アビスシェルダー系超級とアニメ再現系生産型アホ二人。   作:内藤悠月

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奈落の果ての後悔
キメラな<超級>はその日、GQuuuuuuXに出会った。


□<南海>・中央海域 【融帝(キメラ・エンペラー)】ウルティマ・ウェポン

 

 <Infinite Dendrogram>では信じられないことが立て続けに起こる。

 例えば、ジョブ理論の構築に伴って、その流れに乗った先で超級職を手に入れられたこと。

 例えば、彼のような普通の人間がゲーム全体ででも100に満たない<超級>に進化できたこと。

 例えば、村を襲う<UBM>を討伐して世界に唯一つの武具である特典武具を手に入れたこと。

 

 それらはウルティマにとって良い出来事だ。それも、一つ一つ、彼がこの世界で突出するに足る大きな出来事。

 

 だが、禍福は糾える縄の如し。必ずしも良い出来事だけが訪れるわけではない。

 そして今、彼の頭を悩ませ、こんな海原のど真ん中で一人、孤独に浮かんでいる原因こそが、災いに由来している。

 

 だが、彼は<超級(スペリオル)>。多少の脅威は彼自身が保有する力で破壊……粉砕する事ができる。

 特に彼は戦闘系……つまりは、多少の災害はその身で立ち向かい、そして勝利を得られる。特に<Infinite Dendrogram>の世界の人々は常にモンスターの脅威にさらされ、戦い続けることを宿命付けられていた。

 彼の力は、<超級>の力は、それらに手を差し伸べ、余りあるものなのだ。

 

 そして。

 その問題は、本来その力で解決できるはずのものだった。

 彼が持つ力……【層鱗融鎧 ウロボロス】はそれができた。できたはずだった。

 

 彼がその問題を知ったのは、()()()()()()()()()()()だったのだ。

 すべてが手遅れ。

 

 曰く。彼の所属する冒険船団の船団長が、あるモンスターに戦いを挑み戦死した。彼にとって、<Infinite Dendrogram>での生活の中で様々な恩義を受けた人であったのに。

 曰く。船団長の一人娘で、次代の船団長が単独でそのモンスターの仇討ちに出奔し、何度も死にかけた。

 曰く。そのモンスターは単独で世界を滅ぼしうる力を持っていて。

 曰く。彼の所属する国……グランバロア。そこに所属する彼以外の<超級>が総力を上げてそのモンスターを殲滅した。

 

 そして、事実として。

 彼は、その全てに立ち会うことができなかった。

 彼の持つ力の全ては、その困難を打ち砕くためにあったというのに。

 

「ああー……。どうしたらいいんだよ、マジで。リエラ嬢に合わせる顔ないじゃん」

 

 わずか一ヶ月。たった一ヶ月、<Infinite Dendrogram>の世界から離れた。

 船団長には少しの間離れると話していた。快く離れることを了承してくれていた。

 たったそれだけで。

 

 離れた理由が身内の不幸であるとか、仕事が忙しくなったとか、引っ越しをしたとか、そういったものならまだ言い訳もたった。

 <Infinite Dendrogram>は、世界である。だが同時に遊戯(ゲーム)なのだ。

 マスター(プレイヤー)なら様々な理由で長期間離れることも、よくある話だった。

 

 だが、彼は。彼は違った。

 友人に誘われて、モンスターハンターを、それも古い作品を通しでプレイしていただけなのだ。

 そのためだけに結果的に一ヶ月も、世界を離れた。

 

 そして、合わせる顔はなくなった。

 

 

   ◇

 

 

 そんな理由で彼は戦勝ムードに湧くグランバロアから離れ、戦地だった〈南海〉を漂っていた。

 全くの無警戒というわけでもなく、特典武具によって作り出した分体が彼の代わりに索敵をこなしている。ここになにかがないかと、あたりを探っていた。

 

 いつもならばこの分体達を使って純竜級や伝説級の大物を釣り上げていたのだが、今は全く釣れる気配はない。

 

 なぜなら例のモンスターが海域ごと全てを食い尽くしたから。

 なので静かなものである。

 

 なにもない。

 眩いばかりの海の青の中にあって、荒涼とした印象すら受ける。

 忙しない商人たちが航路を構築しようと船を走らせているぐらいで、それも中央海域に近寄るものはない。ただ漠然と開けているだけだから。

 

 そう思っていたのだが。

 

 エンブリオが強化したグランバロア製の音探がその音を捉えた。

 遠くから……水平線の向こう側から、ジェット推進の加速音と、海面を強かに打ち付けて飛び跳ねる巨大ななにかの足音を。

 

 <Infinite Dendrogram>の世界において、ジェット推進という機構は不合理である。

 直ぐに思いつくであろう用途である飛行には、それよりも自由に、高速に空を飛び回る竜種や怪鳥が存在している。

 しかも、それらは空の縄張りを犯すものを許さない。ジェット推進で空を飛んだものは例外なく彼らの餌食となるだろう。

 

 空以外ならばどうだ、というと、これもきびしい。

 ジェット推進には熱と爆音がつきものである。これが、この世界に取っては鬼門なのだ。

 空から、陸から、海から。その音を聞きつけたモンスターたちがわんさか集まって音を立てた愚か者を食らうだろう。

 特に海の魔物《モンスター》は敏感である。もとより音で周囲を把握する種も多い。

 

 故に、グランバロアという海の魔境に立つこの国では、周囲のモンスターを引き寄せ死を招く危険な装置だと認識されているフシもある。

 なので船の側面や背面に、瞬間的な加速を得る目的で搭載されることがある程度だ。あとは使い捨てのミサイルくらいだろうか。

 

 だがそれは、音から察するに明らかに推進機構としてそれを装備していた。

 ジェット推進で自らの身体を前方に押し付け、それを何らかの足で海面を蹴ることによって制御している。

 

 加速力を特性とするエンブリオのマスターがこのあたりに来ているのか?

 環境に対して不合理な特性を持ってしまったら直ぐ他の国に移籍することになる極限環境のグランバロアにおいて、肝の座ったやつもいたもんだな、とウルティマ・ウェポンは思った。

 

 だが、それは違った。

 それは、もっとバカだった。

 

 それは、おおよそ18メテル(メートル)前後の巨躯を持っていた。

 それは、人型の機械であり、そして背部に2つの巨大なジェット推進機を装備していた。

 それは、トリコロールに塗り分けられた兵器であり、赤き角を持っていた。

 

 そして、一言で言い表すなら。

 それは()()()()だった。

 

GQuuuuuuX(ジークアクス)」じゃねえか! どこのバカだ!」

 

 そう。航空宇宙工学的な造形を持つ鋼の巨人がこっちに向かってジェット推進を吹かしながら爆走してきていた。

 まるで水切りのように、水面上を水平に飛ぶその姿は、はっきり言って現実感がない。巨体が水の上を跳ねるのも、その外見で正確に、()()()()走っていることがそれを助長している。

 ゲームの中とはいえ、そこは現実とほぼ同じ体感を持つ<Infinite Dendrogram>。五感が伴うだけでそれは悪夢めいた光景だ。

 

 そしてそれは。

 ウルティマ・ウェポンの姿を見つけたと思われる瞬間。

 首が異様な動き方をして、彼を見つめた。

 

 ぞわ、とウルティマの背筋に冷たいものが走る。

 それは奇人変人の類に目をつけられたときの悪寒だ。その場から早く逃げ去らなければ、面倒事に巻き込まれる。そういった類の悪寒だ。

 

 だが、ウルティマは即応できなかった。

 傷心中だったというのもあるし、なにより頭がまだ切り替わっていなかった。

 シリアスな漫画から突然ギャグ漫画に切り替わって、それがさらに殺意マシマシのホラーに変わったようなものだ。そこまでの切り替えができる人間は……まあ<Infinite Dendrogram>にはそこそこいそうだが、彼はそうでなかった。

 

 結果として、鋼の巨人はウルティマに肉薄し、その手に持ったハンドアックスを振り下ろす。

 それは、ウルティマの全身を覆う、ラバースーツにも似た形状の鎧をあっさりと断ち切……らない。

 金属がぶつかり合う音を立て、振るわれた斧を弾き返したのだ。

 

 この鎧こそが、ウルティマ・ウェポンのエンブリオ。名を【層鱗融鎧 ウロボロス】という。

 タイプ:フュージョンアームズであり、この黒い鎧は彼の身を守る甲殻であり外皮。肉体の一部である。<超級>ともなれば、そのランクに見合った硬度だけで()()()な攻撃は防げてしまう。

 最も、それだけが理由ではないが。

 

「テメエ、いきなり何しやがる!」

 

 ウルティマはそう怒鳴る。<超級>であるがゆえ、出会い頭に試合を挑まれることはよくあることだが、今回はとびきりだ。

 

『<グランバロア()大エンブリオ>個人戦闘型最強! “深海棲艦”ウルティマ・ウェポンだな! 俺と……俺の【ガンダム】と戦え!』

 

 頭天地(死合狂)か。ウルティマ・ウェポンはそう思った。

 

 しかし、<グランバロア()大エンブリオ>個人戦闘型最強。彼にとって虚しい響きだ。

 そもそも彼は個人戦闘型と広域制圧型と広域殲滅型のトリプルハイブリットである。

 

 広域殲滅……つまり、周囲一帯を消し飛ばす戦い方は“人間爆弾”醤油抗菌がいる。海そのものをキルゾーン(爆薬)に変え、敵をまとめて爆破する。とんでもない男だ。

 

 広域制圧、軍団を相手にして敵を生かすも殺すも選ぶことができる戦い方だが、それも“異界戦記”サトミ・ヤマモト、ひいては<GFRS(グランバロア架空戦記協会)>がいる。準超級に比肩しかねない性能の戦艦を多数作り上げ、かつそれを動かすだけの人員がいる。

 広域制圧型は結局のところ、使える配下の数が物を言う戦い方だ。そしてヤマモトはその配下を強化……戦艦の生産に特化した<超級>。

 海を国土とするグランバロアにとってこんな都合の良い人材はあるまい。

 

 他に、<水底の乙女達(ルサールカ)>やエドワーズ夫妻などもいるが……そもそもこいつらは<超級>がタッグを組んで戦う、特定条件に非常に強く出られるタイプだ。比較する土俵に上がってくれない。

 

 そして、残るは“水陸凌妖”ミロスラーヴァだが……、彼女のエンブリオ【戦姿伴航 ヴォジャノーイ】は、どこでも戦えることが売りの巨大ロボットである。特定の強さを誇るタイプではなく、条件の不利な対面が少ない、そういう戦い方をするマスターだ。

 ウルティマ・ウェポンも不利対面は少ない方だが、彼女よりもはるかに()()()である。

 当然、その点においてリソースを集中しているウルティマのほうが強い、と言い切れる。宇宙や深海で殴り合うなら話は別になるだろうが。

 

 結果的に、グランバロア個人戦闘型最強という肩書自体がナンセンスなのだ。比較対象のいない最強になんの価値もない。

 広域殲滅では抗菌に劣り、広域制圧ではヤマモトに劣る。そう言われているのとほとんど等しい。

 

 それに……それに。

 戦うべき時に、その場にいない最強など。

 なんの存在価値もないのだ。

 

 だから、これは八つ当たりである。

 決していきなり試合をふっかけてきたアホに乗ったわけではない。

 

「どこのアホか知らんが死に晒せ。《キメラテック・ルール》【圧縮荷電粒子砲】!」

 

 突如、ウルティマの右腕が変形した。

 黒い鎧が形を変え、竜の頭部を模した機械にへと姿を変える。それは海中に沈んだ古代の遺産の一つを、エンブリオによって蘇らせたモノだ。

 戦うために生み出されたものは、当然ながら戦う相手に合わせた強さを持つ。【圧縮荷電粒子砲】はそのための兵器であり、ある兵器の再現版として作られたものだ。

 竜を模したその機体が戦っていた相手はいかほどのものかはわからないが、その威力と攻撃速度は伝説にうたわれる怪物を焼き払うに十分な性能を有している。

 そして、その口腔からは熱量を伴う光が完全な不意打ちとして放たれ、アホの乗る機体を消し飛ばす、はずだった。

 

 だがそれは、本来反応できないはずのタイミングで放たれたその光線に反応し、避けてみせたのだ。

 

(おいおいおい、嘘だろ!? AGI(速度)型の伝説級UBMでも避けられないタイミングのハズだ!)

 

 音速を超える領域で戦う怪物《UBM》に対処するために覚えた不意打ちの技術。それを、初見で避けられたのはそれだけで脅威だ。

 しかも、弾かれた斧が海中に沈んだと見るや、腰にマウントされていた銃のような武器を抜き放ち、こちらへと照準を合わせている。

 

 それは早業か。いや、違う。

 もっとシンプルな()()()である。

 ウルティマは一般人だ。戦闘訓練を受けたことがあるわけでもなく、グランバロアの海、魔境の中でモンスター相手に戦いながら覚えた技術とスキルには当然穴があった。

 最も、普通ならばその穴がつかれることはない。【超闘士】の直感か、【破壊王】の人間の極限を極めた読みか、あるいは【抜刀神】のようなジャンル(世界)の範疇を超えつつある者か。いずれにしても尋常ならざる感覚で以てのみ抜けるようなものである。

 

 そう、尋常ならざる感覚。

 かの機械は、それによって駆動している。

 

(おいおいおい、もしかしてだが、元ネタ通りとかあるのか!?)

『噂には聞いてたがとんでもねえ動き方しやがるな“深海棲艦”!』

「お前が言うな!」

 

 巨人は背部の大型ジェット推進機でウルティマとすれ違いながら銃を構える。

 その銃は18mの巨人に合わせて作られたもので……当然人に向けていい代物ではない。普通の火薬式の銃でも戦車の主砲並の威力が出るだろう。

 だが、ここは<Infinite Dendrogram>。MPで稼働するものならば魔法を砲として撃ち出す事もできる。

 それを魔力式大砲というが、武器の本体が巨大でかつ一発あたりの消費コストが大きければ大きいほど威力が大きくなる。

 他の原理を使っている可能性もあるが……。概ね変わらない事実として、コストはそのまま力になるのだ。

 

『くらいな! 【プラズマビームライフル】!』

「《竜王気》ィ!」

 

 その宣言とともに、銃口からはプラズマが銃弾として放たれた。

 魔法として整形されている分、現実のプラズマとは性質が異なるが当たればその熱量と電撃によって()()の生き物なら致命傷を負うだろう。

 最も普通ではないウルティマ・ウェポンにとってどれほどのダメージになるかはわからない。

 だが、軽んじていい相手ではない。明らかにその動きは異常だった。ならば使っている武器の危険性も同様。

 下手なマスターの必殺スキル位あるかもしれない、とウルティマ・ウェポンは考えた。

 

 だが、現実は違った。

 放たれた弾はウルティマの纏う《竜王気》によって、あっさり弾かれた。

 思い起こせば、ジェット推進で誤魔化しているが機体自体そんなに速いわけではない。AGI換算で2000~3000といったところか。

 そんな速度で音速に近い変形不意打ちに対処された時点で脅威的なのだが。

 

 ウルティマはなにか白けてしまった。

 脅威度を見誤るとは、モンスターハンターに1ヶ月かまけていてなまったか。

 あるいは、あれがチグハグなのか。

 

 だから一瞬で片付ける札を切る。

 

「《増長する命》、起動」

 

 自らのエンブリオと相性が良すぎるが故に普段は封印している特典武具の装備スキルを解禁する。

 それによって、ウルティマ・ウェポンのEND(頑丈さ)を除く平均ステータスは瞬時に5万を超える。

 ENDに至っては元の数値も含め……25万以上。

 

 極限まで高まったステータスで海面を蹴り、鋼の巨人では対処も反応も許さない速度まで加速する。

 

「《融合体突撃(トランプルキマイラ)》ァ!」

 

 それは、彼の持つ上級職【融獣騎(キメラ・キャバリア)】の奥義。本来人が持ち得ない、改造・増設された部位を力任せに振るうことで攻撃力を5倍化させるスキルだ。

 代償として発生した攻撃力に比例して強烈な反動が使用者の追加部位を襲う。

 合成獣系統に就く者の追加部位はもろくなってしまう傾向にあるため、迂闊に使えば自らの身体を傷つけてしまう諸刃の剣だ。

 【融獣騎(キメラ・キャバリア)】はこれ以外の攻撃スキルを持ち合わせていないので必然的に切り札になる奥義だと言える。

 

 最も、ウルティマ・ウェポンのその追加部位はエンブリオ。それも鎧という頑丈さに長けた代物である。代償はあってないようなものだった。

 

 奥義によって瞬時に出力される攻撃力は100万以上。物理最強と呼ばれるあるマスターであっても必殺スキルを使わなければ届かない攻撃力が、鋼の巨人の胸部を撃ち抜く。

 一瞬その装甲の表面に波打つような衝撃が走り、やがてひび割れ崩れていく。

 

(……うん?)

 

 ウルティマは一瞬、違和感を覚えたが壊せたことには変わりない。

 衝撃で仰向けに倒れ込み……おそらく《水上歩行》のスキルによって海に沈みすらしないその機体のコックピット周りに腰掛けて覗き込む。

 

「さあ、オレの勝ちだ。喧嘩売ってきたんだ、覚悟はしてるよな?」

 

 




合成獣系統について
 なんらかの理由でモンスターの部位を合成されキメラとなった人たちのためのジョブ。
 あくまでモンスターの部位を持った人間のキメラである。
 就職すると種族がキメラに変化し、かつ合成部位との適合を高めて動かしやすくするスキルや追加部位を強化するスキルを獲得する。
 上級職は【融獣騎(キメラ・キャバリア)】、超級職は【融帝(キメラ・エンペラー)】。
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