けいおんアウトブレイク   作:アドルフ大佐

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お待たせしました、第二十話更新となります
物語も佳境です
なるべく早く次の更新が出来る様に頑張ります


第二十話 激情

 

サイレンの音に導かれる様に外に出た貴寛の眼前には、グールの群れがあった。

その数、数千。

もしかしたら建物自体が囲まれている可能性もあるので、数万の大群かもしれない。

戦いにゴングはない。

これは試合ではなく、生き残りを懸けた『殺し合い』なのだ。

紛れもない最終決戦。

貴寛は生きる事を放棄していた。

いや、もしかしたら人ならざる『モノ』になってしまった時点で生きる事を放棄していたのかもしれない。

凄まじい叫び声…いや、怒号をあげてグールが殺到する。

貴寛は笑う。

それと同時に殺到していたグールが動きを止め、次の瞬間には捻じ切れる様に粉々になり宙を舞った。

引力と斥力による圧殺。

それらをミキサーの様に回転させ、グールを次々に粉砕していく。

貴寛は悠然と歩いていた。

海上フロートの一件から辛くも生き延びた『中野 梓』の情報によれば、貴寛の目的地はまだ先かもしれない。

数十、数百単位で殺戮の行進を続けながら、貴寛はようやく開けた場所に出た。

正確には、グールの群れが貴寛を取り囲んだに過ぎないのだが、戦うにはお誂え向きの広さだった。

貴寛の確信は当たっていた。

貴寛の目の前にはかつての仲間にして、最も憎むべき敵…『ユイ』がいた。

「…よぅ…殺しに来てやったぜ?」

先に声を発した貴寛の表情は驚くほど穏やかだった。

まるで、旧知の友に出会ったかのような、先程の狂気じみた微笑みが嘘の様な…

「久しぶりだね…貴寛君。…今日で全てを終わらせるよ」

「…終わらせる?…あぁ、お前ら全員殺して俺が終わらせるわ」

「…それはどうかな?…もう、君は『最強』じゃないんだよ?だから…君を殺す。…それは私にしか出来ない事だから」

互いに退く気はない。

当たり前だ…今、人間側は戦力が枯渇している。

落とすなら、今しかない。

ここからは生き残りを懸けた『総力戦』。

負けた方が滅びる。

「…俺を殺す、か…いいねぇ…だがよぉ…こっから先は通行止めだ!!」

怒声と共に貴寛が地面を踏み抜き、アスファルトに無数のヒビが入る。

「生きて帰れっと思うなよ…三下ァ!!」

貴寛が吠え、凄まじいスピードでユイに向かって突進した。

 

ー 和は悟と共に司令室にいた。

状況は最悪だ。

6位と8位が外部の掃討に出ているが、余りの数に手も足も出ないだろう。

唯は戦える状態だが、傷の完治してない梓や未だ抜け殻状態の律では戦力にならない。

建物のあちらこちらで戦闘音が鳴り響き、軍事区画はさながら地獄絵図の様相を呈していた。

「…やれやれ、困りましたね。ここはもうダメです…軍事区画を放棄して民間区画に避難しましょう」

言うや否や、悟は立ち上がり、ドアに向かう。

「待って下さい!…今、民間区画に避難なんかしたら、グールが浸入する恐れがあります!それに…味方がまだ戦っているのに、私達だけ安全な場所に避難なんて出来ません!」

和の悲痛な叫びに足を止め、いつもの微笑を貼り付けたまま悟が振り返る。

「…いいんです、それで。僕の役割りは民間区画にグールを入れる事ですから」

この男は何を言っているのだ?

和は呆気にとられ、開いた口が塞がらない。

「…君は優秀だが、人を疑う事を知らな過ぎますね。可笑しいとは思いませんでしたか?なぜ、黒澤博士がわざわざ証拠を残して姿を眩ませたか…何故、海上フロートで狙ったかの様にグールが襲撃してきたか」

その言葉を聞いて、和は気がついた。

全ては仕組まれていたとしたら?

黒澤は証拠は残さなかった、しかし行き先は一つ…自らの研究所だ。

だとしたら、何故研究所のある場所が海上フロートだと判ったのか…そして、悠達が海上フロートに来るのを最初から知っていたかの様な襲撃。

黒澤自身も知らない、もう一つの陰謀があったとするなら…和は愕然とした。

「…気づきましたか?…僕は選ばれたのです!あの天使の様な方から。全ての人類を滅ぼし、僕と彼女はアダムとイヴになる!…もう、誰にも止められない」

悟は最初から、黒澤の隠された研究所の場所を知っていた。

黒澤が余命幾ばかで自らの運命を悲観し、人類とグール両方を滅ぼしそうとしている事も知っていた。

悟のいう『天使』から教えられ、悟もまた悠達の能力や人数などを『天使』に教えた。

全ては、人類もグールも居ない世界で2人で愛を育み、新たな人類を創造する為に。

悠達はよくやってくれた。

計画通り黒澤を抹殺し、『天使』によって倒されてくれた。

不安ではあったのだ。

悟は『2位』『3位』「4位』の強さをよく知っていた。

だが、杞憂だった…昨日、『天使』が連絡してきたからだ。

今日の襲撃を、そして自分が為すべき事を。

「ふざけないで!!…よくも、のうのうと…許さない!」

和は激昂して叫ぶ。

「…やれやれ…これでも僕は『幹部』だよ?君如きが勝てる筈、ないだろう?」

悟は肩を竦め、困った様に呟いてスッとナイフを構えた。

態勢を低くして、悟が和の隙を伺う。

普通に考えれば、仮にも末席とはいえ『幹部』である悟に非戦闘要員の和が敵うはずがない。

これが、唯や律、憂や梓であれば話は変わってくるのだが…

それでも、退く訳にはいかない。

身勝手な欲望の為に人類を、たくさんの人達が命を懸けて繋ぎ守ってきたものを壊す事を看過できる程、和は人間に失望してはいない。

和は見た。

悟の後ろに気配すら感じさせず立っている男。

認識して初めて気づく、禍々しい程の負のオーラを纏った男。

白い短髪、目を隠す様に巻かれた布には『単眼』の絵が描かれている。

不敵な笑みを浮かべた口元からは常人より遥かに長い舌がその存在感を強調する様に不快な動きを繰り返す。

身長は180㎝くらいだろうか、細身ではあるが引き締まった筋肉が非力ではない事を物語る。

「…おや?…早かったですね。では、ここは貴方に任せて、僕は隔壁の解除に向かいますね」

悟はその男に気付き、この場を任せる旨を告げると部屋を後にしようとした。

瞬間、鮮血と共に悟の右腕が宙を舞った。

「なっ!…何を…気でも狂ったか!」

悟の声に男は下卑た笑みを浮かべる。

「…あァん?…ゼロの言ッてた協力者ッてのはてめェだろ?…殺していいッて聞いてるぜェ?」

悟の表情が驚愕に染まる。

「バッ、バカな!…天使が僕を?…そんな訳はない!僕は選ばれたんだぞ!世界の新たなそうぞっ」

悟の言葉を遮る様に男が腕を振るうと、ゴトリッという音と共に悟の頭部が床に転がった。

「だからよォ…用済みなんだよ。…久々なんだよッ!どいつもこいつも皆殺しだァッ!!」

男が狂った様に笑い出す。

和は完全に飲まれていた。

男の纏うオーラは絶対的な『死』の象徴でもあるように感じた。

「…人間じゃないわね…セクター4…」

和の呟きに男が反応し、笑うのをピタリと止めた。

「…セクター4『ドライ』ッてんだ…今からてめェを殺す名だァ…覚えとけ」

 

ー 憂は唯や梓と合流に成功していた。

建物内部はさながら戦場と化しており、安全な場所などかいむだった。

既に何体ものセクター2を倒し、憂は1人和のいる司令室を目指す。

唯や梓は律の安否を確認する為、すでに別行動に移っていた。

「…お姉ちゃん…無事でいてね」

既に半年以上もこの軍事区画に住んでいるから地図は頭の中にある。

最短ルートでグールを蹴散らし、司令室を目指す憂にも判っていた。

ここを落とされたら、人類は滅ぶ。

立ち塞がるグールをまた1体倒し、憂は司令室に急いだ。

 

ー 悟の死を目の当たりにしたが、不思議な程和は落ち着いていた。

悟を倒した手並みから、相当な使い手である事は明白だ。

和が能力を展開すると、一冊の本がどこからともなく現れた。

黒表紙のありふれた分厚い本だが、これこそが和の能力。

『ザ・ブック』。

和が認識した対象に対して、あらゆるステータスを分析する能力。

敵の能力を知る事は大きなアドバンテージを得る事に他ならない。

グールの様に本能と身体能力にまかせて戦う生物には大した意味はないが、特殊な能力を持ち、それらを効果的に使用する知的生命体であったなら、和の能力はかなり有用であった。

和が無造作に開いたページにドライの姿が浮かび上がり、次いでドライの詳細な能力が網羅されていく。

(…セクター4、ドライ…身体能力はスピードが10でその他は8、典型的なスピードタイプね。能力は…これは中々厄介ね…なら!)

和はドライに向かって真っ直ぐ突っ込んだ。

一見無謀にも思える正面からの突進だが、和には勝算がある。

和の能力によって分析した結果、ドライには大きな欠点があったからだ。

和の後ろ回し上段蹴りが、前傾姿勢だったドライの頭部を捉える。

そこから、和は間髪入れずに打撃を繰り出し続ける。

右手鉤突き、左掌底による突き上げ、鳩尾への右突き蹴り、身体を捻っての左蹴り上げ…無数の打撃を間髪入れずに繰り出し、ドライに反撃も倒れる事も許さない。

和の能力は戦闘向きではないので、実質戦闘となれば、能力の無い唯と大差はない。

それでも、唯が討伐隊に編成され、和が後方支援の通信部隊に配属されたのは偏に『才能の差』だった。

唯は音楽だけでなく、戦闘に対してもその天才的な才能と適性を如何なく発揮した。

それに比べて和はあくまで努力でそれらを埋めようとしていた。

努力する天才『平沢 唯』と努力する凡人『真鍋 和』…その差は歴然だった。

それでも…和は鍛練を1度も欠かしていない。

後方支援で実際に戦う機会は無くとも、特別な才能や適性がなくとも磨き続けた。

それが凡人の中の秀才たる和が天才『平沢 唯』の隣にいる為のたった一つの方法だった。

しかし、人の願いは儚く、大体は叶わずに消えていく。

和の猛攻はドライのたった一撃で途切れた。

ドライの右腕は和の腹部を貫通し、和の身体を軽々と持ち上げる。

「…カハッ…くっ…」

「…ちッたァ、出来るかと思ッたが…ヒヒッ…こんなもんだよなァ!!」

ドライが右腕を振るうと、和の身体は床を転がった。

見慣れた司令室の天井を見上げ、和は苦笑した。

痛覚は既に麻痺しているのか、痛みよりは熱を伴っているかの様だ。

もしかしたら、それが痛みなのかもしれない。

身体を動かそうとするが力が全くと言っていいほど入らない。

和は実感した…これが『死』だと。

血液が外に出る度に『命』が溢れていくのが判る。

和は涙を流した。

それは守ると誓った愛しい幼馴染の為であり、無力な自分に対するやり場のない怒りの為でもあった。

憂が司令室に辿り着いたのは、正に和の命が尽きようとしているそんな時だった。

「和ちゃん!!」

憂の声にドライは振り返り、ニタリと笑う。

「あァん?…新手かァ?…ヒヒッ…そこのッ」

ドライの言葉を回し蹴りで遮り、憂は和に駆け寄る。

「…和ちゃん…」

「…憂…よかった」

和は安堵した。

自分の死は無駄ではない、自分の戦いはまだ終わりではない、そんな強い思いが和の命に小さな火を灯す。

「…聞きなさい、憂…敵はスピードタイプよ、能力は…ぐっ!…認識阻害…あなたの視覚を奪うタイプよ……音や気配を…消す、暗殺スキルの持ち主…お願い…唯を…」

和が自身の能力によって知り得た情報…それを誰かに伝える。

和は最後に憂に託した。

願いを、祈りを、意志を…それらは決して潰えない。

和の目から命の光が消えた時、憂はその身体を抱きしめ、涙を流した。

姉である唯の幼馴染であった和は、憂にとってはもう一人の姉の様な存在だった。

賢く、自分自身を強く持った芯の強い、そんな少女だった。

常に優しく唯や憂を見守ってきた母親の様な和…それを奪われた事で憂は激しい憤怒に身を焦がされた。

 

ー 憂の回し蹴りをまともに喰らい、吹き飛んだドライはほんの少しだが動揺していた。

見えなかった訳でも反応できなかった訳でもないのだが、何故か防ぐ事は出来なかった。

(何だこりャあ…訳がワカラネェヤ)

ドライの思考は既に崩壊寸前だった。

グールとは、黒澤が創り出した改良型擬似人体改造兵器『スルト』を母体である人間の内部に植え付ける事で生み出される。

独自に意志を持つそれは人間の肉体を思うがままに弄くり回す。

そして膨張し、変貌した母体はまさに『繭』を彷彿とさせる。

これを人は『セクター2』と呼称する。

その繭を破り、漆黒の甲皮で覆われた人型の化物が『セクター3』に相当する。

ここまでが基本的なグールの進化形態と言われるが、ほんの僅か、その先の形態に進化する個体がある。

それがドライを始めとする『セクター4』だ。

身体能力では『セクター3』をも凌駕し、『ISS能力者』が所有する特殊な能力をも手にした完全無欠にして唯一の存在。

他のグールとの違いは能力の有無ではない。

一部だが、能力を発現した『セクター3』も存在はするのだ。

では、違いとは…『自我』である。

母体の持つ本来の記憶と自我…グールになった時点で消滅したはずのそれは、『セクター4』に進化した個体だけに復元される様だ。

いつだったか、黒澤は言っていた『セクター4とは、『スルト』の呪縛を断ち切った稀有な存在である』と。

ドライは黒澤が好きではなかった。

自分の身体を弄び、化物を産み出す実験道具くらいにしか思っていなかったからだ。

他の『セクター4』がどうかは知らないが、ドライの脆弱な自我は『スルト』の呪縛に度々取り込まれていた。

「ぶッ殺すッ!!」

叫び、憂に向かって駆け出す。

憂もまた、和を横たわらせるとドライに向かって駆け出した。

ドライの方が体格的にもリーチがあり、先手を取れるはずだった。

しかし、伸ばした右腕が当たるより早く、憂の姿が消えた。

見失ったというよりは、文字通り『消えた』のだ。

憂の姿を見失ったと同時に身体中に衝撃を受けているのを認識した。

(?…殴られてる?…こりァ、まさか…)

ドライの推測は当たっていた。

憂は凄まじいスピードと破壊力のある打撃を、動き回りながら放っていた。

あらゆる角度から不規則に、かつ、間髪入れずに放たれる打撃をドライに防ぐ術は無い。

何故なら、攻撃を繰り出す憂の姿をドライは見る事が出来ないからだ。

ドライはそもそも、グールになる前から視力を失っていた。

『セクター4』に進化する以前は判らないが、『セクター4』に進化してからは生前と同じく視覚は失われた状態だった。

だが、限界まで研ぎ澄まされたドライの感覚は音や気配だけで相手の位置や動きを正確に察知できていた。

そのドライの感覚をもってしても、憂の動きは位置を特定できなかった。

認識されるより早く動く…だだそれだけだが、それが出来る生物は少ない。

憂は既に、ドライにとって絶対的な捕食者に違いなかった。

(殺られる?…俺が?)

グールや『ISS能力者』を遥かに上回る強度を誇る肉体も、憂の攻撃の前に確実に破壊されようとしていた。

憂は怒りに我を忘れていた。

親しい人間を目の前で殺された怒りが、思考の全てを奪っている。

しかし、冷静に攻撃を組み立てている自分がいる事も否定できない。

憂のスピードはドライの反応を大きく凌駕し、憂の攻撃力はドライの肉体の強度を超えている。

あとどれくらいか…ひたすら攻撃し続けてさえいれば勝利は目の前の筈だった。

憂は突然、攻撃を止めた。

正確には、続ける事が出来なかった。

怒りにまかせて能力の制御を誤ったのだ。

「ぐっ…あぁ…」

何とか踏ん張り、再度攻撃に転じようとするが身体に力が入らない。

当然だ。

今の憂はガス欠の車と変わらない、いくらアクセルを踏み込んだ所で動く筈がない。

万事休す、形勢は完全に逆転した。

ドライ自身も満身創痍ではあるが、トドメを刺すのは容易い。

何より、憂の能力は圧倒的な差がある筈の『セクター4』を上回っているのだ。

ここで仕留めなければ。

それは『スルト』との身体の主権争いで磨り減った自我の最後の警鐘だった。

能力を使うまでもない。

ドライは右腕を高く上げ、憂に最後の鉄槌を降すべく力を込め、右腕を振り下ろした。

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございました
今回で20話…中々長引きましたね
次も最終話に向けて頑張ります
応援よろしくお願いします

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