アビスシェルダー系超級とアニメ再現系生産型アホ二人。   作:内藤悠月

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【廃害真呪 スクラップ・アビス】の来歴について

 ■

 

 それの始まりは、自我が強いだけのただの【ミミック・オクトパス】だった。

 

 同種よりもはっきりとした自己と認識とを持っていた、ただそれだけのタコである。

 その個我は管理者に目をつけられれば、<UBM>へと作り変われるだけの異常ではあった。

 だが、自己認識が強いだけの、同種に比べれば小賢しいだけの、擬態能力を持っているだけのタコである。

 

 海底を這い回るだけのモンスターとしては、やや強い程度。

 純竜級ひしめく魔境の海を生き残るには、あまりにも弱すぎる。

 

 そしてそれは結果として、海底で無為のまま生きていた果てに食われた。

 

 貪食の怪物に、真珠の塊に変えられ、食い殺された。

 

 ■

 

 それが意識を取り戻したのは、捕食されてすぐのことだった。

 怪物が身に秘めた無数の価値(リソース)の中、漠然とした情報の海の中に、自身の自我がぽつんと浮かんでいることを発見したのだった。

 

 【アビスシェルダー】と銘打たれたその怪物の中に自身を見つけ出した“それ”は、そうなってしまった状態について考えはじめる。

 肉体という枷から解き放たれたからか、その怪物が蓄えた知性の中にあるからか、いくぶんかその知能は鮮明だった。

 そしてその思考はあることに気がつく。自身がすでに詰んでいるということに。

 

 怪物の内側にあるとはいえ、怪物の思考に介入したり、身体を乗っ取ったりできるわけではない。

 ただ自我だけが残っている。

 消化されて消えていないのはたまたまだ。

 あるいは、強い自我が“特徴”として獲得されたか。どちらにしても、なんの意味もない。

 考える以外何もできないのだから。

 

 怪物は時折、知性のある生き物を食べる。

 そのたび、それはそこから知識を読み取って学習する。

 そして、落胆する。何もできない己に。

 

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 転機が訪れたのは、その怪物が金属スライム種の鉱床を発見したときだった。

 怪物がスライムを真珠に変え、喰らう。能力を獲得する。

 その殻は金属の流体を帯び、無敵の守りを手に入れる。

 

 そして、《分体生成》を手に入れた。

 自らの身体を切り分け、自らの仔を作り出すスライムの生殖能力。

 怪物は殖えることを覚えてしまった。

 その上、自らに不要な力を、捨てる手段を身に着けてしまった。

 

 そう。

 自らの内側にたゆたう、正体不明の自我など不要なものの中でも最上級のものである。

 

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 二度目の生は、【アビスシェルダー】の分体として、不要なものとして切り捨てられた【アビス・スクラップ・オクトパス】としてだった。

 

 膨れ上がる黄金の【増大魔金 フルゴルド】から獲得した《悪夢の残骸》。自身の総質量と価値(リソース)に比例した干渉無効化能力。

 その変態能力を一度だけに限定することで、どのような姿にでもなれる【終死負 ミミックエンド】から獲得した《最強の形(アイノカタチ)》。変形することでそのステータスとスキルを写し取る最強の擬態能力。

 海底にいた亜竜級ウミウシから手に入れた《自切分体》。自分の体を切り離して使い捨ての囮にするスキル。

 

 いずれも、【アビスシェルダー】にとって不要とされたスキル。

 《悪夢の残骸》は重篤なデッドウエイトを背負わなければ大した防御力にならず、《最強の形(アイノカタチ)》はせっかく獲得したステータスを上書きして自分よりも弱い姿にしかなれない。

 《自切分体》に至っては《分体生成》の下位互換だ。部位獲得によってスキルを得る【アビスシェルダー】にとって、部位を切り離して分体を作るこのスキルは有効な能力ではない。

 

 これらを【スクラップ・パグルス】と【ミミック・オクトパス】をかけ合わせた肉体に組み込んで生み出したのが【アビス・スクラップ・オクトパス】だった。

 殻を持つタコ。そしてもともとの種族特徴としてその殻には瓦礫がくっつくようになっている。

 ある意味で【アビスシェルダー】の似姿だった。

 

 その役割は、墓兼食料庫だ。

 

 本来スライムが使用する《分体生成》は、スライムの肉体構造を前提としている。つまり全ての部位が等価であり、分割されようとその能力が変わらないという前提のもとに構築されているスキルである。

 それを構造を持つ肉体で使用するとどうなるか。

 

 当然ながら、自分の持つ部位を切り分けることになる。【アビスシェルダー】にとって獲得した肉体部位を捨てることができる利点として使われるが、問題は切り捨てられる側。

 必ずしも生存の必要な部位が揃っているとは限らない。

 

 必然、生まれた瞬間に死ぬこととなる。

 そういった忌み子もまた、【アビスシェルダー】にとっては食料だ。無駄にしていいわけではない。

 それらを、《真珠化》して【アビス・スクラップ・オクトパス】にくくりつける。

 

 結果、自身と一緒に歩き回れる食料庫の出来上がりだ。

 《悪夢の残骸》の力により、並のモンスターではその食料を奪うことはできない。

 もし奪えるほどの力があるなら、《自切分体》で囮を作り、逃げ出せる。

 そして、囮が死ねば《最強の形(アイノカタチ)》で相手よりも強い形を得て、殺す。

 その後、変形したその姿を【アビスシェルダー】が食らってその力を奪い取る。

 

 【アビス・スクラップ・オクトパス】を殺しうるモンスターは他の分体が先に殺して食らっていたので《最強の形(アイノカタチ)》を使うことこそなかったが……。

 

 それは、そのような生き物に成り果ててしまった。

 【アビスシェルダー】に付き従うだけの、生き物に。

 

 ■

 

 【アビス・スクラップ・オクトパス】になってから長いようで短い時間が過ぎた。

 多少のリソースを得て、殻に付属した素材や亡骸のスキルをそれなりに使えるようになった。

 <海底掘削城>を見つけ、そこで兵器の<UBM>を食らったことで味をしめた【アビスシェルダー】から、似たようなスクラップをあさって集めるように命じられて海底をさすらうようになった。

 山のように屍が積み重なり、重量比較の鎧はより無敵に近づいた。

 

 だが、何も変わらない。

 【アビスシェルダー】からの強固な命令から逃れるすべはない。

 生まれに紐づいているせいで、《悪夢の残骸》での干渉無効化の影響を受けることもない。

 

 考える自我があるだけ、地獄だった。

 命じられたまま、命じられた役割を、自分の意志にかかわらずこなすだけ。

 自分の体を得たのに、それは他人の道具。

 

 怪物の身のうちにあったころと何が違うのか。

 

 だから。

 三度目の生は、それがその魔剣と出会ったその時だった。

 

 ■

 

 その魔剣が、いつからそこにあったのかはわからない。

 <南海>の忘れられた海溝の中、堆積したガラクタの中に一本だけ紛れていた。

 

 <離縁鋏シャツリ>。2メテルほどの巨大なハサミである。

 その能力は「つながりを断つ」。捉えられるならばあらゆる繋がりを断ち切り、切り離す事ができる。

 

 周囲の瓦礫にはひどくサビや汚れが堆積しているにもかかわらず、その魔剣には一切の汚れがなかった。

 まるでその時はじめて置かれたかのように。

 

 そしてそれを【アビス・スクラップ・オクトパス】が見た時、本能的に罠だと感じ取った。

 どこから見ているかわからない何者かが、なにかを操ろうとしている。

 そのために投入された、なにか。

 

 【アビスシェルダー】の記憶から、似たようなものを知っている。

 それは■■■■■。【アビスシェルダー】が<UBM>にへと作り変えられた直接的な原因となったもの。

 

 世界遊戯(グレート・ゲーム)の指し手が、盤面を動かす手段。

 

 だが……いや、だからこそ、か。

 もはや生きていることにすら嫌気が指していた【アビス・スクラップ・オクトパス】は無遠慮に<離縁鋏シャツリ>を飲み込んだ。

 どんなものであろうと、これで【アビスシェルダー】が散々な目に合うならいい気味だ、と。

 

 瞬間。

 頭の中で響き渡っていた【アビスシェルダー】の命令が、パタリと消え去った。

 自身を縛る呪い(しはい)がバラバラになったのを感じた。

 

 そしてそれは理解した。

 

 ()()()()()()()()()()と。

 

 おぼろげに感じる、魔剣の先につながるナニカ。

 それが、【アビス・スクラップ・オクトパス】が地獄から抜け出すためにこの魔剣を遣わせたのだと。

 

 ああ! これが自由! 誰にも命じられない静寂!

 

 かつてないほどの歓喜に【アビス・スクラップ・オクトパス】は身を震わせる。

 

 そして、それは思考を巡らせる。

 ()()()()()()()か?

 

 それはわからない。

 だが、わからないなりにできることはある。

 

 ()()()()()()

 

 ■

 

 その後はというと。

 【アビス・スクラップ・オクトパス】は【アビスシェルダー】に付き従うフリを続けた。

 現状、この海で最も安全な場所は【アビスシェルダー】の直ぐ側であったし、事実として自身を守る鎧を増強するには【アビスシェルダー】の失敗分体を積み重ねるのが最も手っ取り早い手段だったからだ。

 

 その過程で、<海底掘削城>を見つけ出し、自身の鎧の内側に組み込みもした。

 

 しかし、それは長くは続かなかった。

 ついに【アビスシェルダー】は<マスター>に手を出した。

 

 【アビス・スクラップ・オクトパス】は知っている。<マスター>という生き物は非常に執念深いということを。

 殺しても3日で蘇り、こちらを殺しにやってくるのだと。

 無敵でも手を出してはいけない獲物というものはいる。

 

 【アビスシェルダー】が巨大な浮島のエンブリオに食らいついたとき、【アビス・スクラップ・オクトパス】はこっそりと【アビスシェルダー】から離れた。

 その直後、超高温のプラズマ弾が【アビスシェルダー】に炸裂したのでそれで正解だったのだろう。

 

 その後の顛末は語るまでもない。

 【アビスシェルダー】の分体達は各個撃破され、【アビスシェルダー】は一度は完全に防いだはずのプラズマ弾によって完全に焼却された。

 

 そして、その終わりを見届けて。

 【アビスシェルダー】への侮蔑の笑みを隠さずに、【アビス・スクラップ・オクトパス】はそれを宣言する。

 《最強の形(アイノカタチ)》、と。

 

 自らを殺したものの姿を写し取る、最強の変身能力。切り離された分体とはいえ、己の一部なのは変わらない。それの元が本体であっても。

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 亜竜級程度しかないステータスは瞬時に跳ね上がり、神話級に等しい戦艦へと形を変える。

 山脈のごとし殻の中に収まっているがために、その変化は外部から見届けることはできない。

 

 そして。その変異とともに。

 それを見届けたものがいた。

 

『……ふむ。まさか【アビスシェルダー】の分体に生き残りがいるとは。あれの分体はそういうものではなかったはずだが』

 

『才能は【アビスシェルダー】には遠く及ばない。だが……そうかこれは。【ドラグリード】から聞いた<魔剣>か。面白い。外界のものはやはり予期せぬ化学反応を見せてくれる』

 

『《真珠化》と《捕食吸収》も引き継いでいるが……、《分体作成》とラーニングの才能の無さは惜しいな』

 

『だが、よかろう。新たな<UBM>の誕生を寿ぐとしよう。願わくば【アビスシェルダー】を超える試練となってくれ』

 

【(<UBM(ユニーク・ボス・モンスター)>認定条件をクリアしたモンスターが発生)】

【(履歴に類似個体なしと確認。<UBM>担当管理AIに通知)】

【(<UBM>担当管理AIより承諾通知)】

【(対象を<UBM>に認定)】

【(対象に能力増強・死後特典化機能を付与)】

 

【(対象を逸話級――【廃害真呪 スクラップ・アビス】と命名します)】

 

 今の、この世界の神の言葉が【アビス・スクラップ・オクトパス】の頭の中に響いた。

 

 そうして。

 【アビス・スクラップ・オクトパス】は【廃害真呪 スクラップ・アビス】となり。

 手に入れた遺跡の力で海底の金属を自らの鎧に積み増した。

 自らの殻を喰らうことにより、即座に神話級へ相応しいレベルにまで自らを引き上げた。

 

 そして、自らの内側に魔剣の力を満たす手段を編み出した。

 機神の中にあった第二の心臓。完全に再現できなかったがゆえに魔剣を組み入れる余地が大きかったそれを利用した。

 魔剣の力を全身に巡らせられるように、そのスキルを調整した。

 

 魔剣の力は解釈によって容易に変化する。それをただキメラを殺すためだけに特化させた。

 キメラであるなら、【アビスシェルダー】だって触れるだけでバラバラに切り刻める。そういう能力に解釈した。

 

 さらにその先。

 魔剣の力で自らの鎧の中身を迷宮と化した。

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 だが、まだ足りない。

 神を降ろすには、器の大きさが。

 

 もっと高位で巨大な器が必要だった。

 

 神話級では足りない。

 神に準ずるだけ(準インフィニット)価値(リソース)が必要だ。

 それも、山脈鎧のような雑多な塊ではなく、単一の器が。

 

 そして、それは今、この海にひとつ浮かんでいる。

 【グランバロア号】という、最強の戦艦が。

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