ビューチフルドリーマーズ(ウマ娘)   作:ききき三左衛門

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第10R それぞれのG1

Chapter1 衝突

 

 メイセイオペラがデビュー戦で初勝利して一ヶ月後のことであった。

「メイセイオペラいるが!お父さんが……。」

教官のトレジャースマイル先生に呼び出されすぐに父の入院先の病院にタクシーで駆けつけた。

しかし、案内されたのは遺体安置室であった。

すでに妹のメイセイユウシャと母が到着していた。

突如の事で現実として受け入れらず呆然としていた。

「ごめんね。こんなに早くになるなんて……思わなかったから、昨日もあなたのデビュー戦の動画見てて『夢が叶うかもしれない』って何度も言っていたのに……。」

涙ながら母はメイセイオペラに謝った。

「お姉……。」

メイセイユウシャも目を赤くして泣いていた。

横たわる父の姿。

もう話すことも夢を語ることもできない。

眠っているかのように穏やかな表情だった。

(父さん……。オレもっと強くなるよ!絶対に父さんとの夢を果たしてみせる!)

両手を強く握りしめそう決意するメイセイオペラであった。

 

しかし、その決意も虚しく、その後の戦績は4連敗。

空回りしすぎて何もかもうまくいかなかった。

「(あんなにトレーニングしたのに!)クソ!」

寮に帰ってからもモノに当たって悔しさをあらわにした。

「オペちゃん次頑張ろうよ!」

同室のサカモトサクラは励ましのつもりで言った。

「いいよな、お前は。芝のレース2着だったじゃねぇか。そのレース7着だったオレに上から目線ですか。お前に負けるくらいならレース辞めちまった方がマシかもな!」

「ひどい……。私だって頑張ってるつもりなのに……。」

そんな返し方をされて思わず泣き出した。 

「ごめん、言い過ぎた。外で頭冷やしてくる。」

メイセイオペラは部屋を出ていった。

水沢レース場の外側に北上川の河川敷がありそこで冷たい風にあたりながら一つの決断をした。

(中央の試験落ちた時レースを諦めていたら良かったんだ。特待生だっていうからうぬぼれてどんなレースもすんなり勝てると錯覚していた。もともとレースの才能なんてオレにはこれっぽっちもなかったんだ。とっとと見切りをつけて普通に中学へ進学して真っ当な人生を歩むべきだったんだ。)

そう自分の力を見限って心もポッキリ折れてしまった。

そしてそこからのメイセイオペラの様子がおかしいと同室のサカモトサクラが気づくのは時間の問題であった。

メイセイオペラの机には高校案内のパンフレットや学習参考書が何冊も積み上げられている。

毎日のようにハードなトレーニングをしていたのがその日以降早々と切り上げ図書館や自分の部屋で猛勉強しているメイセイオペラを見ることとなった。

そして決定的なことが起こった。

「なして!おめさん特待生だべ!早まらねぇでけろ!」

職員室からトレジャースマイル先生の大きな声があり、その後無表情で出ていくメイセイオペラの姿があった。

「なにかあったんですか?」

サカモトサクラは職員室に入ってトレジャースマイルに聞いた。

「サクラちゃん。メイセイオペラがここ辞めて高校受験するって。だがら、中学模試の『白◯りテスト』受けされてくれって頼まれたんだども……。どうしたらいかべが……。」

頭を抱えながら答えた。

サカモトサクラも最近の様子がおかしいと告げた。

その上でトレジャースマイルに提案した。

「あの、盛岡のトウケイニセイ先輩に相談してみてもいいですか?」

「あのニセイちゃんさが?劇薬すぎねぇが?」

難色を示した。 

「でも、今のオペちゃんにトウケイニセイ先輩くらいでないと話しても聞いてもらえないじゃないかと思うんです。」            

「そうがもな。でも連絡先わがるが?」

「以前『困ったら連絡してこい。相談のってやる。』って連絡先交換しました。」

「そうが。まあ、打つ手も無さそうだし一か八かやって見るが。駄目だったらその時は別の手段を考えるべ。」

サカモトサクラも藁をもつかむ思いでトウケイニセイに連絡した。

 

「そうか。事情はわかった。まあ一応はやってみる。期待に応えられるかまでは保証できんがな。」

盛岡の生徒会室でトウケイニセイは後輩から電話での相談を受けていた。

「先輩どうしたんですか?」

「モリユウ。ちょっと水沢の危機を救ってくる。」

「え、何言ってんですか?」   

「水沢に特待生いたろ?そいつの同室から相談あって辞めるっていうから引き止めてくれだとよ。」

「水沢の特待生ってメイセイオペラのことですか?先輩にそれできるんですか?」

「まあ、100パーできるとは言わんがな。どういうトレーニングしてるかは見て判断するっていう方向でまとまった。」

「いやあ……。」

「どうした?」

「いえ……。(もっとこじれるんじゃ……。)」

モリユウプリンスの心配をよそにトウケイニセイは水沢へ赴いた。

 

 水沢レース場のそばにある河川敷にメイセイオペラはいた。

記入済みの一枚の紙を手にしている。

(これを出してさっさとここから出ていくのが正着だな。もうレースをすることもない。)

そう思いながらぼんやり川を眺めていた。

そこへ一人のウマ娘が近づいてきた。

「お前がメイセイオペラか?」

黒いジャージにサンダル姿で凄まじい負のオーラをまとっている。

すぐに誰かは判別できた。

(トウケイニセイ先輩……。)

なに用かと思った。

「はい。」

返事をした。

「何、手に持ってやがんだ。」

「あ!」

油断していて素早く紙を奪われた。

「ふ~ん、『退学届』ねぇ……。」

見るなり即座に破り捨てて紙吹雪のように風に舞った。

「何すんですか!」

「お前の退学届破り捨ててやった。それがどうした?」

悪びれもせずいけしゃあしゃあと言い放った。

「アンタ…………なんかに……………………なんか……わかるか!」

メイセイオペラはボソボソと言った。

「なんだ?聞けねぇよ(聞こえないよ)。おい、言いてぇことがあったらハッキリ言え。言える勇気があるならな。」

トウケイニセイに煽られ意を決して振り絞って叫んだ。

「たくさん勝ち続けているアンタなんかにオレの気持ちなんかわかるか!もう、放っといてくれよ!」

すぐさまトウケイニセイはズンズン無表情で近づいて来た。

そしてメイセイオペラの胸ぐらをぐっと掴んで軽々と身体ごと吊し上げ静かに言い放った。

「……ダイヤモンドカップ、東北優駿、不来方賞、ダービーグランプリ。いずれもこの俺は出ることが叶わなかった。デビュー戦後1年7ヶ月屈腱炎で棒に振ってな。その時の俺の気持ちが理解できんのか?あ゙?」  

「……わ……かん……ない……です……。」 

「だったら何もかもおべだふりしてんじゃねぇ!このくされわらすが!※くされわらす=クソガキ」

つかんだ胸ぐらを乱暴に振り落とした。

尻もちをついてむせた。

「まあ、お前のトレーニングしばらく見てやる。それで箸にも棒にもかからないなら好きにしろ。あとな…………。」

(そんな……。) 

トウケイニセイは衝撃の事実を伝えた。 

あまりのショックで言葉も出ないメイセイオペラであった。  

 

ハードなトレーニングを予想していたメイセイオペラであったが、トウケイニセイが指示したのは普段トレーニングしているメニューよりも大幅に減らされていて多少物足りなさを感じていた。 

「あの……こんなトレーニングで大丈夫なんですか?」

恐る恐るメイセイオペラは訊ねた。

「あ?なんか文句あんのか?お前な、自分より裾の長いズボン履いて歩いたらどうなる?」

「えっと、つまずいてすっ転びますね。」

「だろ?今までのお前がそれだ。まだろくに身体ができてもいねぇのに無理に高等部のトレーニングメニューなんかやろうとしたらそりゃ疲労でレースも勝てるわけねぇだろ。それよりもだゲート練習やるぞ。後でレースの映像見ての研究もな。」

トウケイニセイの答えにメイセイオペラも黙って従うしかなかった。

半信半疑でトレーニングをしていたがその後ダイヤモンドカップ、東北優駿、不来方賞を含む9連勝を果たし、その才能を開花させ「あのウマ娘の再来」とまで言われるようになった。

「ニセイ先輩……。その…あの時、生意気な口を聞いてすいませんでした!」

その後、結果を出したことでトウケイニセイのもとに行き素直に頭を下げて謝罪するメイセイオペラであった。

それから頭を上げるとトウケイニセイはデコピンした。

「イッテ!」     

「オペラ、この程度で満足すんなよ。大目標のダービーグランプリもあるしな。で、その前にだ、中央に殴り込みに行って来い!」  

「もしかして、それって……。」 

「おうよ!『ユニコーンステークス(G3・東京・ダート・1600M)』登録しといた。そこでお前の力、試してこい!」

「はい!」

しかし、大怪我によりユニコーンステークスは回避、ダービーグランプリも10着で終わってしまった。

ちなみに高校進学は取りやめたメイセイオペラであったが白◯りテストは申込み済だったので受けてみた。

幾度か好成績を残し上位者で名前が載ることもあった。 

 

 

「……てな事があったんですよ。逆らったのはその時だけです。」

「そっただごど、あったのが……。」

年明け新学期の午後、カフェテリアにてユキノビジンがトウケイニセイに逆らった事があるかと聞かれ、その話をしたメイセイオペラであった。

 

Chapter2 それぞれのG1

 

 その日の午後、アブクマポーロは川崎記念の出走者一次登録発表が午後にあるということでトレーニング前にイシザキトレーナーと川崎記念についてミーティングの予定であった。

トレーナー室へ赴く。

着席し今後のトレーニングについて話し合うつもりでいた。

「さて、年明けで川崎記念へ向けトレーニングをどうするかということだが……。」

「やはり、オペラ対策をどうするかですよね?」

切り出したイシザキトレーナーに対しアブクマポーロはそう言ったのだがイシザキトレーナーは怪訝な顔になった。

「オペラ対策?その必要はないよ。」

「え?」

発表されたばかりの川崎記念出走一次登録表を手渡された。

メイセイオペラの名前はどこにもない。

数日前からメイセイオペラも府中へ帰って来たのだが怪我をした様子もなくトレーニングをこなしている姿も目にしていた。

「まさか!」

アブクマポーロはそう口にした途端、イシザキトレーナーは無言でうなずいてもう一つの出走登録表を手渡した。

「フェブラリーステークス……。」

そうつぶやくとその出走登録表にメイセイオペラの名があった。

「向こう(メイセイオペラ)はフェブラリーステークスに出るんだと。(全く食えない奴だ、メイセイオペラのトレーナーは。)」

その出走登録表をじっと見つめているうちにアブクマポーロの顔はみるみる紅潮していた。

「さて、そのメイセイオペラはあっちに出ることになったが……。ポーロ?」  

アブクマポーロは顔が紅潮したまま身体が硬直していた。

「ポーロ、おい!ポーロ!」 

イシザキトレーナーが大きめの声をかけてやっと我に返ったアブクマポーロであった。

「あ、すいません……。」

「ポーロ……。今日はトレーニング休め。」

「え?僕は大丈夫です。トレーニングに支障ありません。」

「駄目だ。そんな(精神)状態で怪我でもされたら困る。」   

自分でも抑えきれない感情は自覚していた。

黙って従うしかなかった。

トボトボと美浦寮の部屋に帰って行く。

しかし、怒りの感情は沸々沸き起こっていた。

 

 メイセイオペラがトレーニングを終え食事も済ませ美浦寮の部屋に帰る。

真っ暗な部屋だったので誰もいないと思っていた。

「ただいまって、いないか……わ!」

灯りのスイッチをつけるとアブクマポーロがいてビックリした。

眠っている訳でもなく備え付けの椅子に座ったままでいた。 

「ビックリするじゃねえか!電気くらいつけろよ!」

アブクマポーロは静かに立ち上がった。 

「おい、どういうことだ!お前フェブラリーステークスに出るって一言も言ってなかったじゃないか!いつもいつも何も言わないでいやがって!」

「あ、そうそう。そういうことだから。」

「僕と川崎記念で戦うんじゃなかったのか?」

「は?オレ一言もそんなこと言ってないけど。勝手に勘違いしてんじゃねぇよ!」 

「何だその態度は!それが先輩に対する態度か?」

「は?なんでアンタなんか尊敬しなきゃならねぇんだよ!そもそも尊敬されるような振る舞いしてから言え!」

売り言葉に買い言葉の応酬にアブクマポーロの感情は頂点に達し掴みかかる。

「君は僕から逃げる気か?この卑怯者め!」

「『逃げる』ってなんだよ!そう思い込んでるだけだろ!」

「うるさい!僕のこと鼻で笑ってたんだろ?お前というやつは!」

「だから、勝手にそう思ってるだけだろ!」

「この!」

胸ぐらつかんでメイセイオペラの身体を思わず床に押し倒しドーンと大きな音が響いた。

「(痛)ってえな!何すんだよ!」

メイセイオペラも叫んだ。

「お前なんか……。」

ウマ乗りになってメイセイオペラの身体をアブクマポーロは押さえつけていたがその後の言葉は続かなかった。

その音で大勢の寮生達がやってきて大事になってしまった。

寮長のヒシアマゾンも駆けつけた。

「うん、まあ、何だ。それぞれ事情を聞こうか。」

とりあえず事情聴取することになった。

             

 ヒシアマゾンは双方の事情聴取をした。

メイセイオペラが事情をつぶさなく話したのに対し、アブクマポーロは終始無言を貫いた。

「なるほどな。……会長、これはどうするべきかな?」

同席していたシンボリルドルフに意見を聞く。

「寮に関しては寮長の君の裁量に委ねるよ。」

特に意見を示さなかった。

「そうですか。まあ、今日のところは頭を冷やしてもらうか。」

ヒシアマゾンはメイセイオペラとアブクマポーロ、さらにユキノビジンとマンハッタンカフェを呼んだ。

「またこんな騒ぎは困るからな。今日のところはメイセイオペラはユキノビジンと、アブクマポーロはマンハッタンカフェと就寝してくれ。それで明日また話し合うことにする。」        

そう裁定し、メイセイオペラはユキノビジンと一晩一緒に就寝することとなった。

 

「久しぶりだべ。オペラちゃんと一緒にねまるのは。」

「あの時以来ですよね。スーパーダートダービーで惨敗した時の。」

「それが今度はフェブラリーステークスさ出はるって言うがらオラも鼻が高いべ。」

「いやぁユキノさんに比べたら。中央G1初めてなんで色々聞きたいこともありますし。」

「そっただごど……。オラG1勝ったこどねぇがら……。」

「あ……。」

ユキノビジンのG1出走は桜花賞、オークス2着が最高成績だった。

「そうだ。ユキノさん、フェブラリーステークス最初芝走るんで芝のゲート練習つきあって頂けませんか?トレーナーにも芝のトレーニング多めにしろって言われてて。怪我防止がメインですけど。」

「わがった。それだばお安い御用だべ。(あの人ならそう考えてもおかしくないべ。)」

「ありがとうございます!」

ユキノビジンはふと思い出した。

「あ……。」

「どうしたんですか?」

「いや、何でもねぇべ。(アブクマポーロさん大丈夫だべが?カフェさんとうまくやっていけるべが?)」

アブクマポーロの事が少し気がかりになりつつ就寝した。

 

「どうぞ。就寝前ですのでカフェインレスにしてあります。」

マンハッタンカフェはコーヒーをアブクマポーロに振る舞った。

「ありがとうございます。いただきます。」

差し出されたコーヒーを口に含んだ。

マンハッタンカフェは無言のまま、アブクマポーロに対して何も詮索もせずに淹れたコーヒーを飲みながら文庫本に目を通していた。

アブクマポーロはコーヒーのおかげか少し落ち着くことができた。

そして就寝に入った。

「あ、すいません。私、寝言が多いってよく言われるんですが気にしないで休んでください。では、おやすみなさい。」

「わかりました。おやすみなさい。」

マンハッタンカフェにそう言われ首をかしげたが、対して気にもせずアブクマポーロは眠りに入った。

静かに眠りに入ろうとしていたその時だった。

「フフ……フフ……うん……。……ええ、そうなんですよ……。今日は違う方で……。」

マンハッタンカフェがまるでアブクマポーロの他に誰かと会話をしているようであった。

(え?誰かいる?いや、もしかして……。そういや、図書委員のゼンノロブロイさんが前にマンハッタンカフェさんが空(くう)に向かってなんか話してるの見たことあるって言ってたっけ……。)

「……うん、そう……。フフ……。」

いつも物静かなマンハッタンカフェが楽しげに話をしている。

気にしないつもりでいたがどうしても気にならない訳もなく耳に入って来るのであった。

でもその様子を見てみる勇気はなかった。

いつの間にか身体が小刻みに震えていた。 

(信じないぞ!こんな非科学的なもの!僕は!)

ほぼ一晩中会話し続け、気になり過ぎてアブクマポーロは一睡もできなかった。

 

その朝、二人はヒシアマゾンに呼び出された。

普段と変わりはないメイセイオペラに対しアブクマポーロは寝不足気味か目が血走っていた。

「で、どうする?今晩もお互いに別々に就寝するか?」

「いえ、もう大丈夫なんで元に戻ります。ご迷惑おかけしました。」

アブクマポーロが即答した。

「そっか。オペラは?」

「ええ、まあいいですけど。(もう一晩くらいユキノさんと一緒でもよかったのにな。)」

「じゃ、そういうことで。」

元の部屋に戻ったが、今度はアブクマポーロは無視するようになった。

(ま、殴りかかってくるよりはマシか。)

大人げないとは思いながらもそう冷静に判断するメイセイオペラであった。

                         

        

  

 

Chapter3 焦りと言いがかり

 

(なんとかしなければ……。)

キョウエイマーチは新年の挨拶するためを実家に帰ったが一昨年より勝ち星もなくどの面下げてきたと父に言われ挙句の果てに引退も薦められてしまった。

新学期早々思わずため息をついた。

「あ、委員長。今度一緒のレースだね。よろしく。」

教室でワシントンカラーに話しかけられた。

「え?なんの事ですか?」

「ほら、これに登録されてるよ。」

見せられた出走登録表を見て目を見開いた。

「な!なんですって!」     

出るはずのないレースの出走登録に自分の名が記載されていた。

居ても立ってもいられず、トレーナー室に直行した。

 

「どういうことですか!」   

トレーナーのアキヤマに詰め寄った。

「あ、マーチいいとこ来た。とりあえずお茶でも飲むか?」

呑気に紅茶を入れて差し出した。

「前、言いましたよね?ダートのレースは出ないって!なんなんですか!フェブラリーステークス登録って!」

「まあまあ、お茶が冷めるよ。」 

「お茶どころではありません!」

興奮状態でドンと机を叩くキョウエイマーチだった。

なだめようと思ったがむしろ逆効果であった。

「フェブラリーってスタート芝じゃん。いけるって。」

「そんな詭弁はいりません!フェブラリーステークスはれっきとしたダートレースと認識されています。」

「そっか、でもマーチよく考えてみてほしい。芝とダート両方のG1制覇したウマ娘は今までいない。勝てば快挙なんだよ!あの『砂の女王』でさえ達成していないんだ。まあ、フェブラリーが当時G1でなかっただけなんだけどな。」

「そんな理由で登録したんですか?」

半ば呆れていた。

「どうしても……駄目?」  

「当たり前です!登録は外しといてくださいね。」

そう言い残してお茶も手を付けずトレーナー室を去ろうとした。

アキヤマは後ろ姿のキョウエイマーチに誰に言うでもなくボソッと言った。

「そっか……、そんなにメイセイオペラに負けるのが怖いんだ。」

それに即座に反応し振り返る。

「なんですか……。その安い挑発は。」

「いや、プライド高いから格下の地方ウマ娘に負けるのが屈辱なのかな……と。」 

「全く!いいですか。登録外してください。」

キョウエイマーチは念を押して去って行った。

 

「駄目だったよ。イナリ。」

「旦那。ノープランで駄目駄目じゃねぇか。無鉄砲にも程があるぜ。」  

影でイナリワンが一部始終見ていたが酷評で終わった。

「で、どうすんだい?諦めるのか、旦那?」

「いや、もうちょっとだけ頑張ってみるよ。」

「案外諦め悪いんだな。」   

「まあね。今回はちょっと粘ってみたいんでね。」

次なる策を練るアキヤマであった。

     

キョウエイマーチは怒りで収まらなかったが、芝コースを見ていると揉め事があるようで人だかりがあった。

(なんの騒ぎでしょうか?)

見てみるとメイセイオペラが取り囲まれていて一触即発のただならぬ雰囲気であると理解できた。

思わずスマホを握りしめその人だかりへ向かって歩いて行った。

 

「こんな感じですかね?」

芝コースのゲート練習をメイセイオペラは励んでいた。

ユキノビジンが指導を買って出た。

「うん、もうちょっと力抜いた方がいいべ。ダートだと踏ん張りがいるけど、芝だとバ場濡れている時はスッテンと転ぶがら。」

「わかりました!やってみます。」

コツをつかもうと何度も繰り返している。

もう一人アグネスデジタルも見学に来ていた。

(グヘヘ……。こんな至近距離で見学なんて!幸せすぎてシンドい!)

「デジタル。お前も付き合え。」

「え?いやいや、練習のお邪魔になりますし。ご遠慮いたします。」

練習を眺めていたかった。

「いいから付き合え。ゲート練習一人だと本番での感じが掴めない。」       

無理矢理参加させた。

そうこうしていると何人かのウマ娘の集団が見学にやってくる。

その中にガラの悪いウマ娘達がいた。

(うちのチームの連中かな?)

そう思ってアグネスデジタルに訊ねた。

「デジタル、うちのチームの人達来てる?」

「いえ、マーキュリーの方々は見かけませんね。」

「そっか。」

違うみたいであったが、そのウマ娘達は心ないヤジを飛ばすようになった。

「おい、今更ゲート練習ってダサすぎ!」    

「ゲート、かっぺ臭くなるじゃん!地方ウマ娘の分際で。」

「大人しく地方のヤツは草レースでもやってろっての。芝うす汚くなるじゃねぇか!」

メイセイオペラはこころない声を無視し練習に励んだ。

「オペラちゃん……。」

心配そうにユキノビジンが声をかける。

「大丈夫ですよ。あの手の連中は水沢にもいましたから。大したレースもできないんでヤジ飛ばしてるだけですよ。」    

「なんだと!地方ウマ娘ごときが偉そうに!」   

メイセイオペラは大して大きな声で話してなかったものの地獄耳のウマ娘がいたようで聞こえているようであった。

「ま、相手にしても時間の無駄なんで再開しましょう。ここのコースの貸出時間もありますし。」

そう言ってゲート練習を再開しようとしたその時そのウマ娘達が徒党を組んでコースになだれ込んできた。

「なんですか。ここは正式に申請してお借りしてるんで。出てってください。」

穏便にメイセイオペラは言ったのだが。

「は!お前、どこのチームだ?」

「どこだっていいでしょう?練習の邪魔です。出てってください。」

再び冷静に退出を促した。

「おうおう、地方ウマ娘は地方ウマ娘らしく砂と戯れてろってんだ!許可なんか知るか!俺らに渡しやがれ!でないと痛い目見るぜ!」

「なんなんですか?脅迫ですか?こんなことしてタダで済むと思ってるんですか?」

「タダで済む訳ないだろうな。お前がな!」

メイセイオペラ、ユキノビジン、アグネスデジタルを取り囲んだ。

「いいんですか?こんなことして。落ちぶれて地方に転校するっていう最終手段も絶たれますけど。」

「うるせぇ!大きなお世話だ!フクロにしちまえ!」

なだめようと思ったが逆効果だった。

「ユキノさん、デジタル、逃げろ。目標はオレ一人だから。」

「わがねぇ!大事なレースがあるべ。怪我でもされたら……。」

「そうですよ!私なら一発二発殴られるならむしろご褒美です!」

二人とも庇おうとしていた。

それでも多勢に無勢、歯を食いしばって覚悟を決めた。

「やっちまえ!」

襲いかかろうとしたその時だった。

「お止めなさい!」

大きな声でそのウマ娘がスマホを片手に警告した。

キョウエイマーチがそこに立っていた。

「今、風紀委員長のバンブーメモリーさんに通報しました!今すぐ立ち去りなさい!」

「やべぇ!ずらかるぞ!」

「クソ!風紀に目をつけられたらヤバい!」

通報はハッタリであったが慌てて取り囲んだ連中は一目散に逃げて行った。 

「あの、ありがとうございました。キョウエイマーチさん。」

助けられたことにメイセイオペラは頭を下げた。

「いえ、当然のことをしたまでです。」

毅然とそう答えた。   

「それに怪我でもして勝負できないのはつまらないですから。」

「え?それって……。」

「次のレース、楽しみにしてますよ。メイセイオペラさん。」

そう言い残しキョウエイマーチはコースをあとにした。

「オペラちゃん、あの人って?」

「うちのクラスの委員長のキョウエイマーチさんです。確か今度のレースの登録に名前があったんですけど……。(フェブラリー出るんだ。ダートを『草レース』とか言ってたのに……。)」

「オペラ先輩!時間が!」                          

「そうだ!もう一回ユキノさん、お願いします!」

アグネスデジタルに言われ慌ててゲート練習を再開した。  

 

そのすぐ後キョウエイマーチはスマホを見つめ意を決して連絡をした。

「トレーナーですか?気が変わりました。フェブラリーステークス、私、出走します。メイセイオペラはこの私が倒します!」

二年振りのダート出走を決意した。

(地方ウマ娘による中央G1初制覇。それはさぞかし魅力的でしょう。でも、たとえ芝スタートのトレーニング重ねたって現実は甘くないってことを思い知らしめて差し上げます。あなたの夢はこの私が完膚無きまでに打ち砕きます!)

  

数日後、メイセイオペラ達を取り囲んだ連中はチーム「マーキュリー」の一室に手足を縛られたまま運び込まれた。

「よう、うちの構成員が先日世話になったな。」

シリウスシンボリが目の前に立っていた。

「シリウス、アンタこんなことしてどうなるかわかってるのか?」

「どうなるか……か?通報でもするのか?」

「当たり前だ!これでお前らは退学だな!」

「へぇ、そうか。そうなったらお前らも道連れだな。」

「なんのことだ!」

「トボケてるのか?まあいい、お前らが取り囲んだメイセイオペラはな、れっきとしたマーキュリーの一員だ。」   

そう言われハッとするのであった。

「覚えはあるようだな。」

「いや、待ってくれ!知らなかったんだ!まさかマーキュリーにいたなんて!」 

「知らなかった……?それで赦してもらえるとでも……?もういっそのこと未練がないようにレースに出られない身体にしてやろうか?」

「いや、レースにまだ出たいんだ!わかるだろ!アンタなら!」

「ああ、でもな、メイセイオペラはお前らみたいな下っ端のレースでなく今度G1のフェブラリーステークスに出走予定でな。お前らの妬みかなんか知ったことではないが万が一レースに支障をきたせば私だけでなく『岩手の魔王』も黙ってないと思うがな。」

冷静な口調であったが威厳と恐怖を同時に感じさせるシリウスシンボリであった。  

「コイツらどうします?」 

「そうだな。」

「いや、待ってくれ!冷静に……ヒッ……。」

シリウスシンボリは脚を蹴り上げ手足を縛られた身体に少しかすった。

「おや、外れてしまったか?残念。」

恐怖で震え上がっていた。

「頼む……。もうあんなことはしないから!」

プライドを捨て懇願していた。

「そうか。チャンスはやる。だが、次はないと思え。お前らの顔は覚えたからな。」

連中を解放し彼らは出ていった。

隠れていたアグネスデジタルが出て来た。 

「これでいいのか?デジタル?」 

「ええ、すいません。こんなことをさせてしまって。」

「気にするな。私も腸煮えくり返ってな。なんなら一人や二人再起不能にしてもよかったが。」

「いやいや、大丈夫です。私も監視してますし。なにかありましたらご連絡いたします。」 

件の経緯をシリウスシンボリにアグネスデジタルは話すとすぐさまシリウスシンボリは行動に移ってしまった。

アグネスデジタルは慌ててできるだけ傷つけないようにお願いしていた。

「まあ、デジタル、お前の願いに免じてこの程度にしといたがこんなことは防いで置かないとな。お前らも手出しできないように監視しておけ。」

シリウスシンボリもチームの面々に指示を出した。 

かくしてメイセイオペラに手出ししようとする者はいなくなったのであった。 

 

その頃、トレセン学園の一室にてワシントンカラー、オースミジェット、メイショウモトナリ、マチカネワラウカド、マコトライデン、ファストフレンド、ビックサンデーら同じ学年の面々が集まっていた。

「ごめんね。初めてダートでしかもフェブラリー走ることになったから色々わからなくてさ。」

ビックサンデーが口火をきった。

「いや、ここにいる面子で情報交換しようと思ってたから大丈夫だよ。」 

マコトライデンが答えた。

マコトライデンは芝ダート両方の短距離で活躍するウマ娘であった。

先月のシリウスステークス(阪神・1400M・ダート・G3)で勝利しその勢いでフェブラリーステークスに挑むこととなった。

「かまへんで。知りたいこと多すぎやからな。ここにいるメンバー同士でお互いに情報出し合うのが吉や。昨日、フクキタルに占ってもろうてフェブラリー当日『凶』や言うてて。ラッキーアイテムは10キロの鉄アレイとか抜かしよった。『せやせや、これ持ってレース走ったら一等賞間違いないわって、できるか!』ってノリツッコミしてもうた。」

マチカネワラウカドがウケ狙いをして場を和ませた。

「で、今年は異例づくしだからな。さて、その異例の一つメイセイオペラの参戦なんだけど。まあ、予想はされてたけどな。この中で走ったことあるのはモトナリだけか。」

オースミジェットがメイショウモトナリに話を振った。

「え……と、クラシックのとき……だったので。あの時たまたま大井のスーパーダートダービー勝っただけなんですけど……。でも昨年の夏頃から別人なくらい強くなってる……気が……します。」

「別人か……。確かに私も模擬レース、春に一度やったけど1600までならなんとか勝てる気はしたけど。」      

メイショウモトナリの話にワシントンカラーが続いた。

「ということで私が呼ばれたんだ。フェブラリー参加しないのに。それでこの間私が彼女と模擬レースやった感想が聞きたいと?」

ファストフレンドが発言する。

一同はうなずいて注目した。

「まあ、みんなとさほど変わらないよ。タイキシャトルと模擬レースした時の感想まんまだよ。ただ強かった、それだけ。」

よほどの事がなければ併走や模擬レースは直近になると出走予定者同士では避ける傾向だった。

「まあ、でもメイセイオペラだって初めて府中で走るわけだし。特に最初芝なんで。そう簡単にはいくかなって言う気持ちもあるんだけど。南部杯の時みたいに逃げるとは思えない。」

オースミジェットが見解を述べた。  

「それはまあ、そうだけど。そういや逃げって言ったら委員長(キョウエイマーチ)も参加するらしいよ。最初登録表みて誤植かと思ってたけどダートのトレーニングしてた。」

ワシントンカラーはキョウエイマーチのことに言及した。

「委員長か……。あの人さんざんダート見下してたってのにどういう風の吹き回しなんだろ?まあ、桜花賞ウマ娘だからな。実力はまああるっちゃーあるんだけどさ。芝でも何度か走ったけどまあやっかいだな。一昨年のマイルチャンピオンシップみたいにスズカと先行争いしてペース乱されるのだけはカンペンだな。委員長とレースしたことあるのは私とワシントンと(ビック)サンデーか。」

マコトライデンも述べた。 

「まあ、確かにペース乱されるのだけはね。でもダート久しぶりならそんなに心配でもないかも。って、初めてダート走る私が何言ってんだよって話だけど。……でさ、話戻るんだけどメイセイオペラってそんなに強いの?岩手から来た地方ウマ娘でしょ?まあ、タイキシャトルとの模擬レース見たけどあれってたまたまかも知れないし。」

ビックサンデーは疑問を呈した。

「サンデー、昨年G1一番多く勝ったのは誰かは分かるよな?」

「タイキシャトルだよね?国内と海外合わせて三勝の。」

「もう一人いるんだよ。G1三勝した人が。」

「え……、いないでしょ?セイウンスカイがクラシック二勝のあとは全部バラけてたし。」  

「あのな、それトゥインクルシリーズだけでだろ?地方のG1見てないだろ?」

「ごめん、そこは考えてなかった。」

「地方のG1で川崎記念、帝王賞、東京大賞典で三勝した南関東のアブクマポーロってのがいてな、ほぼ無敵状態だったんだけど唯一昨年土をつけたウマ娘が地元南部杯で勝ったメイセイオペラなんだよ。しかもレコードで。」

「そうなんだ。そんなに強いんだ。」

オースミジェットがビックサンデーの疑問に答えた。 

「あ、でも地方のレース場って平坦な所ばっかじゃん。府中は高低差あるし戸惑うんじゃない?」

「ところがどっこい、盛岡レース場ってのは高低差4,4Mあってコースも府中に似通ってるんだ。だから度し難いんだよ!」

「だからフェブラリーステークス参戦にしたのかな?」

「まあ、それもあるが。実はメイセイオペラって1600のダート一回も今まで負けたことないんだよね。データ見ると。」

オースミジェットがビックサンデーに色々説明を施した。

「なるほど、やっぱ難敵だな。まあ、またレース前あたりに話し会おっか。」

ワシントンカラーは提案する。

「こういうことってダートではあたり前なの?」  

「あたり前かどうかはわからないけどシャーロック先輩達は結構やってるって。ほら、地方のレースとかで地方ウマ娘のデータって少ないし。」

ビックサンデーの問に答えたワシントンカラーであった。

再び会合の日程を決めお開きとなった。

   

一方、タイキシャーロック、エムアイブラン、バトルライン等もフェブラリーステークスについて話し合っていた。       

「なるほどな。私達と同じくメイセイオペラはフェブラリー参戦か。今、芝でゲート練習をやってるらしい。」

出走予定表に目を通しながらタイキシャーロックは言った。 

「メイセイオペラがフェブラリー。アブクマポーロが川崎記念。あの二人示し合って別々のG1にしたのか?」

エムアイブランが疑問を投げかける。

「いや、そうではないらしい。寮で一悶着あってアブクマポーロがメイセイオペラに掴みかかったっていうのを耳にしたからな。」

タイキシャーロックは淡々と答えた。

「え、掴みかかるってあの冷静沈着なアブクマポーロが?」   

「まあ、お前みたいに血の気が多いやつなら日常茶飯事だろうがな。」

「どういう意味ッスか!ブラン先輩!」

バトルラインの反応にエムアイブランが茶化すように言った。

「あと、やっかいなのはキョウエイマーチか。桜花賞ウマ娘の。」

タイキシャーロックがキョウエイマーチの名を出すとバトルラインはみるみる顔色が変わった。

「キョウエイマーチ……あの野郎。」

「なんかあったのか?」

「一昨年の芝のマイルチャンピオンシップでた時、あいつに『あら、バトルさん芝走れたんですか?』つったから走っちゃ悪いのかよ!って答えたら『いえ、邪魔しないでくださいね。もっとも邪魔できたらの話ですけど。』って言いやがって!今思い出してもクソ腹立つわ!」      

「そのレースってサイレンススズカとキョウエイマーチが先行争いしてめちゃくちゃハイペースになって最後シャトルが差して勝ったやつだな。そんなこと言われてたんだ。」

「絶対に許さねぇ!なんなら先行争いで邪魔してやろうか?サイレンススズカ並みに。」

鼻息荒くバトルラインが言い放つ。

「やめとけ。ペース乱して最後脚持たんぞ。バトル。」 

「……ですね。でもやっぱオペラが一番警戒しなきゃならない相手ですかね?」

「だろうな。実績として考えると。まあ何にせよ一応は我々が走り慣れてる府中だ。簡単に快挙を許すわけにはいけない。」 

タイキシャーロックとバトルラインのやりとりにエムアイブランはうなずいた。

「地方ウマ娘によるティンクルシリーズG1制覇か。まだどの地方ウマもなしえてないが、そううまくは行くまいっていうかさせねぇ。絶対に。今回あのトレーナーと短期契約したから負けるわけにはいかねぇ!」

エムアイブランは有名なトレーナーとの契約に漕ぎ着けて意気込んでいた。

「まあ、ブランの言う事も分かるが、私も南部杯の借りを返したいんでね。ブランにも負けるつもりないから。」

タイキシャーロックも昨年のフェブラリーステークス、南部杯と結果を残せなかった悔いもあった。

出走予定表を見つつ深く息をした。

 

キョウエイマーチは二年振りのダート練習をやり始めた。

トレーナーが見守る中、久しぶりのダートに手こずっていた。

(やっぱり、走りずらい……。砂煙も上がって顔に当たって痛いし、シューズも砂まみれ……。つくづくダートって……。)

一通り走ってトレーナーの方へ向かった。

「どうだ?」

「……。」

不機嫌なのが手に取るようにわかるトレーナーであった。

「そうだ。同じチームのアブクマポーロさんとそのトレーナーにも教わって見たらどうだろうか?」

(今まで、素っ気ない態度をあの方にとっていましたが応じてくださるでしょうか?)

そう思うが他に思い浮かぶ案もなくレースまで時間もない。

「か、考えてみます……。」  

「分かった。話を通しておくね。」

そういうとトレーニングを再開した。

しばらくすると知り合いのウマ娘が様子を見に来ていた。

キョウエイマーチはそれに気づいて近寄って行った。

「マーチ先輩……。」

キングヘイローは心配そうな表情であった。

「キングちゃん……。あなたの言いたいことはわかるわ。でも、今は何も言わないで……。私の気持ちも今に分かるときがくるわ。……いえ、そうなることにならなければいいのだけれど。」  

そう言うとダートのトレーニングに向かって行った。          

キングヘイローはただ心配そうに見守るだけだった。   

 

 

 

 

 

Chapter4 嫉妬故に  

 

 カフェテリアでメイセイオペラはアブクマポーロを見かけると近寄って言った。

「おい、明日、寮の水道工事あるから日中水道使えねぇってよ。」

「……。」

話しかけたか無視して立ち上がって去って行った。

「聞いてんのか?一応伝えたからな!ったく!」

その様子に居ても立ってもいられなくユキノビジンが声をかける。

「オペラちゃん、大丈夫が?」

「すいません。いや、ホント大人げないッスよね。あいつ。」

苦笑いして気丈に答える姿にユキノビジンはある人に相談しようと心に決めた。

 

「なんとかしてけろ。ニセイちゃん!痛々しくて見てられねぇべ!」 

ことの詳細を話しユキノビジンはトウケイニセイに相談を持ちかけた。

「『なんとか』ってなんだよ?」

「『なんとか』は『なんとか』だべ。いつもトラブルあるとニセイちゃんが解決してらっけべ?」

「あのな、ユキノ。俺は『未来から来た便利なネコ型ロボット』でも『料理にやたら詳しくて何でも食い物で解決する新聞記者』でもないんだぞ!なんで岩手にいるのにそんなことに手を突っ込まなきゃなんねぇんだよ。」

「だって、いつも斜め下の解決方法でトラブル解決してらっけべよ。」

「おい、『どっかのこじらせぼっちラノベ主人公』みたいな扱いやめろ!ってこのケースだとオペラよりあいつの方どうにかしなきゃなんないだろし。策が全く思いつかない。ごめん無理だ。」

「可愛い後輩の危機を救おうとは思わねぇのが!そっただ薄情だどは思わなかった!見損なったべ!」

「イヤだってツテがよ。両方の知り合いなんて……。」

よくよく考えて見た。

「あ……。(おった!あの人そういや知り合いだった。)」 

「ニセイちゃん!なんかまたいつもの意地悪いことひらめいたんたべ!さすがトラブルメーカー&シューターニセイちゃんだべ!それじゃ任せたべ!だば!」

「おい、言い方!って!切りやがった!もう!」

一方的に通話を切られしぶしぶその知り合いに連絡する運びとなった。

 

「すいません。そういう訳なんで、オナシャス!」

「おい、何が『そういう訳なんで』だ!なんでこの俺がそんなクソ面倒な役回りしなきゃならないんだよ!」

トウケイニセイはスイフトセイダイに話を持ちかけた。

「だって、あいつの知り合いってスイフト先輩しか思いつかなくて。第一、(ダンス)レッスンの支障もきたしてるんじゃないんですか?」

確かにモチベーションが下がって最近レッスンに身が入ってないので思い当たる節はあった。

「なんでこの俺が……。ああ、分かった。じゃあ一応やってやる。うまくいったらこっち来た時なんか奢れ。あ、(グレート)ホープの分もな。」

「ホープ先輩は関係なくないすか?」

「うるせぇ!卒業してからも世話かけさせやがって!」

トウケイニセイはスイフトセイダイにユキノからの頼みを丸投げした。

 

数日後、アブクマポーロのダンスレッスンの指導をしていたが、やはり以前と比べミスが多く精彩を欠いている。

集中力もなく不満を覚えた。 

「今日は駄目だな。もう終わりにしよう。」

「え?」

予定時間よりも早く終了することとなった。

「そうだ、飯付き合え。奢ってやる。」

「あの……。」

「俺と飯食うのは嫌か?」

「そういう訳では……。」

しぶしぶアブクマポーロはスイフトセイダイにと食事に付き合わされるハメになった。

デザートまで頼みコーヒーが運び込まれると本題に入った。

「お前、オペラと揉めたらしいな。」

「いえ……その……。」

「お前が川崎記念。オペラがフェブラリー。どっちも勝てりゃ地方としてはウィンウィンじゃねぇか?何が不満なんだ?」

そういうスイフトセイダイにアブクマポーロは説明しだした。

芝スタートで出遅れの可能性が高いこと、高低差のコース、中央のウマ娘達との経験の差等を理由に挙げた。

「……という事で厳しいと思います。」

「へぇー。で、ひとつ聞いていいか?」

「なんですか?」  

「無理だっつって、川崎記念にオペラ出走した方がいいってか?そんなにオペラと闘いたかったのか?川崎記念にオペラが行ったらお前勝たせてくれるの?」

「なんでそういう風に捉えるんですか?たとえ川崎記念に来たとしても叩き潰します。」

「だったらいいじゃねぇか。あとな、もう一ついい?」

「まだあるんですか?」

「去年、船橋からお前の同室のバンチャンプがフェブラリー出てたよな?あいつにも芝がどうとか、高低差がどうとか勝ち目ないから諦めろっつったの?どうせ『失うものはないから思い切って行って来い!』とか適当に言ってたんだろ?」

「いえ……それは……。」

図星を突かれ返答に困るアブクマポーロであった。

「だったらオペラだって同じじゃねぇか?まあアレだ、誰もなし遂げたことのない地方ウマ娘による中央G1制覇を自分差し置いて実現してしまうと思って嫉妬したんだろ?」

「なんであんなやつなんかに!嫉妬なんか!」

思わずアブクマポーロは立ち上がった。

「なんでムキになる?そもそも川崎記念だろうがフェブラリーステークスだろうがお前は選べたはずだ。まあ、距離適性とか南関東とか海外への参戦も視野に入れての選択なのは理解できるよ。一方オペラはお前に南部杯で勝ってる。府中は初めてだが、芝スタートを除けばそれ程苦ではないと思うけどね。」

「……まあ、そうは思いますが……。」

「あ、話変わるけどそういやお前、ニセイに負けたらしいな。得意の2000で。」 

「え、いやその……。」 

アブクマポーロは慌てふためいた。    

「強かっただろ?」

「……はい、笑わないんですか?とっくにピークも過ぎてるはずなのに。」

「なんで笑う?俺もニセイに負けたんだよ。俺が前の年勝ったみちのく大賞典で。そんでレース引退、トレセン卒業を決めた。負けた時はそりゃ悔しかったよ。でもその一方で安心してしまった自分がいたんだ。もう岩手を背負うこともない。ニセイとモリユウ、あいつらに岩手の未来を託してバトンを渡すことができたってな。」

(バトン……。そんな発想はなかった。)

スイフトセイダイは続けた。

「俺の現役時代は交流重賞どころか地方交流ってのも俺が勝ったダービーグランプリくらいしかなかった。だから年末に短期で南関東に転校してまで東京大賞典に挑んだ。そんで中央のオールカマーも出走した。お前も出たろ?」

「その話は……。」

「8着だったしな。因みに俺は5着だった。」

「駄目駄目じゃないですか。」

「お前もな。で、うまくいったらその先を目指してたよ。唯一地方ウマ娘が出走できるG1だったからな。」

「ジャパンカップ……。」

「そう、お前の大先輩ロツキータイガーさんの上を目指す。それが俺の目標だった。まあできなかったけど。」

「そんなの無理に決まってるじゃないですか!」

「そう、思うよな。いや無謀だと今では思う。でもそのジャパンカップ、世界相手にほぼ同着の2着レコードっていう地方出身の怪物がいたからな。まあ、それはさて置きお前らはいい時代に生まれたんだよ。そんなことしなくたってG1に手が届くんだから。ホント羨ましい限りだよ。」

スイフトセイダイの言葉にアブクマポーロは言い返すこともできなかった。

交流重賞が開設されて数年。

だがスイフトセイダイの現役時代にはまだ中央と地方の壁は存在していたのであった。

オグリキャップやイナリワン等の地方ウマ娘の活躍もあって地方のレースも注目され交流重賞の設立の流れとなった。  

「アブクマポーロ、ニセイやオペラにも言ったけどな。一線を退いた俺だから言えることだけどレース人生ってのはあっという間だぞ。だから後悔しないようにな。まあ、かく言う俺は後悔しっぱなしだけどな。」

(あっという間……。今は考えられないけど、いずれ……この僕も……。)

その言葉は重く突き刺さった。

「やっぱり、嫉妬したんだろ?」

「してませんって!」

「なんでムキになる?」 

「もういいです!」 

その後アブクマポーロはスイフトセイダイと別れ、トレセン学園美浦寮へ帰った。

 

美浦寮の自分の部屋に戻るとメイセイオペラがいた。

机に向かって宿題でもやっているようであった。

アブクマポーロは近寄って行った。

「なんだよ!なんかまた文句でもあるのか?」   

メイセイオペラは警戒した。

「すまなかった……。」

素直に謝り頭を下げた。

「へ?何?」    

突如の事で戸惑った。

「僕は……君の事、嫉妬していた。僕には中央のG1に挑戦する勇気はなかった。だからムカついてその……。」

「え?嫉妬?何言ってんの?普通に気持ち悪いんだけど。」

「気持ち悪いってなんだよ!真面目に話してるのに!」

「フザケてるのかと思った。まあ、正直川崎記念に出走も考えたよ。アンタに負けっぱなしじゃ悔しいしな。でもトレーナーの勧めもあって今回はフェブラリーを選んだ。どの道、他のダートG1で当たるだろうし。そんな感じだよ。」

二人の間に少しだけわだかまりが解けたような雰囲気になった。

アブクマポーロは思い出した。

「あ、フェブラリーなんだけど。うちのチームからキョウエイマーチさん出るから。」

「え、マジで?あの噂本当だったんだ!『草レース』って言ってた人が。」

「僕もそのトレーニング付き合う事になると思うから。負けても文句言うなよ。」

「言わねぇよ!アンタが出るわけじゃないし。勝つためならそれが最善手だと思うけどキョウエイマーチさんダートレースものすごくひさびさらしいし。まあ、ペース乱されなければなんとかなるだろ。」

「それでも中央G1の桜花賞ウマ娘だぞ。走ってないだけで手強い相手になると思うから。ってそうさせてやるよ。」

アブクマポーロがキョウエイマーチにダートのレースを教授すると言う。

少しだけやっかいに思うメイセイオペラであった。

 

数日後。

トウケイニセイにスイフトセイダイから連絡が来た。  

「おい、ニセイ。俺がアブクマポーロにちょっと言っただけでうまくいったようだぞ。」

「ありがとうございました。スイフト先輩。実際の成果の程は疑問ですけど。」

「何だ?疑ってんのか?」 

「いえいえ、滅相も。ありがとうございました。」

「ったく、調子いいことばり抜かしやがって。そうだ折見て盛岡行くから大通りのあの店の『びっくりニンジンハンバーグ』&ビール奢れや。べ◯レンのやつ。」

「社会人がいたいけな学生にお酒を集るのって倫理的にどうなんスカね。」

「お前にだけは倫理を語って欲しくない。どこがいたいけだ!」

「ともかく、オペラの懸念を一つ片付けました。あ……。」

「どうした?」

「何でもないっす……。」

トウケイニセイはもう一つの懸念を思い出した。

早々と通話を打ち切って水沢に向かった。

 

真冬の水沢はレースも冬季休業中であり閑散としている。

水沢校の一室にそのウマ娘を呼び出した。

「悪いな。急に呼び出して。」

「いえ……。(私に何の用なの?)」 

サカモトサクラであった。 

しばらく沈黙が支配し部屋の石油ストーブのファンの音が聞こえるだけだった。

「実はな、正月明けでオペラと初詣行ってただろ?たまたま、その帰りのお前らのやりとり聞いちまってな。」

「あ……。(見られてたんだ。)」

「なあ、サクラ、昔オペラがトレセン学園辞めようとして引き止めてくれって連絡してきたよな。それ今後悔してるか?」

「後悔なんてしてません。オペちゃんは同期の中でもっとも才能がありました。それを失うことなんてありえないです。」

きっぱり否定した。

「うん、なら話が早い。オペラがもし中央行くことになっても快く送り出してやろうぜ。」

「え……。ニセイ先輩、それでいいんですか?」

「あいつがそこまで活躍するとは正直思わなかった。南関東のレースで上位に入るようになったし、南部杯はレコードで勝つとはな。十分貢献してくれたよ。」  

「でも……。」

「お前の言い分もわかるよ。いなくなれば興行面で売上だいぶ下がるしな。だが、俺も言われたことだけどウマ娘がレースに出られる期間は短いんだ。分かるよな?」    

「ええ……。」 

「この俺でも引き止める事はできない。多分中央へ転校希望出したら受け入れてもらえると思う。」

「そんな……、でも本音を言えばオペちゃんにいてほしい……です。」

サカモトサクラの目からは涙がこぼれていた。

メイセイオペラに対しトレセン学園での学友としていてほしい気持ち、ウマ娘として強くなって上へ向かってほしい気持ちとの間で揺れ動いていた。

初詣の帰りでいてほしい気持ちが一気に出てそうなってしまった。

「サクラ……。」

サカモトサクラも姉のサカモトデュラブ程ではないが岩手では戦績上位のウマ娘であることには変わりがない。

そんなウマ娘でさえ遠くへ行ってしまうと感じさせる存在になってしまった。

メイセイオペラというウマ娘は岩手だけのウマ娘ではもうないのだ。 

「寂しくはなるよな。サクラ、気持ちはわかるよ。でもな……。」    

「ええ……。私もオペちゃんには羽ばたいてほしいです。引き止めたいのは私のワガママです……。」

「うん、そうだな。」

もう言葉はでなかった。 

なんとか気持ちの整理をつけさせたようであった。

  

一応顛末を携帯でメイセイオペラに伝え盛岡へトウケイニセイは帰還した。

盛岡校へ戻ると生徒会室にいるモリユウプリンスに呼ばれた。

「先輩、これ……。」

一通の封筒を手渡された。

中身はフェブラリーステークス当日東京行の新幹線のチケットだった。

「おい、モリユウ、これって?」

「行ってきてください。府中へ。会長命令です。」     

「なんでだよ!お前が行けよ!水沢でフェブラリーステークスのPV(パブリックビューイング)仕切らなきゃなんないんだよ!」

「駄目です。それは私が仕切ります。なので先輩が行くべきです。」

トウケイニセイは渡されたチケットをモリユウプリンスに突き返すも再度押し付けられた。

トウケイニセイは睨みつけていたがモリユウプリンスは懇願するような悲愴な表情でいつもの雰囲気でなく何かを察した。

「先輩……。いつもあなたのワガママ聞いてきたんです。尻拭いも。私のワガママもたまには聞いて下さいよ。」

「モリユウ……。わかったよ。行きゃいいんだろ!行きゃ!」

しぶしぶ受け取って生徒会室をトウケイニセイはあとにした。  

          

(これで義理は果たしましたよルドルフ会長。でもね、うちのトウケイニセイはすごくガンコなんです。あなたの思うようには多分……。)

年末にシンボリルドルフからトウケイニセイになんとしてでも会いたいという主旨の手紙が届いた。

シンボリルドルフは二度も会う機会を逸した。

ストレートにトウケイニセイに対し熱い想いがしたためられていたのであった。   

       

    

 

 

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