けいおんアウトブレイク   作:アドルフ大佐

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第十五話更新です。
遅くなり、大変申し訳ないです。



第十五話 慟哭

2体の上位個体と思われるセクター3を撃退した唯達は、これからの行動をどうするかを検討していた。

撃退に成功したとはいえ、こちらが受けたダメージも大きい。

何より、幹部でもある3位がかなり手酷くやられているのが問題だ。

普通に考えれば3位のケガでは戦闘続行は厳しい。

事前に数十体ものセクター2を倒している為、体力や能力の消耗もはげしかった。

「上位個体か…思ったより動きが良かったね。あれが束になってきたらさすがにヤバイね」

「3位は敵を甘く見過ぎだよぉ…あたしが殺ったのは上位個体じゃなくてただのセクター3みたいだけどねぇ」

「とりあえずはジョー…2位と合流した方がいいかな」

大芽と唯乃が言葉を交わし、唯達はそれを黙って聞いている。

(確かに3位の火神さんも強いけど、見た感じ唯乃さんの方が強い気もするんだけどなぁ)

律は2人のやり取りを見ながら更に考える。

ただ、大芽の能力…上位個体のセクター3を仕留めたあの技はまるで、内側から爆発した様に見えた。

最初に使った爆発とは明らかに異質。

爆発特有の炎すら出なかったからだ。

(…しかも、音もしなかったもんな。勝手に破裂した様な…)

「いちごっ!」

姫子の叫び声で全員が振り返る。

そこには腹部を『何か』で貫かれたいちごが空中に浮いていた。

いちごの流した鮮血がその『何か』の形を浮かび上がらせる。

セクター3。

だが、浮かび上がってきた姿を見て一同は驚愕した。

「…人?」

梓が呟く。

唯は目を見開き、いちごといちごを殺した人らしきものを凝視する。

唯乃が無言で駆け出し間合いを詰めようとし、大芽も傷ついた身体をものともしない動きで敵の背後に回り込む。

仲間がやられても、危機的状況でも、考えるより早く動けたのは潜った修羅場の数だろう。

不意に敵がいちごをゴミでも捨てる様な動作で投げた。

いちごの身体はちょうど律のいる方向に投げ出され、律は反射的にいちごを抱きとめた。

「ガハッ!…ぐっ…律?…」

「いっ、いちご!…しっかりしろ!」

律は泣いていた。

律の手に伝わる血の感触、いちごの柔らかな身体の感触が半ば麻痺していた律の思考を引き戻し、現実を思い知らされたからだ。

(死ぬ?…いちごが?何で?)

頭では判っているつもりだった。

戦うという事は、戦場に出るという事は誰にも等しく死ぬ可能性がある事を。

それが自分ではなく仲間を、友達を失う事がある事も。

だが…人はそう簡単に割り切れない。

「…律…あた、し…死ぬのかな?…」

いちごはヒューヒューと息をしながら、苦しそうに、だが喋り続けた。

「…泣か、な…いで?…大丈夫…だから…」

律は大声で叫んだ。

「死なせない!…絶対に!死なせるもんかよ!」

それを聞いて、いちごが薄く微笑う。

律の服を掴み、律の胸に顔を埋め、呟く。

「…死に…たくない、よ…」

律は強くいちごを抱きしめる。

「律…も、と…強く抱い…て…ご、め…ね」

もう、いちごは何も言わなかった。

いちごの身体から力が、いちご自身が抜けたのが判った。

「…いちごぉ…くっ、うぅぅぅ」

律は声を押し殺すのに必死だったが、いちごの感触がそれを許さなかった。

 

ー 唯も梓も姫子も、その光景を見ているしか出来なかった。

いつも無口でクールな美少女。

だけど、とても周りに気を使い、優しさに溢れている。

いちごはそんな少女だった。

決して、こんな所でこんな形で死んで良い訳がない。

梓も姫子も泣いていた。

ただ1人、唯を除いて。

そして、姫子は見た。

唯乃と大芽が吹き飛び、壁を突き破って見えなくなったと同時に、唯目掛けて敵の攻撃が迫って来るのを。

唯は動かない。

いちごを抱きしめてまま座り込んだ律を凝視したままだ。

梓も気づきはしたが、間に合わない。

姫子は決意した。

唯と姫子の距離は10m程…だが、敵の動きはセクター2とは比べ物にならないくらい早い。

(2倍…3倍…10倍…決めたんだ!唯を守るって!)

全てが時を止めた様な静寂の世界。

姫子はその世界を統べる唯一無二の王。

姫子は駆け出した。

纏わりつく空気は泥の様に重たく、姫子を縛りつけようとする。

それらを振り切る様に走り出す。

残された時間は少なかった。

止められる時間は有限だ。

能力が切れる前に唯を助けなければ。

(…唯、待ってて!今助けるから)

唯を庇うような体勢になった瞬間、姫子の能力は切れた。

「唯先輩!」

梓の叫びと敵の攻撃は同時だった。

姫子は唯を抱きしめた姿勢のまま、倒れこむ様に攻撃を躱した。

次の瞬間、敵の身体は何かに引っ張られる様に壁を突き破って姿を消した。

大芽が糸で拘束し、壁に叩きつけたのだ。

勢い余って敵は壁を貫通したものの、次の瞬間には大芽も引っ張られる様に壁の中に姿を消した。

「…姫子ちゃん?」

唯の声に姫子は優しげな笑みを浮かべる。

唯が身体を起こすと、辺りは血の海だった。

「…嘘…何で?…姫子ちゃん…姫子ちゃん!」

唯の悲痛な叫びが辺りに響く。

「唯…泣かないの…私、決めてたから…唯を…守るって」

姫子は優しげな笑みを崩さず言う。

あの日、日常だった筈の平和を無くした日から…戦場に立つ事を選んだ日から…いつかはこんな日が来ると思っていた。

たくさんの大切なものを失くした。

だからこそ、自分を救い、道を示してくれた「最後の宝物」を守りたかったのだ。

姫子の中で唯は全てを捨ててでも守りたい存在だった。

それは梓や憂とは違う、恋情や愛情などという生温い感情ではない。

姫子にとって唯は「希望」だった。

「唯…笑って?」

「…うぅ…グスッ…笑え、ないよぉ…嫌だよ…死なないで…」

元々涙腺の緩い唯の事だ、無理もない。

ましてや、大切な友達が自分を庇って命を落としかけているのだ。

唯の心は壊れそうだった。

「…唯、笑って?…最後は…唯の、ガッ!…笑顔…見てたい…から」

唯にも判った。

残された時間は少ないのだと。

死にゆく者へ残された者が出来る事はあるのだろうか?

唯は笑った。

涙でぐしゃぐしゃで上手く笑えたかは判らないが、唯は笑った。

「…やっぱり…唯に…笑顔が…似合、うね…」

姫子も笑った。

それは今まで見たどんな笑顔よりも素敵で美しかった。

唯は姫子の特別な『何か』になれたのだろうか?。

姫子は唯の隣りの席だっただけのクラスメイトだ。

軽音楽部の仲間の様に同じ時間を共有した訳でも、特別に親しかった訳ではない。

唯は姫子の優しさや包容力に惹かれ姫子に懐いてはいたが、姫子はどうだったのだろう?

もう、問いかけても姫子は答えてくれない。

姫子もいちごも、もう喋る事も笑う事もないのだ。

唯の中に仄暗い、炎の様な感情が芽生え始めていた。

 

ー 一方、工場内部では唯乃と大芽を相手に敵が凄まじい激闘を演じていた。

「あぁぁぁぁ!」

唯乃の凄まじい連撃を紙一重で躱し、唯乃の鳩尾に両手で掌底を決める。

まともに食らった唯乃が吹き飛ぶのと同時に、死角から大芽の糸が襲いかかるも全て躱された。

(こいつ!手強い!)

大芽の複雑な糸の動きすら完全に見切っている。

「でも…予定通り!」

ズドドドドンッ!!

予め地面に巻いて置いたビー玉を起爆し、敵が爆炎に包まれる。

「…人間の能力者がどの程度のものかと思えば…所詮はこの程度か」

敵は爆炎の中から悠々と姿を現す。

「…あれを食らって服にダメージだけとは…さすがに参ったな」

大芽が肩を竦め、困った様な顔をする。

「…ていうか、何者?さっきの体術、八極拳だよねぇ。」

いつの間にか大芽の横に来ていた唯乃は特に戦闘態勢は取っていない。

「ふんっ…君達が言う所のセクター3の先さ。さしずめ、セクター4と言った所だな」

「…へー、グールも進化したら人間になる訳か。興味深いね」

自らをセクター4と名乗った敵を睨みつけ、大芽が続ける。

「…まぁ、不愉快だから殺すけどね」

大芽の纏う空気が凍りつく。

それを見て、唯乃は笑った。

「フフッ…やっと3位もやる気になったかぁ。じゃあ、私も本気出そっかなぁ?」

大芽と唯乃、2人とも一気に駆け出す。

その様を見て、敵がニヤリと笑う。

「そうでなくてはなぁ!」

 

ー 「…これが人間か…中々、興味深い生き物だったな」

その場に立つのはセクター4のみ。

大芽も唯乃も倒れ伏していた。

「私が居なければ殺られていたと思うけど?…どうかな?アイン」

仮面を被った女性が腕を組んで立っている。

先程まで大芽達と戦っていたアインと呼ばれたセクター4は端正な顔を歪め、反論した。

「頼んだ覚えはない…完全に人を超えた私が人間如きに殺られる訳がなかろう!」

「だったら、後は任せるよ。私は殺らなきゃいけない相手がいるからね…外に3匹程生き残ってるから始末宜しくね」

仮面の女性はそう言うと姿を消し、場にはアインだけが残された。

確かに、認めたくはないが彼女の助力がなければ倒れていたのは自分かもしれない。

本気を出すと言った後の彼らの動きは段違いだった。

さっきまでは躱せていた攻撃も捌くだけで手一杯になっていたし、特に爆炎を操る能力者が厄介だった。

アイン自身も右手や頭を粉々に吹き飛ばされ、あと一歩まで追い詰められていたのだ。

仮面の女性…ゼロが来なければ命はなかった。

完全に見下していた筈の人間に敗北しかけていた自分を呪いながら、気を取り直し外の3人を始末しに行く。

逃げたかと思っていたが、意外にも3人はまだその場にいた。

内2人は既に死んだ人間を抱きしめた状態で座り込み、1人は呆然と立ち尽くしている。

「さて…貴様らもそこの虫ケラ同様、始末してくれよう」

アインの言葉に唯だけが反応し、無言のまま立ち上がる。

俯いているので表情までは伺えないが、所詮は虫ケラとアインは気にしない事にした。

「ハッ…唯先輩!」

立ち上がり、ゆっくりと敵に近づいていく唯に気づいて梓が唯の名前を叫んだ。

アインは全力で唯との間合いを詰め、必殺の一撃を繰り出す。

先程の戦いで学んだ。

敵を侮り、本気にさせては勝てる戦いも勝てない。

獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすのだと、アインは学んだ。

アインの腕が唯に届くか否かの刹那、アインの意識は途絶えた。

自分に起こった事態を理解する間もなかった。

唯の目の前でアインは二つに引き裂かれていた。

「…虫ケラ?…それはお前らだろ」

唯がその目に冷徹な光を宿し、冷たく吐き捨てる。

梓にも何が起こったか、理解出来なかった。

(今の…唯先輩が?。何したの?…軽く右手で払っただけに見えたけど)

気がついたら敵が脇腹から右肩にかけて引き裂かれ、真っ二つになって絶命していた。

誰も言葉を発せず、重苦しい沈黙だけが場を支配していた。

 

 




閲覧ありがとうございました
次回は16話…月曜までに更新出来ればなと思っています。

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