◯◯◯◯って、なんでしょうね?
ふと耳に届いた鈍い音。
気になって向かった校舎裏。
その光景を、俺は信じたくなかった。
それは、典型的ないじめだった。
ー拳が飛ぶー
友人が宙を舞う
ー拳が飛ぶー
友人が倒れ伏す
ー蹴りが走るー
吐くものがなくなった友人の胃液が飛び散る
俺は、その風景が信じられなくて。
陰から見ていることしかできなかった。
だって、そいつは優等生で。
俺みたいな日陰者にも優しくしてくれて。
俺とは違って勉強もできて。
友達もいっぱいいて。
ちょっとしたことでも無邪気に笑い合うことができるやつだ。
なのに、なんで殴られてるんだ?
なんで蹴られてるんだ?
なんで……やり返さないんだ?
お前は、力だって強いはずだろ?
気づいたらアイツらはいなくなっていて。
その場には倒れ伏したそいつだけがのこされていた。
「おい!大丈夫かよ!」
「……なんだ、いたのか……悪い、カッコ悪いところ見せた……ゲホッ」
急いで駆け寄って、そいつを抱き起こす。
そいつは俺を認めると、恥ずかしそうに笑いながらそう言って咳き込んだ
「なんで……なんでお前が殴られてんだよ!なんでお前が蹴られてんだよ!?」
「……お前には……関係ないだろ……」
「ッ!」
俺は、ぶっきらぼうに吐き出されたその言葉に絶句した。
瞳に、強い"色"が見えたから。
……そいつを見ていた俺は酷い顔をしていたと思う。怒りと、悲しみと、困惑が。俺の中でぐるぐる渦巻いていた。
俺は、どう言う感情を抱けばいいのかわからなかった。
その後、そいつは自分で立ち上がり、ふらふらとした足取りで帰っていった。
俺に、ついてくるなと強く言いつけて。
俺はその後ろ姿を眺めていることしかできなかった。
翌日も、その次の日も。ずっとアイツはいじめられていた。
でも俺はやっぱり、出て行くことはできなかった。
怖かった。
俺が狙われることが。
怖かった。
いじめの理由を知ることが。
……薄々、気がついてはいた。
アイツらが叫んでいる内容が、時折聞き取れていたから。
俺は典型的なオタクで、いわゆる「陰キャ」なんて呼ばれるタイプの人種だった。
協調生はあんまりなくて、運動も得意じゃない底辺族。おまけによろしくない噂持ちだ。
アイツは正義感が強いし、友達を大事にするすごいやつだ。
だからきっと、俺を馬鹿にされて、それに言い返した結果が今なのだろう。
なぁ、なんでお前が、俺のせいで殴られなきゃならないんだ?
なんで俺は、お前が殴られているのを見てることしかできないんだ?
俺は……「なんでテメェはそこまでアイツを庇う!体がデカいだけのクソ陰キャをなぜ守る!」
いじめてる側のやつらの1人が大声をあげてアイツに問いかける。
胸元を持ち上げて、揺らしながら叫ぶ。
……そうだ。俺はアイツに守ってもらう資格もないクソ陰キャだ。
なのになんd「決まってる!」
アイツは間髪入れずに即答した。
真っ直ぐ相手の目を見つめて、大声で言い切った
「友達だからだ!お前らやアイツがどう思っていようと!アイツは大切な友達だからだ!そんな友達の悪口を言われて!いじめる計画を目の前で話されて!黙っていられるほど俺はできちゃいねぇ!」
俺はアイツの啖呵を切る姿に、目が離せなかった。
黒髪の中に銀髪が混じった髪、透き通るような空色の瞳。
ヨーロッパから転校してきたアイツは、持ち前の明るさと達者な日本語で、すぐに多くの友達を作った。
そんな友達も、アイツが俺に手を差し伸べてから少しずつ離れていった。
俺さえ切れば、もっと多くの友人の輪の中で笑っていられたであろうアイツに、一度だけ聞いたことがある。
『なぁ、なんで俺と友達になったんだ?』
『うん?どうした?急に』
『いや、気になってさ。俺と仲良くならなきゃ、もっといっぱい友達がいたはずだろ?なのになんでその友達を捨てて俺をとったんだよ』
『んー……なんつーか……』
少し恥ずかしそうに頬を掻いて、笑いながら言う
『お前が"カッコよかった"から、かな』
『……は?俺が?』
『応!何を言われても自分の好きな事を貫こうとするし、一回も手を出したことがないだろ?』
『そりゃぁまぁ……そうだが』
『一種の"生き様"だよな!俺はその在り方が、曲げずに通せる心が、スッゲェかっこいい!って思ったんだ!』
なんの冗談かと思った。
誰に文句を言われようが、好きなものが好きだから。その心で通してきただけだった。
じいちゃんから『手を出されても、出しちゃいかん。出しちまったらそいつらと同じになっちまう』って、耳にタコができるほど聞いたから、手を出さないだけだった。
でも、そう言ってもアイツは『それを通せるのがかっこいいって言ってんだよ!』と笑った。
『かっこいい』が大好きなアイツが、数日前に俺に『カッコわっるいとこを見せた』と言った。
どれほどの屈辱だっただろうか。どれほどの悔しさだっただろうか。
俺にはわからない。わかった気になることはできるが、それはただの侮辱に他ならない。
でも、これだけはわかる。
「こんだけ言わせておいて、行かないのは……」
「友達を侮辱されて!傷つけられることがわかってて!それを見ないふりしてんのは!」
「「クソほどカッコ悪いだろぉがァ!」」
足が動く。あれだけ怖くて動かなかった足が動く。
腕に力が張る。もう2度と振るわないと決めた腕を振りかぶる。
「俺のダチに……」
体の重心が、振りかぶった後ろから、一気に前に移動する。
左足で地面をガッチリ踏み締め、腕を全力で振り抜く。
「手ェ……」
踏み込んだ足を重心に、体を捻り、拳を低い位置から叩き込む。
「出してんじゃねぇ!」
その拳は鳩尾に深く深く突き刺さった。
「……へ?」
アイツが不思議な顔をしてこちらを見る。
「間抜けな顔してるね、シャル」
「……いや、そりゃ驚きもするだろ。急に出てきて、アイツを殴り飛ばすんだもんよ」
ぽかーんとした顔のままそう言う
「……いや、さ。我慢できなくなっちゃって……結局、手を出しちゃったしね」
我慢のできないカッコ悪い友人でごめんね?と苦笑しながら言う
「ハッ……ははは、なんだよそれ……」
気の抜けたような笑いの後に続ける
「カッコ悪いわけないだろ。俺のために恐怖を殴り捨てて、アイツを殴り飛ばしちまったんだから」
殴り飛ばしたそいつを見ると、後ろの壁に頭を打ったようで。完全に目を回していた。
その後、一緒にいた取り巻きたちがそいつを担いで何か言いながら去っていった。
……その後、俺はシャルの方を向いて、頭を下げた。
「ごめん。ありがとう」
万感の思いを込めたその二言と共に。
その言葉を受けとったシャルは数瞬ポカーンとフリーズしていたものの、すぐに笑って言った
「……あぁ!こちらこそ!超!カッコよかったぜ!」
その言葉に、2人で笑いながら肩を組んで帰路についた。
あぁ、そうそう。
こいつは余談なんだが。
シャルが転校してきてから不思議なことがあったんだ。
俺がプレイしてたゲームが、スマホからアンインストールされてたんだよな。
メインで使ってたキャラがシャルに似てた気もするけど、もやがかかったみたいに思い出せないんだ。
まぁ、今となってはあんまり関係ないことなんだよな。
なぁ、じいちゃん。手を出すなって、あんだけ口を酸っぱくして言ってたけどさ。
今回ばっかは許してくれよ。
友達のためなら、信条を捨てるのだって大切だろ?
貴方の思う『かっこいい在り方』って、なんですか?