?」

 

 横から衝撃が走る。見ると、先程まで居たはずのグラントリノが姿を消し、脳無を突き落としていた。

 出久も急いで後を追うが……グラントリノは座って待機してろ、と告げては町中へと消えていった。

 穴が空いた車体から外を見ると、渋谷ではないがどことなく見覚えのある光景。東京、保須市。

 その町からはあちこちから火柱が立ち昇っており、とても普通とは思えない。

 視界に広がる光景を目の当たりにした時、出久は既に駆け出していた。

 

「(飯田くん……無事でいてくれ…!)」

 

 指示通り待機するべきだろう。

 しかし出久にはできなかった。この町にいるであろう友人が、心配でならなかったからだ。

 

 

 

 停車した新幹線から降り、町に出ると……そこには複数の脳無が、それ以上に多いヒーロー達を一方的に蹂躙し、町を破壊している様子が目に入る。

 

「(ッ…あれは…!)」

 

 その戦場で見掛けたのは、“ノーマルヒーロー・マニュアル”。飯田の職場体験先。

 しかし傍らには、飯田の姿が見当たらない。

 おかしな話だ。生真面目な飯田が、こんな災害に等しい事件を前に姿を消すだろうか。

 いや、マニュアルの指示で避難誘導に専念しているのならいい。

 だが、出久の脳内にある情報がパズルの様に当てはまっていく。その末に導き出した推測は……

 

「……まさか!」

 

 気付けば、出久はOFAを機動。路地の中に入り込み、全速力で走り抜けていた。

 確証は無い。だが、最もありうる可能性でもある。

 急がねばならない。急ぎ飯田の元に向かう。到着が遅れれば……

 

「(飯田くんが───ヒーロー殺しに殺される!!)」

 

 

 

 

 

『ッ…すまないトロア…! 連絡が遅れた!』

 

 トロアの応答から間もなく、戒心のクウロは息を切らした様子で、その声には焦りが含んでいる。

 

「息を切らしてどうしたんだ、クウロ」

『俺の想像以上に早かった…トロア、奴はもうすぐそこに───』

 

 ジャラッという鎖が軋む音が鳴る。

 懐に隠していた“ファイマの護槍”が、高速で飛来する何かに反応を示した証拠だった。

 ギャリィ、と金属同士が衝突した事を示す嫌な音が辺りに響いた。

 

「( …どこから……奴はどこから狙ってきている!?)」

 

 “ファイマの護槍”が反応した方を見やるが、その方向を見ても誰も居ない。

 目視すらせず、射線に隠れている筈のトロアを正確に狙う事など、果たして可能だろうか。

 

「トロア…!」

 

 先の金属が擦れ合う音に、アルスも異変を感じた様だ。焦った様子でトロアの方に戻ろうとしたが、トロアは手を出して制止する。

 

『トロア。黒い音色のカヅキは、お前から見て左手側の通りを二つ抜けた先のビルの屋上から撃っている。この際、俺が補佐に回り、指示をする。いいな』

「感謝する、クウロ」

「(クウロ…?)」

 

 携帯と繋げたワイヤレスイヤホンを耳に取り付けたトロアは、アルスから見て右方向に視線を移し、駆け出そうとする中、破砕音が響いた。

 向こうの建物を突き破って現れたのは、黒い体色の脳みそを剥き出した大男。

 

「(脳無…!?)」

 

 保須に続き、この町にも脳無が出現するなど、誰が予想出来ただろう。脳無の存在も確認したトロアは舌打ちをする。この状況、対応せねばならない敵がふたつある。

 

「……アルス…否、星馳せアルス。プロヒーロー“おぞましきトロア”の名において、戦闘を許可する」

「……正気?」

「もしもの事があった場合、俺が全て責任を取る。気にせず戦え。ただし、市民の安全を最優先に考えろ。俺は……黒い音色を押さえてくる」

 

 そう告げてトロアは改めて駆け出す。

 

 北海道と、保須。同じ存在からもたらされる脅威が、ふたつの町を襲っていた。




【あとがき】
おそらく原作より魔剣がおぞましくなりました。
作者も書いてて思いましたが、いわく付きがすぎる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。