予定より早く出来たので掲載します
地下の避難施設に来て、強化手術により『ISS能力者』になってから早くも3ヶ月の月日が流れた。
それぞれが自分に出来る最大限の事をしようと、ただそれだけを考えてやってきた。
非戦闘員でもある澪と紬は戦闘部隊をサポートする通信士(オペレーター)の役割りを与えられ、機器の使い方から短く適切な情報伝達のスキルを学んだ。
今では形は違えど、唯達と一緒にこの地獄の様な世界と戦っている。
和も能力的に戦闘に向かないと判断され、基本的には通信士として戦闘部隊のサポートを担当している。
当初は唯の近くで唯を守りたいと思っていたが、幹部の判断で通信士に配備された。
やりたい事と出来る事は必ずしも一致しない。
それでも意思と能力がある以上、誰もが最大限の事がしたかった。
「唯…気をつけてね」
和は唯に声をかけ、優しく抱き締める。
「…ありがと…絶対に帰ってくるから」
根本は変わらないが、昔とは違い頼りなさげな唯はもういない。
悠の訓練は中々に壮絶を極めた。
その中であらゆる面で最も成長を遂げたのは唯だと、和は思う。
1人だけ能力を得られず、周りと大きな差が出来た。
しかし、唯は諦めずに努力を重ね、無能力者ながら今回の出撃メンバーに選ばれた。
そんな唯を見て、和は嬉しい様な寂しい様な複雑な気持ちを抱くのだった。
「…律…必ず帰ってこいよ」
「判ってるって…大丈夫だよ、必ず帰ってくるから」
律と澪は互いに見つめ合い、言葉を交わす。
幼い頃からずっと一緒にいた。
その共有した時間はそのまま絆の強さだ。
だからこそ、失う事を何よりも恐れた。
律は澪のそんな性格を知っていたし、そんな澪が大好きだった。
だから、笑ながら冗談を言う。
「帰ってきたらどう戦ったのかとか嫌になるくらい細かく教えてやるから」
「うっ…い、痛い話はあんまりするなよ?」
律は笑う、それを見て澪も笑う。
律はそんな澪を見て、必ず生きて帰ると心に誓った。
「全員、準備は済んだか?…今回から訓練とは違う、実戦だ。一瞬の判断や行動が死へと繋がる…教官として、お前達に行う最後の命令だ。…死ぬな、必ず生きて帰ってこい!」
「はいっ!」
悠の激励に、全員が敬礼をしながら大声で返事をする。
悠の言葉には重みがあり、全員の緊張がより一層増した。
今回は唯、律、梓、姫子、いちご、憂による初陣でもあり、サポート役として幹部3人が同行する予定だ。
暫くすると2人の女性が作戦室に入って来た。
1人は梓と大して変わらない小柄な女性だ。
肩に掛からないくらいの淡い栗色のショートカットに可愛らしい顔立ち。
その顔に表情は薄く、何より目を引くのが背中に担いだ3m近い巨大なライフル。
その余りにも不釣り合いなコントラストに一同が目を奪われる。
もう1人は対照的に背が高くプロポーションも抜群な大人の女性だった。
黒髪にポニーテール、快活そうな印象を受ける美人。
「紹介しておく。今回同行する6位の蜂須賀と8位の六道だ。そして、俺を加えた幹部3人が同行する」
「あたしが蜂須賀だ、よろしくな!」
「…六道です…宜しく」
背が高い方が6位で小柄な方が8位。
最初に感じた通り、6位は明るく快活な体育会系で、8位は物静かな文学少女だった。
「では、行くぞ…時間が無い」
ー 久々の地上は想像とはまるで違っていた。
華やかだった街並みは荒れ果て、さながらゴーストタウンと化している。
悠は不意に立ち止まり、振り返って静かに問いかけた。
「…ここから先はいつ、誰が死んでもおかしくない…覚悟はいいな?」
「はい!」
悠の問いに全員が応え、悠は満足げに頷くと一行は街の最深部へと足を踏み入れていった。
暫く歩いた所で六道が大声を出した。
「来ます!…前方から8、右から9!」
唯達に緊張が走る。
訓練は積んだが、実際に戦うのは今日が初めてなのだから無理もない。
「蜂須賀、六道、右翼を片付けて来い。…前方は俺達でやる」
悠の指示がとぶや否や蜂須賀と六道は瞬時に姿を消した。
「!!…空間転移(テレポート)?」
唖然とする一同の中、いちごが呟いた。
「その通りだ…蜂須賀はレベル4の『テレポート使い』だ。六道はレベル4の『透視(クレアボイアンス)』の使い手で、2人合わさると死角が無くなるからな。常にコンビで動いているんだ。…さて、来たみたいだな…」
悠が話を途中で遮って見つめる先には8体のグールが控えていた。
「セクター2が8体…お前らだけでやれるな?」
悠の言葉に全員が無言で頷く。
グールにも成長段階があるらしく、それらは『セクター』という言葉で表される。
宿主の原形を止めた状態がセクター1で、寄生からわずか数時間でセクター2に移行する。
この『寄生』という言葉が示す通り、グールの原因は地球上には存在しえない未知の寄生虫であるそうだ。
黒澤に座学の際に習ったのだが、当時、唯達は半信半疑だった。
しかし、黒澤が採取したグールの『本体』のホルマリン漬けを見た瞬間、凄まじい吐き気に襲われたのは記憶に新しい。
気色悪いピンク色の芋虫の様であり、そこから無数の触手が伸びていた。
とにかく、脅威になるのは『セクター2』からである。
唯達が最初に遭遇したグールもこのセクター2に該当していた。
不自然に膨張した身体、その所々に人間だったであろうパーツが見え隠れする異形の化け物。
グールが雄叫びと同時に唯達に迫る。
唯達もまた、臨戦態勢に入ってグールを待ち構えた。
ー 真っ先に飛び出したのは律だった。
手には両手持ち用の柄の長い両刃の大剣が握られている。
律の能力を最大限に活かすには二つの要素が必要不可欠だと悠は言った。
一つ目は武器の選択。
律は基本的に考えて戦うタイプではないし、戦いの中でのかけ引きを苦手としていた。
戦いにおいて、かけ引きは最も重要な要素の一つだ。
特にグールの様な本能で向かってくる敵に対して重要なのは敵の動きを読み、的確な攻撃を行う事。
回避に関しては野生の勘が働くのか、悪くない。
ただ、それだけでは勝つことは出来ない。
ならば、敵が回避不能な状態を作ればいい。
律の適正を考え、武器は打ち下ろすか薙ぎ払うかの2択しか持たない反面、威力だけは高い大剣を悠は勧めた。
二つ目は能力との相性である。
飛び道具はその性質から律の能力との相性が悪かった。
律の能力は近接戦闘でその効果を最大限に発揮する。
律もそうだが、唯達は『鳴神 悠』に絶対の信頼を寄せている。
グールに蹂躙されていた学園から助け出し、『ISS能力者』となった自分達にいつも的確な助言や指導をしてくれた。
故に、律は悠が用意し、渡してきた武器を使用している。
「はぁああああ!」
律が大剣で前方を薙ぎ払うが、グールが態勢を低くして躱す。
転瞬、グールは下からすくい上げる様に腕を振るった。
律の武器は大型である為、どうしても次の動作までに大きな隙が出来る。
グールは律の攻撃を躱した瞬間に本能でそれを悟り、素早く反撃に転じたのだ。
律が常人であったなら、この時点で死亡は免れない。
次の瞬間、真っ二つになったのは反撃に転じたグールの方だった。
律の目の前に『もう1人の律』が現れ、それが大剣を一閃してグールを真っ二つにしたのだ。
(よし!いける!)
律はこの瞬間、自分の能力がグール相手に通用する事を確信した。
「律先輩の能力、凄いですよね…『ドッペルゲンガー』でしたっけ?」
梓が唯に声をかける。
「うん…負けてられないね!私達も行こう!あずにゃん」
「はい!」
唯の言葉に梓が頷き、2人共駆け出す。
梓の言った通り、『ドッペルゲンガー』とは律の能力の名前だ。
もう1人の自分。
つまりは分身を創り出す能力。
分身は身体能力はもちろん、手にしている武器までもが忠実に再現される。
分身は自立行動こそ出来ないものの、律が行う動作の一つ先の動作を行う事が出来た。
攻撃を行う際、人は必ず次の攻撃をイメージする。
律の能力はそれをもう1人の自分に行わせ、自分は更に次の攻撃を行う。
つまり、大剣の性質によって生まれる致命的な隙を能力によって完全に相殺出来るのだ。
だからこそ、悠はわざと律に大振りで威力のある大剣を持たせた。
律がまたも大剣で薙ぎ払い、新たなグールがそれを躱し、反撃に転じる。
しかし、それより早く分身による蹴り上げが決まり、グールの身体が宙に浮く。
「人間を…舐めるな!」
宙に浮くのとほぼ同時に、空中にいた律本人の強烈な打ち下ろしがグールを縦に真っ二つにした。
閲覧ありがとうございました
今回から再びグールとの戦闘がメインになる中盤戦に突入します
次回は第九話、初陣の続きになります
律以外のメンバーの能力を一挙公開したいと思っています
次回は掲載は明日の午前中を目処に掲載したいと思います
では、次回も宜しくお願いします