※カトレアちゃんは旧悪魔としてスッゴいプライド高いので一部の悪魔が大嫌いです。
部室で部長から話を聞こうとした瞬間、グレモリー以外の家紋で魔方陣が起動したことに驚いていると、勢い良く部室の扉が開いた。
入ってきたのは辻堂先輩とアーシアだ。何故か先輩の片手でアーシアは摘まみ上げられている。
先輩はアーシアをソファーに投げ込んでから、もう片手に持っている資料を机の上に置いた。
「きゅう……」
先輩の絶妙な力加減のお陰か、ソファーに比較的優しく着地したアーシアは目を回しているだけだが……スマン、アーシア…俺に辻堂先輩の行動を止める勇気はない…。
魔方陣ではなく、先輩を眺めていた俺は、入ってきて直ぐに魔方陣の紋章を見て、明らかに顔をしかめながら小さく呟かれた先輩の声を耳にした。
「ケッ……尻馬のフェニックス家ですか」
それは明らかな悪態だった。先輩の表情には明らかな侮蔑の意志が見て取れる。こんなに剥き出しで嫌そうな顔をしている先輩を俺は初めて見た。
そして、魔方陣から炎が吹き上がり、それが止むと、魔方陣には赤いスーツを着たホスト風の男が佇んでいる。
「ふう、人間界は久し振りだ」
俺は辻堂先輩の態度を見ていたせいか、見た瞬間からなんとなくコイツがいけ好かない野郎に見えた。
◆◇◆◇◆◇
急いで部室に戻った私の目に入ったのは、フェニックス家の三男坊だという悪魔でした。
何処で買えるのか、または一体どんな神経をしていたら注文しようと思うのか甚だ疑問な真っ赤なスーツを着て、グレモリーさんらと会話をしている男性です。
部屋の隅に先日のメイドもおり、警戒を込めてこちらを睨んで来ますが、それは目に入りませし、入れません。
私は部室のコンセントに一番近いソファーに座りながら事の顛末を眺めていますが……正直……。
くっだらねぇぇぇ……って呆れそうになりますね。
なんでもこの
犬も食わない痴話喧嘩……にしては偉く愛情に摩擦があるようなので、貴族同士の諍いか何かのようです。最終的にレーティングゲームで決めるようですね。
しかし……。
"先の戦争で純血悪魔が大勢なくなった"
"俺たち古い家系である上級悪魔"
"七十二柱と称された悪魔はもう半数も残っていない"
そのことを
まあ、クラスメイトの知り合いと部活の部長でしかないグレモリーさんは人生の墓場的なピンチのようですが、そんな一文も得をしないことに首を突っ込む程アホではないので、私は静観を決め込んでいます。
すると、フェニックスが何故か自身のハーレムパーティーとでも言うべき眷属を披露し始め、それに兵藤さんが涙を流しながら床を叩き始めました。
最初は口裏を合わせて呼ばれるまで待機していたとしか思えないフェニックスの眷属の揃いっぷりに失笑していた私ですが、兵藤さんの様子を見ているとなんだか更に馬鹿らしくなってきました。緊張感も何もあったものではありませんね。
気分を変えるために紅茶を入れ直して落ち着こうとしていると、無謀にもフェニックスに兵藤さんが挑み始めました。まあ、結果は語るべくもなく、フェニックスの眷属のひとりに倒されてしまいましたよ。
兵藤さんには良い薬になるでしょう。今度からもう少し本気で強くなる為に取り組んでくれると嬉しいですね。今のままだと私を倒すのなんて1000年あっても無理そうですし。
ただ何故でしょうかね。兵藤さんが倒された瞬間……こう……。
胸の奥で何かドロドロしたモノが込み上げて来るような……鈍い痛みを感じたような……。なんでしょう? これまで生きてきてこんな思いをしたことは無かったのですが…。
胸の奥に何かが渦巻いているのを感じながらティーカップに口を付けると、眉を潜めて唇を離しました。見れば紅茶はゴポゴポと沸騰し続けています。そして、それは溢れた私の魔力により引き起こされていました。
ああ、私がイライラしている時、たまにこうなってしまうんですよね………………私が兵藤さんを見て腹を立てている?
何故でしょうか? 呆れるなら未だしもこんな感情を覚えるなんていったい…。
「弱いな、お前」
私がいつも兵藤さんに言っているはずだというにも関わらず、フェニックスが兵藤さんへ向けたその一言を聞いた瞬間、胸の奥のモノが強まり、ティーカップの中身が更に強く沸騰しました。
「さっきお前が戦ったのは俺の兵士のミラだ。俺の下僕では一番弱いが、少なくてもお前よりも実戦経験も悪魔としての質も上だ」
ああ、そうか、そうですか。
私は兵藤さんにではなくて……。
「この神器が不完全であり、使い手も使いこなせない弱者ばっかりだったってことだ! お前も例外じゃない」
初めてのちゃんとした友人である彼を。
私の大切な人。
「こういうとき、人間界の言葉でなんて言ったけかな」
人間ではない悪魔だとわかった時にも何も変わらずいつものように私と接していた彼を。
少しだけ嬉しかった。
「……そうだ。宝の持ち腐れ、豚に真珠だ! フハハハ! そう、豚に真珠だ!」
面と向かって女王になって欲しいなんて私に言った彼を。
どうしようもないぐらいバカで、弱いけれど、それでもこの人の女王になるのは悪くないと思えた。
「お前のことだよ! リアスの兵士くん!」
傷つけ辱しめられたことに心の底から憤慨していたのですね。
私がその考えに至るのと、魔力の流入により限界を迎えたティーカップが破裂するのはほぼ同時でした。
◇◆◇◆◇◆
俺は奥歯を噛み締めながら悔しさとあまりの無力さに言葉すら出なかった。
そして、常日頃から辻堂先輩に幾度となく言われていた"弱い"という言葉が何度も何度も頭の中で響いていた。
確かに頭に血が上っていて冷静じゃなかった。けれど俺は何もわからないうちにライザーの一番弱い兵士の眷属に手も足も出なかったんだ。
何が何が先輩に女王になって欲しいだ! 何がハーレムを作るだ! 先輩は最初から言っていたじゃないか……強くなれって!
俺は自分が思っている以上にずっと弱かったんだ……。
次の瞬間、俺の後ろで水音を含んだ爆発音が響いたことで部室にいる全員の視線が向いた。
するとそこには一番壁際のソファーに座っている辻堂先輩がいた。
足元に床に散らばるティーカップの破片。地面に零れ落ちて尚、何故か沸騰し続ける紅茶が異様な存在感を放っている。
「……すみません姫島さん。思わず割れてしまいました。弁償しますよ」
「いえ、お構い無く。そんなに高いものでもありませんわ」
「そうですか」
それだけいうと辻堂先輩はソファーから立ち上がり、ゆっくりと俺の方へ歩いて来る。俺はそれが堪らなく恥ずかしく、先輩に目を合わせることが出来なかった。
先輩は俺の目の前で止まり、じっと俺を見下ろしているのが、顔を向けなくてもわかる。先輩が不甲斐ない俺にどんな顔をしているかなんて考えたくもない。
「兵藤さん」
何故かいつもより優しげな声色だけど、俺は顔を上げることが出来なかった。
すると、先輩は俺の肩に手を置いて言葉を吐いた。
「あなたにもいるではありませんか、眷属になってくれる者のひとりぐらい」
「え……?」
その言葉に思わず顔を上げると、辻堂先輩はいつか夜に見た時のような優しげで悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「ほう、それはどういうことだ? えーと……リアス、この美女は誰だ?」
「……私の領地にいる悪魔の末裔よ。名前はカトレア」
「へえ、そうなんだ。それでカトレア。それはどういう意味だい?」
辻堂先輩に目を向けると同時にライザーは、先輩の身体を爪先から頭まで舐め回すような目を向けていた。それをされた瞬間、俺の中の堪忍袋がまた切れそうになったが、先輩はライザーと俺の前に出てそれを止めたように感じた。
「言葉通りの意味ですよ、燃えるゴミのフェニックス様」
「へー、兵士くんに……ん? 今なんて?」
珍しく笑顔を浮かべている辻堂先輩からいつものように罵倒する言葉が飛び出したが、先輩を知らないライザーはそれを聞き間違いかと思ったのか、聞き返していた。しかし、先輩はそのまま言葉を続ける。
「何を隠そう"旧魔王家の末裔"」
そこまで言うと、辻堂先輩は言葉を区切り、10枚の悪魔の翼を出した。壁に沿って部屋一杯に広がる悪魔の翼は、刃のようにも見えて、ライザーとその眷属全員を含めても遥かに強い威圧感を先輩ひとりで放っていた。
「な……」
ライザーとその眷属も全員言葉を失っている。オカルト研究部のメンバーは先輩のことはよくは知らないけど、知っているのでそこまで驚きはないみたいだ。
更に先輩が蒼い魔力を解放すると、床の魔方陣が輝き出してグレモリーともフェニックスとも違う家紋が浮かび上がる。
家紋を見た部長や姫島先輩はやれやれといった表情をしていて、逆に木場と子猫ちゃんと同様にライザーたちも驚いた様子をしていた。でも特に驚いていたのはグレイフィアさんだった。
辻堂先輩は一枚の翼を使って俺を立ち上がらせて先輩の隣に立たせると、恭しく挨拶をしながら言葉を吐く。
「私、"カトレア・レヴィアタン"は、この兵藤一誠の女王になるという契約を交わしているのですよ」
先輩から溢れ出た蒼い魔力は、即座に部室中を未開の海のように自然で淡いライトブルーに染め上げた。
レヴィアタン…? 現魔王の? いや、でも辻堂先輩は旧魔王っていっていたような…。
「しかし、相変わらずビックリするぐらい弱っちぃですね。兵藤さん」
「ぐほっ……!?」
訳がわからずハテナを浮かべていた俺は、辻堂先輩のいつもの毒舌にトドメを刺された。
「これに懲りたらもう少し頑張りなさい。そんなことでは夢のまた夢ですよ?」
「はい……」
「ククク……フハハハ!」
ライザーが俺の時よりも大きな声で笑い出した。
ひとしきり笑い終えると、ライザーは呆れにも近い見下したような視線を俺と辻堂先輩に向ける。
「かつては四大魔王として君臨していたレヴィアタン家の末裔が、ただの兵士! それも転生悪魔と契約? これが笑えなくて何が笑える!」
「……………」
そのことに辻堂先輩は答えようとせずにライザーに向き合っている。 更にライザーは更に続ける。
「なあ、悪いことは言わない。俺の女になれよ。今よりよっぽどいい暮らしが出来るぜ?」
「お前…!」
ライザーの視線が辻堂先輩の身体に注がれていることに気が付いた瞬間、さっきの数倍の怒りが込み上げ、拳を振り上げようとした。
けれど先輩が翼の1枚で俺を抑えたせいで、それ以上のことは何も出来なかった。先輩の翼は俺の力じゃビクとも動かない。
この時ばかりは先輩に抗議しようと先輩の顔を見たが、その瞬間、俺の頭は急激に冷えた。
だってさ辻堂先輩……。
これ以上ないぐらいの呆れ顔と、哀れなものを見るような視線をライザーに向けていたんだぜ? 何も言えなくなるって。
先輩は目を瞑ってから大きな溜め息を吐く。その動作はなんてことはない動きだけど、ひどく妖艶に見えた。
そして、先輩は目を見開くと呆れた様子を隠そうともせずにライザーへ話を始めた。
「チンケで、気が小さく、服のセンスが皆無で、女性の面前で下品、眷属にまでセンスがない。そのような男の元に私が行けと?」
「な……に……?」
辻堂先輩に言い切られたライザーの動きが止まる。その様子を気に止めることなく先輩は更に言葉を続けた。
「鳥頭ですかあなたは? ナルシストも程々にしてください。私はあなたのような燃えるゴミに魅力など一切感じません。それどころか、その気色の悪い顔を見ているだけでお昼に食べた物が込み上げてきてしまいそうですよ」
辻堂先輩は吐きそうな様子をオーバーリアクションでしながら、そんなことを言い切る。
「グレモリーさんが嫌がるのも納得というものです。私自身抱かれるならまだ兵藤さんの方がいいと思いますもの。後、少し鏡を見た方がいいですよ。それあげます」
そう言って辻堂先輩は、どこからか手鏡を取り出してライザーの足下に投げ付けた。ライザー眷属の場の空気は完全に凍り付き、ライザーの顔色を見ながらオドオドしている様子だ。
やべぇ…先輩スゴすぎる……どうしてそんなに他人を煽れるんだ。
ん? 今、何気に先輩にスゴいこと言われたような…。
「言ってくれるじゃないか……! まさか、レヴィアタンの末裔ともあろうものがここまで落ちていたとはな! 戦争を生き抜いた同志が、見つかったと思ったらこんな…」
「止めてください、フェニックス家とレヴィアタン家が同列だなんて虫酸が走ります」
辻堂先輩はライザーの言葉を遮り、言葉を返した。先輩の今の表情はさっきとは比べ物にならない程に侮蔑と嫌悪を含んでいるように感じる。
「何が不死身のフェニックスですか、下らない。悪魔を相手にした場合、不死身のフェニックスの間違いでしょう? 天使や堕天使には無力にも関わらず不死身と名乗るとは笑える冗談ですね。戦争では、最前線で戦う悪魔の後ろに隠れて回復アイテム屋を営んでいただけのクセに。戦争時代のフェニックスは正にチキン! 最前線で戦い続けたレヴィアタンから見れば姑息な臆病者でしかありません。焼き鳥と兵藤さんは言いましたね。いい得て妙です、フェニックスの涙と一緒に焼き鳥でも売ったら如何ですか?」
「言わせておけば…」
「不死身とは不死殺しの武具以外で殺すことの出来ない絶対性を持った存在のこと。"初代レヴィアタン"がそうであったようにです」
「ぐっ………」
それを言われたライザーは押し黙る。俺は理由がわからなかったが、部長たちを見ると特に疑問を抱いた表情はしていないように見えた。後でレヴィアタンについて詳しく調べよう……。
「フェニックスのような不完全な不死が、戦争が終わった後でレーティングゲームという貴族のお遊びで成り上がり、あまつさえ私の目の前に立っている。それも不死身のフェニックスとして。コレが私にとってどれだけ不快かわかりますか?」
「黙れッ! 没落悪魔が! 貴様にフェニックスの何がわかる!」
「知りたくもありませんよそんなの。それに没落した、断絶した、そういう話ではありません。これは悪魔としてのプライドの問題です。あなたの家は戦争によって満身創痍で残った七十二柱の家を食い物にしているだけのハゲタカでしょう? 何を囀ずるというのですか。私は大戦を生き抜いた悪魔レヴィアタンの末裔として、フェニックスそのものを嫌悪しているだけですよ」
辻堂先輩の瞳は冷たく、汚物でも眺めるような表情をしていた。それだけで、今までの言葉が心の底から先輩が思っていた言葉だということがわかる。
「ああ! 確かに初代レヴィアタンは不死身の怪物だった! だが、それは"子孫には遺伝はしなかった"! それだろう!? 貴様には関係の無いことだ!」
「太古の昔、海獣は如何なる陸上生物よりも最強の恐竜でした。飛ぶ鳥なんて比べるべくもありません。その子孫の私があなたごときの相手になるとでも? 比べられることすら烏滸がましいと言っているんですよ」
「魚女の旧悪魔め……いつまでも支配者気取りか…? 時代は変わったんだ」
「おや? 古きを重んじるのは貴族の義務なんでしょう? 大人になるのではないのですか焼き鳥野郎様?」
「クハハハ……」
「ウフフフ……」
「燃やし尽くしてやろう」
「水でもかぶって反省しなさい」
どうやら俺によくわからない悪魔の貴族同士のいがみ合いは終了したらしい。
ライザーの方は背景を陽炎で揺らめかせ、辻堂先輩の方は部室の湿気が急上昇してあちこちに水滴が付き始めているが、一先ずこれ以上どうにかなることはないだろう。
「よし、レーティングゲームには必ずそのレヴィアタンも参加させろ。元々人数も少ないしただ叩き潰すのも大人気ないと思っていたところだ。ハンデには丁度いいだろう」
「待ちなさい! ハンデなんて私はッ……!」
「黙りなさいグレモリーさん、話の途中ですよ」
「そうだぞリアス、これは悪魔同士のプライドの問題だ」
「え……? あれ…? 私の婚約……」
勢いよく立ち上がって二人の会話に口を挟もうとした部長は、言葉を尻すぼみにしながら小さくソファーに座り直した。
それからライザーと辻堂先輩は二言三言会話をした後、ライザーは再び魔方陣を起動し、眷属と共にその場から跡形もなく消えた。
「さて……」
ライザーが去った直後で、部室の全員が沈黙していると、最初に行動したのは辻堂先輩だった。悪魔の翼を引っ込めると、何故かテキパキと荷物をまとめて帰る準備をしている。
「あ、グレモリーさん。私一週間ぐらい姿を隠しますので。ああ、フェニックスはちゃんとぶち殺しに行きますから安心してください。では去らば」
荷物を背負うと、辻堂先輩は早口でそう呟き、逃げるように部室を出て行こうとした。
「待ちなさい」
しかし、辻堂先輩は腕を掴まれて止められる。
先輩がブリキ人形のようにぎこちなく首を向けると、メイド服を着た女性悪魔……グレイフィアさんがいい笑顔でいた。
先輩を無理矢理でも止めるためか魔力を振り撒いており、俺でも一目でグレイフィアさんがスゴい実力者なんだとわかった。
グレイフィアさんが掴んでいない方の手で前髪を持ち上げると、絆創膏が貼られてはいるけど先輩に昨日やられた跡がありありと見える。
「色々と、全て話してくれますね?」
「オウフ」
辻堂先輩は観念したらしく、膝を落として停止した。
とりあえずオカルト研究部は一週間後のライザーとのレーティングゲームに全員出ることが決まったんだな……先輩いれば全部片付く気もするけど、部長の為にも先輩の為にも頑張らないとな。
この世界線のレヴィアタンと、フェニックスについては次回補足する予定です。
あ、ちなみにカトレアさん。(自分の気持ちに)鈍感系ヒロインです。