けいおんアウトブレイク   作:アドルフ大佐

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第十六話 雷神

悠が訪れた時には既に地獄絵図だった。

いちごと姫子、それに3位と4位も無惨な死骸と化していたからだ。

何があったかを問いただそうとして、悠は止めた。

唯と律は憔悴しきっており、戦う事は疎か逃げる事さえままならないだろう。

梓は梓で無惨な光景を見た事と唯が生を諦めている事を悟って、ただただ涙を流すばかりだ。

悠もこれまで数え切れない程の修羅場を潜り、大切な人や戦友を失ってきた。

その悠ですら、3位の死には感じるものがある。

事態を知れば、1位ですら涙を流すかもしれない。

ただ、ここは戦場で自分にはやるべき事がある…だからこそ、振り返らずに前に進める。

これまでも、これからもそれは変わらない。

だが、数ヶ月前までただの女子高生に過ぎなかった唯達にそれを求めるのは酷な話だった。

1位のいつかの言葉が脳裏を過る。

(優しさは美徳だ。非情になれないのは人としては正しい。だが、戦場においては最も愚か…か)

かける言葉は無い。

自分自身が乗り越えるべきものだ。

他人の力ではなく、自分の足で立たなければいけない。

生きるとは…そういう事だ。

「ほぅ…アインの奴はやられたみたいだね。君が殺したのかな?『鳴神 悠』」

声のした方を振り返ると仮面を付けた女性が立っていた。

「…何者だ?」

「君達が言う、グールの最終形態…セクター4。仲間内からは『ゼロ』と呼ばれている」

悠の問いにゼロは淀みなく答える。

「…なら、そこの死体も貴様の仲間か?」

悠は視線でアインの死体を指し示し、問う。

「不本意ながらね。あれだけ油断するなと言っておいたのに…」

「…一つ、質問する。セクター4というのは、どれくらいの数がいる?」

答えが欲しい訳ではないが、悠は必要な情報になり得るかも知れないので、質問を試みる。

「1人死んだから、残りは私を入れて3人かな?」

仮面故に表情は見えないが、声はやけに弾んでいる。

「あと2匹か…残りは俺と貴寛君で1匹ずつ片付ければいい訳だな」

「…耳、悪くなったのかな?…私を入れて「3人」だよ」

「いや、合ってる…今日ここで俺がお前を殺すからな。残りは2匹だ」

悠が呟くと同時に、バチバチッ!という音と共に電撃を纏う。

体内で発電する能力者である悠の特徴の一つが、この「雷の鎧」である。

体内で発電する以上、当然悠自身も感電している訳だが、全身のあらゆる所に埋め込んだ廃電装置が内臓器官を守っている。

しかし、その帯電状態こそが最強の矛にして盾でもあるのだ。

「…笑えない冗談だね」

仮面の下は見えないが少し落ち込んだような、自嘲気味な声でゼロが応じる。

「中野…手段は選ぶな。何としてでも2人を生きて連れ帰れ」

「…そんな…それじゃあ」

悠の言葉に梓が縋る様に反論しようとするが、すぐに言葉に詰まる。

状況を考えれば、仕方のない事だった。

こんな状態の唯と律は戦場では邪魔な存在でしかない。

そして、それは梓も大差ない。

もしも、可能性があるのなら、唯や律の再起を祈って逃がす他はなかった。

「…心配するな、中野。こいつは俺が1人で相手をしよう」

ゼロを見据え、悠が構える。

悠の右手には槍…といっても、全長は2m50cm。

1m50cmの柄に1mの太い刃…刺突と薙ぎ払いによる斬撃に特化した両刃の形状。

普段使っている避雷針型投擲ナイフ「ヴァジュラ」と対をなす悠の専用武器、雷槍「グングニル」。

通電性に優れ、耐熱、強度共に世界最高の特殊金属で作られた槍は悠の雷を纏い、さながら神話に出てくる神器を思わせる。

ゼロを見据え、凄まじいスピードで間合いを詰め、槍を一閃する。

左側に腰だめに構えた姿勢から、刃を寝かせ下段から斜め上に突き入れる。

正面から突くのではなく、斜めに突く事により斬撃の効果も付加される悠、独特の突き方。

しかし、ゼロは悠の攻撃を左に躱しつつ、前進する。

それに合わせて悠も一歩後ろに下がり、同時に槍を突き入れた軌道をそのまま引き戻す。

(相変わらず…やる!)

ゼロは仮面の下で微かに笑う。

悠の槍の厄介な所は間合いの取り方にある。

近接戦闘において最もリーチのある槍の欠点は懐にある。

しかし、逆を言えば懐に入らせなければ一方的に攻撃が可能で、悠は相手を懐に入れない技術に長けていた。

こちらが間合いを詰めようとすれば、詰めた分と同じだけ下がり、また下がりながら槍を引き戻す動作で攻撃する手も緩めない。

更に自身の能力と併用する事で鍔迫り合いや石突の一撃だけでも充分に敵を倒せる。

槍をコンパクトに取り回す事で手数を増やし、能力と相まってそれ自体が攻防一体の槍と化す。

しかし、悠の攻撃の癖を知っていたゼロは引き戻しながらの斬撃を右に態勢を低くしながら躱し、更に間合いを詰める。

当然、悠も躱される事は想定内だった。

一撃目を躱した身のこなしで悠自身も相手がかなりの使い手だと判ったからだ。

(貴寛君の言った通りだな…動きが武術を知ってるそれだ)

引き戻した槍を横薙ぎに一閃し、前方を薙ぎ払う。

ピクッ!

悠は確かな違和感を感じ、反射的に身体を動かした。

「チッ!…」

軽く舌打ちが出る。

悠の左脇腹には抉られた様な傷があり、そこから大量の血液が流れ出る。

(…今のは…まさか!)

悠の懸念を見透かした様に、仮面の女性、ゼロが言う。

「さすがは2位だね。完全に不意をついたと思ったんだけどなぁ。まさかあそこから致命傷を避けるとは…さすが「雷神」の名は伊達じゃないね。でも、君自慢の雷の鎧も私の絶縁体で作られた爪の前では無力だ…さて、どうするかな?」

「はしゃぐな、三下…口数の多い奴ってのは死亡フラグだ」

悠の痛烈な一言と同時に、ゼロの付けていた仮面にヒビが入り、割れて地面に落ちた。

「…久しぶりだな、ユイ」

悠の前には少し大人びた「平沢 唯」によく似た女性が立っていた。

 

 

 

 




閲覧ありがとうございました
予定よりだいぶ早く更新しましたが、次回もなるべく早く更新したいと思います

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