ある晴れた昼下がり。
桜坂高校の音楽室、いつものように『放課後ティータイム』の5人はティータイムに興じていた。
「はぅー…平和だねぇ」
『平沢 唯』は机に突っ伏したまま、誰にともなく呟いた。
「あー…平和だなぁ」
『田井中 律』も唯同様、机に突っ伏したまま唯の呟きに応える。
高校に進学してから早2年と少し、決して真面目に音楽と向き合ったとはいえないが、それでもこの場所でこのメンバーで今日までやって来た。
これまでも、これからもそうなる筈だった。
「唯先輩、それ飲んだら練習ですからね」
『放課後ティータイム』唯一の2年生、『中野 梓』が 頬を膨らます。
小柄で愛らしい顔立ちはどこか猫を思わせる。
軽音楽部に入部してすぐに顧問の山中 さわ子から猫耳を付けられ、その愛くるしさから「あずにゃん」と呼び、唯が事ある毎に可愛がっている。
ふとすればすぐに怠ける唯や律を真面目な梓が叱っているのは既にメンバー内ではいつもの光景だ。
「あいよー、これ飲んだらやるよぉ」
「ハァ…律もだぞ?…部長なんだからもっとしっかりとだな」
律の真正面に座る『秋山 澪』が紅茶を飲みながら苦言を呈する。
唯達と同じ3年生で、梓同様真面目な性格だ。
高身長でスタイルも良く、相当な美少女である為、学内でファンクラブまである。
その反面、病的なまでの怖がりで恥ずかしがり屋な可愛らしい一面を持ち、律とは小学校からの親友でもある。
「判ってるって…澪は真面目だなぁ」
律が身体を起こし、紅茶に手を付ける。
『田井中 律』。
唯達と同じく3年で、軽音楽部の部長を務める。
ショートカットが似合うボーイッシュな外見同様、性格も明るく社交的ないわゆる元気娘だ。
大雑把ながら周りに気を配り、後輩や部員の意見も必要であらば取り入れる。
もしかしたら、この中で一番部長に向いているかもしれない。
勿論、部活動の申請用紙を出し忘れたり、講堂の使用許可を取らなかったりと問題もあるのだが…
唯とは軽音楽部の中で最も気が合うのか、いつも2人ではしゃいでいる。
「唯ちゃん、紅茶のお代わりいかが?」
「ありがとー、ムギちゃん」
今、唯に紅茶のお代わりを勧めてきたのが『琴吹 紬』。
艶やかな金髪に眉毛が特徴的なおっとりした美少女だ。
財閥のお嬢様でありながら世話好きで優しく、自分の生まれを鼻にかけない辺りは育ちの良さが滲み出ている。
放課後ティータイム内では主に作曲を手掛けており、プロ顔負けの才能とセンスの持ち主だ。
「ムギ、あまり唯を甘やかすなよ?」
「はぁ〜い」
澪と紬のやり取りを見ながら唯は思う。
いつも通りだ、この日常がいつまでも続きますように、と。
ー ティータイムを終え、一同がオリジナルの楽曲を一通り合わせるともうすぐ下校時刻だ。
梓はギターを持つ唯を横目で見る。
『平澤 唯』。
音楽に関しては間違いなく天才だ。
ギターの上達速度もそうだが、なにより天性の音楽センス…このバンドに息を吹き込んでいるのは間違いなく平澤 唯、この人だ。
普段はマイペースでダラけてばかりだが、その実、努力家で自らの才能を磨く事を怠らない。
最も、本人には何の自覚も無いだろうが…
荷物をまとめて、皆でいつも通り帰宅しようとしていたその時、それは起こった。
凄まじい悲鳴と共に音楽室の扉が破られる。
全員が呆気にとられ扉の方を見ると、形容し難い異形の者が立っていた。
その外見は元々が人であった事を物語る…肌は干からびているのか割れており、所々触手の様なものが這い出ている。
体格に不釣り合いな膨張した身体、ボロボロの服…何より、鼻をつく異臭が唯達の意識を現実に引き戻した。
「なっ…何だよ、これ…」
律の呟きに応える者はいない。
誰もその呟きに答える術を持っていなかったからだ。
異形の者が一歩、音楽室の中へと足を進める。
と同時に全員が一歩、音楽室の中へと後ずさる。
現実感の無い、死の恐怖を全員が感じていた。
異形の者が右手に持つそれは…先程の悲鳴の主だろう。
顔も名前も知らないが、制服で辛うじて同じ学園の生徒だと判る。
胴体を鷲掴みにされ、時折ビクッと痙攣しているソレが自分と重なる。
堪らず、澪は嘔吐した。
梓もしゃがみ込み、頭を抱えて泣きはじめた。
律も紬も、そんな2人を気遣い背中をさすったり抱きしめたりしている。
そんな中、異形の者は食事を始めた。
右手に持つソレの首に食らいつき、肉を引き千切る。
それと同時に鮮血が辺りに飛び散った。
全員が目を瞑り、その惨劇から目を逸らした。
生物の防衛本能だ。
心が壊れてしまわない様に目を瞑り、耳を塞ぎ、見ず、聴かず、現実を遮断する。
唯はその光景の一部始終をその目に焼き付けていた。
仲間が見ず聴かずの中でただ1人立ち尽くし、考える。
生きる術を…生き残る術を。
1人ではない、全員が生き残る道を。
(戦うしかない)
唯は右手に持っていた愛用のギターを見つめる。
今はケースの中に入っているが、武器として使えなくはない。
思い出と愛着が詰まったギターだが、友達の生命には代えられない。
唯はギターを握り締め、一歩、また一歩と異形の者に向けて歩き始めた。
閲覧ありがとうございます。
見苦しい文章で申し訳ないです…次は第二話を掲載予定です。
余談ですが、この小説は某ブログにて自分が連載しているものの転載になります。
某ブログでは登場人物紹介にて作画した画像も公開してます…気になる方は言って貰えればURL貼りますので、宜しくお願いします