今回は2部構成になっており、前編になります
建物からグールのセクター3が飛び降りる。
1体は大芽の、もう1体は唯乃の近くだ。
恐らくは先程の戦闘を観ていたのだろう。
その中でも、この2人の動きは別格だった。
「ご指名みたいですね。さて…セクター3がどの程度か見せ」
いい終わるより早く、セクター3が一足跳びで間合いを詰め、右の拳を振り抜く。
(!!早い!躱す?いや、間に合わない!)
ミシッ!ベキベキッ!
骨が軋み、凄まじい痛みが走る。
辛うじて敵の攻撃を左手で防いだものの、想像以上の威力に大芽の身体は数m吹き飛び壁にめり込んだ。
「カハッ!…くっ…」
日本大統領直属の特務部隊の幹部として、数え切れない修羅場を潜り抜けてきた大芽はそれでも冷静だった。
痛みに顔を歪めながらも身体の異常を確認する。
(…左手は…使い物にならないか…けど、他は大丈夫みたいだな)
油断していた訳ではない。
警戒はしていた。
しかし、敵の動きは更にその上をいったのだ。
通常、生物が跳んで間合いを詰める場合、必ず『溜め』の動作がある。
しかし、敵にはそれがなかった。
純粋に歩く様に跳んだのだろう。
それ以上にそのスピード自体が化物じみていた。
そして、またセクター3が一足跳びで間合いを詰めてきた。
確かに早い。
が、見切れない動きではなかった。
だからこそ、咄嗟とはいえ左手で防げたのだ。
大砲を間近で撃たれる様な凄まじい右ストレートだが、次は完全に躱す事が出来た。
様子見の隙をつかれて反応が遅れたものの、先程の攻防で敵のスペックは把握した。
そのまま、敵の脇をすり抜け様に大芽が右手を振るう。
大芽の右手に装着された専用武器「グレイプニル」。
一見すると装甲の付いたグローブでしかない。
しかし、その五指の先端には細い糸が付いている。
その糸はあらゆる物を引き裂き、ある時は拘束する。
微細な指の動きだけでそれらを操る事が出来るのは、世界でも大芽だけだろう。
振るわれた糸が光を反射し、ようやくその存在を認識した瞬間には、既に敵の身体には糸が巻きついていた。
「…意外でしたか?この武器は」
大芽が薄く笑いながら言った直後、爆発音が轟いた。
大芽の能力…「インスタントボマー」による爆発。
『ISS能力者』が能力を使う際、その大元となるものは『気』である。
呼び方は幾つもあるが、車を動かすガソリンと同じ役割だ。
当然使い過ぎれば枯渇し、肉体的にも疲労し、能力はもちろん戦闘力そのものが低下する。
故に能力を扱う者は独自に調整し、より強く、より長く戦える様に工夫する。
それこそが能力者の『強さ』であり、能力の優劣だけで強さは語れない所以でもある。
大芽の能力は、同じく幹部にして『ISS能力者ランキング』の2位でもある『鳴神 悠』と同系統の能力だ。
悠が『気』を電気に変換し体内で発電するのに対して、大芽の能力は『気』そのものを起爆させる。
悠は『気』を体外に放出し操作する事を苦手としているが、これは大芽も同様だった。
大芽の能力は電気に比べて扱い難く、場合によっては自分も巻き込まれてしまう。
ただ、大芽の能力が他の追随を許さないくらい優れている点がある。
物体内に気を送り込み蓄積させる事でその物体自体を爆弾に変える事が出来る。
大芽が触れる全ての物は爆弾と化す。
これが3位の実力。
「さて…これで死んでくれてたらいいんだけどな」
セクター2ならこれで充分だが、セクター3は別格だ。
過去には1位と2位の2人を相手に深手を負わせた実績もある。
風で薄っすらと煙がはれていく。
ドンッ!!
不意に大芽の身体が宙に浮いた。
「カハッ!」
鳩尾に殴られた様な衝撃を受け、息が詰まる。
転瞬、大芽は右頬に先程同様殴られた様な衝撃を受け吹き飛んだ。
「グッ…これは…」
辛うじて立ち上がり前を見据えると、先程の爆発が何でもなかったかの様にセクター3が立っていた。
今の敵は間違いなく、『能力』を使った。
しかも、大芽もよく知る能力だ。
『ディープインパクト』
衝撃波による遠距離攻撃。
『ISS能力者ランキング』の10位が使っていた能力だ。
能力を奪われたのか、黒澤が何かを仕込んだのかは判らないが、敵は『能力』を使える様になっている様だ。
(…こいつ…『Level 1』じゃ殺れないか。余り使いたくないけど『Level 2』、やるしかないね)
ー 「で?…君はヤらないのかなぁ?ていうか、私からイッていいのかなぁ?」
唯乃が言うや否や素早く間合いを詰める。
3位の戦いを観て、判った事がある。
大芽の相手をしているセクター3は1位が言っていた「上位個体」である事。
もう1つは自分達同様、「能力」を持っている事。
どの様にして手に入れたかは判らないが、これまでとは違い能力者同士の戦いになる。
唯乃はそう結論付けた。
ならば、通常は慎重に攻めるのが定石だが、唯乃には慎重をきす理由がなかった。
『アイギス』…神の盾の名を冠するその能力は『能力を打ち消す能力』である。
能力者の多くは大芽や悠の様な直接攻撃型に分類される。
唯乃の能力は対能力者に等しい為、これまで大して評価されなかった。
だが、敵が能力を使用する、この場においては間違いなく最強の能力だ。
唯乃が跳び上がり、セクター3の頭部に蹴りを放ち、そのまま空中で身体を捻り更に蹴りを放つ。
2発目の蹴りを食らって吹き飛ぶ敵を着地と同時に追いかけ、敵の鳩尾に強烈な裏拳を叩き込む。
唯も律も唯乃の圧倒的な戦闘力に唖然とした。
空中で2回敵を蹴って吹き飛ばし、敵が吹き飛んでいる最中に一撃を加える。
これだけの高度な動き、果たして幹部の中でも出来る人間がいるかどうか…
大芽も先程まで戦っていたセクター3を糸を使っての拘束に成功しており、若干の余裕があった。
「あれぇ?…死んじゃったの?」
唯乃が敵の顔を覗き込もうとする差中、セクター3の右腕が唸りをあげた。
殺人的な破壊力の敵の右腕は空をきった。
唯乃が圧倒的な反射神経でそれを躱していたからだ。
「…まだまだ楽しめそうだね…フフッ、そうじゃなくっちゃ」
唯乃が恍惚とした表情のまま、起き上がろうとしていたセクター3に向かって駆け出した。
閲覧ありがとうございました
今回は少し構成に苦労したのと、諸事情から時間的にキツかったです
次回は掲載少し遅めになるかもですが、応援宜しくお願いします
次回はけいおんキャラがメインの回になります