けいおんアウトブレイク   作:アドルフ大佐

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第十九話 序曲

 

「…あずにゃん…きっと、大丈夫だよね?」

あの海上フロートでの激戦から3日、唯と律を除いて生還した者は居なかった。

唯が姫子といちご、大芽と唯乃の死亡を確認していた為、それらを報告した。

報告を聞いた貴寛は一言「そうか…」とだけ答え、唯を下がらせた。

律はまだ、あの海上フロートでの一件から立ち直れてはいない。

安否不明なのは梓と悠の2名だが、3日経っても戻らない事から生存は絶望視されていた。

最後に梓と交わした約束。

『先に逃げて下さい!後から必ず追いかけますから!』

梓は唯が特に可愛がっていた後輩だった。

小柄で泣き虫で意地っ張りな子供っぽい所も、変に真面目で大人っぽい所も、唯は好きだった。

梓の生存を信じていない訳ではない。

ただ、時間が経つにつれ、不安だけが増していく。

ここ最近はグールの襲撃も少ないが、人数と戦力不足でこちらも討伐には出ていない。

梓の帰りを施設の外で待つのは唯の日課になりつつあった。

「…あずにゃん…信じてるからね」

 

ー 唯は強くなったと思う。

和や憂に頼りきりだった筈の唯は、いつの間にやら自立し、仲間や友人の死も1人で乗り越えた。

唯が苦しい時に力になってやれない自分の無力さに歯痒さを覚える。

和は思う。

何故、自分には戦う力がないのだろう?

和の得た能力は優秀な学力をもつ和を反映した形になった。

対能力者なら活躍の場もあっただろうが、相手が特殊な能力を持たないグールでは、能力が発現しなかった唯と何ら変わらない。

「…悔しいわね。戦えない事がこんなに苦しかった事はないわ」

和は1人呟く。

だが、考えてみれば、戦う力をもった憂なんかは今回の海上フロートでの激戦には参加していなかった。

力を持ちながら、戦闘要員でありながら姉の安否を信じて待つ憂はどれほど辛かったか…

平沢姉妹と長く関わってきた和だからこそ、憂の苦しみや唯の悲しみが判り、頭を悩ませるのだ。

生きる事は、こんなにもたくさんの『モノ』を背負わなければならないのだろうか…

和はモニターに映る唯を見ながらぼんやり考えていた。

(梓ちゃん、戻ってくるといいわね…唯)

 

ー 「…姫子といちごが…そんな事に…」

「澪ちゃん、自分を責めてはダメよ」

姫子といちごの死を知って唯や律はもちろんだが、澪と紬もまた、大きなショックを受けていた。

高校のクラスメイトであり、特別親しい訳でもなかったが、それでも『あの日』から半年以上も共に戦い、支えあってきた。

その自負があるからこそ、仲間の死を悼む事が出来る。

人はなんと無力で弱い生き物なのだろう…

澪は姫子達を救えないばかりか、律の支えにすらなってやれない。

逆に紬に支えて貰ってる始末だ。

いや、本当は知っている…無力で弱いのは自分であって、他ではない。

唯も悲しみを乗り越え、梓の無事を強く信じて待っている。

紬にしても、姫子達の死にショックを受けながらも澪を支えている。

澪はようやく『強さ』の意味を知った。

力だけでも、想いだけでもダメなのだ。

悲しみを、困難を、己の無力さを乗り越える『意志』こそが『強さ』なのだから…

「…ムギ、律の所に行こう…私達にも、出来る事がある筈なんだ。…泣いてるだけじゃ、誰も救えないし、救われない」

澪は涙を流しながら紬に話しているが、その瞳に迷いはない。

やるべき事を、己に出来る事を…澪の瞳に宿る確かな決意を紬は感じ取った。

「…それでこそ、私の知ってる澪ちゃんよ。…行きましょ!」

死者の為に出来る事は死を悼む事だけではない。

その『意志』を継いで絶やさないようにする事が、本当の意味で『死を悼む』事なのかも知れない。

紬は未だ帰らぬ梓の身を案じながら、澪の手を引いて部屋を出て行った。

 

ー 『祈りは届くのか?』

目を閉じ、梓の無事を祈る唯に誰かが囁く。

いつもの声だ…『あの日』、姫子といちごの死を目の当たりにした時からこの声は聞こえる。

姫子を殺したグールが姫子達を『虫ケラ』と罵った時もこの声は聞こえていた。

『殺せ!殺せ!』と唯を急き立てた。

そして、今も唯の中の声は止まない。

『本当は判っているんだろう?『中野 梓』は死んだ。お前に出来る事は何だ?祈る事か?違う!殺せ!全て殺せ!許せないんだろう?なら、殺せ!殺し尽くせ!』

声は鳴り止まない。

音量を増し、唯の全てを支配していく。

(…違うよ…あずにゃんは生きてる。約束したから…祈ってるのは無事じゃない。早くここに帰って来られる様に祈ってるんだ)

『そんな事はあり得ない。お前は目を背けているだけだ。俺の声に全てを委ねろ!俺がお前を救ってやる!俺だけがお前を救ってやれる!』

(違うよ。澪ちゃんもムギちゃんも、憂も和ちゃんも律っちゃんも…皆、私を支えてくれる。もちろん、あずにゃんも…私を救うのは『あなた』じゃない、『私』だよ)

『お前はいつか気づく。そして俺に身を委ねる…この世界は残酷だからな。俺は『お前』だ。その時までは…』

声は止んだ。

閉じていた瞳をそっと開く。

(判っていたんだ…最初から。この世界は残酷だけど、『希望』は潰えない事。願いや祈りは叶う事)

「…おかえり、あずにゃん…」

唯は梓を優しく抱き締めた。

暖かな体温が凍りついた心を溶かす様に、梓も唯も涙を流した。

「…唯…先輩…グスッ…唯…先輩!」

心の中で渇望していた温もりを求める様に、梓は唯の背中に手を回す。

「…もう、大丈夫だから。帰ろう?…皆が待ってるよ」

 

ー 生還した『中野 梓』の報告では、2位『鳴神 悠』の死亡が確認された。

その後、『海上ファクトリーフロート』が光と共に消失した話から、貴寛は3位『火神 大芽』の死も同時に確信した。

唯の報告と梓の報告では食い違う点もあるが、唯が確認した段階では大芽は死んでいなかったのだろう。

悠が倒され、その敵を道連れに大芽が自爆したとみて間違いない。

大芽は『切り札』を使ったのだ。

「…チッ…どいつもこいつも…勝手に逝きやがって」

貴寛は天井を見つめ、久々に涙を流した。

悠と大芽は、自分達が『ISS能力者』になる前からの付き合いだ。

3人でよくバカな事をやった。

最初は3人、少しずつ色んなチームを吸収し一大勢力を築き上げていった。

名前の通り、正に『帝国』そのものだったと言っても過言ではない。

そしてある日、チームの崩壊と共に3人は新しい『人生』を歩み始めた。

力を手にし、いつの日か3人でもう一度『帝国』を…

昔を懐かしみながらも煮え滾った憎悪に身を焦がし、強烈な破壊衝動に駆られる。

「…ぶっ殺してやる!!」

呟きと同時に、突如けたたましいサイレンの音が貴寛の思考を遮った。

そのサイレンが何を意味するかを悟り、貴寛は口許を歪める。

「…そうこなくっちゃなぁ!」

貴寛は笑っていた。

狂気に満ちた笑みを浮かべたまま、貴寛は自室を後にする。

途中、『加賀 悟』から連絡があり、施設の周辺を数百、数千のグールが取り囲んでいるらしい事を知った。

加賀からの提案は6位と8位を外に展開し敵の気をそらし、そこを残存精力で一気に叩くというものだったが、一蹴してやった。

(ふざけるな!誰が手柄を譲ってやるもんか!こいつらは俺が殺す…1匹残らずだ!)

復讐などとのたまう気はない。

悠も大芽も、死は覚悟の上だった筈だ。

だが、仇は討つ。

今日まで共に歩いてきてくれた『同志』の為の、せめてもの餞だ。

 

ー とある一室。

数日間休まず動き続けた事により、かなり衰弱していた梓が休む自室に唯はいた。

ただ、梓は泣いていた。

梓の懺悔を聞いて、唯は複雑な気分になった。

『鳴神 悠』。

唯達にとって、13人いる『幹部』の中でも最も馴染み深く、かつ深く関わった人間である。

口数は少ないながらも、面倒見が良く相談にも乗ってくれた。

唯達には『桜ヶ丘高校軽音楽部』時代に『山中 さわ子』という顧問の教師がいた。

容姿端麗でありながら、真面目に活動しない軽音楽部に理解を示し、同じ目線に立って物事を考えるそんな教師だった。

もちろん、特異な趣味や破綻した性格の持ち主で苦労した事もあったが、それでも皆に愛される教師だったと思う。

そんなさわ子も唯達とは合流出来ず、その後の安否は判らない。

性格など、全くといっていい程違うが、唯達にとって悠とさわ子は似ていた。

それは多分、唯達を暖かく見守り、時にはしっかり導いてくれたからかも知れない。

結論からいえば、悠は敵のボスをあと一歩まで追い詰めておきながら、梓が人質に捕らわれた事で梓を助けるために命を落としたらしい。

そして、梓は自分を責めた。

どちらが生き残った方が良かったかなど、一目瞭然だ。

戦闘特化型の悠だからこそ、人々の為に戦い守る事も出来る。

だが、梓の能力は戦闘特化とは言い難く、悠程の成果は出せないのが明白だ。

だからこそ、梓は自分を責めていた。

自分が見捨てなければ、悠は死なずに済んだのだと…

「…きっとね、それは違うよ?あずにゃん」

唯の優しい声音に、梓が顔を上げる。

そっと優しく抱き締め、梓の耳元で優しく囁く。

「…悠さんはね、きっと判ってたんだよ。だから、あずにゃんに託したんだ…『未来』を。悠さんはあずにゃんに生きて欲しかったんだよ…それは私も同じだけどねぇ」

唯がいつもの様に柔らかく笑う。

梓からその顔は見えないが、それでも唯の声が温もりが梓の後悔の念を溶かしていく。

この数日間、時にはグールと戦闘しながらも唯に会いたい一心で走り続けてきた。

この笑顔に、この温もりに触れる為、生きてきたのかもしれない。

梓は心からそう思った。

その時、けたたましいサイレンに音が鳴り響いた。

鳴り響くサイレンの音に、唯は妙な胸騒ぎを覚えた。

唯達のいる軍事区画は地下にある一般区画とは違い地上にある。

『セントラルシティ』の中央に位置するその建物は地下の一般区画とはたった一つのエレベーターによってのみ、繋がっているのだ。

以前悠に助け出された際も唯達もここに連れてこられ、避難施設の一般区画へと通された。

そして、戦う事を選び、一般区画から軍事区画へと居住地を変えていた。

グールもそれが判っているのだろう。

この軍事区画へと襲撃をかけてくる事は珍しくなかった。

しかし、事態はかなり逼迫している。

前回の任務で『幹部』を3人失っている上に、梓や律は戦える状態ではない。

残った『幹部』3人と唯、憂以外ではまともな戦力は期待できない。

一般の兵士達も手術は受けているが、能力的にも強化度的にも唯や憂の半分程度しかなかったからだ。

「…行かなきゃ…もう、誰も死なせないから!」

「…唯先輩…」

「行こう!あずにゃん。みんなと1度合流しよう!」

「…はいっ!」

唯は梓の手をしっかり握る。

今度こそ、離れ離れにならないように…




閲覧ありがとうございました
今回は前回と次回の繋ぎなので、盛り上がる箇所もなくすいません
次回はバトルメインの回になります…一応、3回で終わらせたいなと考えています
では、次回もよろしくお願いします
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