アビスシェルダー系超級とアニメ再現系生産型アホ二人。 作:内藤悠月
□■□勇者ビルドについて
<Infinite Dendrogram>における最強ビルド理論は数多く存在し、その殆どが消えていった。
これはプレイヤーの数だけ性質や細部が異なるエンブリオの能力が存在し、合致したものでなければ強くなれないという、このゲームの性質に由来するものだ。
例えば、”ガードナー獣戦士理論”。これは名のとおり、エンブリオがガードナータイプでなければそもそもビルドを構築することができない。しかも、進化先がレギオンだとその効果が激減する。
“超重アームズ理論”。これはもっとひどい。アームズは使用者が装備重量の影響を受けないという点を利用し、極限まで重いアームズで殴れば最高の威力を発揮するというものだ。アームズであれば、どころかそもそも十分な重量に達するかすら不明という致命的な問題が存在している。
“素手ビルド”。素手を条件に強力な効果を持つジョブをかき集め、エンブリオのステータス補正で能力値の低さというデメリットを踏み倒す理論。当然、エンブリオによるステータス加算の多寡によって性能にムラができる。
”テリトリー接触理論”。エンブリオはどんなタイプであってもマスター自身であると扱われる仕様を逆手に取り、発動条件が接触のスキルを使おうとする理論。対応しているかどうかがエンブリオによってまちまちであり、そもそもジョブによっても通ったり通らなかったりすることがあったために廃れた。
様々な理論が生まれては消えていく。
最強のビルド理論を吹聴する以上、エンブリオという変数に左右されてはいけないためだ。
誰でも汎用的に使えないかぎりは、テンプレとは呼べまい。装備品でその差を埋めるにしても、装備品ドロップが国によって出現するモンスターの違いによって安定しない。
そして生産品は高レベルになればなるほどオーダーメイド品になり、テンプレという考えからは外れていく。
たまに自身のエンブリオと合致した結果、とんでもない結果をもたらすことがあるため、(自身のエンブリオの可能性を探る意味でも)模索するマスターも複数存在はしている。
むしろ検証がなくては自身と相性の良いビルドなど見つかるわけがないのでそういった情報をやり取りするのに使われている面もある。
その中でも、実現が不可能であるという点を除けば絶対に強いことだけがわかっている最強の理論が存在する。
それは“勇者ビルド”。
とある特殊超級職、【
勇者という存在がどのような能力を持つか。それは作品によっても異なり、その肩書の持つ意味合いすら異なる。
だが、おそらくは<Infinite Dendrogram>の持つ“勇者”の源流はドラゴンクエスト、であると創作系のマスターの間では考えられている。
つまり能力が役割で分かれる作品の中で、多種多様な能力を持ちあらゆる能力を持ち合わせながら、個々の能力は専門家には及ばない。
なんでもできるが、何もできない。だからこそ人々の力を束ねて前に立つ者。それが勇者だ。
そして、その考え方が【勇者】の持つスキルに現れている。
1つ、本来8つしか持てないジョブを、200あまり保有できる。
1つ、噛み合わぬはずのジョブの力を1つに束ねることができる。
ジョブという力に縛られる<Infinite Dendrogram>の世界の人類に置いて、破格の能力だと言えよう。
そして、この能力を下敷きに考えられた最強のビルド……それが“勇者ビルド”である。
ジョブを複数持つこと、ではない。それはあまりにエンブリオの能力特性を一極に限定しすぎている。
“勇者ビルド”の基本理論は2つ。異種にして多様な能力を積み上げること。それが1つの力に集約されていること。
【勇者】で言うならば本来異なる系統のジョブを同時に使用できることとステータスを全て加算することがそれに当たる。
そして、極めて広範な暴論を言う形になるが、全てのマスターがこの理論の実践者だと言える。
ジョブとエンブリオ。この2つを積むことで
更にこれに加え、装備品や特典武具を身につければさらに強力になる。
それは基本的なシステムにただ準じているだけだが、当然それで強くなっている。
ジョブを8枠全て埋めれば当然それだけより多くのジョブスキルを獲得できるし、ステータスもレベル0に比べれば莫大なものになる。
エンブリオが成長すれば、その能力特性は極めて強力なものになる。あるいは、横方向に極めることでどこまでも便利なものになるか。
何を当たり前のことを言っているのか、と思われるだろうが、当たり前のことを突き詰めた先に得てして最強とは存在しうるのだ。
誰かが考えたのだ。「じゃあ、エンブリオを(あるいはジョブを、特典武具を)複数持てば最強じゃね?」と。
複数の
即ち、【勇者】である。
そしてそれは、実のところジョブでも特典武具でもなんでも良い。その全てを同時に積み上げる事ができるのならば。
たとえば、複数のジョブ枠を持ち、かつそのジョブスキルやジョブそのものを改造・昇華する事ができるエンブリオ。
たとえば、複数の従魔と同時に合体し、その全てのステータスとスキルを扱う事ができるエンブリオ。
たとえば、エンブリオの贋作を作り出し、他者や自らへと移植する事ができるエンブリオ。
たとえば、アイテムをジョブの器に作り変え、就職することができるエンブリオ。
たとえば、純竜級のステータスとスキルそのままに、それを加算する装備品にへと変換するエンブリオ。
たとえば、数多くの装備品を一つに束ね、その全ての力を自身にもたらすことができるエンブリオ。
例外なく単独のスキルではなく外部に存在するリソースを使用しそれらを自らの力へと変える力を持つ。
必然、エンブリオや特典武具の特性に依存し、汎用理論ではなくなった。だが、ビルド論を考えるマスターにとって、常に頭の片隅に存在している理論である。
なぜなら、ジョブの枠に縛られない超級職の存在によって理論上は全てのマスターが実践できる可能性があるからだ。
もっとも、その難易度も席の数も限られているので机上の空論ではある。
ビルド論のシナジーの重要性をかなぐり捨てた勇者ビルドだが、シナジーを持たないわけではない。
むしろ多様な能力を積み上げる関係上、獲得した能力内でシナジーを構成することが可能だからだ。
それ故に、理論上は最強なのだ。
可能性だけは、無限大であるために。
□■<南海>・東部海域
【カンゴルゴーム・スクラップ・ドラゴン】は実はドラゴンではない。ドラゴンと名乗っているにもかかわらず。
キメラである。
重油をまとったような外観の竜は、本来海に生息しているような生き物には見えず、それが海上に適応して動いているという事実が異常な生き物であると理解させられる。
海上を浮かぶように存在しているそれは、ゆっくりと歩を進めていた。【マクロス・グランバロア】が船にあるにもかかわらず羽交い締めを仕掛けているのに。
「おいどうすんだこれ! なんか適応して【マクロス】が引きずられてるように見えるぞ!?」
「適応してるわけじゃない! マクロスが大した脅威じゃないとみなされて無視されてるだけだ! 伝説級のフィジカルならそれぐらいやる!」
【マクロス・グランバロア】に備え付けられた機銃は【カンゴルゴーム・スクラップ・ドラゴン】の体表を削り取ることはできているが、所詮機銃。そもそもの攻撃力が低すぎる。搭載されている砲は組み合った時点で射線が合わない。というより、船員のマスターが各々で使う前提に作られているため、船に連結されているものが少なく、【カンゴルゴーム・スクラップ・ドラゴン】には有効ではない。
つまり、無視された時点でその質量を使って動きを遅くすることしかできなくなった。
全身の兵装は残った
だが、このまま引きずられて島にたどり着いてしまったらそこでジ・エンド。ブレスで村は焼き払われ、美味しい餌に成り下がるだろう。
「早くしてくれ、マチュ……」
そう、
水平線の果てから、青い光が走る。何らかの魔法のライン。
それが【カンゴルゴーム・スクラップ・ドラゴン】の頭部を穿ち、完全に凍結させてしまったのだ。
それと同時に、不合理なジェット音が鳴り響く。
そこにはコックピットがむき出しになったジークアクスと、その穴から顔を出す黒い鎧の男。
そう、“深海棲艦”ウルティマ・ウェポンである。
「あん? オレ《フロストブレス》直撃させたよな……?」
「ああ! 確かに当たってる!」
コックピットに座するマチュはウルティマ・ウェポンのつぶやきにそう答える。
直撃したうえで致命傷になっていない。それが答えである。
「種族はキメラか? ドラゴンならこれで死んでるはずだもんな」
種族キメラは外見から想像できないような内部構造や生命構造を持っていることがよくある。頭を吹き飛ばしても生存に全く支障がなかったりすることがあるのだ。
凍結された頭部はガラガラと崩れ、その中身がむき出しになる。黒い結晶の魔眼。巨大な水晶の球体が首の先につなぎ合わされていた。
それは、頭部の中に隠されていた【カンゴルゴーム・スクラップ・ドラゴン】の力の核。【カンゴルゴーム・クリスタル】である。
そして怪しく魔眼は輝く。
「ッ! 危ねえ! 《キメラテック・ルール》!」
とっさにウルティマ・ウェポンはその球体の前にへと飛び出た。被害を自分だけに留めるために。
『ギギギ……《
それは魔眼から放たれた魔法であった。前方扇状に光の波のようなものを放ち、そしてその範囲内に居たもの全てを石化させる。
邪視・魔眼の類を魔法技術によって再現した攻撃魔法であり、石化をもたらす確率こそそこまで高いわけではないものの、大幅にHPを削り取る闇属性としての性質も併せ持っていた。
ウルティマはそれを自身に集中させるために飛び込んだのだ。自らの両腕を戦艦の側面装甲に変形させて。
ウルティマの両腕装甲がガリガリと音を立て、崩れていく。
「おい、ウルティマって無敵だとか言われてなかったか!?」
「いや、あれは……見たことあるぞ! 【救命のブローチ】の壊れ方だ!」
正確には、【救命のブローチ】ではない。【健常のカメオ】である。
【積層鱗鎧 ウロボロス】に限らず、装備品と融合してその性能を加算させるエンブリオや特典武具は、この手の破損によって効果を発揮する装備品の消費の問題をある程度回避する機能が備わっているのが常だ。
あるものは融合状態であってもその効果を発揮した装備品が破損して能力から失われる。
あるものは、破損判定が発生した場合、破損が起こったものとしてその装備品の耐久力分、エンブリオの耐久力を消費して代替する。
【積層鱗鎧 ウロボロス】は後者に分類される。銃弾や砲弾といった物理的な消耗品も耐久力から差し引ける分応用性は広いが、同時にある問題も抱えている。
それは【救命のブローチ】、ひいてはレオナルド・フィリップスが作り上げた【健常のカメオ】【防犯のブレスレット】といったある超常存在の模倣品の破損判定の問題だ。
これらは、効果を発揮したら装備品が壊れるわけではない。あるしきい値を元に、複数回破損判定が発生するように作られているのだ。
破損する確率が10%ほどで、しきい値に対する倍数で判定回数が決まり、運が良ければ壊れないこともあるというそういう装備である。
何が問題かというと、このしきい値の倍数だ。通常はアクセサリー自体が壊れて終了する処理なのだが、一度破損判定を引いたとしても【ウロボロス】が壊れるわけではない。それが何をもたらすかというと、判定回数を常に最大に発生させてしまうということだ。
迂闊に受ければその破損判定が想像を絶する回数実行され、それによって【ウロボロス】の耐久力が削りきられる。
そういった可能性を同時に抱えている。
故にウルティマ・ウェポンは【救命のブローチ】を取り込んでいない。そもそも【ウロボロス】の獲得している
別の小細工には使用しているが、自分自身が使うことはないだろう。
ボロボロと装甲表面が壊れ崩れていっているのは【健常のカメオ】の破損によるものである。
見た目こそ派手だが、せいぜい1万ほど
「その首、落とすぞ?」
ウルティマ・ウェポンはその両腕の装甲を盾に似た形状にへと変形させる。その盾の表面には連装砲が縦に3砲門重なるように配置されていた。
「あれは……戦艦ル級!」
「あれで艦これよく知らないってマジ?」
周囲にいる取り巻きがなにか言っているが無視である。それに加え、すべての砲門にある特典武具のスキルを適用させた。
【すーぱーきぐるみしりーず すぴーどすたー】。元は超超音速で飛んでくる鰯の群れだったきぐるみの特典武具である。その見た目は大量の鰯で構成された大きな魚の着ぐるみだ。
能力はシンプルで、使用者のAGIの20倍の弾速を持ちAGIに比例した連射速度を持つ鰯の弾を口から放つというもの。これ自体の攻撃力も低く、普通に使えば大した性能にはならない。
だが【ウロボロス】に融合されることによって、合算による巨大な攻撃力とAGIを獲得。並のUBMならば即死級の弾幕を放つことが可能となった。
なお、元が鰯のUBMだったために水中でも減速しない特性も持っている。
その特性を受けた砲門が左右に9門ずつ。放たれる弾丸は外部から見ている者には線にしか見えないだろう。
即座に【カンゴルゴーム・スクラップ・ドラゴン】は穴だらけになり、特に首はそのつながりすら削り取られた。
それと同時に、その身体の内側から光の塵が流れ出し、頭部にあった水晶体は海面に墜落し、その体を覆っていた重油のようななにかは溶けて瓦礫を残した。
「……よっし。これで良かったか? お前さんら?」
ウルティマ・ウェポンはその場に居たマスターたちにそう問いかける。
グランバロア個人戦闘型最強の男。その看板に偽りはなかった。