異修羅要素をちょくちょく入れていきたい。
波乱の個性把握テストを乗り越えた翌日、アルス達は普通に授業を受けていた。
ただ、普通の授業と違う点がある。それは、教師全員が名の知れたプロヒーローである、という点だろうか。
午前は普通の、学生としての授業。
午後はヒーロー科の、ヒーローとしての授業。即ち、ヒーロー基礎学の時間である。
「わーたーしーがー……」
「来っ」
「普通にドアから来た!!」
授業開始早々、騒がしく入室してきたのは、No.1ヒーロー、『オールマイト』だ。
その装いは現在のコスチュームのひとつ前、
画風や雰囲気の違いに、大多数が興奮を抑えきれない様子だ。
「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作るため、様々な訓練を行う科目だ! 早速だが、今日はコレ! 『戦闘訓練』!!」
「戦闘…」
「訓練…!」
授業内容を宣言したオールマイトは、何やらリモコンを操作すると、教室の壁が変形し、数字が描かれたアタッシュケースが現れる。
「そして! 入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿って誂えた……“
『おおおっ!!』
その言葉に皆、大興奮だ。自分の思い描くヒーローの姿になれるのだから、無理もないだろう。
オールマイトが集合場所を伝えると、早速各々の出席番号が書かれたアタッシュケースを取り、更衣室へと向かった。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆
グラウンドβに到着した各自。アルスは出久と共に、少し遅れて到着する。
アルスの装いは、“星馳せ”とほとんど同じだ。
三本腕と胴に皮の防具。腰には個性に使う鞄とマスケット銃を取り付け、左腕の防具には光の魔剣を刺している。
頭部には、同じく皮の防具に加え、ある意味で“星馳せ”を象徴する、保護眼鏡を装着していた。
「あら、アルスちゃん。すごい似合っているわ」
「同意だ。……なんと言うべきか、初めからその姿であった、と言われても納得してしまうほどに馴染んでいる」
「そう…? ……ありがとう。梅雨も踏影も似合ってる」
「ケロケロ」
「感謝する」
各々がお互いのコスチュームの感想を伝え合う中、オールマイトが集合をかける。
「さあ、始めようか有精卵共!! 戦闘訓練のお時間だ!!」
グラウンドβ……入試の際に用いていた演習場のひとつ。
そこで何をするのか、全身アーマー姿の飯田がオールマイトに質問を投げ掛けると、オールマイトは答える。
今回行うのは、屋内での戦闘訓練。真に賢しい
そして、今日の授業はそれを模して、二人一組のヒーローチームと敵チームに分かれ、屋内戦を行うのだという。
環境設定は、核を持って立てこもった
それに則った内容で、ヒーロー側の勝利条件は敵全員の捕縛、あるいは核の回収。対して、敵側の勝利条件は核の死守、及びヒーロー全員の捕縛だ。
───しかし、ここで問題が発生する。
「先生! A組は21人。ひとり余りますが、チーム分けはどうするのでしょうか!?」
「……あっ!!」
「(ん…?)」
その反応からして、どうやら考えていなかったらしい。
A組は21人。人数の関係上ひとり余る。
「そ、そうだなぁ…………よし! ひとつだけ、三人のチームでやろう!」
「(計画性……)」
アルスは少し呆れる。教師になって間もないのも要因のひとつだろうが、もう少し計画を練ってから望んでほしいものだ。
それはさておき、チーム分けはくじ引き。
アルスは、透明人間の少女『葉隠透』と尻尾が生えた少年『尾白猿夫』とペアのIチームとなった。
その次は対戦するチーム決め。
最初の試合は、出久と麗日のAチームがヒーロー。爆豪、飯田のDチームが
◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
第一試合の結果は、なんとも言えないものであった。
おおよその流れを説明すると、開始早々、爆豪が出久狙いで奇襲。その後も執拗に出久を狙い攻撃していく中、麗日は先に核のある部屋に移動。
しかし、飯田の様子の面白さに吹き出してしまい、バレてしまう。
一方その頃その部屋のほぼ真下に逃げていた出久。
追い付いた爆豪が、サポートアイテムの篭手から巨大な爆炎を放ったのだ。
軌道をずらしたのか、それとも間一髪で出久が避けたのか定かではないが出久に大きな怪我こそなかった。
オールマイトが警告してからはそれを撃つことはなく、以降は出久との正面衝突による殴り合い。
一時爆豪が優先に立つ中、出久が個性を伴うアッパーによって、天井……果ては屋上に至るまで粉砕。
その隙を突いて麗日が核を回収する、という形で終了した。
「(出久……)」
今回の試合の講評に移る直前、ロボットが出久を担架に乗せて運ぶ映像が一瞬映る。
アルスは
「さて! 次の対戦は……ヒーローチームがBチーム! 敵チームが、Iチームだ!!」
「(おれ達か……)」
次の対戦カードが発表され、敵側となったアルス達は建物の中に移動する。
「じゃあ……まずは皆ができること、確認しようか」
「分かった。俺の個性は『尻尾』。まあ、見ての通りかな……」
「私は『透明化』! 見ての通り透明人間だよ!」
「……透。まさかとは思うけど…手袋とブーツ以外、何も着てない?」
「そうだよ!」
「…………」
アルスは言葉に詰まった。まさか目の前の少女が堂々と全裸でいるなど、誰が想像できただろう。彼女の場合、透明人間だから許されている訳であって……
「竜間?」
「……ごめん、なんでもない」
「そう言えば、竜間君の個性ってなに? なんか色んな道具出してたよね」
「ああ…おれの個性は、『星馳せ』。鞄から、様々な魔具や魔剣を出せる。一部は、一日で使用できる回数が設けられているけどね」
アルスの個性についての詳細を聞いた二人は素直に驚く。
強力無比な物品を、一部制限こそあれど使用出来るというのは、分かりやすく強い。
だが、尾白は気付く。勿論、ひとつで戦局を変えうる魔具・魔剣を取り出せるだけでも強力だが……
「一番凄いの、竜間だよね……」
「え、どうして?」
「あれだけの数の武器を使うにしても、全部が同じ使い方とは限らない。むしろ、性質や用途が根本的に違う武器だってある訳だし……それを、その武器の専門の人並みかそれ以上の練度で、ほとんど同時に扱える竜間が凄いと、俺は思うな」
「……たしかに!!」
尾白の言葉に、葉隠も納得の意を示す。
異常の適正。尾白も武術を嗜んでいる訳だが、無数の武具を軽々と使いこなすアルスの強さと器用さをひしひしと感じる。
「そうかな……。…ところで、透。何やってるの……?」
「え? ブーツと手袋脱いでんの! 本気でやるよ〜!!」
堂々と言う葉隠だが、堂々と言うことでは無い。
それに頭を抱えたアルスは、視線を逸らしながら会話を続ける。
「……一周回って、手袋はいいけど…ブーツは、履いといた方がいいと思う」
「なんで!?」
「対戦相手……焦凍は、氷結を使ってくる。素足を凍らされたら……身動き出来なくなるし、無理に動けば、足の皮が剥がれる」
「ヒエッ……わ、分かった」
その様子を想像したのだろう。彼女は脱ぎ捨てたブーツを急いで履き始める。
見取り図に目を通していたアルスは、その図面を見て、何かに気付いたらしく、尾白と葉隠に視線を移す。
「作戦が、あるんだけど……いいかな」
その言葉に頷いた二人はアルスが言う、作戦の内容に耳を傾ける。それを聞いた二人は、快く了承した。
『それでは、BチームとIチーム……試合、開始ッ!!』
オールマイトの合図が入ったその直後。ビルは瞬く間に氷の中に閉ざされた。
「なな、仲間を巻き込まず……かか、核兵器にも衝撃を与えず……なおかつ、敵も弱体化……できた筈!!」
「最強じゃねぇか…寒い!! ってか、竜間……
場所は変わり、モニタールーム。
オールマイトが、推薦入学者『轟焦凍』の放った凍結について解説する中。切島が言うように、アルスはその凍結をあっさりと避けていた。
「アア、アルスには…つ、翼がある故……表面を凍らせる程度では…避けるのは…容易い…だろう……寒い」
常闇がそう言う。アルスが
再び場所は変わり、演習場。
敵を
目の前にいたのは、一羽の
保護眼鏡で目元を隠し、その表情は伺えない。
「……避けてたのか」
「……あれで、おれ達を無害化できたと、思わない方がいい。……そろそろ、かな」
「なに?」
『ッ、しまっ……!?』
アルスの呟きを訝しむ中、無線からペアの障子の悲鳴が聞こえてくる。直後、オールマイトから障子が確保されたというアナウンスが入った。
「……開始直後、裏口から二人を逃がした。凍結音で移動音を隠して、焦凍が中に入ってから、目蔵を制圧させたんだ」
「……だったら、なんだ」
「冷たいね……でも」
アルスは左手にある
「あとは……焦凍を倒すだけだ」
「……やってみろ」
アルスの宣言にそう言い返すと、突拍子もなく氷結を放つ。
真っ先に反応したアルスは後退する形で飛び退き、氷結を回避する。同時に、ゴム弾が装填された
音速で飛来する弾丸。しかしそれは、引き金を引くのとほとんど同時に生成した氷壁によって阻まれる。
後退、発砲。後退、発砲。
それを何度か繰り返す中で、狭い通路の中は無数の氷塊で埋め尽くされ、徐々に射線が通らなくなる。
「竜間の奴、逃げてばっかだな」
モニタールーム。切島がアルスの様子にそう呟く。
音が聞こえずとも戦況を分析していた蛙吹が口を開く。
「……もしかしたら、アルスちゃんにとってあの場所は戦いにくいんじゃないかしら」
「どういう事だい、蛙吹くん」
「アルスちゃんは身体が大きいのもそうだけど、翼を広げて通路の幅ギリギリ……最速で空を飛べないから轟ちゃんへの対処が遅れているんだと思うわ」
「おまけにあの限られた空間……魔具や魔剣の使用も制限されていても不思議ではない。“キヲの手”も満足に振るえんだろう」
常闇がそう言う。実際、それは正しい。
“地走り”ならば、氷を対処するのは容易い。その反面、アルスの意思で軌道を操れるが絶対ではなく、地形に沿って炎が広がる特性上、炎が核のある部屋に到達してしまえば、本物と想定した場合誤爆してしまう。
「(ならまずは……
アルスがその手にある魔砲を氷塊へと向けて放つ。
強い衝撃と共に、たった一発で無数の氷塊に風穴を開けてもなお止まらず、最奥の壁を貫いて大穴を作る。
また、着弾の衝撃の影響か、穴を開けるだけに留まっていた氷塊の群れに亀裂が走り、上側が崩れ落ちた。
氷塊が崩れるのと全く同時に、アルスは即座に照準を轟へと合わせて引き金を引いた。
しかし、銃口から吐き出されたゴム弾は、轟に着弾する直前に一瞬で構築された氷壁に阻まれて弾かれる。
超常の異能を持たぬただのゴム弾では、氷壁を貫くことすらできぬというのか。
「(強い。さすが、推薦入学者……)」
推薦で入学したということは、一般枠よりも幾分か優れているという事。アルスとて、楽して勝てるとは微塵も考えていない。
轟焦凍の強さは想定以上であった。個性の攻撃範囲の広さ。氷結の展開速度の速さ。そして、“ヒツェド・イリスの火筒”を自身に向けない事を素早く認識して防御に移る判断力。
個性そのものの練度に加え、戦闘センスが一般の域を既に超えている。
「(おれは、魔具や魔剣の殺傷性が強すぎるから、全力を出せない……でも、焦凍は関係ない……さすがにまずい、かな)」
アルスは焦る。だが、焦りに呑まれてはならない。
打開策になりうる魔具・魔剣を早急にリストアップしていく中、ある事に気付く。
「(風…?)……そうか」
先程、魔砲“ヒツェド・イリスの火筒”で開けた大穴。そこから流れてくる風。少なくとも、衣服や髪を強くなびかせる程度の風だ。
アルスは打開策を即座に組み立てた。
一瞬でいい。轟の気を逸らせれば、逆転できる。
アルスは口を開く。
「【
ただ言葉を紡いだだけだった。
アルスの言葉に応えるように、突然
轟は驚愕と共に反射的に避ける。
それが良くなかった。アルスから……空中最速の存在から、意識を逸らしてしまった。
「もらった」
「ッ…!?」
アルスは全速力で飛翔。
“キヲの手”を取り出して伸ばし、瞬く間に轟を拘束。鞭を引き、彼を自分の元に引き寄せると、三本目の腕にある確保証明テープを、轟の手首に巻き付けた。
『轟少年確保!!
その声と共に、アルスと轟の一騎打ちは終了する。
───勝者。竜間アルス、尾白猿夫、葉隠透。
【詞術】
アルスが用いる言語体系。
詳細は次回より。
【次回予告!】
アルス「え…? なんの時間…?」
常闇「次回予告だぞ、アルス」
アルス「次回予告…?
常闇「メタいぞアルス! ああもう時間が……!」
常闇「次回!【アルス先生の詞術講座】! さらに向こうへ!」
アルス「…?」
常闇「Plus ultraだ、アルス!」
アルス「ああごめん……さらに向こうへ、Plus ultra」