アビスシェルダー系超級とアニメ再現系生産型アホ二人。 作:内藤悠月
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エンブリオにおける超級進化プロセスには、トリガーと呼ばれる特定の感情閾値を必要とする。
これはエンブリオが人間の感情エネルギーを蓄積し成長していることを理由としていること、そしてそのあり方自体がマスターの精神の写し身であることに由来している。
つまりはマスターがある意味で成長を遂げなければ超級に至ることはない。
変化とは成長だ。
人生観が変わるような出来事は常にトリガーを引くとは限らない。だが、マスターの精神に近しいことを呼び起こす。
必然、それはマスターのパーソナリティを参照して自らの形を決定するエンブリオにとって、劇薬のようなもの。
もっとも、特に
傲慢。増長。後悔。歓喜。証明。極大なるその魂。
エンブリオが段階を重ねるそのうちに、トリガーをすでに引いている。
なんであれ、その過程には「自分が何者か」という問いが常に隠れており、どこかでそれに一度は向き合っている。
それに答えるか、目をそらすか。どちらにしろ、それが強固であるがゆえにトリガーは引かれる。
ウルティマの、【ウロボロス】のトリガーは「自分だけの感情に向き合い、それで己を満たすこと」。
自らの力を切り分け、他人に与えることを良しとする。
そのどちらもが、ウルティマの本質。
願われればそれを叶えようとする、無垢の英雄である。
だからこそ、【層鱗融鎧 ウロボロス】のトリガーは、自身の願いに向き合うこととなった。
それこそウルティマが100の舞台へあがるのに必要なことだったから。
翻って。
あの南海での決戦。
ウルティマには舞台へ上がる資格はあったのか。
最強は理由にならない。
無敵は理由にならない。
力の形が似ていることは、理由にならない。
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【破壊王】ですら、おそらくははじめは舞台へ上がる資格がなかった。
管理AIによって海域に直接誘い込まれたことは舞台に上がる理由にはなり得なかった。
リエラと契約した瞬間。
【破壊王】はその資格を得たのだ。
手付の駄賃が古代伝説級UBMとは、随分なチケット代だが。
□<南海>・
甲板の展開と艦橋機能の復旧によりその形状を大きく変化させた
そこにウルティマの姿はあった。
超級エンブリオに進化してから、初めての敗走。
過去、上級だった頃には幾度かあったことだが、超級になってからは初めてのことだ。
代わりにいくらか置き土産を置いてきて、【スクラップ・アビス】のその進行を封じ込めてこそしているが。
そして、【スクラップ・アビス】と戦って理解した。
卑下た、ひどく自己本位な感情に。
ウルティマは【アビスシェルダー】に隔意を持っていない。
思うところ自体はあるのだ。
能力になぞらえていなかったことを擦ってくる輩はいる。
戦いの場にいればどれだけ被害者を減らせたことか。
結局、その残党が生きていたところで、ウルティマにとってなんの意味も持たないということ。
ウルティマの受け取る
仮にあの戦いの場にいたとして、自分に何が出来たのか。
あの戦いの後、リエラ嬢は大きく変わった。
次期船団長に相応しい責任感を伴った大器に。
宿敵の特典武具まで携えて。
それは、あの場所にいて自分にできたのか?
自分を除く、7人の超級。それらを束ね、【アビスシェルダー】との戦いに挑む。
それに必要な布石を自分に打てたのか?
きっと出来ない。
いろんなものを燃やし尽くしながら、単独で撃滅するのがせいぜい。
自らを無敵と思うのならば、庇護者を気取るのも容易いことだっただろう。
そしてそれは、とても愚かなことである。
とどのつまり、悔しかったのだ。
なんの力にもなれなかった自分が。
いてもいなくても同じだったと言えてしまう、自分が。
きっと、いたところで全てを蹂躙することしか出来ない自分が。
「……はっ」
そんな自分を、鼻で笑う。
敗走するのも必然だ。敵に向かい合っていない。
【冬竜王】との戦いの時のような燃え上がるような闘争の感情もない。
【レミナ・クライセラ】の時のような、後背を守り通す覚悟もない。
そのようなものに、舞台に上がる資格はない。
間に合うとか、間に合わないとか、そんなことは関係がないのだ。
向き合わないものには、舞台に上がる資格はない。
「おい、ウルティマ! 大丈夫か?」
慌てて駆け寄ってきたのか、声を掛けてきたのはマチュだった。
現在【マクロス・グランバロア】勢は総力を上げて掃海中である。
【盤上生存圏アリステア】の進路上には純竜級が山程出てくる危険地帯が広がっている。この危険を排除しなければ【スクラップ・アビス】の接近から逃げる事もできないかったためだ。
そして島に残った組は接近するモンスターの排除を担当している。
マチュもその一人だ。ジークアクスに乗ればその戦力は伝説級から古代伝説級クラス。並の純竜級なら相手にならない。
そして、そんなところにUBMを倒したわけでもないウルティマが帰ってきたわけで、心配にもなる。
超級戦力の単独投入により、討伐できるはずの算段でもあった。それが可能な能力を持つ超級でもあった。
「……なんだ? ウルティマ、笑ってるのか?」
「……ん? オレは笑ってるのか? はは、そうだな……ひどく、
なにに囚われていたのか。
それは、囚われるべきものなのか。
肩の荷が降りた気分だった。
「なあ、マチュ。多分、これは勝負なんだ」
「妙なこと言い出したな。頭打ったか?」
「そういうざっくばらんなところ、助かる。マチュ、勝負に出るのに何が必要だと思う?」
ひどくおざなりな、何を言っているのかわからない言葉。
「は? 決まりきってることを。
それは、リエラが【アビスシェルダー】へ挑むために投じたもの。
舞台に上がる資格のないものが、舞台に上がる唯一の方法。
投じたからこそ【破壊王】という奇貨を得た。
そして、無敵の英雄となったウルティマが忘れたもの。
彼が得るべき勝利は、敵の打倒ではなく――。