アビスシェルダー系超級とアニメ再現系生産型アホ二人。   作:内藤悠月

10 / 48
魔剣奥義

 ◇【マクロス・グランバロア】甲板

 

 【マクロス・グランバロア】戦闘班を【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】をけしかけたあと。

 ウルティマは甲板に一人、オフィスチェアのようなものを置いて一人座っていた。

 座っているものの集中力を高めるスキルが付与されたその椅子に、全身の力が抜けた結果、だらけきったような見た目になっている。

 美少女ならまだ可愛く見える姿だったが、実際そこにいるのは全身黒い鎧で覆われた男。

 戦闘状態で頭部もつるりとしたヘルメット状の兜に覆われていて表情すら伺うことができないとあっては恐ろしくも見える。

 

 そして、そのウルティマの身体から鎖のようなものが一本伸びている。

 見る人が見ればその鎖が【紅蓮鎖獄の看守(クリムゾン・デッドキーパー)】であることがわかるだろう。特徴的な造形をした鎖であり、アルターの決闘王者がメイン武装に選んでいるようなものだ。見たことがあるマスターもそこそこいる。

 そして、その鎖の先には……人型の機械が一人、佇んでいた。

 少女のような外観をしていて、ウルティマと同様に黒い鎧をまとっている。

 そのうえで細部に分割が見られ、機械であると一目でわかる造形をしていた。

 そして、その手に携えるは<レイフォートの刹那の魔剣>。

 

「リードに繋がれた犬がソファーから動かない図」

「やめろバカ」

 

 この場合、飼い主は機械人形の方だろう。

 この奇っ怪な状況はなにかというと、ウルティマが<レイフォートの刹那の魔剣>を使うための構えである。

 魔剣を行使するために足りぬ要素を埋め合わせると自然とこうなったのだ。

 このような使用方法をするものは無論、ただの曲芸である。

 

 ◇

 

 <レイフォートの刹那の魔剣>が保有する奥義、"谷渡(たにわたり)"。<時渡りアルマケル>の”鷺烏(とびからす)*1や<須臾なるニキダ>の”看経(かんきん)*2と同じく、人間が極限の精神集中によって実現できる限界行使である。

 その限定効果は現在……すなわち、自らの行いの過程。それを切り捨てることで、斬撃の結果のみを現実に押し付ける。

 

 攻撃の過程が存在しないが故に、必中。

 斬ったという結果のみが現実に浮き上がるが故に、防御不可。

 行動を含め切り捨てるが故に、その射程距離は知覚範囲内全て。

 

 超級の剣士がその研鑽の果てにたどり着く明鏡止水の境地にて振るうか、あるいは魔剣の想念に自らの全てを委ねるか。

 そのどちらかでしか実現できない、超絶奥義である。

 

 本来はウルティマに振るえるようなものではない。だが、【ウロボロス】はそれを踏み倒す。

 【れみな・くらいせら】の《メタリアル・マテリアライザー》にて作り出せる【銀砂之生産(ナノマテリアル・クラフター)】。生産可能なリストの中にあって最も演算力に長けたこの量産型煌玉人の知能を借りることで、極限の集中によってもたらされるモノを模倣して見せる。

 その間、ウルティマは防御行動すら取れない。自身もまた集中状態に入るため、スキルを宣言する余裕はない。

 そこまでやってすら、数分の時間が必要なただの曲芸だ。

 

 ◇

 

 突如、空が切れた。

 感覚の鋭いものならば気がついただろう。その刹那のうちに、幾ばくかの時間が過ぎ去ったと錯覚させるだけのなにかが生じたことを。

 現実の連続性がわずかにずれ、断ち切られたことを。

 

 無論、斬撃の結果だけが生じたために、それ以外の全てはなかったことになった。

 ウルティマが超音速で鎖を射出し、その先にいた機械人形が【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】の内部に侵入。そのコアを鎧から突き出した剣と魔剣の二刀流で両断したことも、攻撃の結果だけ残して消えてしまった。

 

 そしてそれを実現するために【ウロボロス】の持つ演算能力を直列結合した【銀砂之生産(ナノマテリアル・クラフター)】はというと、その頭部から激しい熱を放出して、膝から崩れている。

 オーバーヒートだ。極限の集中でしか見られぬ剣士の極致を演算能力だけで模倣したので当然の結果と言えた。

 

「……何がおきた?」

「わからん、わからねば!」

「どうなった? ……どうなったんだ!?」

 

 当然、ウルティマを護衛する目的で残ったマスターたちは混乱していた。

 ウルティマの鎧の一部が熱暴走で動かなくなったのだから、なにかを使ったことだけはわかる。だが、それがなにかわからない。

 むしろ動作を見ようとして、結果だけが生じたこの状況から類推できるほうがおかしいとすら言える。

 結果だけを見た前衛のほうがまだ状況を理解していた。

 

「んー、終わり終わり。めちゃくちゃ疲れた~」

 

 そんな混乱の中、ウルティマだけは一人背伸びをして体のこりをほぐしていた。

 実際、【銀砂之生産(ナノマテリアル・クラフター)】だけではなく、ウルティマも集中力を過剰に使用する技である。

 それはバスケットボールでスリーポイントシュートを撃つような、現実的な極限集中であり、ハイエンドやら廃人やら天災児やらと違って普通の人間のウルティマにはそれなりの疲労がたまる。

 問題があるとすれば……突然ウルティマが疲れただけに見えるということだけだった。しかもウルティマの体感も似たようなものである。

 

「さっさと石化したアレ回収しに行こうぜ。前衛組も待ってるだろうからさ」

 

 

 □機人(サイボーグ)氏族の島

 

「あー、結論から言おう。<UBM>だ。想定されるスキルからの推定ランク、()()()()()()。戦闘スタイルは条件特化型」

 

 引き上げられた【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】の金属像を前にA*(エースター)はそう告げた。

 船員の一人の鑑定により、やはりあの質量差由来の概念防御をスキルとして保有していない事が判明。

 

「モンスターとしては……そう、トカゲの尻尾だ。仮にも伝説級のモンスターが、と言いたくなるが……、本体から切り離された体組織の一部でしかない」

 

 レジェンダリアで発見された一部のモンスターがたまに保有しているスキルである。体の一部を切り離し、それを独立した分体として戦闘中に敵へけしかけ、自身は逃走するというものであり、その分体もまた別のモンスターとして扱われる。

 イメージしやすいのは【死霊王(キング・オブ・コープス)】の最終奥義、《死が一人を分かつまで(アンティル・デス・ドゥ・ミー・パート)》だろう。あれのモンスター版だ。

 モンスターはそれ用の構造を持っているため、下位のモンスターでもスキルを保有していることがままあった。

 

「あー、自切した尻尾がかじりついてくるあれかぁ……」

「対処してるうちに本体が逃げちゃうんだよね。純竜級にあれやられるとめちゃくちゃ腹立つやつ」

 

 しかもその自切した部位がアイテムをドロップするかはモンスターによるという、大変困った仕様。戦闘型のマスターには持っているモンスターを好きなやつはなかなか居ない。

 

「それを実現しているスキルが《最強の形(アイノカタチ)》というスキルだ。すでにスキルロストした残滓しか残ってなかった。このことから一度しか使えないスキルであると思われる……が」

 

 スキルロスト。装備品や消耗品の単発行使スキルにたまにある、スキル自体のリソースを使い尽くすことでその効果を発揮した結果発生することがある現象だ。

 どちらかといえばスキルが消えてもいいが武器自体は残したい、という時にコストとしてスキル自体を捧げるケースでしか見ない状態である。

 モンスターのスキルとしてそれが発生しているのは……正直異常だった。

 

「すでに2体出てきている【スクラップ】の名を冠したモンスターのスキルが、単発限定というのも考え難い。分体の方にスキルが残っているのも気になる」

 

 どちらにせよ、近海にこの規模の分体を吐き出して潜んでいる<UBM>がいる、ということだ。この<南海>に。【アビスシェルダー】に荒らされ尽くしたというのに、またその規模の<UBM>が現れるとなると……。

 

「質量防御の件だが、固有スキル《悪夢の残骸》によるバフだった。バフを食ってラーニングするエンブリオで確認したから間違いない。これが<UBM>だと断定した理由だ。少なくとも2つの固有スキルをもち、片方は伝説級モンスターを複数体作成、もう片方は竜王級の強さがなければ攻撃すら通らん概念防御だ。推定神話級としたのはこれが理由だ。それにおそらく【スクラップ】……瓦礫なりを取り込む能力も持っているはずだ。そしてそれは、先々期文明の遺跡を取り込んでいる可能性が非常に高い」

 

「あの魔眼か」

「ウルティマが見つけた工場の座標、意味ないってこと? 行きたかったのに」

「逆に考えろ、<UBM>とセットだぞ。それにウルティマもいる」

「山程魔眼くっつけた歩くゴミ山ってこと? やばくね?」

 

 戦艦の主砲クラスの魔眼を量産している遺跡を取り込んでいるとなればその脅威度は当然跳ね上がる。【カンゴルゴーム】や【プリズムオーラ】クラスならまだいい。すでに種が割れている以上、総力戦であれば対処可能ではあった。

 あるいは噂に聞くウルティマの持つ必殺スキル。それを酷使すれば対抗可能な戦力(準超級)を増産できる。

 

 だが【天神の槍】クラスの魔眼が存在していないと言えるのか。極大のステータスを持っていた【アビスシェルダー】すら焼き尽くす火だ。

 グランバロアにはすでにあった。その遺跡にないとは決して言い切れない。

 

「あの【ドラゴン】すらウルティマの攻撃をわずかに軽減してたんだぞ? それの本体となると……倒せるのか……?」

 

 誰かが、そう呟いた。

 ウルティマとて尋常ならざる質量の塊なのだ。それでもわずかに軽減が発生していたということは、本体の場合どれだけ軽減されるかわかったものではない。

 ウルティマ以上の質量を持つとなると、もう【建造王】サトミ・ヤマモトしかいない。だが、そのサトミも最大の戦力をすでに失っている。

 

 最大限に敵の脅威を見積もった場合。

 

 事実上勝てる戦力がグランバロアに存在しない。

 

 【グランバロア号】を持ち出してあるいは、といったところか。それすら魔眼による砲撃もあるので泥沼の抗戦にしかならないだろう。

 

 想定が、重くのしかかった。

 だが、その空気を打破したのはマチュだった。

 

「てめーら! なにくだらねえことで悩んでんだ! やるしかねえんだからやるしかねえだろうが! 頭でこねくり回したことだけで絶望してんじゃねえ!」

「私は真剣に策練ってるだけど!? ひどくない!?」

*1
切っ先が過去に遡る奥義。これにより刃の届く範囲に限って過去をなかった事ができる。ただし、使用者やマスターを含めた何者も改変される前の記憶を持ち越すことはできない。(結果から類推することは可能)

*2
未来の出来事を貫き固定することでそれ以外の可能性を否定する奥義。真に行使可能ならば構えた時点で未来が一択に絞り込まれ、事実上阻止不可能になる。




 奥義の"谷渡"ですが、ここまでやっておいて【救命のブローチ】であっさり防げます。
 攻撃の過程が存在しないせいで事実上無限大の鋭さの攻撃とみなすことができて、結果、ただ相手に【切断】の状態異常を与えるだけの奥義になってしまうんですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。