せっかくトロア出したんだし、異修羅本編で登場しなかった奥義とか出したいなあ。
歌が聞こえる。
それは、遠く離れた位置で戦局を見据える戒心のクウロには、ハッキリと聞こえる歌であった。
「(“異修羅”通り……戦いながら歌う。本人……とは考えられないが…俺やトロアと同じタイプか、あるいはよく似た別人か。……いや、それは後だ。今、俺がやるべき事はトロアの補佐)」
カヅキが銃の引き金を引いて、銃口から弾丸が吐き出される。銃種から弾の回転・飛距離を読み解き、また彼女の撃ち方から
「トロア。五歩進んだ先のお前の右膝に次の弾が来る」
『分かった』
トロアがいる場所から金属がぶつかる音が聞こえる。しっかり防いだ様だ。
「次。十三歩進んだ先、お前の肝臓に到達するぞ」
クウロとしても戦闘で手助けしたい気持ちは山々だが、自身の戦闘能力では足を引っ張るだけだし、銃火器で応戦しようにも、理外の銃手である黒い音色のカヅキ相手には歯が立たない。
……そもそも、ヒーロー免許を持たぬ自分が出しゃばるのは、筋違いもいい所だが。
ならば今、自分に出来る事は…おぞましきトロアの戦闘を補佐する事。
クウロは全てを見通す。目の前に広がる
「(全部視てやる。俺の“天眼”で…!)」
戒心のクウロ。本名、
個性とは異なる特異体質を持つ男。彼自身が“天眼”と呼ぶ、五感の域を超越し、文字通り全てを見通す超感覚を持つ、世界唯一の
「……戦え…なんて言われても」
一方その頃、ひとり取り残されたアルスはぼやいていた。
戦闘行為の許可を貰ったはいいが、今の自分に、どの程度の事ができるのだろう。
「(……いや)」
自身の後ろにいる、多くの小学生。
大人達は率先して逃げていくが、子供達は目の前の恐怖に足がすくんで動けない様であった。
「(……おれは、ヒーローなんだ)」
アルスは
彼の敵意に反応したのか、脳無の眼球がこちらを向く。子供達の悲鳴が聞こえてくるが、アルスは振り向きながら身を屈むと、先程自分のサインを贈った子に声を掛けた。
「……皆を連れて…逃げられる?」
「…わ、わかんない……」
「……そっか。…分かるよ。怖いよね。……おれも、少し…怖い」
アルスから怖がっている言葉が出てくると思わなかったのか、男の子は分かりやすく硬直する。それでもアルスは強い感情を含んだ眼差しで、言葉を続ける。
「……
「あ……」
「だから…勇気を振り絞って、皆を連れて行ってほしい。体育祭では、全力を出せなかったけど……本気で戦うのなら、皆を巻き込みかねないから……」
衝撃音。何かが地を蹴る音が聞こえてきた。
アルスの背後、黒い脳無が手に持つ異質な細い刺突剣を突き立て───
「……“死者の巨盾”」
───られる事はなく、無敵の防御魔具“死者の巨盾”がそれを妨げていた。
五秒。“死者の巨盾”の効果が途切れるのと全く同時。三本目の腕が握っていた“ヒレンジンゲンの光の魔剣”を横薙ぎに振り抜くも、既に脳無は飛び退いており、空振りに終わる。
「……さぁ、早く」
「……うんっ! 皆、早く逃げよう!!」
男の子は同級生達に声を掛けて発破をかけ、その場から離れていった。
それを確認したアルスは、改めて魔具・魔剣を握り直す。
「っく……」
まだ、身体が痛い。トロアとの戦いで負った傷は、まだ癒えていない。
「(……だから、なんだ)」
アルスは痛みを堪え、
「(……やるんだ…やらなきゃ、駄目だろ……星馳せアルス…!)」
アルスは翼を広げる。
今はひとりのヒーローとして、後ろで逃げ惑う人々を守る為に。
◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
「“凶剣セルフェスク”」
楔の魔剣が飛び交い、有り得ない軌道で飛んでくる銃弾を受け止める。トロアは既に通りをひとつ抜けており、今通っている横道を抜ければ、黒い音色のカヅキがいる場所に出る筈だ。
『トロア。次は十八歩先、右側の肺に来る』
クウロからの指示通り、凶剣で肺を守る様に並べると、その通りに飛来してきた銃弾を弾いた。
「(クウロが居なかった場合……俺は何発まで捌けた)」
正直ゾッとする。黒い音色のカヅキの射撃能力は常軌を逸している。まず狙撃する事自体向かないであろうこの横道。的が大きいとはいえ、遮蔽物の多いそこを走るトロアへと正確無比に銃弾を降らせてくるのだ。
“ファイマの護槍”や“凶剣セルフェスク”など、銃撃に対して有効な魔剣があると言えど、クウロの補佐が無ければそれすら掻い潜って来たかもしれない。
「(まずは上に移動せねば、話にならん)“凶剣セルフェスク”」
ビルの壁に突き刺された無数の楔を足場として展開し、階段の様に駆け上がる。その間、クウロが登る行為の中断を告げないのは、問題ないと“天眼”で見通した為だろう。
「(さすが“天眼”の担い手……俺がどう動くかさえ、読み切っているのか)」
戒心のクウロが持つ、個性とは異なるという異能。
文字通り、全てを見通し全てを知る力。トロアの詳細な位置、最適な動作すら予見し、最善の未来を選ぶ。
これが無かったら、どうなっていたのかさえ、トロアも分からない。
ビルの屋上に差し掛かった頃、歌が聞こえた。
殺伐としたこの状況にそぐわない、楽しそうな歌声だ。
ビルの屋上に立つ。隣の数階分高いビルの屋上には、スカートを翻しながらくるくると踊りながら歌う、銃を手にした女性がいる。
世界逸脱の
「……貴様が、黒い音色か」
「……たーん、たたたっ。焼っけついたー。情っ景……ええ、そうよ。おぞましきトロア」
歌うのを中断し、手にあるライフルの銃口を向けて停止するカヅキ。同時に、トロアはひとつの魔剣の柄を握り、抜剣する。“神剣ケテルク”という。
「あなたの魔剣……全部譲ってくれないかしら」
「断る。貴様にくれてやる魔剣は、一振りたりとも存在しない」
「それは困るわ。依頼人から、貴方が持つ魔剣全部持って来いって言われてるのよ。私だって、仕事をこなさなきゃいけないのに」
「知らん」
その言葉を皮切りに、会話によって成立していた均衡を、トロアが破る。
“啄み”という。“神剣ケテルク”の奥義を黒い音色のカヅキ……の、ライフル銃目掛けて放つ。
不可視の延長された刺突。最長20mに及ぶ刺突が、ライフル銃の銃身を切断する。
「嘘……」
いつの間にか片方のライフルが使い物にならなくなっている事実に、カヅキは素直に驚く。
仕方なく使えなくなった銃を捨て、予備のライフルを取る。その間にも、トロアは魔剣を持ち替えている。
左手には、楔を操る魔剣が。右手には、風を操る魔剣がある。
「“ムスハインの風の魔剣”。“凶剣セルフェスク”。───“逆羽”!」
楔を散弾の様に撃ち出す奥義を、風の魔剣で押し出して延長する。飛来する魔剣を、カヅキは後方に飛び退きビルの奥に引っ込む事で避ける。床に着くのと同時に、トロアがカヅキの立つビルの屋上に到達する。
“凶剣セルフェスク”を足場とし、瞬く間に駆け上がってきたのだ。
「“瞬雨の”───ッ」
銃声。同時に、衝撃。
幻影の魔剣を使用しようとした矢先、銃撃によって魔剣を撃たれた事で、四条に分かれた幻影の刺突の軌道が乱れ、攻撃の全てが外れる。
その間にもカヅキはもう片方のライフルの銃口をトロアの心臓に照準を合わせ、発砲する。しかしそれは、音もなく割り込んだ大鎌によって弾かれる。
“インレーテの安息の鎌”という魔剣。
「……へえ、やるわね」
カヅキからそう言われるが、トロアとしては冷や汗をかく事態だ。
咄嗟に安息の鎌に持ち替えつつ、刃の根元を握る事で最速で差し込んだ。“ファイマの護槍”では間に合わないと判断した為だ。
「(強い)」
トロアとて、楽して制圧できるとは微塵も考えていない。
銃火器の扱いにおいては間違いなく最強格の彼女を相手に、近接から中距離攻撃が主な自分では、少々厳しいだろう。
「(……だから、何だ)」
それでもトロアにも譲れない理由がある。負けられない戦いである事に、変わりはなかった。
「(……可能なら、正史で使っていた魔剣だけで留めたかったが)」
トロアはひとつの魔剣を抜く。
深い青……濃紺色の柳葉刀に酷似した魔剣。そしてトロアは
「(……何をするのか知らないけど)」
その様子を見ていたカヅキは、怪訝そうにしつつも対処可能だと判断する。トロアが三歩前進する。不安定な体勢避けられない。カヅキは引き金を引いた。
「“獲魚”!!」
銃口から飛び出した銃弾が。黒い音色のカヅキの右腕が。不可視の斬撃で切断された。
「……え」
「“凶剣セルフェスク”」
間髪入れず、凶剣が黒い音色のカヅキに殺到する。
左手の手首を主に、服を穿つ楔は瞬く間にカヅキを地面へと縫い付けた。
「何を……したの」
「“ラズコートの罰の魔剣”。認識する限り、敵の攻撃を必ず上回る」
その奥義である“獲魚”
罰の魔剣を握る手にもう一振り魔剣を握る事で、その魔剣にも絶対先制の異能を付与できる奥義。
大きな手を持つ彼だからこそできた荒業に等しい技だ。
「黒い音色のカヅキ。お前は、俺を相手にした時点で負けているんだ。この……おぞましきトロアに」
それはかつての英雄に等しき技量を持ち、それを遥かに上回る膂力を持つ。
それは長き時を掛けてかき集めた、無数の魔剣を所有している。
それは本来の自我すら超えて、全ての魔剣の奥義を操る事ができる。
死してもなお再臨する、災いをもたらす魔の剣を取り立てる死神である。
おぞましきトロア。
【あとがき】
前書きで出したいなとほざいときながら出しました。
罰の魔剣なしだとグダる可能性に気付いてしまったので。マジであの魔剣、トロアみたいに魔剣を使うのが本職な奴が使っても強いですけど、ダカイみたいな視力に全振りした奴と相性よすぎる。
地味だけど強力な異能だよねって話です。魔剣の見た目、性能は光の魔剣の次に好き。