予定より少し早めに書けたので、更新します
悠とユイは壮絶な打ち合いながらも、互いに決定打を打てずにいた。
原因の一つは、先程とは違い『相打ち』を狙わないユイと、『相打ち』を警戒し間合いを取る悠にあった。
時間が経てば経つ程、悠の方が不利になりつつある。
急激な再生能力を持つユイと違って、悠の再生能力はこの場で左脇腹のケガを治す程優れてはいない。
しかし、『相打ち』を狙って攻めればユイに分があるはず。
(…相打ち覚悟の捨て身で来るかと思いきや、そうでもないな。…相打ちを狙えない理由…自己再生が『能力』だとしたら。)
「…どうした?さっきまでは玉砕覚悟で間合いを詰めていたが…あの高速再生…『能力』なんじゃないのか?」
答えるかどうかは問題ではなかった。
ただ、確証が欲しかった。
グールの『高速再生能力』が自分達の『能力』と同質のものなのかを。
グールには自分達の様な能力はない…故に『無能力』だと決めつけていなかったか。
もし、再生能力そのものが自分達の能力と同質のものであるなら、それは『有限』である。
これまで、再生するより早く致命傷を与える事で倒してきたグールを、別の方法で効率よく倒す事も不可能ではなくなる。
「…特別に答えてあげる。悠君の考えている通りだよ…グールの再生能力は『ISS能力者』同様、『気』によって高められているのさ。だって…2つは元々同じ場所からスタートして、分岐したに過ぎないんだからね」
ユイは悪戯っ子が浮かべる様な満面の笑みをしている。
「…でも、さすがに疲れたよ。やっぱり、なんの犠牲も払わずに悠君を倒すのは無理か…じゃあ、こんなのはどうかな?」
そう言ってユイが笛の様なものを吹く。
悠の優れた聴覚をもってしても、音は聞こえない。
犬汽笛の様なものなのだろう。
もっとも、それに反応するのは犬ではないのだろうが…
悠の予想通り、島中にいたグールが一同に集まってくるかの如く、次々にグールが姿を現わす。
「…簡単に言えば、『捨て駒』だね。いくら悠君が強くても、さすがにこれで隙が出来るよね?そこを狙うよ」
ユイは笑う。
いつか悠が見た笑顔のまま、セリフにだけ明確な殺意を込めて。
変わってしまうのが悪い事だとは思わない…が、それを受け入れられない自分がいる。
ユイの細かな仕草や変わらない笑顔を見る度に、違うと判っていても無意識に『あの頃のユイ』を探してしまう。
素早く思考を切り替える…そうしなければ、過去に飲み込まれる。
ユイが考える『捨て駒作戦』は膠着状態を打破するには最良の手段だった。
いかにユイの能力が通じず、悠が感知出来たとしても、群がるグールを相手にしながら僅かな隙を狙ってくるユイを退ける事は難しい。
仮にそれをやってのけたとして、持久戦に切り替えられたら詰む。
グールはざっと見300体はいるのだ。
普段なら、大して苦にならない数だが、まだまだ数は増えるだろう…そうなれば。
「…やるしかない…か」
悠のその呟きは誰にも聞こえなかった。
だが、それでいい。
「…この程度の数でどうにか出来ると思われているとはな…舐められたものだ」
悠の言葉に、ユイは一つの懸念を感じた。
(…まさか…あれを?)
「…人間を…舐めるな!」
悠は体内で限界まで『気』を練り始める。
『ISS能力者』とは、『気』を操り戦うと言っても過言ではない。
形ややり方は違えどその力を使って、ある人間は物理法則を捻じ曲げ、ある人間は触れた物を爆弾に変えたりする。
そんな彼らは常に、自分自身の身を守る為、能力に制限を設けている。
それは最後の『生命線』であり、『手段』でもあった。
「フウウゥゥゥゥゥッ!」
全身の細胞が、脳が悲鳴をあげる。
「ガアァァァァァァァァァァァッ!!」
凄まじいまでのエネルギーの奔流が周囲の大気を震わす。
自らの命を糧に極短時間、『神』にすらなれる禁断の呪法。
自らの『気』と『生命力』を融合させ、爆発的に『能力』の質を高める。
一瞬の静寂が訪れた。
ユイも、実際に『能力解放』を目にするのは初めてだったが、見なくても判る。
『気』を操る事に長けた『ISS能力者』だからこそ、その解放がいかに壮絶なものかを理解出来た。
ユイは無意識に後退っていた。
本能が先に理解したのだ。
絶対的な死の象徴…今現在、『鳴神 悠』こそが『死』そのものだ。
悠が一歩踏み出したのに気づき、ユイは慌てて笛を使ってグールに指示を出す。
『どうでもいい、奴を止めろ!』と。
すぐに十数匹のグールが悠に向かって飛び掛かるが、触れる事すらままならなかった。
悠の身体から無雑作に放たれた電撃はグールを内部から焼き尽くし、やがて消炭に変えた。
その時、ユイは見た。
悠が放出した電撃を自在に『操る』様を。
悠が専用武器として避雷針型投擲ナイフを所持しているのは、より遠くの敵に電撃を当てる為である。
つまり、専用の武器がなければ悠の能力は近接戦闘に限定されるのだ。
もちろん、通常時でも高圧電流を放出する事は出来るが、方向の制御がほとんど出来ないので行わない筈だった。
しかし、リミッターを外した悠は、それすらも可能にした。
ただ単に電撃の電圧が急激に増しただけではなく、完璧に制御出来るのだとしたら…
(…これが…『雷神』…)
ユイは畏怖を覚えた。
尚も群がり、襲いかかるグール達は尽く悠の雷に焼かれ、周囲に散らばった。
(あれはもう、絶縁体で出来た武器が通用するレベルじゃないね。電気の熱で瞬間蒸発しちゃうよ…それに雷にやられたグール、そのほとんどが跡形もなく消し飛んでる。確か悠君の電撃は10万Vだったはずだけど…今の悠君なら、本物の雷くらいありそうだな…雷って確か10億Vだっけ?さすがに死ぬね)
悠は普通に歩いてくる。
もはや、猶予は無い。
(…切り札、使うか…)
「さすがだね。今の君なら貴寛君も倒せるよ。とてもじゃないけど、戦闘向きじゃない私じゃリミッター外しても君には勝てないね。じゃあ…こういうのはどうかな?」
ユイの言葉と共に梓を捕らえたグールが姿を見せた。
梓は頭を掴まれ、宙吊りの状態だが、生きてはいる様だ。
悠は梓の生体電気を感知して、その事実を知った。
気を失ってはいる様だが、目立った外傷は無い。
「ここで究極の2択だ。私を殺せば、あのグールは彼女の頭をリンゴみたいに握り潰す…だけど、悠君にとっては私を殺す最後のチャンス。…残り時間はあと少しでしょ?…どちらを選ぶかな?」
これは一種の賭けだ。
いくら絶対的な力を持つ『雷神』になろうとも、彼が『鳴神 悠』である事に変わりはない。
恐らく、ユイを殺して梓も助け出す事は不可能、梓を助け出した後でユイを殺すのも不可能に違いなかった。
リミッターの解除は強大な力と引き替えに自身の命を削る。
一度使えば最後、確実な死が本人を待っているのだ。
残された時間を考慮しても、梓を助け出すか、ユイを殺すかの片方しか選べない、というのがユイの導き出した結論だった。
そして、ユイの考えた結論は当たっていた。
(…残り時間はもう無い…選べるのは片方だけか…)
だが、やるべき事は決まっている。
迷う必要は無い。
悠は槍を構え、渾身の力で放った。
神話における魔槍『グングニル』は雷を纏った槍ではなく、投げれば必ず相手を討ち抜く必中必殺の槍だ。
悠の持つ『グングニル』はそんな魔法の効果は持たないが、この状態の悠が放つその槍は電磁力の力を得て、光の如き速度で敵を討ち抜く。
生物の反応速度を大きく上回る速度で放たれた槍は、神話の『グングニル』さながら必中必殺の槍と化す。
ー 悠の放った槍は梓を捕らえていたグールの上半身を吹き飛ばし、後ろの建物に突き刺さった。
支えを失った事で地面に落ちていく梓を悠は抱き止めた。
既に先程まで悠の身体から無作為に放出されていた電撃はなく、梓の小さな身体を受け止めるのに支障はなかった。
「…中野…無事か?」
「…鳴神…さん?」
悠の呼びかけに意識を取り戻した梓が応じ、悠は安堵から顔を綻ばせる。
「…能力は使えるか?」
「はい…まだ、大丈夫です」
時間は無い。
悠は表情を引き締めると梓を下ろし、一歩前に出て言う。
「…今すぐ能力を使って、この島を出ろ。それと、貴寛君に…1位に『No.0は生きている』とだけ伝えてくれ。早く行け…巻き込まれる前にな」
「でも!それじゃ…」
食い下がる梓に、悠は優しく諭した。
「…俺は死ぬ、たぶん…そう遠くない。だが、お前は死なない…『大切なもの』を見誤るな。唯には、お前が必要だ…二度は言わん、判ったら行け」
悠の言葉で梓は気付いた…『大切なもの』に。
いつの間にか、グールに囲まれたあの場所でもうダメだと諦めていた。
しかし、今なら、逃げ切るだけなら梓の能力を使えば容易い。
「…ありがとうございます!」
それだけを、搾り出す様な声で告げて梓は姿を消した。
『生きて戻って』、梓はそう伝えたかった。
だが、それは叶わぬ希望であり傲慢な願いだ。
だから梓は、最後の別離(わかれ)に『ありがとう』を選んだ。
自分の消えかけていた『希望』に、また火を灯してくれた恩師に…
梓を見送った後、すぐに悠は座り込んだ。
身体から生命が無雑作に溢れていくのが判る。
「…変わらないね、悠君」
後ろからユイに話しかけられたが、振り返る力さえ残っていない。
「…変わるさ…時間が経てば、人は…だが、変わらないものもある…」
悠の言葉は力無い響きで、既に戦いはおろか身体を動かす事すらままならないだろう。
ユイは先程手に入れてきた悠の『グングニル』を掲げ、悠に止めを刺そうとしていた。
槍を突き出すその瞬間、悠の言葉にユイは手を止めた。
「…ごめんな…あの時、俺がお前をもっと知ろうとすれば…『お前』を一緒に探す事も出来たんだ。…独りにしてすまない…」
その言葉はユイが『あの時』かけて欲しかった言葉だった。
ユイの頬を涙が伝う。
なぜ、こうなってしまったのだろう?
どこで間違えてしまったのだろう?
「…さよなら、『私』の愛した人」
全ての想いを飲み込み、ユイは槍を振るった。
ー やれやれと言わんばかりに大芽が起き上がった。
横には4位『篠森 唯乃』がいる。
稀代の殺人鬼も死に顔は安らかだ。
特に戦闘音がしない辺り、戦いは終わっている様だった。
「ジョーさん、やったみたいだね」
立ち上がり周囲を探索するにあたって悠の仕業と思われるグールの死骸が散らばっていた。
大芽が起き上がった時には、唯乃と大芽達と戦ったセクター4の死体以外無かった所を見ると、唯達は上手く逃げおおせた様だ。
少し離れた広場の様な見晴らしの良い場所に来た時、大芽は信じられないものを見た。
倒れた悠。
胴体に首はなく、倒れた悠の隣で一人の女性が蹲っていた。
その女性が抱えているそれは、『悠の頭部』だった。
女性は大芽の存在に気付き、悠の頭部を地面に置き、立ち上がった。
「…悠君、ちょっと待っててね。…まだ、生き残りがいたんだね。でも、君…確か殺した気がするんだけど…」
「…まぁ、『仮死状態』になる薬を事前に飲んでおいたんで、死亡は免れたけど…スゴイな、兄さん以外でジョーさん倒せる奴なんかいないと思ってたよ」
女性の問いに答えながら、大芽は慎重に分析する。
服装、体格からしてセクター4との戦闘に介入してきた奴に間違いはない。
立場的には、悠を倒している事から敵と判断すべきだろう。
能力は…よく判らない。
気づいたらやられていた所を考えると、姫子の様な『時間干渉型』や梓の様な『認識阻害系』、後は実体のない空気や風を操る『自然操作型』、貴寛の様な『物理法則干渉型』が当てはまる。
どちらにしても、相手の特性が判らない以上、まともにやり合うのは分が悪い。
しかも、薬を使って仮死状態だったとはいえ、肉体はかなりの損傷を受けている。
「…君じゃ、私には勝てないよ?…だって、君は僕の手の中だもん」
「勝てるとか勝てないとか、そんなの関係ないね…ジョーさん殺られてのこのこ帰ったら、兄さんに会わす顔がない!」
大芽と貴寛、悠の3人は『ISS能力者』になる前からの付き合いだった。
貴寛を筆頭に、2番手に悠…その2人の背中を常に追い続けてきた。
大芽が『ISS能力者』になったのも、貴寛や悠が先に『ISS能力者』になっていたからだ。
3人の結束は堅く、仲間の為なら命を捨てる事も厭わない。
それは貴寛や悠からしてみても同じだった。
故に退けない。
とはいえ、まともにやっても勝ち目はない。
(やるしかない…『Level 3』だ!)
「…確かに…あんたの能力が判らない以上、まともにやったら負ける。仮に能力が判っても対処しようがない時もあるしね…でも、島丸ごと『消し飛ばす』ってんなら、関係ないよね!」
大芽の言葉に女性は事の重大さを悟った。
「さぁ!一世一代の大業!…種明かしは一度きりっスよ!!」
眩い閃光が全てを包み、生きとし生けるもの、死せるもの、存在する全てをかき消していく。
ー 眩い閃光は島と本土を繋ぐ橋を渡りきった梓にも届き、その眩しさに目を閉じる。
数秒後、恐る恐る目を開けた梓は眼前に広がる景色を見て、驚愕した。
「…島が…消えた?」
先程まで確かにあった筈の、色んなものを失った場所。
何が起きたのか、梓には判らない。
だが、梓は唯にもう一度会う為にも、悠の遺言を届ける為にも立ち止まる訳にはいかなかった。
梓は決意した表情で踵を返し、唯の待つ避難所めがけて駆け出した。
閲覧ありがとうございました
海上フロート編、これにて完結です
2位、3位、4位を失った人類…果たして、グールとの戦いに終わりは訪れるのか?…的な事を次回から書いていきたいと思います。
次回は月曜日の午前中までに更新する予定です。
感想や評価、随時お待ちしてます!