けいおんアウトブレイク   作:アドルフ大佐

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第九話 初陣2

「ふふっ…律は派手好きね」

姫子は鮮やかな手並みでグール2体を片付けた律を見ながら微笑む。

その姫子にも2体のグールが迫り、既に2体共姫子に向かって必殺の一撃を放っていた。

「じゃあ、あたしも…」

姫子が呟いた瞬間、周囲の景色が一変した。

正確には、姫子から見える世界だけが色がなく、纏わりつく様に空気が重い。

そして、全てのものがゆっくりと動いていた。

人は死ぬ瞬間、全てがスローモーションに見えると言う。姫子から見える世界は正にそれだった。

ただ違うのは、その中で姫子だけが普段と同じく動けるという事。

姫子が2体のグールの間を通り抜け様、左側のグールを刀を鞘から抜きながら斬りつけ、もう1体のグールを後ろから袈裟に切り捨てる。

刀を鞘に納め、パチリという鍔鳴りの音と共に能力のスイッチを切る。

瞬間、鮮血と共に真っ二つになったグール2体の死体が転がった。

姫子は身体中に走る痛みに端正な顔を少し歪め、呟いた。

「何度やっても慣れないわね…これは」

姫子の能力は「クイックオアペイン」。

自分自身に流れる時間を早める事で人知を超えたスピードを生み出す能力。

単純にスピードを早くするだけでは、動体視力などが追いつかず不完全な能力になる事が多い。

だが、姫子のそれは時間そのものに干渉するという希少かつ、強力な能力だった。

スローモーションの中で自分だけが普通に動けるということは、つまり、現実では認識出来ないスピードで動いているに他ならない。

普通にやりあった場合、まず逃げる事も勝つ事も不可能。

それほどまでに姫子の能力は完成されていた。

ただ、当然リスクはある。

時間を早める事による老化の急激な進行、そして無理なスピードで身体を動かす事により、能力のスイッチを切った後に身体中に走る激痛。

いかに手術で強化された肉体とはいえ、許容範囲内に収まらないスピードで動けば壊れるのは必然だ。

悠は能力の乱用を避け、出来る限り生身で戦う様に助言した。

(あの短い時間、たったあれだけの動作でこれか…確かに、乱用は避けるべきかも…)

相変わらず身体中に走る激痛に姫子は溜息をもらした。

 

ー 唯はグール2体を相手に互角以上にやり合っていた。

素早く、けれど流れる様な滑らかな動きでグールの攻撃を躱していく。

既に梓の姿は見えない。

能力を使ったのだろう。

唯がそう思ったのとほぼ同時にグール2体の首が落ちた。

ドサッと、音を立てて倒れたグールの背後に小柄な美少女が立っている。

唯はそっと胸を撫で下ろし、いつもの様に梓に抱きついた。

「あ〜ずにゃん!」

「ふにゃ!ちょっ…唯先輩、ここ戦場ですよ!」

唯のやる事には脈絡や理由といったものは存在しないのか…梓は嘆息した。

でも、唯のこの暖かさは決して嫌いではない。

「も、もう…ちょっとだけですよ」

唯が居て良かったと素直に思う。

その想いが行動に出たのか、梓も唯の背中に手を回し抱きしめた。

「熱いねぇ、お二人さん」

「…緊張感無さ過ぎ」

姫子がニヤニヤしながら冷やかし、律が呆れた様に言いながら軽く唯の頭を叩く。

ドカッ!!

凄まじい音と共に、梓のすぐ後ろにグールが吹き飛んできた。

「ごめ〜ん、梓ちゃん…怪我、無かった?」

「…憂…」

憂はこれでもかと言うくらい笑顔だが、その笑顔には計り知れない威圧と怒気が込められている。

戦場は一つではない。

梓は悟った。

ここに、もう一つの新たな戦いが静かに始まろうとしていた。

既に憂といちごの2人は1体ずつ倒していたし、これで正面から来ていたグールに関しては殲滅したと言っていい。

後は別行動をとっている蜂須賀と六道が戻ってくるのを待つのみだ。

「…よし…各自、実戦は終了だな。

帰還するぞ」

悠の判断と言葉は意外なものだった。

合流してない時点で、蜂須賀達はまだ戦闘中とみていい。

その蜂須賀達を残しての帰投。

しかも、地上に来てまだ30分程度しか経っていない。

「ちょ…蜂須賀さん達はいいんですか?多分、まだ戦ってますよ?」

律の言葉は悠にとって意外だったのか、少し間を置いて答えた。

「…あいつらを何だと思っている?…仮にも幹部に名を連ねる2人だ。この程度では死なんし、仮に死んでもその程度だったというだけの話だ。それより、今お前達は無駄に高揚している…今日は戻って頭を冷やせ」

それぞれ思う所はあったが、悠の言葉は正しいのだろう。

確かに初の実戦、気分は異様に高揚している。

こんな状態での戦闘は間違いが起きやすいという事か。

全員その言葉に従い、来た道を戻っていった。

 

ー 「へぇ…すげぇじゃんか。これだけ高レベルの能力者ばかりとはねぇ…で、そいつらは?」

貴寛は渡された資料に目を通し、黒澤に素直な感想を告げる。

「2位が実戦研修に連れ出しているよ。6位と8位も一緒だ」

「あー、あいつらか…なら、問題ねぇだろ。そろそろ話せよ、わざわざ呼びつけといて世間話してぇのかよ?」

黒澤は背中を向けたまま、貴寛の言葉に答える。

「…私の地上にある研究施設だがね…アレを破壊してきて欲しい。まさかとは思うが、あそこには『ISS能力強化手術』のデータが残っている。グールの中に知性を持ち、それを扱える者が現れたなら…それは脅威になり得る」

「…そんな事はありえねぇとは思うが…芽を摘んどけって話だろ?何人か借りてくぞ」

貴寛はそれだけを言うと部屋を後にした。

 




閲覧ありがとうございました
次回は第十話…中盤戦の山場になります
現在、鋭意執筆中ですので宜しくお願いします
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