異修羅っぽく、無双シーンちょっとあります。
戦闘訓練の日から数日。
敷地にマスコミが侵入した、というアクシデントこそあれど、それを除けば特に大きな事柄もなく。
「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見る事となった。んで、今日は……災害水害なんでもござれ、
救助活動。
中には、救助活動を専門として構えるヒーローも存在している。
「(救助なら、空を飛べるおれも、まあまあできる……怪我人は…生術が使える程度のものなら……。うん、なんとか…なりそうだ)」
アルスはひとりそう考える。
相澤が各々のコスチュームが入ったアタッシュケースを収めている壁を動かす。曰く、今回の訓練は行動が制限されるコスチュームも含める為、体操着も可なのだという。
そして、訓練所は少し離れている為、
理由は簡単。アルスが大きい為である。アルスひとりが乗車するだけで、大分スペースを取るのだ。故に持ち前の翼を用いてバスと同じ速度で飛行し、並走する。
「っぱ竜間って、空じゃ強ぇのかな」
「ええ。空中では、間違いなく“最強”よ」
バスの隣を飛ぶアルスを窓越しで見ながら呟いた切島の言葉に、蛙吹は真っ先に反応して肯定する。
「ハッ、あんなトカゲ野郎なんざ、俺が秒で叩き落としたるわ」
「いや。おそらく無理だ」
「あァッ!?」
爆豪が鼻で笑いながらそう言うが、真っ先に常闇が否定する。それに食って掛かる爆豪だが、常闇の言葉に蛙吹も反応を示した。
「常闇ちゃんの言う通りね。アルスちゃんが本気なら、とっくにバスを追い越して訓練所に着いてる筈だもの。それだけのスピードを持つ彼に、今の爆豪ちゃんが追い付けるとは、到底思えないわ」
「それに、無数の魔具や魔剣って武器を同時に使いこなせるだけじゃなく、詞術とかいう個性とは違う能力も扱える。……冗談抜きで隙がない」
それに続いて尾白もそう口にする。
それに対してますます不機嫌になる爆豪だが、それを気にせず、今度は飯田が口を開く。
「それに彼には切り札とも言える魔剣があるからね。たしか……“ヒレンジンゲンの光の魔剣”、だったか?」
「ああ。アルス曰く、特殊な防御方法とやらを取らぬ限り、あらゆる物理防御を無視し、如何なるものを斬る事が可能であると言っていたな」
「……なんだと?」
轟がひとり呟く。
彼は察した。察してしまった。
「(竜間の奴……手加減してやがったのか…!?)」
静かに憤慨する轟。
字面だけを見るなら彼も人の事は言えないが、前提として轟とアルスの手加減の由来は根本的に異なる。
アルスは殺さないように。
轟は……
「おい、お前ら。そろそろ着くぞ」
『ハイッ!!』
相澤の叱責に、一同即座に静まり返る。
到着したのは、ひとつの巨大なドーム状の施設だった。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆
そのドームの中には、某テーマパークの様な施設が広がっていた。皆、一様に大興奮である。
「水難事故。土砂災害。火事…etc。あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も……
『
「(その名前は、大丈夫なのかな……)」
ツッコミどころ満載な施設名はさておき、現れたのは宇宙服を模したコスチュームを纏ったヒーロー。
名を『13号』という。
13号は災害救助を専門とするヒーロー。麗日は、13号の大ファンのようで、とても嬉しそうだ。
「(そう言えばひとり……オールマイトの姿が、見えない……)」
「……13号。オールマイトは? ここで待ち合わせてる筈だが」
「先輩。それが……彼、通勤時に
「(制限……?)」
二人の教師がなにやら小声で話しているものの、
話の内容は汲み取れないが、どうやらオールマイトは来ないらしい。
「えー、始める前にお小言を一つ、二つ、三つ、四つ……」
『(増える……)』
「皆さん、ご存知かと思いますが、僕の個性は『ブラックホール』。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その個性で、どんな災害からも人々を救い上げるんですよね!」
13号が自らの個性の概要を告げると、ヒーローオタクの出久が真っ先に反応を示す。
その言葉に同意する13号。しかし、その次に出てきた言葉には強い感情がこもっていた。
「しかし、同時に簡単に人を殺せる力でもあります。皆さんの中にも、そういう個性を持つ人がいるでしょう。超人社会は、個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているように見えます。……ですが、一歩間違えば容易に人を殺めてしまう、『行き過ぎた個性』を、個々が持っている事を、忘れないで下さい」
13号の忠告。
アルスはひどく納得した。自身の個性によって具現化する魔具や魔剣は、対人戦においては過剰な殺傷性を誇る。
“キヲの手”を全力で振るえば、人体を軽々と撫で斬りにできる。
“ヒツェド・イリスの火筒”を人に向けて撃てば、人体の半分を吹っ飛ばせる。
“慄き鳥”を本格的に人へと飛ばせば、人体に大穴を開けられる。
“地走り”を放てば町一つを火の海にできるし、“腐土太陽”を放てば町一つを泥の海に沈められる上に、泥の毒素を浴びれば治療不可の奇形の子供が生まれ続ける。
各種魔弾も、人に向けるものではないし、“凶剣セルフェスク”も魔剣の名に恥じぬ斬れ味と殺傷性を持つ。
“ヒレンジンゲンの光の魔剣”も、抵抗の能わぬ究極の斬撃を誇る。
詞術だって同じだ。出力を間違えれば簡単に人を殺せてしまう。それこそ、治療が主な生術でさえ、使いようによっては殺しにも用いられる。
故にアルスは自身の持つ全ての能力に制限を掛けた。誰かを、過剰に傷付けてしまわぬように。
13号の演説に、皆拍手と称賛を贈り飯田に至っては「ブラボー!」とまで言っていた。
───その演説が終わり、授業が開始される筈だった。誰もが、予測もできない事態が起こる。
相澤がいち早く異変に気付く。一拍遅れてアルスも気付いた。
「ひと塊になって動くな!! 13号、生徒を守れ!!」
「なんだありゃ? また入試ん時みたいに、もう始まってんぞパターンか?」
「…違う。紛うことなき……本物の、
突然現れた、悪意の集合体が押し寄せる。
その中で一際強い悪意を発していた、手だらけの男。酷く乾燥した唇が、開く。
「───平和の象徴を」
殺せ。
◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
「
切島が焦りを顕にしてそう叫ぶ中、アルスは冷静に施設の天井を見上げて状況を観察する。
「…センサー。多分…無効化されてる。準備がいいね。おれでも、そうする……」
「……竜間の言う通りだな。馬鹿だが阿呆じゃねぇ。何らかの目的の元、用意周到に画策された、奇襲だ」
二人の分析はおおよそ正しい。実際、サポートアイテムで連絡を試した上鳴のヘッドホンからはジャミングが掛かり、外部と連絡出来ないのだという。
「先生は!? ひとりで戦うんですか!? イレイザーヘッドの戦闘スタイルは、敵の個性を消してからの捕縛……いくら個性を消すって言っても正面戦闘は───」
「覚えておけ、緑谷。……一芸だけじゃ、ヒーローは務まらん」
そう告げて、13号に避難開始を促しながら相澤は飛び出した。
その様相はまさしく一方的。個性を消して無効化した敵を捕縛布で縛り上げ、分銅鎖のように振り回しては中距離に及ぶ鈍器として扱い、次々と地に伸していた。
どうやら、大多数は雑兵らしい。
「(捕縛した敵を、武器にする……“キヲの手”で、真似できそうだ)」
その様子を観察し、自身なりのやり方で再現できないか思考を回していたアルスだが、飯田に促され、アルスも避難に移る。
───しかし。
「させませんよ」
突然姿を現した、黒いもやに全身を包んだ男が入り口の目の前で立ち塞がる。
「はじめまして。我々は
「平和の象徴、オールマイトに…“息絶えていただきたい”と思っての事で……」
「(…は?)」
「(なにを、言ってるんだ…こいつ……)」
その目的を聞いた出久は呆然とし、アルスは怪訝そうにしつつもいつでも動ける様、魔鞭と
襲撃者達の考えと企み。常人からすれば、何を考えているんだと思わざるを得ないほどに無謀。だが、ここまで大々的に動き出した、という事は……
「(その算段が、あるって事……)」
危険だ。
アルスは咄嗟に
…………しかし。
アルスが引き金を引くより早く、その射線に割り込む影が、二つ。
切島と爆豪だ。
切島は硬化した腕で切り掛かり、爆豪はモヤ男へと爆破をかます。
「その前に、俺達にやられるとは考えてなかったか!?」
「(まずい)」
切島が自信満々に告げるが、アルスの頭は未だに警鐘を鳴らしている。仕方なく
───が。
「……危ない危ない。そう…生徒といえど、優秀な金の卵」
「【アルスより───】」
アルスが至近距離にいる爆豪達を逃がす為、力術の詠唱を始めるが、それよりも速く広がった
「私の役割は───散らして、嬲り……殺す」
詠唱を終える前に、避ける事が出来た面々を除き、アルス含めた何人かはそのモヤに呑み込まれた。
◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
「(……分断、か)」
致し方なく詞術詠唱を中断したアルスは、転移直後に
「ギャアッ!?」
銃身が、ひとりの男…状況から
そこにあったのは炎が広がった町だった。
「火災ゾーン……」
「竜間!?」
「……猿夫。無事…?」
「なんとか……それよりも…!」
アルスがいた場所の近くにいたのは、同級生にして戦闘訓練で同じチームだった、尾白猿夫。
そして、二人の周囲を囲うのは、無数の
「あァ? てめぇ、状況分かってんのか!?」
「……うるさいよ」
そう言ってアルスはひとりの敵から、少し銃口をずらして発砲する。
「ギャバババババ!?!?」
「……“雷轟の魔弾”」
先程装填していた、稲妻を放つ魔弾。
銃口から放たれた稲妻の余波が、敵に対して雷と同等の電流を流し込み、身体中が焼け焦げながら気絶する。
「て、てめ「……悪いけど」ッ!?」
敵達は動きを止める。
一羽の
「おれは今、かなり……苛立ってる。
───後に、尾白猿夫は語る。
あれは、戦闘の体を成していない。
あまりにも、一方的な蹂躙であったと。
「な、舐めんな餓鬼がァ!! ……ギャッ!?」
「“キヲの手”」
魔鞭を払う。鞭に有るまじき挙動で飛来した魔鞭が、男を薙ぎ払って吹き飛ばす。
「“凶剣セルフェスク”」
異形の魔剣の鋲が無数の敵達に飛来し、衣服に突き刺さっては壁や地面に縫い付ける。
「このォ!!」
「【
敵が背後から接近し、アルスに刃物を振り下ろすよりも遥かに速く、形状変形の工術を発動。男の足元の地面が2mほどの石柱として勢いよくせり上がり、上空に打ち上げた。
戦闘時間は、三分。
その間に、アルスは単独で十数人の敵を締め上げ、無力化した。
一応尾白も、何もしていなかった訳でもなく、七人程は単騎撃破に成功している。
文字通り、蹂躙。
これ以上の言葉など、存在しなかった。
【アルスの実力】
中身が違うため、考えや戦い方が違う。
星馳せアルスは殺す前提で。
竜間アルスは無力化を前提で。
その為立ち回りも異なり、竜間アルスは魔具や魔剣の発動を制限している上に、経験不足な点もある故に、彼の実力は星馳せアルスの3分の1程度。
【次回予告!】
尾白「まさか
アルス「心配しなくても、連中は……おれが殺す気で、気絶させるから…」
尾白「ヒエッ……薄々思ってたけど…竜間、怒ってる?」
アルス「怒ってない……」
尾白「え、どう見ても怒って───」
アルス「怒って、ない」
尾白「アッハイ」
尾白「次回、【襲撃者の宴 後篇】。さらに向こうへ!」
アルス「Plus ultra」