アビスシェルダー系超級とアニメ再現系生産型アホ二人。 作:内藤悠月
□<縁断ちの星殿>
「し、死ぬかと思った……」
メニューのマップには<縁断ちの星殿>と書かれているその場は、【スクラップ・アビス】の体内だった。
突入班。そう銘打たれ構築された7人パーティ。決死隊として、全滅することまで想定した片道切符の突入部隊である。
その目的は2つ。
ひとつ。魔剣の奪取。
ふたつ。核であると考えられる【破壊王】の写しを見つけ出すこと。
そのために、最も正面戦闘に向いたうえで、超高速でダンジョンを踏破できる人員が抽出された。
「なんであのエンブリオ、爆発したんだ!?」
「キシシ、
「聞いてたけどやるとは思わなかった……」
魔剣を盗み出すと言い放った男、
海賊団を束ねる船長、【大海賊】ルーフィー。
「しっかし、なんだここ。本当にあの真珠の山の中か?」
「面白いですね。様式自体は“化身”襲来以前ギリギリに考案された工廠のものに酷似しています。でも、その壁の構造材はガラスに似た素材で、その向こうにはただ闇が広がっている、と」
「うち忙しすぎん? 奇襲対応してすぐ、船に張り付いたまま突入したっすよ?」
「ソラリスさん、それはお疲れ様です」
猛毒酒をあおりながら、その身体能力を飛躍的に高めつつある【
サイコメトリー能力を持ち、誰よりも機神の謎を解き明かそうとダンジョンアタックを繰り返していた【
<ヴァンキッシュ>の盾役にしてウルティマと最も相性の良い【アンキーレ】のマスター、【
「ちょっとぉ! 僕の作業だれか手伝ってよ!」
「ゆかりさんはちょっと手が塞がってて無理ですね。というかタイプレギオンの関係上、ロエさんしか出来なくないです?」
「シラフはともかくアヤカさんはどうにでもできるでしょ!?」
「俺ディスられた?」
今回の作戦の要。突入部隊を【スクラップ・アビス】の猛威から守る役割を持つ【
演奏によって万能無比の能力を発揮するノースブリザードゆかり。
100人前後の【マクロス・グランバロア】から抽出できる中で、ダンジョンのような閉鎖空間において最大の戦力である。
「行きましょう。時間は限られています。というより、ダンジョン攻略の納期ではないです。殺人的です」
「長くても30分以内にダンジョン攻略しろっていかれてるだろ……」
「というかですね」
「どうしたアヤカ?」
「私は怒ってるんですよ。<試練の迷宮>は私達が先に攻略していたダンジョンなんです。それを必要だったからと言ってあとから来た超級にかっさらわれて」
「もともとダンジョンは早いもの勝ちじゃないっすか?」
「我々で独占していたものなのに?」
「うう、っす」
「なのでですね。これはやけ食いのようなものです。何が何でも荒らしてやりましょう」
そう言い切るアヤカ。黒い短髪から覗く目は暗い炎をたたえていた。
「《
スキルの重ね合わせ。その上、領域の圧縮制御。その重複により、一枚の障壁となった領域が射出される。
それは通路の奥から来ていた機械を押しつぶした。
「これ持ってるのに負けたってマジです?」
「なんでナチュラルにウルティマの特典武具スキル制御してアレンジしてるっすか……こっわ……」
コレこそが必殺スキルで生み出した鎧に、自らの分体を融合させるウルティマの切り札。
通常モンスター判定でしかない分体に、最終奥義による特性の変化を重ねることによって装備品判定を獲得して実現した、ウルティマの最強の形。
ウルティマ自身の手足として使う分体ではない。蜂の分体は判断能力に欠ける。
自らの判断で行動し、保有するエンブリオの力を4倍に強化され、ウルティマのステータスとスキルの全てを加算された最強の軍勢。
事実上、超級を100人作り出す禁断の技だ。
「というかアレはデータにない兵器ですねぇ」
「多分先々期文明の兵器だな。取り込んだ遺跡を使って量産してるっぽいぞ」
その銘を【
前肢がブレードとなっており、それで敵をえぐる戦い方をする。
強さこそ上級職ティアン程度しかないが……。
「うわあ! 奥から山程出てきた!」
「アレ全部魔剣の力帯びてますね。あと無意味になりましたけど《奈落の残骸》も」
それを数で補う戦い方をする。生産コストの低さと量産性の高さ。その両方を兼ね備えた、まさしく尖兵として送り込むのに相応しい機体だった。
通路の奥から顔を出したものの数ですら、すでに20を越えている。
「数が多いだけならゆかりさんでもどうにでもなりますけど、どうします?」
「僕の準備が整った。僕にやらせてくれ」
そういうのはロエ3。白い装束に長い杖を手に持ったコスプレ姿のマスターだ。ログ・ホライズンという、MMORPGの更新にともない異世界転移させられる、VRMMOものと近しい起源を持つ作品の主人公、シロエのコスプレを行っている。
もともとはロールプレイヤーを目指していた……のだが。インフィニットデンドログラムのリアルさに、心を折られてしまった程度の、普通のマスターである。
最も、そういったプレイヤーは珍しくない。
アバターを真似たところで、自分は自分。プレイしている時間の間、演技を続けられるような人間のほうが稀有だ。
リアルであるからこそ、全身で演技し続けなければならないため、それに心折られるものが大半。
もともとキャラクターが多様な側面を持つノースブリザードゆかりや、セリフ数が少ないため根幹となる考え方に沿っていればロールプレイっぽくなる
彼らのようによほど歯車がうまく噛み合わない限りはどうしても見た目を寄せる程度の形に落ち着く。
ロエ3はそれでも比較的続けている方だ。ジョブも【付与術師】系統に寄せていた。
これはエンブリオというシステムに由来している。
自身のパーソナリティに由来するがゆえに、ロールプレイ先に沿ったエンブリオに進化するとは限らないためだ。
そして、エンブリオに寄せたビルドへすればするほど、ロールプレイ元から離れていく。
ロエ3のエンブリオもまた、当然のようにロールプレイ元からかけ離れている。
「《対象限定化》《持続時間圧縮》《射程距離短縮》!」
魔法拡張系スキルの多重発動。それらは、広域対象のスキルを単独にすることで効果量を増強し、効果時間を圧縮することでその効果を上昇させ、魔法の射程を短くすることで効果を高めるスキル。
総じて。手で触れられる程度の距離の相手に魔法を発動させるためのスキルセット。
「《キーンエッジ》《オーバーランナー》《アキュラシィサポート》《カルマドライブ》!」
【戦略付与術師】の特性は、長いチャージタイムと広範囲対象の支援魔法である。下級職から引き継いだ魔法のほとんどが広域化し、その同時対象数が大幅に増えている。
それらを、魔法拡張系スキルによって圧縮。単体対象にまで圧縮された支援魔法を全て、
「――さあ、
ロエ3の体から、黒い闇が吹き出す。
この霧こそが、ロエ3のエンブリオ、Type:ワールド・レギオン【運命簒奪 スコル】である。
霧の姿をした狼複数体のエンブリオであり……、自らにかかったバフを“消費”してレギオン体を生産する力を持つ。
このとき、消費するバフの強度に比例してレギオン体の性能と数が決定し……、その保有するスキルの性能もまた決まる。
そしてその能力こそが、彼が突入部隊に選ばれた最大の理由だ。
「行け【スコル】。あれを食い尽くせ」
バフの捕食。【スコル】が触れた敵性対象の受けているバフを消滅させる力を持つのだ。
事前にバフについてある程度解析している必要がある上、作成時に消費したバフの量と強度に比例して消滅させられるバフの強さが決まるピーキーさこそあるが、型にはまれば【獣王】すら殺しうる可能性を持ったエンブリオである。
そしてその力は“魔剣”にすら及ぶ。一本使い潰してまで検証を行った結果判明したことだ。
「僕もね、アヤカさんと一緒で怒ってるんだよ! 八つ当たりで蹴散らされろ!」
霧状の闇の体を持つために、攻撃能力はその闇属性複合の爪と牙しか持たないという心もとなさ。
だが、ゆかりによる多重バフの重ねがけと自身にかかったウルティマ由来のバフを含めて喰らうことでそのステータスは伝説級を上回る性能となっている。
必然、上級職1職分しか持たない【
【スコル】の突撃によって一瞬のうちにスクラップと化した。
「【スコル】の展開で、ようやく進めるな」
「バフが満ちている以上、魔剣の斬撃が飛んでくるって話でしたもんねぇ」
「今の私達では致命傷に……はならないが戦力として大幅低下してしまう。ロエさんさまさまだな」
魔剣の影響を受けて迷宮化した場所には、どこからでも魔剣による攻撃が生じる可能性がある。それは魔剣の内的空間が表出したがゆえに、すべてが魔剣に接しているためだ。
魔剣が魔剣の力を使う場合、魔剣を振る必要がないため、ほとんど無から攻撃が生じる。そんな攻撃をまともに受けられるマスターが何人いるのか。
「で、迷宮のメインモンスターはこいつらになるのか?」
「ルーフィーさん。ちょっと不味いことになってます」
「アヤカ、なにかわかったのか?」
【深智眼 ホルス】。タイプ:ルールのエンブリオで、その能力はサイコメトリー。触れたものの情報を辿って、奥底に潜む情報を得る力を持つ。
最も、その情報は《鑑定》《看破》のようなものと違い、システムとしてまとめられたものではなく、現実に本を読み解くような情報の塊なのだ。
そのため武器や防具の数値を読み解くのは苦手としている。だが、その来歴や製法、歴史、組成などの情報を得ることに特化していた。
ちなみにエンブリオ銘に眼とあるが特に視覚系には関係無かったりする。
「製造された手法の問題です。《メタリアル・マテリアライザー》……【創造光輝 レミナ・クライセラ】という、【モビーディック・ツイン】と同時期に現れてウルティマさんに討伐されたUBMのスキルが魔眼に作り変えられて使用されています」
【創造光輝 レミナ・クライセラ】。
かつて存在したある【大賢者】が、《
【
なってはいけない超級職。それに就いてしまった彼は、しかしてフラグマンの遺産を引き継いて余りあるほどの天才だった。
単独で<海底掘削城>のひとつを占拠し、そこを拠点に【銀砂】シリーズと【レミナ・クライセラ】を設計。それに自身の魂を焼き付けることができるほどに。
いまやその人物の情報は、《
【創造光輝 レミナ・クライセラ】として、【モビーディック・ツイン】の出現と同時に現れ、ウルティマによって単独討伐されたことのみが、彼について残っている情報のすべてである。
その行動すら、何を考えていたのかわからない。
「それの何がまずいんだ? 想定より製造能力が追加されてるっぽいけど」
「前提として、《メタリアル・マテリアライザー》は大量の【金属粒子】を消費します。これは生成能力ではなく製造能力であることに由来しますが……」
このコストとして消費する【金属粒子】の量が馬鹿にならない。フラグマンの設計ですら、数百年から数千年貯め続けた素材を利用する前提の代物なのだ。
それを、軍勢と呼べるだけの数製造するにはどれだけ必要か。
【レミナ・クライセラ】はこの問題を解決するために、あらゆる物質を【金属粒子】に変換する機能を組み込んでいた。そのように対応幅が広いスキルは必然的に変換効率がよろしくない。
結果として、溜め込むにしても時間がかかる代物だった。
「
「それは、だいぶまずいぞ。魔眼から魔眼を製造できてしまう!」
倍々ゲーム。
コストによるクールタイムがどれほどのものかわからない。だが、《メタリアル・マテリアライザー》は一度に複数のアイテムを製造可能。
製造可能限界まで同時に複製することで、魔眼そのものを使い捨てにすることで。
そのクールタイムの制限を越えて、軍勢を魔眼を、量産可能になる。
「これは
そこにいたマスターたちは怖気づく。
自身の両肩に乗るものの重さに。
「キシシ。結局やることはかわらねえじゃねえか」
ルーフィーはそう、笑う。
冒涜的にして、狂気をにじませた弧月状の笑顔。
「魔剣さえなけりゃ、ウルティマが全部叩き潰す。それだけだろ?」
ぐわー! シロエコスプレキャラが被った!