第十一話になります
予定ギリギリになってしまって申し訳ないです
凄まじいスピードで互いに間合いを詰め、先に一撃を放ったのは貴寛だった。
空気を引き裂く様な右フック、上体を屈め避けるセクター3。
突き上げる様な貴寛の膝を両手で押し、止める。
そこに畳み掛ける様な貴寛の打ち下ろす様な右。
半歩後ろに下がり貴寛の右を避け、身体を捻りセクター3が裏拳を繰り出す。
貴寛は右手で受け止め、すかさず左フックを放つが、これを再度半歩後ろに下がり躱す。
(こいつ…動きが人間に近いんじゃねぇ…こいつは格闘技を知ってやがる)
貴寛は確信した。
貴寛も敵も同じく、相手の常に数手先を読みながらコンビネーションを組み立てている。
貴寛が素早いステップで間合いを詰め、左手でジャブを放つ。
ボクシングという格闘技では基本であり、このジャブを制する者がボクシングを制するとまで言われている基本であり、奥義。
敵に当てる為だけに磨きに磨かれた技術。
派手な破壊力や魅せる様な華やかさはないが、貴寛が使うならそれも必殺の破壊力になり得る。
凄まじいスピードで繰り出されるジャブを掻い潜ろうとするも前に出る度、1、2発貰い敵がまた押し戻される。
もはや、ジャブと言うより弾幕に近かった。
敵も理解した。
躱そうとすると食らって押し戻される。
ならば、覚悟して前に出たらどうか。
プロレスラーが全ての攻撃を受けきれるのは、そこに覚悟があるからだと言われている。
不意打ちではない、来ると判っている攻撃に対して身構え、歯を食いしばり耐える。
セクター3がそれを知ってか知らずか実行に移した。
ジャブの弾幕に対して、食らって前に出たらどうか。
答えは否。
貴寛は待ってましたとばかりに右を振り抜き、敵が吹き飛ぶ。
「耐え抜いて前に出るのは悪くねぇ判断だ。でもよ、気づかなかったろ?途中からジャブを左側に集中させてたの」
貴寛は敵の動きが変わった瞬間を見逃さなかった。
相手が覚悟して前に出る姿勢を見せたのに気づいて、手数は落とさず、さりげなく左側にジャブを集中させて意識を逸らす。
敵の目には、先程一撃を加えた貴寛の左脇腹が映る。
意識が完全に逸れ、間合いに入ったのを見計らって必殺の一撃を繰り出した。
セクター3もジャブは警戒していた。
もちろん、空いている右手にも注意は払っていた。
しかし、ほんの一瞬、貴寛の流血した脇腹が見えた瞬間、僅かながら注意が途切れた。
そこを狙い打たれたのだ。
これが人間同士のボクシングなら、決着は着いていた。
「…サスガハ人ノ到達点…」
セクター3が立ち上がり、貴寛を見据える。
「チッ…効いてねぇか。セクター3ってのは、そんなにタフな奴ばっかなのかよ?…7年前のはそんな硬くなかったぜ?」
「我ハ上位個体…同ジ個体ト同一ニサレテハ困ル」
初めて、セクター3が貴寛の質問に答えた。
ただの気まぐれか、それとも、戦いの中で貴寛を認めたからなのか。
そんな事はどうでもいい。
「…上位個体?納得だわ。てめえは同じセクター3の中でも格上って事だろ?…でもまぁ…上位個体ってのでこんなもんかよ?何匹いるか知らねぇが、まとめて殺してやるよ!」
言うや否や、貴寛は再び間合いを詰め、敵との死闘を再開した。
ー 貴寛の予想に反して、敵の動きはどんどん高度になっていった。
貴寛が持てる技量の全てで迎え撃つも、貴寛の方がたたらを踏む場面が何度かあった。
(…こいつ…成長してやがる。いや、学習か)
今や、セクター3の動きは貴寛のソレに近いものがある。
貴寛はセクター3のグールとまともに打ち合う事が出来ないのを知っていた。
7年前のあの日、貴寛は初めてセクター3と対峙した。
『ISS能力者』になって日が浅く、自分の能力を過信していた。
銃火器でさえも、自分の能力の前には意味をなさなかったからだ。
能力者になって初めて傷を負った7年前…
(クソが!!!)
急激な怒りが沸点を超えた。
必殺の一撃を放とうとしていたセクター3の動きが止まる。
「…チッ…ザコが…粋がりやがって」
髪を掻き上げながらながら、貴寛が呟く。
もう、情報を聞き出すだとか捕らえるとかですら、どうでもよかった。
「100t…てめえに掛けた引力と斥力だ。普段なら、10tクラスで楽々止められるんだけどな…さて、んじゃあ、目障りだから殺すわ」
引力と斥力、この世界に存在する4つの力の二つ。
物体間の引きつけ合う力と物体間の反発する力。
この二つを生み出し、自在に操る事こそ貴寛の能力。
戦闘において貴寛は常に周囲1mに斥力を発生させている。
その力は約10t。
そして、その斥力が物体を捉えた時に、逆方向へ引力を『同じ規模』で発生させる事でその動きを封じる。
もちろん、引力と斥力だけで押し潰す事は可能だ。
しかし、絶妙な調整で動きだけを封じて、自ら止めを指すのを貴寛は信条としていた。
大きく振りかぶっての渾身の一撃。
「オラァァァ!!!」
振り抜かず、殴っていた頭ごと地面に叩きつける。
敵が声も出せず、何かが潰れる音がした。
「…あ〜あ…これやると右手イカれんだよな」
貴寛は立ち上がり、皮膚が破れ、血塗れになった右手を見ながら呟く。
(…上位個体か…こんなん何匹もいやがるのか。うちで勝てんの何人いるかねぇ?。…たかだか施設破壊に俺なんぞ駆り出した理由はこれか。黒澤のヤロウ…何企んでやがる?)
「まぁいいや…帰ったら身体に聞かせて貰うかな」
呟き、貴寛は施設を後にした。
閲覧ありがとうございました
今回は少し時間に余裕がなく、より拙い文章になってしまったかも知れません。
次回は第十二話…黒澤の狙いと、新たに起きた不可解な事件をメインに書いていきます
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