捏造設定注意
ちょっと変則的ですが……どうぞ
修学旅行の夜。『恋バナ』と言うのは、何も女子だけの特権じゃない。
男子だって、気になるものは気になるのである。
「遥か彼方の昔の記憶……なんて言うほど、俺も歳を重ねてるわけじゃないけどね」
そんな語り出しで、俺のクラスメイトは語り始めた
「俺、今じゃ知っての通り本の虫、なんて呼ばれるくらいには読書が好きなんだけどさ」
「本当は……中1くらいまでは本が大の苦手だったんだよな」
そいつの名前は健二。野球一家に生まれたとは思えないほどのガリ勉で、スポーツよりも読書の方が好きっていう変わり者。
本人の言う通り、こいつは本当に読書が大好きで、その言葉に全員が絶句していた。
だってあの健二だぜ?
外で運動する時と移動する時以外は本を片時も手放さない健二に、そんな時期があったなんて信じられない。
「……皆信じられないって顔してるな……まぁ気持ちはわからないでもないが」
後頭部をガリガリと掻きながらそんなことを言う健二。
「それじゃあ改めて語り直そうか。始まりはそう、俺が中1くらいの……そう、ちょうど5、6年前くらいの夏の記憶だ」
ーーーーー
中学校の夏休みの宿題で一番時間がかかるのってなんだった?
ふんふん。
自由研究?数学のプリントやドリル?まぁ否定はしない。
めんどくさいのには変わりないからな。
でも俺の場合、一番時間がかかったのは『読書感想文』だったんだよな。
小学校の頃はのらりくらりとかわしていたんだが、中学の担任が国語の先生でさ。
読書感想文には一段と厳しいって噂だったわけよ。
事実、先輩の中には提出しなくて部活出席停止とか言われてた人たちもいたらしい。
でまぁ、そんなこんなでやらざるを得なかった俺は、感想文を書きに図書館に足を運んだわけだ
「ッア"ー……わからん……読書感想文に最適な本ってなんなんだ……」
ただまぁ、感想文だから題材を探さなきゃいけない。
『適当なの取って読んで感想かきゃいいだろー』とか思ってた。要は舐め腐ってたわけだが、全くわからない。
1、2時間くらいかな?本を探して彷徨いて、適当に読んでみては頭を抱えるを繰り返してたのは。
いかんせん当時は運動バカでな。国語の時間とか完全に苦痛だった。
文字が並んでるの見るとミミズが這ってるみたいでさ。
「あのー、どうかしましたか?」
そんな時だったよ。あの人が、本を前にして頭を抱えて突っ伏してた俺に声をかけてくれたのは。
……え?誰だって?
さぁな。今思うと謎なんだが、最後まで名前を聞けなかったんだよ。
あ、容姿は教えなきゃな。
丸縁の大きなメガネをかけた、長い金髪を持った、高校2年生くらいの碧眼のお姉さんだよ。
茶化すな茶化すな……あーはいはい。話を続けるぞ
「あ、いや、あの……すいません……」
迷惑だったかなって思った俺はすぐに謝った。
そんな大きな声を出したつもりはなかったけど、本を開きっぱにして放置して頭を抱えて突っ伏してる……
やってることだいぶおかしかったな、今思うと。
まぁ、そんな状態の俺が迷惑だったんじゃないかと思って
「あぁ!謝らないでください!別に迷惑とか、そう言うことじゃないので!えっと……何か困っているようだったので。何かの助けになればと思いまして」
救世主に見えたね、あの時は。
いかにも頭が良さそうなお姉さんだったし、行き詰まっていたこともあって、俺は今の現状をお姉さんに打ち明けたわけだ。
「な、なるほど。読書感想文……ですか……」
訳を知ったお姉さんは、席を立ってから背後の本棚の奥の方に少し進んでから俺に手招きをした。
『こっちですよ』って。
俺?そのまま着いて行ったさ。
行き詰まってたし、できることもなかったしな。
そのまま着いていくと、扉があった。促されるまま入ると、そこはでっかい図書館だった。
普通の図書館じゃないぞ?
床が丸くて、それを囲むようにして壁があって、天井が見えないくらい高くて。
豊かな自然の……樹の香りが漂っていて、どこからか雨の降る音が聞こえてくる。
で、何よりその壁全てが本棚だったんだよ。
……わかるぜ?『そんな場所があるか!』だろ?
俺も言いたいことはわかるさ。今思うとよくわからない場所だった。
でも実際にあったんだからしょうがないだろ。俺はそこで本を読んで、本が好きになったんだから。
話を戻そうか。
そこに案内された俺は放心した。
「なん……だここ……こんな……え?だって図書館はこんな……」
そりゃそうだ。こんな建物があったらわかる。
明らかに図書館の中に併設されていいサイズの建物じゃないんだから。
「ようこそ、私の図書館へ。さぁ、ここに座ってください。まずはお茶会でもしませんか?」
見ると丸い部屋の中央にはテーブルが置いてあって。
その上に置いてあるティーカップとお皿からは美味しそうな匂いが漂ってきて。
まぁ食べ盛りってのもあってか、当時の俺はなんの疑いもなく着席して、お姉さんと話をしながらお茶会を始めた。
今思うと警戒心のなさが窺えるよな。自分で呆れるわ。
俺の名前とか、好きなこととか、好きな漫画やアニメとか。
そんな話題の中で、さっきの読書感想文の話題が上がった
「健二くんは、読書が苦手なんですか?」
「……読書が苦手っていうか……文が嫌いなんだよ。5行くらいならともかく、10行目くらいからもう苦痛。書いてあるのは文字のはずなのに、ミミズかナメクジが這った後にしか見えないんだ」
「……そうなんですね」
問われて少しした後、俯きながらそう答えたよ。
ちょっと悲しそうなお姉さんの声が印象的だった。
しばらく無言の時間が流れて、ぱん!とお姉さんが柏手を打った。
「それなら健二くん、漫画を読みましょう!」
俺の頭の中は『?』で埋め尽くされた。
確かに漫画が好きってさっきの話では言ったけど、あまりにも脈絡がなさすぎる。
それに、読書感想文では漫画は受け付けてもらえない。どういうつもりなのだろうか。
「いいからいいから!ここなら好きな漫画もきっとありますよ!」
本棚を軽く見てみると、確かに王道なものや有名作、マイナーな作品までずらりと固まって並んでいる場所があった。
「……あ」
その中にはもちろん、俺が好きだった作品も混ざっていたとも。
当時は映画化したりとか大ヒットしてた漫画。その年の夏に完結しちゃったんだけどね。
「……読んでもいいんですか?」
「もちろん!私も読んでみますし!」
でも、とお姉さんは言葉を続けた
「必ず1巻から読み始めること、ちゃんと1ページ1ページ読むこと。そして、1巻終わるごとに私に感想を話すこと。できますか?」
それならできると、俺は大きく頷いた。
週の頭に友達と冊子を持ち合って、その場で読んで、感想を話し合う。
そんなことは毎週やっていたから。
全部で40冊ちょっとあったかな?1冊30分くらいで、感想を15分くらい語る。
あのキャラのこんな言動がかっこよかった!
あのキャラの啖呵に痺れた!
主人公が選んだ選択肢にびっくりした!
あのキャラは怖かったけど芯があって強かった!
そんなことを、お互いに深掘りしながら語り合って。
そんなことをしてたらまぁ、時間は足りなくなるよね。
8冊くらい読んで、感想を語り終わったあたりでお姉さんがまた柏手を打っていった
「はい!じゃあ今日はここまでにしましょうか」
「え!?なんで!?俺まだ読めるし、まだ語れます!」
「時間。そろそろ帰らないといけないんじゃない?」
そうお姉さんがいうと、ちょうど5時のチャイムが聞こえてきた。
図書館から家までは30分近くかかる。
当時の門限は5時半だったから、そりゃもう慌てた
「明日のお昼にまた来てください」
そう言いながら、お姉さんは鍵を手渡してきた
「この部屋の鍵です。明日も私はここにいるので遊びに来てください。きっとですよ」
俺は頷いて、荷物を持って部屋を出た。
そこはいつもの図書館で、振り返ると扉は消えていた。
「???」
ちょっとした夢かとも思ったんだけどね。
手の中の鍵がそれを否定した。
次の日ももちろん行ったさ。
それから毎日ね。
用事がある日だってあったけど、その日の朝一番に家を飛び出して、それをお姉さんに伝えに行きもした。
それで、その漫画を最後まで読み切った日。
「お疲れ様でした!楽しかったですか?」
「お姉さん……確かに楽しかったけど、漫画じゃ感想文は書けないんだって……」
快活に尋ねてくるお姉さんとやや俯きながらそういう俺。
でも、お姉さんはわかってますよと頷いて、どこからか分厚い紙の束と、数冊の厚さの薄い本を持ってきた。
「まず、この紙の束を見てください」
「……これは?」
お姉さんはその一番上の紙を引き抜いて見せてくれた。
「これって……」
「はい、健二くんと一緒に1巻目に着いて話した時の健二くんの発言です」
それは原稿用紙。しかも、内容は俺が語った内容だったらしい。
「健二くんはこれだけの長さの感想を語れるんです。これ、全部健二くんの言葉なんですよ?」
そう言って、やや誇らしそうに紙束を叩く。
「健二くんの語彙力、感想を語る力は十分についたはずです」
だから、ここからは『読む力』ですね
そういうと、お姉さんは横に置いてあった本を一冊見せてくれた
「これ!あの漫画の映画の!」
「はい、その小説版ですね」
そう言うと、どこからか同じくらいの厚さの本を3冊取り出す
「今健二くんに見せたのは映画の最初、『起承転結』でいう『起』の部分です。この4冊ぜーんぶ合わせると、映画の物語になるんですよ。」
だから今日から1日1冊、私と一緒に読んでみませんか?
「え?」
「長い文でも、セリフの多い、かつ、健二くんの大好きな漫画の『ノベライズ』……小説化した作品。それがこの薄さ。これなら読めるんじゃないでしょうか。」
「……で、でも」
「大丈夫、私を信じてください」
そう言われて、俺は恐る恐るその本を手に取って、開いて読み始めた。
すると驚いたことに、不思議とするすると読めたんだ。
文が数行続いただけで文字とすら認識できなかった俺がだぜ?
我ながらびっくりしたよ。
まぁ、自分の好きな作品だし、初めて『楽しんで読書する』って感覚が楽しかったのと、起の部分だけだからってのもあってすぐに読み終わっちまった。体感時間はな。
だから当然、次のも読ませてくれ〜!って言うわけだ。
でもお姉さんは言った
「ダメですよ。言ったはずです、『1日一冊』って。2冊目はまた明日読みましょうね」
とんだ焦らしプレイだよ。代わりに一冊目を持たされて帰ったんだけどな。
その感覚を忘れたくなくて、俺は家に帰ってからもずっとその本を繰り返し読んでいた。
セリフまで完璧に覚えきっちまってたって言っても過言じゃない。
そして次の日に2冊目を読んで……そんな繰り返しで4冊目を読み切った。
そしたら次の映画のノベライズ作品が出てくる。
そんな感じで、俺は読書にのめり込んでいった。
その後もお姉さんのいる図書館で笑いながら本を読んだり、お茶会をしたりして。
気づいたら薄めのラノベ1冊くらいなら普通に読めるようになってたんだ。
……ん?……そうそう、俺のカバンに入ってる本が件の1冊目の本だよ。
お守りとしていつも持ち歩いてるんだ
……そんな感じで、8月も後一週間ちょっとってところでお姉さんが一冊、分厚い本を手渡してきた。
「え……っと、これは?」
「読書感想文用の本です。有名な魔法系ファンタジー小説ですよ」
そう、この時まで俺は読書感想文を書きに図書館に来ていたってことをすっかり忘れてたんだ
やや青くなりながら「これ、読まなきゃダメ……?」と聞いた。
するとお姉さんは苦笑しながら言うわけだ
「大丈夫、ちゃんと読む力は着いていますよ。……ここから3日ほど、私はここを空けなければいけないんですよ」
でも、その間もちゃんと読んでほしいから。と渡された本。
そこには、2枚の栞が挟まれていた
「大丈夫、最初と同じように4回に分けて読めるようになっています。これくらいなら、一度に読めるでしょう?」
信じていますよ、と本を渡されて、その日は時間になった。
そう言われたらもう読むしかない。
今更だけど、この時点で俺はお姉さんに惚れてたんだな。
惚れた女性に『信じている』なんて言われてやる気を出さない男はいないだろ?
眠い目を擦りながら3日、それぞれのパートを読み切った俺は、どことない達成感に包まれていた
「すっげ……俺、ここまで1人で読めるようになってたのか……」
次の日にお姉さんに報告するのが楽しみで、俺はウキウキしながら眠りについた。
次の日、いつものようにお姉さんに会いにいって、その場で最後の文まで読み切って。
そのまま読書感想文を完成させてしまった。
「お、終わったァァァ!」
「お疲れ様でした、よくがんばりましたね」
シャーペンを握りしめて拳を宙に突き上げる俺と、小さく拍手をしてくれるお姉さん。
それからも俺は、ほぼ毎日のように図書館に通い続けた。
流石に部活がある日や学校が始まってからは毎日とはいかなかったけど、毎週の日曜は必ず遊びにいった。
読んで、語って、時には議論を戦わせて。
受験の前には勉強もお世話になったっけ。
ーーーーーーーーー
「へぇ!じゃぁお前の本の虫の原因……もとい読書嫌いを無くしたのはその"お姉さん"がいたからだったのか!」
「そう言うことになるかな……」
嘘のような話を語る、照れくさそうに頬を掻くそいつは、嘘なんか話していないようにも見えた。
「……さぁ!俺は話終わったよ!ほら!次お前な!」
「俺ェ!?結末はどうなったんだよ!?」
「そこはほら……流れ?」
「流れってなんだ流れって!」
若干の照れ隠しの入る笑いは、その後に巡回の先生が怒りに来るまで続いた。
ーーーーーーーーー
あの話には、まだ続きがある。
先に話した生活を続けて、3年近くが経った。
春、卒業式の日に、俺は図書館に駆け込んだ。
心に秘めた想いを、伝えようと思ったから。
でも、その図書館の扉を開けて入った時、俺はフリーズした
「なん……だよ……これ……」
図書館が半壊してたんだ。
本は散らばり、壁は砕け、一部には雨がかかっている。
そしてその中央には、お姉さんが上を向いて立っていた
「……健二くん?なぜここに……くるのはまだ先では……」
扉が開いた音に気づいたお姉さんは、警戒したような顔をこちらに向けた後、驚愕でその顔を染めた
「えっ……と、今日……卒業式だから。学校が早く終わったんだ……」
「そう……でしたか」
お姉さんは再び上を向いて、雨を浴びる。
その顔を見ることはできない
「……今日、会うことができてよかったです。もう、会えないと思っていましたから」
え?
「刻限が来たんです。やるべきことを、成すべき時が」
待って
「私は、旅に出なければなりません」
待ってくれ
「貴方と会うことはないと、手紙だけを残すことになると思っていましたから」
それじゃあまるで、永遠のお別れのような
「今まで、温かい、楽しい時間を、ありがt「待ってくれ!」」
再び、驚いたような視線を俺に向けるお姉さん。
だが、俺にはもう、そんなことは関係なかった。
「じゃあ、もうお別れってことなのか?もう会えないってことなのか?」
そんな……
「俺は……まだ……何も……お姉さんに……何も返せてないのに?この気持ちも、伝えられていないのに!?」
無言の空間。
雨が地面を打ちつける音だけが響く。
彼女の声がないことが、何よりの肯定だった。
「……ごめん、俺の都合ばっかで」
「いえ、そんなことは……「いかなきゃいけないんだよね」……はい」
「そっか……」
視界が滲む。雨が目に入ったわけでもないのに、彼女の姿がぼやけて見える。
だが、このままじゃ何もできないと、学ランの袖で涙を拭き取り、ポケットから小さな箱を取り出して手渡す
「え?健二くん、これって……」
「……本当はここで告白したかったんだけど、やめておくよ。俺にも、君にも、強い未練になりかねないから。」
開けてくれという言葉に、彼女は従ってその蓋を開ける
「これは……」
「青とピンクのリボン。青はシンプルに似合うと思って。ピンクは……まぁ察してくれると嬉しいかな」
「え……う、私、何て言えばいいのか……」
「さようならは言わない。でもいつか絶対に、元気な姿を見せてほしいな」
彼女の言葉に、答えになっているような、なっていないような言葉を投げかける。
身体から金色の粒子が滲み出す。
理屈はわからないけど理由は何となくわかる。
きっと、ここにいられなくなったのだろう。
「あ、健二くん、私……!」
「次に会うときは、名前を聞かせてね!またいつか!」
「……はい!またいつか!」
そんな別れを経て、10年近くが経った。
今は、あの図書館で司書として働いている。
あの扉は、やはり現れない。
今の趣味はスマホゲーム。
今年で八周年を迎えるRPGで、数年前からズブズブにハマっている。
事前情報は一切見ない派です。
知るのは最低ラインだけ。イベント情報はやりながら確かめるだけだから
図書館の閉館後、俺はあの席でそのゲームのガチャに挑戦していた。
「お、虹回転」
最初の10連で星5が確定した。
中々運がいいらしい。
……おかしい、回転がおさまらない……!?
気がつくと、目の前に同じ光の回転が発生してた。
「これは……どういう……!?」
光の輪が消えて、俺は目を開く
スマホから、その声が聞こえてくる
『こんにちは。貴方が私の召喚者、ですね?
私はトネリコ。雨の国の魔女、トネリコ。
植物系の魔術は苦手ですが、敵を倒す魔術、争いに備える魔術、障害を破壊する魔術には自信があります。
城の外の世界は不慣れですが、どうかよろしくお願いしますね。』
目の前のゲームと。そしてあの時と同じ顔、同じ声で言う
「お久しぶりです。改めて名乗らせてください。私はトネリコ。雨の魔女、トネリコ。
……あぁ、よかった。約束を守りに来ました。また、よろしくお願いしますね?」
ああ、どうやら俺は……あの時の初恋を実らせたらしい
さて、掲示板投稿作品はこの4本で終了です。
もしかすると息抜きに追加で書くことがあるかもしれません。
もしその時が来れば、またみていただければ幸いです
では、次は別の作品でお会いしましょう