アビスシェルダー系超級とアニメ再現系生産型アホ二人。 作:内藤悠月
◇
「あー……確かになにかいるな……」
緊急で宴会を切り上げ、【マクロス・グランバロア】の艦橋へ集合した面々。最大戦力であるウルティマも含め、現状で戦う気概のあるものが数十名ひしめいており、正直狭いほどだった。
艦橋に据え付けられたモニターは望遠レンズによって拡大されたそのモンスターの姿を写しており、グランバロアの技術によってその想定ランクである伝説級モンスターであることを表示している。
それに、《看破》も通る。《看破》の結果とはといえば、【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】という名称と、76という高めのレベル。
むき出しになった巨大な魔眼から複数の触手が生え、真珠色の瓦礫を鎧のように身体にくくりつけた死せる廃害の眷属だった。
「おいおい、こんな連続で伝説級モンスターが出てくるもんなのか……?」
「それにまた【スクラップ】か」
「この辺、危険海域って言っても純竜級がダース単位で出てくるのがせいぜいじゃなかったか?」
「伝説級が短時間に2体はまあ……変だな……」
周囲のマスターたちはそう口々に、泣き言めいたことを口にしている。実際そうだ。戦闘系マスターでも純竜級にマトモに当たって勝てないものもここにはいる。
「伝説級モンスターが山程出てくる海溝は知ってるけど……そこ出身ではないっぽいな?」
ウルティマはそう語る。その海溝は<東海>に存在し、伝説級モンスターに1時間1体遭遇できるほどの魔境である。【スクラッシュ】と共通の名称を持つそのモンスターが大量に出てくるため、ウルティマはそこになにか……<UBM>か<遺跡>か。そのどちらかがあると考え探索を続けている場所だった。
そこのモンスターと性質は似ているような気がするが、そもそもでかすぎる。戦艦主砲並の大きさの魔眼に、廃墟の鎧。
【スクラッシュ】は破損した全身鎧や戦艦の装甲の一部を体にまとっている程度だった。
「探る必要がありそう……だな?」
「でもアレを調べるのは難しくないか?」
そもそも伝説級のモンスターに対して詳細な《看破》を通すのはスキルレベルがよほど高いか、それに特化したエンブリオを持つか。【マクロス・グランバロア】には複数名いたが、そのいずれもが席を外していた。
鑑定能力に特化したエンブリオ持ちが好奇心を抑えられるわけがなく、宴会もそこそこにとあるダンジョンへ潜っていたためだ。
「……いや、あるか? おいベルド! 【アイズ・オブ・ゴルゴーン】まだ残ってるか!?」
「ああ、残っているが。どう使うつもりだ?」
「ウルティマにしこたま石化系状態異常持ち武器を仕込む! そっちも在庫あるだろう!?」
「なにをしようとしてるかわからないけれど……石化系状態異常スキルなら複数持ち合わせがあるよ。船を用意してくれるなら【カンゴルゴーム】積むのもできる」
《デルタ・ペトラ》をはじめとして、《石化の魔眼》、《氷晶の魔眼》といったモンスターの魔眼スキル、《石化》《金属化》《氷化》《真珠化》《黄金化》《ミスリル化》《水晶化》《銀化》《石膏化》《ガラス化》《石化ブレス》といったモンスターの特定部位や毒素による石化系状態異常は大量に持ち合わせがある。事実上、刺されば即死と言える強力なスキル群であるため貯めていたのだが、同時に使用できるように武器とスキルの組み合わせの調整がまだである。事実上、積んであるだけのスキルだった。
どれも通常モンスターから手に入るスキルであったため、《捕食魔獣》とある特典武具とのシナジーを使い、迂闊に貯めすぎてしまったというのはある。
「船は……<超時空船団>の奴らに出させるか。可能性は上げておきたい」
「で、作戦の要らしい【アイズ・オブ・ゴルゴーン】はなんなんだ? 【ウロボロス】に組み込むんなら教えてもらわないと困るぞ?」
「ウルティマは【積雲】って武器知ってるか?」
【積雲】。天地名刀百選の一振りであり、自身が装備している刀の攻撃力を自身に集約する力を持つ刀だ。
天地からすでに散逸していたために、ウルティマにとって手に入れたかったが購入交渉することすらできなかった代物。
もしに手に入っていれば、全身から刀を生やすだけで攻撃力が数十倍に跳ね上がっていた“可能性”がある一品であった。
「【アイズ・オブ・ゴルゴーン】はいわばそれの石化系状態異常スキル版だ。一度使えば、全てのスキルの効果を物理攻撃に全て乗せられる」
「……は?」
なんだその山程スキルを持っている前提のアクセサリーは。
どう考えてもエンブリオによる生産品で……マスターによる使用を前提としていた。
むしろ今まで売れていない理由がわからない。
「なんで売れてないかわからないって顔をしてるな? 理由はメチャクチャ簡単なんだよ。そもそもエンブリオで石化スキル持ってるやつは、そっちで敵を石化させられる。ラーニング系エンブリオ持ちは、自前で重ねられる。そもそも、石化系のスキル使うやつは武器で攻撃しない。スキル攻撃のほうが強いからな。あと1回分しか効果がない。クールタイムも10分ある」
「あー……」
つまり、シンプルに言えば需要があるのはウルティマ唯一人である。
あるいは後に誕生する【色欲魔王】だろうか。
「なるほどねぇ……。じゃあ、オレもその目的に相応しい武器を出すべきか」
ウルティマが鎧のスリットから取り出したのは、一本の剣だった。鞘もなく、むき出しの刀身に強引に布を巻き付けて保護しているそれは、まるで秒針を思わせる作りをしていた。
それは<レイフォートの刹那の魔剣>。
装備品として扱われていないという、魔剣を名乗っているにも関わらず世界のシステムに見向きもされないもの。
よほどのことがなければ……というより、道楽ぐらいでしか抜かれないその魔剣が取り出されたのだ。
周囲に群がっていた船団所属のマスターはどよめく。その魔剣が一目で異常であると理解できたから。
デンドロに存在する魔剣・妖剣・聖剣の類はその身に保有する膨大なリソース、あるいは怨念によって独特の存在感を持つ。
そしてある程度のランクのマスターならば、一度や二度はそういった武器を見たことがあるものだ。特に魔剣を自ら作り出すものもその場にはいる。
それが、この魔剣には一切ない。
ただひっそりと、
そしてその場にいるものの《鑑定眼》には、<レイフォートの刹那の魔剣>の名とその能力が示された
スキルもなにもない。本来その特異性を示す装備スキルがあるはずの場所には、ただ空欄が広がっている。つまり、すべてがつまびらかに明かされているにもかかわらず、その全てが隠されていた。
「
◇
「で、戦闘班が前衛で、ウルティマが後衛になった、と」
「全力で死守しろだってよ」
「肝心の“深海棲艦”は甲板でペットの犬みたいになってたぞ」
【マクロス・グランバロア】を先導する形で突き進む<ヴァンキッシュ>の海賊船。複数の戦闘系マスターを乗せ、そのうえ
それを以て
このまま放置すると数分のうちにまっすぐ島に向かい、島を破壊し尽くすだろう。
実際はもう少し余裕があるはずだが、それでも時間がないことは間違いない。
それに、目的のためには動いていると不都合がある、と
攻撃をしても通らないはずだからなんらかの拘束手段か、あるいは攻撃を当て続けて気をそらすようにとも言っていた。
「総員! 戦闘開始!」
「とはいえ、どうするか……」
「じゃあ、俺が行く!」
真っ先に先陣を切ったのはジークアクスだった。ジェットスラスターで加速しつつ、海面を蹴るようにその動作を制御する巨大機械。
船の脇を抜け、【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】へと突撃をしかけた。
「【プラズマビームライフル】! 喰らえ喰らえ喰らえ!」
手に持ったビームライフルを連射するマチュ。もとより【カンゴルゴーム・スクラップ・ドラゴン】にマチュの攻撃は通っていた。
それならば理屈としては【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】にも同様に通る、はずだった。
「お、おい! あれはなんだ!?」
「嘘だろ? 防御魔法!?」
【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】の魔眼が怪しくきらめく。それにより、【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】は虹色のオーラをまとっていた。
その壁に吸われる形で、ビームが通らない。
「【全智魔導 アレクサンドリア】に追記あり! あれは魔法だ! 《虹の防壁》っていう……はぁ!?」
「おい、どうした!」
「
見た魔法を看破し、それを記録。最終的にラーニングするエンブリオを持ったマスターがそう声を荒げる。
ただでさえ尋常でない防御能力を持っているのに、それにシナジーする形でHPを増やす防御魔法を行使する。
【カンゴルゴーム・スクラップ・ドラゴン】と合わせ、本当に伝説級なのか疑わしくすらあった。
「行使確認! 《ライフゲイン・ウエイト》! HPに比例して効果が決まる攻撃バフ!」
「だからなんでだよ!」
よりによって10本ある触手にそんなバフが乗っている。それを周囲に振り回すだけで下手なマスターの集団なら壊滅だ。
【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】は当然の権利と言わんばかりに、触手を振り下ろしにかかる。船とジークアクス、その双方を同時に叩き潰す形で。
「させないっすよー! 《シールド・プロテクション》!」
【複製光盾 アンキーレ】による総防御力に比例した障壁を生み出す防御スキルが船の前方に展開され、その触手を防ぐ。10枚のストック式スキルであるが故に攻撃を防ぎ切ることができたが、問題はそれが通常攻撃であるということである。
このまま攻撃を受け続ければ、船が先に沈む。
ゆえにこそ。
「なにか拘束するようなスキルを使え!」
「船に投網ならあるぞ!」
「なんでそんなもん積んでるんだよ!」
「俺がいく! 《スノーボールアース》!」
「《バインド・チェーン》!」
「《スローリー・スロウス》!」
ヤケクソで投網が主砲から発射され、海ごと凍結する強力な氷属性のエンブリオスキルが行使され、テリトリー内から非実体の鎖で縛り上げるスキルで拘束し、その上で範囲内の速度を減速するスキルが展開される。
凍結と拘束と減速によって触手が眼に追える速度まで落ちたためか、振り下ろそうとした腕に攻撃を当てることによってその行動を阻止し始めた。
「利かないにしても、動作は中断できる! 当て続けろ!」
「それにあのHPバフは削れてる。やる意味はある」
「でもあの魔眼はクールタイムで再使用できるんだろ!? 意味ねえだろ!」
ボヤキのようなその発言をしながらも、【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】の動きを封殺し続ける戦闘班の面々。
「うおおお! 死ねええええ!」
奇声を上げながら、触手に手斧による攻撃を繰り返すマチュ。
「あいつ、よくコックピットむき出しのまま戦闘続けられるな……非戦闘職だろ確か……」
「しゃおらぁっっ!」
凍結の状態異常と、過熱した斧と、ジェットスラスターによる加速と、《水上歩行》による踏ん張り。その全てでマチュは【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】の触手を引きちぎった。
虹色のオーラを無視し、突き立てた斧を持ち手として強引に引っ張りきった結果だ。構造的に弱い部分があるキメラにはこの手が効く。
だが、それが良くなかったのか。
悲鳴を上げる【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】は、その巨大な魔眼を明滅させ始めた。
「行使確認! まずい、
船に乗るマスターたちは慌て始める。防御スキルが間に合うか。あるいはその動作をキャンセルさせられるか。
手持ちの手札で、それができるのか。
「いや、
マチュがそう、呟いた。
それと同時に、キン、と高い音が鳴り響く。金属が擦れ合ったような、あるいはこの世のものではない高鳴りとでも言うような。
それは、
眼の良いものなら、【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】を中心に、一瞬だけ上下に切断面が見えたことだろう。
これこそが
その斬撃によってか、【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】は動きを止める。そして、見えている触手が根本から色が変化していく。
銀とも金ともつかないような、あるいは青にも似た色合いにへと。
《看破》があるならば【合金化】の状態異常が見えたことだろう。
「作戦目的、【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】の
気がつけば魔眼【プリズムオーラ】の光も失せている。【プリズムオーラ・スクラップ・クラーケン】が完全に沈黙した証拠だった。
あれ……おかしいな……《捕食魔獣》と特典武具のシナジーの話をするつもりだったのに……