星馳せる英雄は空を翔ける   作:MuliPhein

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第四話です。
何気に1コメもらってて嬉しいです。


最初の苦難 2

「最下位除籍って……入学初日ですよ!? いや、初日じゃなくても、理不尽すぎる!!」

「自然災害、事故、身勝手な(ヴィラン)達……世の中は理不尽にまみれている。そういう理不尽(ピンチ)を、覆していくのがヒーロー」

 

お茶子の講義に対して、こう返した相澤の言葉にアルスは納得し、同時に理解した。

この試練は、全力で乗り越えねば無慈悲にも切り捨てられる。

一拍置いて、相澤は長髪をかき上げながら宣言する。

 

「“Plus ultra(さらに向こうへ)”さ。全力で乗り越えて来い」

 

ここからが本番。アルス含めた大多数が気を引き締める中、ひとり……出久は気が気でなさそうな表情であった。

 

 

 

◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇

 

 

 

第一種目、50m走。

 

『3秒04!』

「(50mだと3速までしか上がらんな……)」

 

現状最速は飯田天哉。

彼の個性、『エンジン』は脛に生えたマフラーを用いて加速する個性。とはいっても彼の個性は最高速度に至るまでは少し時間が掛かる為、最高速度に至らず終了となってしまった。

順番が巡り巡ってアルスと、主席番号順で常闇踏陰の二名。

 

「よろしく」

「こちらこそ」

『位置ニ着イテ、ヨーイ……ドン!』

 

開始の合図。それと全く同時にアルスは翼を広げ、飛翔する。その速度は、常闇が走り出す瞬間には既に置き去りにし、あっという間にゴールしてしまった。

 

『2秒59!』

「速ぇ!!」

「じ、自信あったのにぃ!!」

 

その結果に、大多数が驚愕の声を漏らし飯田に至っては膝から崩れ落ちていた。

 

空中最速の生命体の肩書きは、伊達ではない。

 

 

 

第二種目、握力。

障子目蔵という、複製腕の個性を持つ男子生徒がその複腕を活用し、540kgという好記録を叩き出す。

そんな中、八百万百という少女は個性で万力を創り出して計量していた。

 

「(万力(それ)がいいのなら……)“キヲの手”…………あ」

 

それを見ていたアルスは魔鞭“キヲの手”を握力計に巻き付け、強く締め上げて計ろうとするが……誤って“キヲの手”の異能を作動させてしまい、持ち手を捻じ切ってしまった。

 

「ごめんなさい……」

「いや、増強型の個性持った奴がたまにやらかすから、気にするな」

 

尾と耳が垂れ、わかりやすく落ち込むアルスに、相澤がフォローに入る。この手の損壊は学校で賄えるから大丈夫であると説明し、アルスは気を取り直した。

 

 

 

その後。

立ち幅跳びは、前提としてアルスが超遠距離を飛べることもあって、測定するまでもなく無限。

反復横跳びは体格上苦手のため32回。

長座体前屈も同様だが、蛙吹が舌を伸ばして記録を伸ばした事を参考に、“キヲの手”をピンと伸ばして記録を無理矢理伸ばす。

 

種目は戻ってボール投げ。

爆豪勝己が球威に爆風を乗せることでボールをぶっ飛ばし、八百万に至っては大砲を用いてぶっ飛ばしたが、ただひとり、麗日お茶子の『記録:無限』を除いて、アルスの記録を上回る者はなかった。

そして順番が巡り、緑谷出久の番となる。

 

「出久…大丈夫かな」

 

アルスが心配そうに呟く。

現在に至るまで、出久はどの種目でも好記録を出せていない。平均より少し高めな程度。このままでは……

 

「緑谷ちゃん、除籍になっちゃうわ……」

「マズイぞ、緑谷君……何故個性を使わないんだ?」

 

アルスの心情を代弁するように蛙吹が呟き、飯田も出久の様子に疑問を覚える。

 

「なにか…理由があるのかも。例えば…条件があるとか、反動があるとか……」

「そう言えば……地味目の人、0ポイントぶっ飛ばした後、手足バキバキになってたような…?」

「ぶっ飛ばした? 緑谷は0ポイントを撃破したのか」

「緑谷君は…? 他にも、倒した人がいるのかい?」

 

常闇の呟きに、飯田が問い掛けると蛙吹はいささか自信気に答える。

 

「ええ。私、アルスちゃんに助けられた後、彼が光の剣で真っ二つにしたの」

「なっ!? 竜間君がかい!?」

「俺もアレを倒したと聞き及んでいたが……アルス、光の剣とはなんだ?」

 

常闇は純粋な疑問の念を述べる。

少なくとも常闇は、アルスが魔鞭“キヲの手”を使用している瞬間しか見ていない。故に、“ヒレンジンゲンの光の魔剣”の存在を知らないのだ。

 

「ああ…“ヒレンジンゲンの光の魔剣”のこと…?」

「光の魔剣…だと!? アルスッ、詳細を求むっ…!!」

「うわすごい食い付いてきた…」

『46m』

 

その食い付きに様に、アルスは若干引く中で無慈悲な機械音声が鳴る。

出久がボールを投擲した様だが、その距離は僅か46m。出久の様子もおかしく、何やら困惑しているようであった。

 

「……個性を消した」

 

そんな様子の緑谷に、相澤が面倒くさそうに告げる。

 

「個性を消した!? ……そうか! 個性を消す個性…抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』!」

 

確信を持った出久がその名を呼ぶ。

相澤消太。ヒーロー名、『イレイザーヘッド』。個性:抹消。

視た者の個性を消し、瞬きと共に解除される個性。

その稀少性、及び強力さ故にメディア露出を嫌っており、その名を知る人物は少数。

 

「つくづく、あの入試は合理性に欠くよ。お前みたいな奴も合格できてしまう」

 

忌々し気にそう呟くと共に首に巻いた白い布を巧みに操り、出久を縛り上げる。そのまま出久の元に寄ると、何やら会話をし始める。

 

「(あの布……普通の布じゃない。何かを編み込んでる。その反面、すぐに使いこなせるものじゃないはず。……興味があるな。ちょっと触って使ってみたい……)」

 

そんな中で、アルスは相澤の扱う布の性能を好奇心から考察する。

それはさておき、しばらく話していた相澤の逆立った髪が下がると、白い布を解いて、出久から離れていく。

 

「何やら指導を受けていた様だが……」

「除籍宣告だろ」

 

飯田が、未だ心配そうに呟く中、偶然近くにいた爆豪が、無慈悲にもそう返す。

他の者もそう考えている中、アルスだけは違った。

 

「(出久。きみは……)」

 

アルスは、アルスだけは気付いていた。彼の……出久の目は、まだ諦めていない事に。

出久が振り被る。

そのまま投げても、個性を使っても出久にはいい結果にはなり得ないだろう。

だが……被害を抑えること(・・・・・・・・)はできる。

 

投げ飛ばした直後。

人差し指が離れるまでの、ほんの一瞬。

 

出久は───指先に個性を集中させた。

 

「SMAAAAASHッッッ!!!」

 

指先に集中された個性によって爆発的に増加した力が後押しし、ボールを遥か遠くに押し飛ばす!

その結果は───『705.3m』。

 

「相澤っ、先生……まだ、動けます!」

「(きみは……眩しいな……)」

 

個性使用の反動で、指が折れ赤黒く腫れている。

それでも…涙を浮かべ、痛みで表情が歪みながらも、出久は笑う。さながら、皆の憧れ(オールマイト)の様に。

それにはさすがに、相澤も感心しアルスはその眩しさに、喜びの感情と共に口角を上げる。

 

「(だからこそ……)」

 

突然、爆発音。

見ると、爆豪勝己が、怒りに顔を歪め出久の元に突進していた。

 

「どういう事だコラ、訳言えデクテメェ!!」

「うわああ!!!」

 

出久は絶叫し、逃げようとする中、鞭がしなる音と金属製の何かが飛来する音が響く。

青い光を伴う鞭……“キヲの手”が爆豪の足に巻き付き転倒させると、赤黒い楔状の鋲が、爆豪の周囲を取り巻いては、その鋭い切っ先を向けていた。

 

「(今のきみは、おれが守るよ)……“キヲの手”“凶剣セルフェスク”

 

魔剣、“凶剣セルフェスク”。無数の楔状の鋲と柄で構成された異形の魔剣。

その異能は柄の振りによって磁力じみた力で鋲の刃の配列を操り、剣にも盾にも、飛び道具にもなる魔剣である。

 

「ッ、てんめぇ……」

 

瞬く間に自身を拘束したアルスを忌々しそうに見つめる爆豪だが、アルスは気に留めない。

 

「…出久の状態、分かんないの…? 怪我してる。追い討ちかけるなんて、ヒーローのすることじゃない……」

 

その言葉に、爆豪は言葉を詰まらせる。

当然だ。感情が先走って動き出した訳だが、周りから見ればただの追い打ちに過ぎない。

 

「……その辺にしとけ、竜間」

「……分かりました」

 

そこに、相澤が止めに入る。

素直に受け入れたアルスは魔鞭と魔剣を引き、鞄の中に仕舞う。

捕縛から解放され、自由になった爆豪は出久に襲い掛かる事はなかったが、それでも悔しそうな…あるいは焦燥に近い感情を燻らせていた───

 

 

 

◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆

 

 

 

「んじゃ、パパっと結果発表」

 

最後の持久走を終えて間もなく、相澤はその結果を発表する。

空間に映し出されたスクリーンには、21人分のランキングが表示されていた。

 

結果として、アルスが1位に食い込む。

魔具・魔剣をフル活用しただけでなく、その飛翔速度も組み込んだ事で、最終種目である持久走も二分足らずで完走したのだ。

そして……最下位は、出久。

ボール投げ以外好記録を出せていないのもそうだが、怪我のせいで持久走は特に酷い結果となった。

 

最下位は除籍処分。

 

アルス含めた、出久と親しい面々は覚悟を決める。

 

「因みに、除籍は嘘な」

『……は』

「君達の最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

……が。

相澤は鼻で笑いながら、除籍自体が虚偽であると告げる。

その事に出久達は絶叫するが、ひとり、八百万だけは嘘だと分かっていた様な口振りであった。

 

「(いいや、違う……彼の目は、本気だった。見込みがなければ…最下位じゃなくても(・・・・・・・・・)除籍にする気だったはず……)」

 

アルスだけは相澤の真意を汲み取っていた。

だが、それを誰かに告げることはない。何故ならば、友達の不安が拭えた喜びを、踏み躙る訳にはいかないからだ。

 

 

 

 

 

諸々の説明と書類を受け取り、アルス達は帰路に着く。

とはいってもアルスは飛んで帰るのだが……出久、飯田、麗日、蛙吹、常闇の五人が付属したため、駅まで一緒に帰る事となった。

 

「アルスッ! いい加減、件の光の魔剣とやらの詳細を……!!」

「わかった、わかったから……“ヒレンジンゲンの光の魔剣”

「オォォォォ!!」

 

鞄から取り出した古びた小さな剣。その刀身に、光の刃が形成される。

その様子に、常闇は大興奮だ。

 

「すごい。こんな神々しい剣で、あのギミックを?」

「うん。この剣は、余程特殊な防御方法を取らない限り…どんな物理防御も無視して斬れるから」

「凄まじいな……」

「ただ……この剣は一日二回しか、使えない。使い所はしっかり見極めないといけないのが、ネックかな」

 

アルスが説明したように、“ヒレンジンゲンの光の魔剣”は、その強力性故に、一日に二回しか抜剣できない制約がある。

一度この剣で何かを斬れば、その時点で鞄の中に戻り、一分程は使う事すらできないクールタイムが挟まるのだ。

 

「そう言えば……先程、爆豪君を牽制していたあの鋲…あれはなんだい?」

「“凶剣セルフェスク”。あれも、魔剣だよ」

「きょ、凶剣……だと…!? アルスッ! それはどんな魔剣なのだ!?」

「食い付きすごいな……」

 

さっきから見せる、常闇の異様な食い付きっぷりに引きながらも、アルスは凶剣の詳細を説明する。

 

五人と一羽は、そんな他愛のない会話を楽しそうに広げながら、下校したのだった。




次回、戦闘訓練
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