ビューチフルドリーマーズ(ウマ娘)   作:ききき三左衛門

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第12R 東北から来た英雄

Chapter1 邂逅

 

 府中、東京レース場。

例の二人(みなみとますお)がいた。

「今年もG1が始まるな。」

「ダートの祭典、G1フェブラリーステークス。最近は地方の交流重賞もあってダートのレベルも高くなって注目されるようになったけど。」

「やはり、メイセイオペラがどう走るかだよな?」

「ああ、だけどそのメイセイオペラ2番人気なんだよな。南部杯勝ってるのに。」

「そのことなんだが……。今まで多くの地方ウマ娘が中央G1に挑んできたが誰一人として勝ってはいない。南部杯勝利にしても地元のレースで有利に働いた結果だと見ているからだと思う。あと芝スタートもネックと見てる人が多い。」

「どうした急に?」

二人の会話に口を挟む者がいた。 

「くだらねぇ!」

黒いジャージに身を包んだ眼光鋭いウマ娘が吐き捨てるかのように言い放ち二人を睨んだ。

「くだらねぇっつってんだよ!オペラがそう簡単にやられてたまるかよ!盛岡にだって芝コースあるだろが!お前ら南部杯に来てたじゃねぇか!あ?」

「誰……?」 

「トウケイニセイ……。」

「ま、魔王……。」

「あ?」

「ひぇ~」

再度睨みつけられ二人は怯んだ。

(どいつもこいつも地方だ中央だってくだらねぇ!ゲートに入りゃ勝つ可能性は誰にだってあるんだよ!それにこのメンツで簡単に後れを取るようなオペラじゃねぇだろ!)

などとトウケイニセイはバ場を見つつ不機嫌にそう思っていた。

「ニセイちゃん。」  

声をかけられ顔を向けた。

「遅ぇじゃねぇか、ユキ……ノ。」

ユキノビジンはうつむいて顔を逸らしている。

その背後にもう一人ウマ娘がいた。

「やあ、少し話さないか?」

(シンボリルドルフ……。)

中央のトレセン学園生徒会長シンボリルドルフに声をかけられた。

このとき初対面であった。 

ユキノビジンは席を外しルドルフと二人きりになってしまった。

皇帝シンボリルドルフ。

魔王トウケイニセイ。

双方独特の異様なオーラが放たれその領域に踏み入ることも憚れるかのようであった。

(一体この俺に何の用だ?なんか文句でもあるんか?あ、この間の模擬レースのやつか?)    

トウケイニセイは少し考えてみるとふと新幹線の切符を差し出すモリユウプリンスの顔を思い浮んだ。

(モリユウ。あの野郎仕組みやがったな!)  

この出会いは偶然のものではなく仕組まれたものと察知した。

(さて、会ったはいいがなんて切り出せばいいのだろうか?)

ルドルフはどう接していいか少し戸惑っていた。

「君には一度会ってみたいと思っていた。ようやく念願が叶ったと言うわけだ。ここ(東京レース場)に来るのは初めてか?」 

「ええ、出走者として来たかったですけどね。」 

ぶっきらぼうにルドルフの問いに答えるトウケイニセイだった。

「すまない……。そういうつもりでは……。」

「お気になさらず。戯言ですよ。」

(戯言か……。)

多少不安に思っていたルドルフであったが会話になるのを安堵し本題に入った。

「聖蹄祭のときの君の走りを動画で見させてもらった。見事な走りだった。」

「すいません。あの時はお騒がせいたしました。お詫び致します。」 

トウケイニセイは頭を下げた。

「いや、それはいい。その代わりと言ってはなんだが……。いっそのことこちら(中央)で走ってみないか?君の戦績にふさわしい待遇にすることも約束する。」      

(皇帝様自らスカウトってか。)

二人の間にしばしの時間が流れた。

トウケイニセイは口を開く。

「せっかくのお誘いですがお断り致します。」

「……理由を聞いてもいいかな?」

「私はこれまで岩手の水を飲んで暮らして来ました。慣れない水を飲むと腹を壊すと言います。あいつみたいに。」

トウケイニセイがバ場にいるメイセイオペラを見ながら答えた。

「君もそういう体質なのか?」

「いえ……。もののたとえです。それに……。」

「それに、何だ?」       

「それにあなたに勝てるところが一つもない。」

「そんなことはないだろ?」

トウケイニセイは少し考えてから言った。

「あ、ありました。あなたより負けの数が一個多い。」

少しの間があってルドルフは吹き出した。

「フフ、ハハハ。そうだったな!」

(そんな面白いか?)

「どうしても駄目か?」

「ええ……。代わりといっちゃ何ですが、私ではなくメイセイオペラを転校させてやってください。中央でも上手くやってるようですし。あいつもともとそちらの入試落ちて岩手来てますから……。このレースの結果次第でいいんで。」

「わかった。審念熟慮しよう。」 

「お願いします。」

トウケイニセイは頭を下げルドルフのもとを去っていった。

(駄目だったか……。)

ルドルフは天を見上げた。

やるべきことはやったが結果が伴わず多少の虚しさを感じていた。

「会長……。」

背後から声をかけられた。

「うわ、エアグルーヴ!いつからそこに?」              

「あの……。『負けが一個多い』というところは聞きましたが。」

「エアグルーヴ。私は恋愛というものは経験したことはないのだがフラれるというのはこういうことなんだろうか?」   

「何をおっしゃってるんですか!会長を振る者などおりませぬ!」 

「だが、実際に彼女を中央へ誘ってみたが玉砕したぞ。」

「では私が説得してみせます!首根っこ掴んででも会長のもとへ連れ戻してきます!」

「止してくれ!それで快諾されたら私はもっと惨めになってしまう。」

思わず軽口を叩くルドルフだった。

「会長!何故あのような風貌の地方ウマ娘を自ら中央へ招き入れようとなさるのですか!」

エアグルーヴは率直な疑問をぶつけた。

「理由が知りたいか?」

「ええ、ぜひ。」

「エアグルーヴ。かつて私の出るレースには『絶対』があると言われていたがそれ以上の『絶対』が存在したらどうする?」

「あり得ません!そんなウマ娘は過去にも未来にも存在し得ないと断言します!」

「そうか?だがな、彼女トウケイニセイの戦績はな……43戦39勝だ。私より『絶対』があると思わないか?」

「よんじゅうさんせんさんじゅうきゅうしょう……。」

地方のレースとは言え40戦以上戦いおよそ9割の勝率を誇るウマ娘が存在している事実にエアグルーヴは頭がバグって絶句してしまった。

(Eclipse first. the rest nowhere. 唯一抜きん出て並ぶ者なし。メイセイオペラも言っていたが、岩手いや地方において彼女以上にふさわしいものはいないのだがな。とても残念だ。)

バ場を見ながらルドルフはそう思わずにはいられなかった。

 

トウケイニセイはユキノビジンのもとへ来た。

「会長さん、何て?」   

「この俺に中央に来ないかって誘われた。断ったけどな。」

「なして!」

「なして……って。ユキノ、俺の脚の状態わかってんだろ?それに……。」

「それに?」

「いや、何でもない。」

(それにレースに出るってのは俺にとって覚悟がいるんだよ!毎回脚の状態が悪化して次のレースに出られるか分からない、いやもう出られない可能性だってあるんだ。俺にとって今でるレースが引退レースだって覚悟して毎回レースに臨んでた。レース直後は次出られるかどうかいつもビクビクしてたんだ!だから死んでも負ける訳にはいかない。その気持ちわかってたまるか!いや……シンボリルドルフだけでなくユキノもこれから走るオペラもそんな気持ちなんて考えたこともねぇだろ!その気持ちの積み重ねが39勝までできただけなんだよ!)

トウケイニセイはデビュー戦後、屈腱炎で一年七ヶ月も休学していた。

その間、レースに復帰するかどうかの葛藤もあった。

復帰したものの屈腱炎は完治できずトレーニングもままならない状態で最低ランクのレースからのリスタートであった。

脚元の爆弾を抱えながらレースを続けついに岩手の頂点に立った。

だが、ほとんどのレースは盛岡、水沢のレースで遠征は二度だけであり、環境の慣れない他のレース場に挑む余裕はなかった。

(今更、中央に行ったって……。そもそもあいつがいなけりゃレースもままならねぇ。過去にもいろんなところから勧誘きたけどな。カウンテス先輩から南関来いっていうのも断っちまったし。この脚さえどうにかなってりゃ、いや……。)

ユキノビジンもトウケイニセイの性格をわかってそれ以上は追求しなかった。  

  

スタンドの上の方ではメイセイオペラの母親も駆けつけていた。

(見える?今あの子が走るわ。見守っていてね。)        

両手に父の遺影を持っていた。

(夢が叶うかもしれないって言ってたけど本当に叶ってしまった。でも、今なら……。いえ、無事に走ってくれたら何よりだわ。肝心な時にやらかさなきゃいいけど……。)

そのことだけが心配の種であった。

水沢ではレース場において一般客も交えてのPV(パブリックビューイング)が行われていた。

最前列でメイセイユウシャとサカモトサクラが大画面の前でレースの好走を祈っていた。

 

返しウマが終わりスタート地点にメイセイオペラはいた。  

トウケイニセイからスタートの指導を思い出していた。

ユニコーンステークスに挑むつもりであった時、トウケイニセイに言われたことであった。 

「オペラ、スタートどうする?」

「やっぱり、できるだけ二番手くらいには行きたいんですが。」 

「何言ってやがる。盛岡じゃねぇんだぞ!盛岡はスタート900M直線だからそれでいいが、府中はな、それじゃ駄目だ。しかも慣れない芝スタートだろ?もう少し後ろからだな。」

「三四番手、もしくは四五番手ってことですか?」

「まあ、そうだな。そのへんでじっくり脚ためてゴール200(M)前でスパートってイメージだな。(ま、あいつの受け売りだけどな。)」

「わかりました!」

トレーナーからも同じことを言われたことで作戦は固まっていた。  

(スタートが上手く行けばなんとかできるけど……。中央の入試落ちて、デビュー戦のあと勝てなかったり、しまいには大怪我までしてしまっていろいろ挫折もしてきた。けれど……今、オレはここに立っている。)

そう考えていた矢先、メイショウモトナリが声をあげた。

「我こそはダート戦国を統べるべくこの一戦に全てを賭ける!各々覚悟なされよ!陸奥(みちのく)の英雄も桜花賞ウマ娘も他の猛者達も我が力に屈するがよい!」    

(モトナリさん気合入ってるな。)

苦笑いでメイセイオペラは見ていた。

オースミジェットは初めてのダートG1であった。

(こんな大観衆で走るのNHKマイル以来だな。)

その一戦からしばらくしてダートに転向し実績を上げて参戦に至った。

(オペラのやつ、落ち着いてやがる。流石に何度もG1戦ってきただけあって物怖じしねぇな。)

メイセイオペラとの初めてのレースであった。     

(ただ、こっちはユニコーンステークスを含め三度も府中ダート1600走ってるからな。そう簡単にやられてたまるか!)

そうメイセイオペラをみて気合いを入れていた。

スターターが台上に上がり旗を振る。

場内に今年最初のG1ファンファーレが鳴り響いた。

 

 

 

Chapter2 メイセイを我が手に

 

〔今年も最初のG1、フェブラリーステークスの日がやって来ました。天候も良く芝、ダートとも「良」と発表されております。たった今ファンファーレが鳴り響きました。

まもなく戦いの火蓋が切っておとされるところです! 

そして十万近い大観衆が砂漠の冒険者達に声援を送ります!16名のウマ娘達はこの冬の下で格の違いを聞き分けたでしょうか?さあ、ゲートインが始まりました!順調に進んでいます。さて展開ということになりますがキョウエイマーチが思い切っていけるか?そしてメイセイオペラが、それからワシントンカラーは後方からの直線に賭けるということになるのか?〕

ゲートインが順調に進んでいった。

最後、ドージマムテキがゲートに入り態勢完了した。

〔みどりの向こうに広がる東京砂漠、マイルの果てに栄光は?オアシスか蜃気楼か?ダートG1フェブラリースタートを切りました!〕 

ゲートが開き各ウマ娘、一斉に飛び出した。

〔まずは芝コース100M通って、さあキョウエイマーチ、ビックサンデー。芝で活躍の両者が行く格好と成りました!〕  

レース前の予想通りキョウエイマーチがハナにたつ。

(ついて来なさい。もっともついて来られたらの話だけど。)

〔キョウエイマーチ、そして内の方を通りましてマコトライデンが行っております。メイショウモトナリ、その外にビックサンデーがつけている。その後ろバトルライン、それからメイセイオペラはここです!前から五六番手の位置にメイセイオペラ!〕

腕組みをしてトウケイニセイは見ていた。

(スタートはまずまずってとこか。)

隣のユキノビジンをみると不安そうに見ていた。

(少し出遅れてねぇかって見てるな、ユキノ。でもそれでいい。無理に行くのは禁物だな。)

メイセイオペラも冷静だった。

(芝なんとかなった!これなら後は置いていかれなければなんとかなるかも。)

バトルラインは前めに出る作戦をとった。

(南部杯のときオペラに逃げ切られて追いつけなかった。できるだけ先行しときたい。)

タイキシャーロックは後方に構えた。

(メイセイオペラもやや後方に控えたか。賢明だな。しかし、こちらは何度もこのコースを走っている。南部杯のようにはさせないさ。)

さらに後ろにエムアイブランがつける。

(ここ1年のG1、アブクマポーロとコイツに持っていかれちまってる。フェブラリーまで負けたら俺ら中央のダート勢は赤っ恥もいいとこだな!) 

3コーナーに入ってもレースの大きな動きはなかった。

〔3コーナーのカーブに入って行っています。先頭はキョウエイマーチ、やはり逃げます。そしてメイショウモトナリがわずかに二番手。ケヤキの向こうを過ぎて行きました。さあ、キョウエイマーチでありますがそれほど飛ばしてはおりません!現在五六番手メイセイオペラ、その後ろにワシントンカラーがつけている。人気のウマ娘達が固まっている中、直線抜けて来るのは何だ?〕

4コーナーから直線に入る。

(まだだ……。まだ動いちゃ駄目だ……。ここは我慢だ!勝負は坂を登りきってからだ!)

メイセイオペラは自分に言い聞かせていた。

最終直線の坂を登り、先頭のキョウエイマーチを追う。

ペースを握るキョウエイマーチであったが自重していた。

(最後に来るはずだわ。脚をためておかないと……。)

坂を登り切って、ハロン棒の残り200Mの表示が見えてきた。

(そろそろか、いや、もうちょっと……。タイミングはからないと。)

「そこだ!」

トウケイニセイは叫んだ。

「そこだ!」

メイセイオペラのトレーナーもほぼ同時に叫んだ。

(よし、ここだ!)

〔……外からメイショウモトナリ!ここで!手が動いて、メイセイオペラが上がって来る!メイセイオペラが先頭か?〕

「勝負だぁ!」

コースの真ん中でスパートをかけて先頭のキョウエイマーチを交わしに行く。

「くっ……。来ましたね!でも譲らないわ!地方(ウマ娘)のあなたなんかに!」

(今までのキャリアもプライドも投げうっている私の気持ちわかる?あなたには比較にならない程いろいろなものを背負ってるのよ!この私は!)           

「うおぉぉぉ!」   

「負けない!絶対に譲らないわ!」 

 

河川敷でトウケイニセイに歯向かって振り落とされた時のことだった。 

「まあ、お前のトレーニングしばらく見てやる。それで箸にも棒にもかからないなら好きにしろ。あとな、一度しか言わねぇからよく聞け!岩手トレセン学園はな、一度でも収支が赤字になっちまったら廃校になるんだよ!だから諦める訳にはいかない。存続させるためにもな。」

(そんな……。) 

トウケイニセイから衝撃の事実を伝えられていた。

(岩手を終わらせる訳にはいかねぇんだ!ここで勝つ!ここまできたらイケるはず!) 

キョウエイマーチも粘る。

だが勢いはメイセイオペラの方にあった。

(なんでそんなに力強く走れるの?どうして?)

追いつかれたがなおもキョウエイマーチは踏ん張っていた。

「行げぇー!」 

東北訛りの声援が耳に入った。

(そうか……。あなたも背負うものがあったんですね……。悔しい……。)

脚がもう持たなくなっていて次第に後退していった。

「させるか!」

「クソ!南部杯と同じパターンじゃないか!」

エムアイブラン、タイキシャーロックが猛追する。

「マズい!追わないと負けちまう!(オペラ、ホントに初めてかよ!)」

オースミジェットも追ってきた。

「チクショー!位置取り間違えた!委員長に被った!」 

内側に入って追うつもりだったワシントンカラーは後退するキョウエイマーチに被ってスパートできないでいた。            

〔キョウエイマーチ頑張った!メイセイオペラ!メイセイオペラ!外を通ってオースミジェット、先頭はメイセイ、メイセイオペラ!メイセイオペラが先頭!キョウエイマーチ頑張って二番手!さぁ!完全に抜け出したのはメイセイオペラ!〕

コースの真ん中を突っ走りついに抜け出した! 

 

(ハァ、ハァ……。マズイ!心臓バクバクだ。ゴールまで脚持つかな?ラストの直線長いって聞いてたけどこんなにとは。でももう行くしかない。)

その時声が聞こえた気がした。

 

―オペラもうちょっとでゴールだ。頑張れ!あとちょっとで俺達の夢、叶うぞ!―

 

(父さん?今行くよ!夢を叶えに!)

最後の力を振り絞ってゴール板を駆け抜けた。   

 

〔メイセイオペラやりました!歴史に名を刻んだのはメイセイオペラ!初めて地方所属のウマ娘が中央G1を制しました!メイセイオペラが決めました!〕   

 

ゴールした途端、場内は一瞬静まり返っていた。

多くの来場者たちが地方ウマ娘によるG1制覇を受け止られていなかった。

メイセイオペラは高らかに右手を振り上げた。  

ユキノビジンも嬉しさのあまり涙を浮かべていた。

「ニセイちゃんやったべ!オペラちゃんが勝った!良がったねぇ。」 

だが、横を見るとトウケイニセイはいなかった。

「ニセイちゃん、どごさ行ぐの?」

スタンドから去って行くトウケイニセイの姿をみた。

何も言わず後ろ姿で手を上げてどこかに消えていった。

「ニセイちゃん……。」

ユキノビジンはただそれを見ることしかできないでいた。

 

「……勝ったんだよな?」

「んだ。確かにオペラが先頭でゴールしてたよな?」 

岩手から応援に来た二人は着順掲示板の一着の数字9をみてやっと勝ちだと確信した。

「オペラが勝った!」

「歴史的快挙だべ!岩手からいや、地方初の中央G1ウマ娘が誕生した!」

「何オメェ泣いでらのよ?」

「オメェだって!」   

「うるせぇ、これは目にゴミ入っただけだべ!それより、アレ出せ!」

「おう!持ってきたかいがあったな!」 

大きな布らしきものをバッグから取り出していた。

 

スタンドの上の席で母親が夫の遺影を掲げながら涙を流していた。 

(あなた……。やったわよ!あの子が先頭でゴールしたわ。見てましたか?本当に本当に夢を叶えたわ!幼い頃レースさえ出られるかわからなかったあの子が。)

周囲の観客達も祝福していた。 

 

キョウエイマーチはゴールして着順掲示板を確認した。

(そうですか……掲示板載るのがやっとでしたか……。)

5着だった。

(あんなに必死で頑張ったのにプライドを捨ててまで……。)

歓声に答えるメイセイオペラに近づいた。

「完敗でした。悔しいですけど。中央G1制覇おめでとうございます。」

「いや、あ、ありがとうございます。もっとペースが速かったら困ったと思うんですけど。」

「そうですか……。フフ、このまま負けっぱなしじゃ悔しいですから今度は『安田記念(東京・芝・1600M・G1)』で勝負しましょう!」 

「え?あの……。いや……。」   

「約束ですよ。」

「あの、ちょっと!(その月、帝王賞あるんですけど!)」

一方的に言い放ってキョウエイマーチは地下バ道に入って行く。

「マーチ!見せ場作ったぞ!」

声援に応え笑顔で手を振り退場した。

だが、地下バ道へ入るとその表情は曇っていた。

「お疲れ。」

トレーナーのアキヤマが声をかける。

「すいません……。あんな大きな口たたいたのに5着がやっとでした……。」

「いいんだ。」

「あんなにトレーニングしたのに結果を出せませんでした……。」

「いいんだ。」

様子がおかしくなっていた。

「マーチ?」 

「……ドーベルに負けた時も、タイキシャトルに負けた時も悔しかったですけど……。今が……一番……悔しい……です……。」

泣き崩れるキョウエイマーチにアキヤマは何も言わずそっと抱き寄せた。

(そうだよ。マーチ。負けたら悔しいんだ。身も心も引き裂かれるくらいに。けれどここ1年くらいの君は負けてもどこか他人事の様に敗北を受入れていた。それが気になっていた。でもまだここで終わるようなウマ娘ではない。そう思ったから敢えてこのレースを選んだ。)

「なぁ、マーチ。このレースでもある程度通用したんだ。1600以下のレース、芝ダートにこだわらず走ってみないか?」

キョウエイマーチは少しだけ頭を傾けた。

その約二カ月後、阪急杯(阪神・芝・1200M・G3)で久しぶりの勝利をあげ、芝、ダート両方で活躍するウマ娘になっていった。

   

トレセン学園の一室でオグリキャップはタマモクロスとテレビでレース観戦をしていた。

メイセイオペラが勝つと感慨深くテレビ画面を見ていた。

「どないした?オグリ。」

「……は、初めてG1勝った時のこと思い出したよ。」      

「せやなぁ。地方出身だからとか、芦毛のウマ娘だからよう走らんとか、好き勝手言われとったからな……って!初めてG1勝ったのウチに勝った有馬(記念)やんけ!」

「あ、そうだったな。なんかごめん。」

「……ホンマにもうこいつは。しかし、大したやつやで。(ライデン、見とるか?オペラのやつ、やりよったで!)」

タマモクロスは画面の向こう側のメイセイオペラを見つつそう思っていた。

 

笠松トレセン学園でライデンリーダーも後輩と観戦していた。

「スゴイ!あの岩手の人ホントに勝っちゃった!信じらんない!」

後輩の一人は興奮気味に言った。

「本当、スゴイね。」

ライデンリーダーもそれに答えた。

「(ハッ、しまった!ライデン先輩、中央G1目指してたんだ……。)……お茶入れてきますね。」

「(気を使わなくて良いのに。)うん、お願い。」

後輩は部屋を出ていった。 

(やっぱり、あなたに託してよかった。ありがとう。あの時の『約束』果たしてくれて。)

聖蹄祭でメイセイオペラに会いに行き一方的に指切りげんまんした。

そのことを思い出しながらいつの間にか目が潤んでいた。

 

「あいつ、勝ちやがった!スゲェ!やったな!スイフト!俺達の後輩が!」

グレートホープはそう言いながら後輩の快挙に興奮し、隣のスイフトセイダイを見た。

「……さんざん、バカにしてきやがって……。南関の奴らまで……。」

スイフトセイダイは鼻水を垂らして号泣していた。

「(お前も南関いたじゃねぇか!)ほら、めぐせぇからこれで拭け。」

グレートホープはハンカチを差し出す。

「あ、うん。ありがと。(フンガ、ズチュ〜ズチャ〜ズル!)」

涙を拭い遠慮なく鼻までかんだ。

それをスイフトセイダイは当たり前の様にサッとグレートホープに返す。

「汚えな!おい!」  

グレートホープは苦笑いするしかなかった。 

 

「おい、やってくれたな!悔しいがおめでとう!」

アブクマポーロのトレーナーイシザキはメイセイオペラのトレーナーの後ろ姿を見つけ声をかける。

「え?」  

振り返るメイセイオペラのトレーナーは泣いていた。

「6月、帝王賞楽しみにしてるぜ。」

肩をポンと叩き、そのまま去って行った。

数年前、メイセイオペラのトレーナーは交流重賞を岩手で実現させるためあちこち陳情に赴いていた。

無論それはトウケイニセイに中央の猛者と対決させるためであった。

南部杯で中央からのウマ娘に勝っていれば大井の東京大賞典、府中のフェブラリーステークスに乗り込んで参戦させる目論見もあった。

しかし、南部杯の結果は3着の「惨敗」に終わり、プランは水泡と化し自身も岩手を追われることとなった。

(交流重賞がもし1年早ければ……。)

トウケイニセイはピークを過ぎていた。

脚元が不安定なこともあり、限界を悟り、責任を被って岩手から出ていった。

(あんなに必死になって陳情しても届かなかった……。それなのにあっさり勝ってしまうなんて……。だがお前のおかげで後輩のメイセイオペラが中央G1を勝った……。ニセイ見てるか?でもこの景色をお前と見てみたかった……。すまない……ニセイ。)

一度は諦めた夢であった。

だが、それをいとも簡単に果たしてしまった。

トレーナーとしての喜びはあったが、果たせなかった思いも同時に沸き起こっていた。

 

「オペラ!」

バトルラインが声をかける。

タイキシャーロック、エムアイブランも近づいてきた。

「完敗だった。南部杯もしてやられたがフェブラリーまでとは。」

「いえ、ギリギリだったと思います。シャーロックさん。」   

3着のタイキシャーロックにそう答えた。

「コノヤロー!ダート頂点の景色はどうだ?オペラ!」           

「いや、まだまだですよ。よくて二番目です。」  

メイセイオペラは謙遜してバトルラインに応えた。

「次のG1は6月の帝王賞か。いつまでもアブクマポーロとお前にデカい面させねぇからな!」

「オレ、まだ大井では勝ったことないんで。次こそあいつに2000で勝つつもりです。」

「させねぇからな!」

2着であったエムアイブランは次の帝王賞に向けて気持ちを切り替えていた。

「お三人に鍛えてもらったんで今日勝つことができました。ありがとうございました!」

頭を下げてメイセイオペラはバ場を去ろうとしていた。

「メイセイオペラ、忘れ物だ。」

タイキシャーロックは呼び止めた。 

「忘れ物?」

三人はメイセイオペラの背中を押す。

「もう一遍回って来い!」

バトルラインが言い放つ。

ウイニングランをやってこいということだった。

「はい!」

メイセイオペラは駆けて行った。

 

メイセイオペラが再びトラックを回ると歓声が上がった。

スタンドの上の方で母親が遺影を掲げていた。

(母さん、ありがと。父さん連れてきてくれて。父さん、とうとう夢を叶えたよ!) 

そしてその下で岩手からの応援に来たファンがいた。

涙を流しながら何度も頷いている。

(おっちゃん達来てくれたんだ!この間大井来たばっかりなのに。無理しちゃって。あ……。) 

背後に横断幕が見えていた。

〈夢をありがとう。感動をありがとう。〉

誰に対しての言葉であるのかすぐに理解できた。

(夢……。そうか、オレの、いや、父さんとの夢は岩手の人達の夢でもあったんだ……。みんな、夢を叶えたよ!ありがと。)

「オペラ!オペラ!」

十万の大観衆のオペラコールが府中の空に響きわたる。

潤んでいた目のままで手を振った。

 

「ハーハッハ!素晴らしい!見事な勝ちっぷりだ。」  

テイエムオペラオーがメイショウドトウと観戦に来ていた。

「今年はクラシック三冠もある。今度は僕の『オペラコール』をこのレース場内に響かせるとしよう!そしてこれを僕の『覇王伝説』のプロローグとしようじゃないか!ついてきたまえ!ドトウ!ここから僕達の伝説は始まるんだ!」

「オペラオーさんならきっと成し遂げられると思います!」

二人は会場を去って行った。 

 

(そりゃうれしいさ。かわいい後輩が勝ったんだし。だけど……。)

トウケイニセイは歓声を遠くに聞きながら、トイレの個室に籠もっていた。

自分でも抑えきれず涙がこぼれていた。

(なんで……。俺に一度くらいチャンスがあったってよかったじゃねぇか!)  

誰にも負けない自信はあった。

もし交流重賞がもっと早ければ……。

そう思わずにはいられなかった。

だが気づいてしまった。 

(いや、違う……。あいつはあいつなりに不器用でも努力していた。それにひきかえこの俺は……。もうバトンを渡す時だな……。でも……もう一度だけレースに出たい。世界最高峰のあのレースに。それには奴がいないと……。)         

落ち着きを取り戻したトウケイニセイはメイセイオペラのもとへ行った。  

 

真冬の岩手トレセン学園水沢校も熱気に包まれていた。

多くの地元民が応援にかけつけ勝利を喜んでいた。

「オペちゃん……。」

文句なしの勝利にサカモトサクラも泣いている。

「やっぱり、お姉はスゴイや……。」

妹のメイセイユウシャも感激していた 。

レース前は期待と不安が入り混じっていたがそれ故に快挙を果たした今喜びを分かち合っている。

中央に比べれば劣る環境の中、南関東をはじめとする他の地方トレセン学園を差し置いてここ岩手から中央G1の壁を突破することなど夢のまた夢だった。

(信じられないのだ……。)

トーホウエンペラーは呆然と立ち尽くしていた。

中央から岩手に転校しここでは中央のウマ娘らと互角に戦うこと自体不可能だと思っていた。

しかしそれをいとも簡単に成し遂げたように見えた。

デビューすらままならない自分にとって中央G1は絵空事にように感じていた。

   

   

「中央G1を地方ウマ娘が初制覇か。」

みなみとますおもレース史上初の快挙に興奮していた。

「いつかは果たされると思っていたが、こんなに早くとは。岩手のウマ娘だとは予想できなかった。まさに『英雄は東北から来た。』だな。」

「ああ。『時代は外から変わっていく……。』か……。」      

歴史的な出来事に立ち会えた喜びでもあった。

 

「シンボリルドルフ会長、岩手のメイセイオペラが地方ウマ娘中央G1初制覇という快挙を成し遂げました!一言お願いします!」

報道陣がルドルフにコメントを求めた。

「会長……。」

エアグルーヴに言われてもノーコメントを貫く。

去り際に独り言の様に声を出した。

「『岩手のウマ娘、ついにその成すべきを成す』……か。」   

そう言い残してエアグルーヴとともに静かにレース場を後にした。    

 

地下バ道。

英雄の帰還を待っていた。

「オペラちゃん!」 

ユキノビジンが声をかけるとメイセイオペラは駆け寄って抱擁した。

「ユキノさん!勝ったよ!オレ!」 

「良がったねぇ!」

そしてトウケイニセイも声をかける。

「やったな、オペラ。」

メイセイオペラは次にトウケイニセイに近づいて抱きしめた。

「先輩……。やったよ!先輩の出れなかったレース勝ったよ!」

「うるせぇ!」

「先輩の分まで走って来たよ。」

「うるせぇ!」

「……でも先輩がいなかったらここまで来て勝つことなんて……でき……なかった……よ……。」

「うるせぇ……つってんだよ……。」

メイセイオペラもトウケイニセイも涙を流していた。

その光景をみて周りも涙ぐんでいた。

スイフトセイダイ、グレートホープも居合わせていて感激していた。

スイフトセイダイが口を開く。

「いやはやさすが我らのイサオちゃんだべ。あの人セクハラひどいけどやるときはやるおっさんだべ!」

「え?それって……。」

メイセイオペラはスイフトセイダイに尋ねようと思った矢先、暗黒の負のオーラがトウケイニセイから漂い危険を察知してサッと離れた。

「なあ、オペラ。この顔に見覚えねぇが?」

スマホの画面にはトウケイニセイが初めて勝った重賞みちのく大賞典の記念撮影でトウケイニセイの横に見覚えのある顔があった。

「あ、その人、今オレのトレーナーやってます……。」

「なして、へわねぇのよ!(※言わねぇんだよ!)」

「いや、だって聞かれなかったし……。」

「今日ここに来てやがんだよな?」

「ええ、そりゃ来てますけ……。」

トウケイニセイは駆け出して行った。

「ちょ、先輩待って!」

「あの野郎、ぶっ飛ばしてやる。」

制止も聞かず探しに行ってしまった。

グレートホープが呆れたように言った。

「スイフト、前々から思っていたんだけどさ。」 

「なんだよ?」

「お前ってつくづく『感動クラッシャー』だよな。」

「んなこと言ったって知ってるって思うじゃん。なあ、ユキノ。」

話を振られたユキノビジンは困惑していた。 

「追わなきゃ!」 

メイセイオペラは後を追うつもりでいた。

「待て!オペラ。」

スイフトセイダイとグレートホープは制した。

「いやだって、問題起こされたら……。」

「ここは俺達に任せろ!なあ、ホープ。」 

「ああ、君はこれから記念撮影、インタビュー、ウイニングライブといろいろやることがあるだろ?今日の主役だしな。どんと構えていろ。」

「私も協力します。こんなことあろうかとモリユウプリンス会長がニセイちゃんのスマホにGPS入れてるので位置がわがると思います。」

ユキノビジンも捜索に加わった。

「さすがモリユウ、抜け目ねえな。それにしても卒業してからも世話焼かせやがって!後でたっぷり集ってやる。」 

「全くだ。まあ広いから位置確かめて……。あ!フリート先輩!」

グレートホープが作戦を立てようとしたその時もう一人、オレンジのコートを着たウマ娘がやって来た。

「あのバカ、また騒ぎを起こしたの?」 

(この方ってもしや……。) 

メイセイオペラは初対面であった。 

「フリート先輩お久しぶりです。」

スイフトセイダイも挨拶する。

トウケイニセイの姉、トウケイフリートであった。

挨拶もほどほどに彼女も加わりトウケイニセイの捜索に取り掛かった。

 

トウケイニセイは大観衆の会場内で探していた。

(こんな広いとこでしかも10万近い入場者数の中でどう探せば……。やっぱ無謀か……。)   

人波の中探すのは困難なことに気がつく。

諦めかけてさまよい歩いていたその時であった。

見覚えのある姿とすれ違った。

「おい!」    

振り返り思わず大きな声で呼び止める。

声に反応したその男が振り向くとずっと探し続けていた懐かしい顔がそこにあった。    

 

 

 

 

 

Chapter3 再会

 

探し求めていた。

目撃情報があれば何処の地方レース、トレセン学園でも訪れては足取りを掴もうとしていた。

乗り物が大の苦手でもあったのにそれでも見つけて連れ戻したかった。

その男が目の前にいて対峙している。

「この野郎、何処ほっつき歩いていやがった!」

「久しぶりだな、ニセイ。」

大観衆が移動する中、二人は立ち止まっていて時間が止まった様な感覚を覚えた。

「昨年の帝王賞のあと、メイセイオペラのトレーナーになった。中央の理事長から呼ばれてな。」

(あの時か……。)

メイセイオペラが帝王賞の後にトレーナーが決まったと言っていたのを思い出した。

「ユキノにもバレちまったがな。口止めしといた。お前の耳に入ればどうなるか予想できるしな。」

(ユキノに口止めって、あいつにそんな負担かけやがって!)

「お前には感謝している。お前がトレーナーとしての心構えを俺に教えてくれた。その上、メイセイオペラの基礎を育成してくれたしな。」   

「いけしゃあしゃあと!ざけんな!」   

「南部杯、フェブラリーステークス。おかげでメイセイオペラは勝つことができた。まあ、それでも全盛期のお前に比べたらまだまだだけどな。」

「このあとどうするつもりだ?」  

「さあな、メイセイオペラは春になれば水沢に帰るんだろ?そうなりゃ俺は御役御免だ。もうやることはやった。思い残すことはない。」

「ああ、そうかよ!」 

「殴りたきゃ殴れ。それで気が済むんならな。」

トウケイニセイはグッと近づいてかつてのトレーナーの襟首をつかんだ。

歯を食いしばって覚悟をする。

「おい、あいつの夢を叶えたんだ。今度は俺の夢を叶えろ。」   

殴られるかと思いきや急に言われ戸惑った。

「は?『夢』って、もしかして嫁っこさしてけろってか?嫌だよ!お前みたいな『きかない女(※きかない=ものすごく気が強い)』。」 

「戯言言ってんじゃねぇ!」

トウケイニセイは真っ赤な顔になって本当に殴ってやろうと思ったが踏みとどまって言った。

「ダート世界最高峰のあのレースに挑む。力を貸してくれ。」

「世界最高峰って。……お前、遠征、新潟と上山しか行ったことねぇじゃねぇか!海外しかもそれって招かれてないと……って、え?嘘?」

トウケイニセイは懐から取り出した。

押し付けられたのは白い高級そうな招待状であった。

(ウソだろ?)

「今年は無理だけど一年身体作って来年挑戦する。頼んだよ、イサ爺。」

「(こりゃ殴られたほうが数千倍マシだ。)って、ジジイ呼ばわりするなよ。」

その後すぐにスイフトセイダイ、グレートホープらが二人を見かけてなんとか大ごとにならずにすんだのであった。

 

優勝の記念撮影が行われようとしていた。

メイセイオペラの母親、岩手のOGであるスイフトセイダイ、グレートホープ、カウンテスアップも加わり、さらにはその他の地方のトレセン学園のOG達も参加していた。

「そういやさ、なんでみんな(地方ウマ娘のOG)、オレンジのコート着てんの?俺だけはんつけ(※仲間はずれ)じゃねぇか!」  

スイフトセイダイだけは私服であった。

すかさずグレートホープが無言で白い封筒を差し出した。

「え?なになに。『今度のフェブラリーステークス、後輩のメイセイオペラが挑戦します。つきましてはメイセイオペラの髪の色と同じオレンジ色のコートを着てみんなで応援しましょう!岩手トレセン学園OGスイフトセイダイ。』はァ?俺こんなのだした覚え……。いや、ちょっと待て。白い封筒……。これに花みたいな紋様が描かれて……。これって百合か……?白い百合……………………ってことは、ロジータ!てめぇの仕業か!」

「いやん、バレちゃった!」  

「何が『いやん』だ!この野郎、人の名を語りやがって許せねぇ!待ちやがれ!」

スイフトセイダイはロジータを追った。

ロジータは嬉々として逃げ回った。

「やっぱりそうか。ガサツなスイフトがこんな気の利いたことなんかするはずないからな。なんかオカシイと思っていたんだが。」

グレートホープは腕組みしてうなずき納得しながら言ったが周りのOG達も同様の思いであった。     

 

一騒動のあと撮影に入ろうとしていたが時間がかかっていた。

「まだ主役が来ていないからな。」    

「は?オペラ居るじゃん。」

「いや、もう一人居るだろ?」  

スイフトセイダイの疑問にグレートホープが答えた。

「もう一人って……。」

しばらくするとトウケイニセイに無理やり腕を引っ張られてパドックでメイセイオペラのつけていた仮面を被ってトレーナーがやって来た。

「ええでば(※いいから俺は)。」 

「うるせぇ!往生際が悪い。とっとと来い!」

仮面を被ったままでメイセイオペラの横に立たせた。

メイセイオペラ、母親、トレーナー、トウケイニセイ、ユキノビジンそして大勢の地方トレセン学園OGに囲まれての撮影となった。

「デジタルちゃん、準備できたわ!お願い!」

ロジータがそう言うとカメラマン役のアグネスデジタルはヨダレを垂らしながらシャッターを押す。

(地方のレジェンド達に囲まれてのオペラ先輩の優勝記念撮影……。シンドい、シンド過ぎてツラい……。)

しかしなんとか尊死は耐えた。

こうして撮影は終了した。

「じゃ、OGの方々はウイニングライブの後、川崎の私の店に集合してください!あ、それと今回は岩手のウマ娘が勝ったのでスイちゃんが全部奢ります!」

ロジータは高々に宣言した。

「おい、勝手に決めてんじゃねぇ!」     

スイフトセイダイは抗議するも聞き入れられなかった。

「やった!タダ酒だ!飲みまくるぞ。スイフト、ゴチになるよ。わりいな。」

「ホープ、お前も岩手のOGじゃねぇか!」

「スイフト、今晩は飲み明かそうぜ!積もる話が山程あるしな!」

「カウンテス先輩勘弁してくださいよ!」

グレートホープもカウンテスアップも意気揚々としていた。

「ホープはウワバミだし、カウンテス先輩はゴンボ掘り(※酒に酔ってくだを巻く、酒乱)なんだよ!ざけんな、ロジータ!」      

卒業してからもロジータに振り回されるスイフトセイダイであった。

 

「先輩、わがままついでにもう一個いいですか?」

メイセイオペラは撮影後、トウケイニセイにお願いがあった。

「なんだよ、この期に及んで。」

「先輩が桐花賞のウイニングライブで歌ったあの歌を歌わせて下さい!」

メイセイオペラは頭を深々下げて懇願した。

「お前どういうことか分かってんのか?」

「はい……、でもどうしても歌いたいんです!」

「生半可なパフォーマンスじゃ承知しねぇぞ!」

「(痛)って!」  

メイセイオペラはトウケイニセイに脇腹を殴られた。

「大丈夫だって!オペラのパフォーマンスは俺が保証する。一度見てやったしな。第一作詞作曲した俺が許可したんならいいだろが!」  

スイフトセイダイが口を挟むとトウケイニセイは睨んだ。

「どいつもこいつも勝手な奴ばりだ!勝手にしろ!」

そう言い放ってズンズン先に進んでいった。

「一番身勝手な奴が何言ってやがんだ。」

スイフトセイダイもそう言い返す様子にメイセイオペラは脇腹を押さえながら苦笑いするしかなかった。 

 

 

 

 

 

 

Chapter4 輝きの向こう側へ

 

ウイニングライブを行うメイセイオペラの控室にノックをして入るウマ娘がいた。

南関の哲学者アブクマポーロであった。

「その……何だ……。優勝おめでとう。」

ぎこちない言葉にメイセイオペラは吹き出した。

「なんだよ!笑いやがって!」    

「顔に『悔しい』って描いてるぞ。」

「ああ、悔しいさ!だけど、この悔しさは川崎記念にぶつける。それに君が中央G1勝ったのなら僕は海外G1を目指す!」

そういうとまたも吹き出した。

「また、笑いやがって!馬鹿にしてるんだろ?」 

「いや、違う違う。(先輩と)同じこと言うもんだから……。」

「そうか。じゃあその人に言ってくれ。今度は僕が勝つと。」

「今日来てるんだから直接言えばいいじゃねぇか。」

「それもそうか。で、ライブはその衣装なのか?」

「レース用はギリ間に合ったけどライブ用は作れなかったんだよ。それにライブに競技規定ないしな。」 

ダートレースは砂まみれに勝負服がなってしまうためライブ用も用意するのが主流であった。

だが、メイセイオペラはレース用までが手一杯だったため、ウイニングライブはいつも着用していた青と白の勝負服でパフォーマンスする事にしたのであった。

「そうか。じゃあな。」  

アブクマポーロは退室した。

(メイセイオペラ。初めて戦ったときは大したことないウマ娘だと思っていた。けどこの一年で僕の脅威になる程になった。南部杯では負かされたしな。今なら認めてやってもいい。僕の『ライバル』であると。) 

先に快挙を成し遂げられてしまった悔しさはあったものの何故か晴れやかな気分になったアブクマポーロであった。

 

「さあ、いよいよお待ちかね、メインレースG1フェブラリーステークスウイナー、メイセイオペラさんの登場です!」

ウイニングライブMCに紹介され登場すると会場が大いに沸いた。

「初めてのURAレースで中央G1制覇ということでおめでとうございます!率直に今のお気持ちはいかがですか?」

「なんか……信じられないような、最高にうれしい!そんな気分です!」

「そうですか!今日はとっておきの歌を披露していただけるということですが?」

「ええ、この曲は以前、私の先輩トウケイニセイが岩手の年度末に行われる桐花賞で勝利した時に歌ったものでさらに先輩のスイフトセイダイが作詞作曲したものです。いつか大きなレースで勝ったら歌いたいと思ってました。」

「そうなんですね!思い入れのある歌なんですね?」

「そうです。でも先輩のトウケイニセイには許可を得るのに事後承諾だったので脇腹殴られました。」

(余計なこと言いやがって、あのバカ。)

トウケイニセイが苦虫を噛み潰したような顔になっている。 

会場が笑いに包まれていた。

MCもリアクションに困り苦笑いしていた。   

「それでは曲紹介お願いします!」

「『輝きの向こう側へ』です!」

イントロが流れるとたくさんの青と白のサイリュームが会場内を覆っていた。

 

輝きの向こう側へ   作詞作曲 スイフトセイダイ

 

いつか叶えると 想っていた

光輝く未知なるかの地へ

踏み入る先の不安も期待も

この胸に抱いて

彼方向こうの未来

突き進め その向こう側へ

 

諦めかけた時 差し伸てくれた

温かいぬくもりのその手に

いつか応えようとして

夢を束ねて 想い紡いで

振り返らない 過去は

駆け抜けて 行くために

 

陰で笑われても 無謀だと言われても

心揺らぐことなく 立ち向かえ

ぶち当たって跳ね返されても

くじけず前を向いて

 

超えていく

二つの世界 隔てる壁を

微かな可能性

手のひらに握りしめ

  

今栄光を掴むとき

託された夢抱え今 

いざ進めその先へ

輝きの向こう側へ

 

     

歌い終えると静まり返っていた。

その後、歓声が上がった。 

最前列に陣取っていたロジータも感激で涙腺が緩んでいた。

「まったく……。スイちゃんの作った歌で泣かされるなんて癪に触るわ。ねぇ、デジタルちゃん?」  

すぐ隣にはアグネスデジタルがいたが青と白の二本のサイリュームを握りしめたまま鼻血を吹き出し失神して昇天し仰向けに倒れた。

白目をむいて変態的な笑みを浮かべていた。

「ちょっと!デジタルちゃん!」

ロジータは慌てていたがすぐさま救護班が駆けつけ担架に運ばれ医務室へ直行していった。

かくして今年初めてのG1フェブラリーステークスは日本のウマ娘レース史上において新たな1ページを記すレースになったのであった。

 

翌日、奥州市水沢。

真冬の氷点下、まっ暗な早朝から新聞配達に勤しむウマ娘がいた。

「おはようございます!朝刊です!」    

「おはよう。ユウシャちゃん。」

メイセイユウシャが朝刊を手渡す。

去って行こうとすると朝刊を寝ぼけ眼で手に取ったその人は一面の見出しに目を見開いて驚き、思わず声をかけた。

「ユウシャちゃん!おめでとう!」   

「ありがとうございます!」   

振り向きざまにそう答え、メイセイユウシャは駆けて行った。

(いつか私も。お姉みたいに遠征に行って勝てる様になりたい!)

そう固く決意するのであった。

「史上初『地方』が『中央』を制す メイセイオペラ(岩手トレセン学園所属)快挙」

地元新聞の一面にそう見出しが躍っていた。       

 

           

  

 

 

Chapter5 東北から来た英雄   

 

「オペラちゃん、これはここでいいが?」

「ええ、そこで大丈夫です。ありがとうございます。」

3月中旬となりいよいよ中央から離れることとなった。

引っ越しのため荷造りと部屋の掃除をユキノビジンに手伝ってもらっているメイセイオペラであった。

「一年も居ると結構荷物出ちゃいましたね。ある程度は処分しないと。」

メイセイオペラの反対側の方は荷物もなくスッキリしていた。

アブクマポーロは3月初めになると早々と中央から離れ船橋に帰っていった。     

「おう、お二人さんやってるね!」

寮長のヒシアマゾンが顔を出してきた。

「寮長、一年間お世話になりました。」

メイセイオペラは頭を下げた。

「ま、好成績をどっちもあげたんで去っていくのは正直惜しいけどね!でも、いつも送り出すときはどうしても悲愴感があるんだけど君とアブクマポーロはそういうのとは無縁で清々しく送り出すことができるのはいいことでもあるか。」    

「いろいろ不慣れなことでご迷惑おかけしました。」

「いや、何の何の。ま、いろいろなウマ娘がいるんでな。こっちに来たときは遊びに来なよ。」

「ありがとうございます。じゃあ6月の半ば頃お邪魔します。」

「ああ、わかった。」

そこへアブクマポーロがやって来た。

「寮長、これ退去届持って来ました。」

「ああ、お前さんも来たか。じゃ、受け取ったよ。」

アブクマポーロはメイセイオペラを見た。

「掃除か、悪いな。南関東の次期生徒会長に内定してしまって急遽引っ越しが早まってしまってな。」

「別に構わない。ま、その代わりと言っちゃなんだけど6月にあんたへの借り、返しに来るから。」   

「やれるもんならやってみろ。迎え撃って二連覇するまでさ。じゃあ大井でな。」

「ああ。首でも洗って待っていろ。」

アブクマポーロは去って行った。

「あ、オペラちゃんそろそろ会長さんさ挨拶に行く時間だべ?」

「あ、そうだった!行ってきます!」

ユキノビジンに促され作業を一旦中断し、生徒会室へ向った。   

 

 特別短期留学終了の挨拶をしに生徒会室へ赴く。

初めて来たときと同様、シンボリルドルフとエアグルーヴが待っていた。

「『強い者に揉まれて強くなる』岩手のモットーだったな。そのとおりにこの一年できたとおもうか?」

シンボリルドルフの問に少し考えてから答えた。

「強くなったかはまだ実感ありませんが、まずまずの戦績は残せたと思いたいです。」

「まずまずって、地方ウマ娘初の中央G1制覇なのにか?」

「いや、まあそうなんですけど、まだまだ実力不足だと思ってるんで。」

「そうか。」

「こちらのモットー、Eclipse first. the rest nowhere. 唯一抜きん出て並ぶ者なし。にはほど遠いって感じです。」 

「実は君たちが来て一定の成果が得られなければ特別短期留学制度が見直されると言われていたんだ。」

「そうだったんですか!」

「ああ、だが君とアブクマポーロの活躍によってその声はかき消されたよ。」

「いや、あっちはともかく私はまだまだです。」

そう言っているとエアグルーヴが口を挟んで来た。

「メイセイオペラ!何故だ!先日会長自ら中央へ正式に転校を打診したのにそれを拒んだ!せっかくのご厚意を無下にするのかお前たちは!」  

「エアグルーヴ。よさないか。」

「しかし……。」

エアグルーヴの詰問をシンボリルドルフはたしなめる。

メイセイオペラは冷静に理由を述べた。

「いや、できればもう1年お世話になれればって思ってたんですが……。その……水がなくなってしまって。……オレ、間違ってフェブラリーステークス勝ったんで地元で優勝セールやっちゃってて龍泉洞の水が爆売れして在庫切れで中央にとどまることが困難になってしまいまして……。おなか壊したままでは勉学、トレーニングも不可能なんです……。」

申し訳無さそうにそう答えるしかなかった。

エアグルーヴもそれ以上は食い下がることもできなかった。

「一年間お世話になりました!」

「ああ、メイセイオペラ。君は今度は追われる立場になる。これから中央のダートも強くしていくつもりだ。一度(中央G1)勝ったからといって中央を『無礼るな』よ!」

「はい、精進いたします。」 

イタズラっぽい笑みを浮かべながらシンボリルドルフは言った。

メイセイオペラは頭を下げて生徒会室を去った。

その後、すぐにチーム部屋へ向った。

 

「シリウスさん、この間のG1祝勝会兼送別会ありがとうございました!」

チームへの別れであった。

「お前がここへ来たとき、正直中央G1制覇まで行くとは思わなかった。だが、その予想をはるかに超えた。それは賞賛すべきことではあるからな。礼には及ばない。」  

「そういや、最近デジタルのやつ、見ないんですけど……。」

「あいつか……。」

シリウスシンボリは少し間を置いてから言った。

「アグネスデジタルはここのチームを辞めていったよ。白井と言ったっけかな?そいつと一緒に来てそこのチームに入ると告げて来た。」  

「そうだったんですか。あいつ一言も言わないで……。」 

「言いにくかったたんだろ?」   

「いや、そこまでの関係性ではありませんが……。とりあえずわかりました。」

「岩手へ帰るか……。ま、それもお前の考えなんだな。引き留めることも考えたがニセイに恨まれそうだしな。」

「あの……先輩のことご存知だったんですか?」

「ああ、お前よりも付き合いが長いんだけどな。」

「なんでおっしゃってくださらなかったんですか?」

「馴れ合いは好まないからな。」

「そうでしたか。いろいろお世話になりました!」

「ああ、こちらに来たときは顔見せろよ。ニセイにもよろしくな。」

「はい、6月帝王賞あるんでそのときにでも。」

落ちこぼれチーム、マーキュリーへ別れを告げた。 

 

数日後、東京駅の東北新幹線のホームにメイセイオペラはいた。

知り合った中央の主だったウマ娘達が見送りに来ていた。 

「メイセイオペラ。少し話があるんだが。いいか?」

芦毛のウマ娘に声をかけられ二人きりになった。

言わずとしれたオグリキャップであった。

(オグリさん、何の話なんだろ?そういやいつもタマモクロスさんとばかり話していてろくに話とかしたことなかったな。岩手のうまい食べ物とか教えてくれとかだろうか?)

そう漠然と考えているとオグリキャップは話し始めた。

「あの……笑わないで聞いてもらえるか?」

「はい。(なんだろ?)」

「君のこと、少しうらやましいと思っていたんだ。私は笠松から中央に転校してしまったので笠松でレースはできなくなってしまった。でも君は大井や府中で走る傍ら岩手に戻ってレースもしていたから……。私も東海ゴールドカップとか走ってみたかった。」 

「(それって笠松でレースしたら出走する他の人達が迷惑すぎると思うんだけど。)そうなんですか。いや、オグリさんと違ってオレ芝走れないからそうなっただけなんですけど。それに……。」  

「『それに……』なんだ?」

「岩手と行ったり来たりできたのはある人のおかげなんで。地方から中央へ転校してマイルCS、安田記念、有馬記念のG1に勝ってジャパンカップでも世界と堂々渡り合える力を発揮したオグリキャップっていう人なんですけど。地方のウマ娘は誰しも憧れますしそこを一度は目指しますから。」

「そうか、そう言ってもらえるとは。ありがとう。でも今後は君の様になりたいと思う地方のウマ娘も多く出てくるだろう。」

「いや、オレなんて……。交流重賞ができたのはオグリさん達が中央でも十分通用する事を証明してくれたからです。そのおかげでフェブラリーに出て勝つことができたんだと思ってます。」

「私の中央に転校するという決断が君の活躍に繋がったということか。」

「私だけでなく船橋のあいつもですし、これからも地方から中央のレースで活躍する者も出てくるんじゃないでしょうか?」

「ふむ、確かにそうだといいな。……そうだ、去年タマと盛岡行くつもりだったのが水沢で帰ってしまったんだ。今度行くつもりだからうまいわんこそば屋教えてくれないか?」

「わかりました!(後でユキノさんに聞いておこう。)」

多くのウマ娘に見送られメイセイオペラの乗る東北新幹線は静かに北へ向かって行った。

 

(ふう。少し休むか。)

メイセイオペラは座席に着いてそう考えていると突如として話しかけられた。

「あのう、お隣の席、よろしいですか?」

「よろしくねぇよ!お前、水沢までついていく気か?まったく。」

たまたま空いていた隣の席にアグネスデジタルがちょこんと座った。

「お前、チーム辞めたんだってな!なんでオレに言わないんだよ!」

「グヘヘ。ちょっと言い出しづらくて……。」

「何が言い出しづらくて、だ!」

「オペラ先輩。一年間お世話になりました。そしてご迷惑おかけしました。」

「ホントによ。お前の世話した覚えしかねぇわ!」

「いやぁ、それほどでも。」

「褒めてねぇから。ホント東にストーカーだって言われバンブーさんに一緒に謝りに行き、西に鼻血出して失神してぶっ倒れてりゃ医務室に運びにいき……。」  

「そういう人に私は……。」

「なりたくねぇわ!てか、なってたし。」

アグネスデジタルの失態をフォローしていたことを思い出すメイセイオペラであった。

「……オペラ先輩。」

「なんだよ?」

「いつか私も南部杯とフェブラリーステークス出走できるように頑張りますね。」

「お前、芝走れるんだからそっち走れよ。」

などと言っていると上野に到着した。

「じゃ、降りますね。」

「降りるんかい!」

アグネスデジタルは上野駅で下車し、笑顔でヒラヒラと手を振って見送っていた。

メイセイオペラは無表情の塩対応でそれに応えた。 

地下のホームから新幹線は静か滑り出すかのように走り出して行く。

新幹線が去って行くとホームにアグネスデジタルはポツンと取り残されて一人きりになった。 

(……こんなみっともない姿、オペラ先輩に晒す訳にはいきませんから……。どうかお元気で。いつか盛岡に会いに行きます。南部杯の出走者として……。そしてフェブラリーステークスにも……。必ず……。)

いつの間にか両頬に涙がつたっている。

アグネスデジタルは内に秘めたる決意を抱いていた。

そして後にそれを前代未聞の形で実現させるのであった。 

 

東北新幹線が一路北へ向かう。

(中央へ行くときはやっていけるか自信なかったけど……。まあ、なんとか一年間やり通せたかな?)

緊張がほどけ肩の力が抜けたような感じになっていた。

(お土産もできたし、あとは……。)

この一年のことを思い出していた。

(いろいろあったな。名残り惜しさはちょっとあったけど。今、帰るよ。みんな(岩手)の元へ。)

少しだけ涙で目がにじんでいた。

(けれど、まだ戦いは続いている。ゆっくり休んで春になったらシアンモア記念走ってそして……。また大井で走る。今度こそ勝つ。やり残したことはまだあるんだ。)

特別短期留学を終えた今、自分自身に言い聞かせ次なる戦いに臨むつもりでいた。

    

水沢江刺駅に到着した。

ホームドアが開きメイセイオペラが降りるやいなや真っ先にサカモトサクラが抱きついてきた。

「ちょ、サクラ。」

「おかえりなさい。オペちゃん。」

「ただいま……。今、帰ったよ」

出迎えに水沢校のウマ娘達、地元ファンが多く駆けつけていたのであった。

長い冬が終わり、待ちわびた春がこの東北の地に訪れようとしていた。

 

翌年、2月。

中東某国。

トレーニングのため、ウォーミングアップをしているウマ娘は話しかけられた。

「こちらでしたか。お久しぶりです。」

「なんだよ、お前かよ!」   

アブクマポーロはトウケイニセイに挨拶しに来た。

「以前の借りを返しにきましたよ。今度こそ僕が勝ちます!」

「え?お前も参加すんの?」

「出走表見てないんですか!」

「見たけどよ、英語表記だったし。もっとも誰が参加しようが負けるつもりねぇし。」

二人は最高峰のダートレースに出走予定ではるばる異国の地を踏んでいた。

(あいつは今、府中で戦う頃かな?)

トウケイニセイははるか向こうの空を見つつそう思っていた。

 

〔さあ、いよいよ今年最初のG1レース、フェブラリーステークスの日を迎えました!

そして、あのウマ娘が府中に帰ってきました!

そうです!

昨年の覇者、水沢の英雄メイセイオペラです!

前走不本意な結果でしたが果たして!

一番人気は黄金世代でダート初参戦のキングヘイロー!

どんな走りを見せるのでしょうか?〕

(なんで私がダートなんかに……。) 

キングヘイローは不満気にゲートに入っている。

(ここを勝って世界への挑戦につなげるんだ!)

メイセイオペラは気合いを入れている。 

態勢完了しゲートが開く。

各ウマ娘は一斉にスタートを切って飛び出していった。  

  

   

  

 

  

 

          

   

 

 




本編は以上となります。
現在、特別編2編創作中です。
しばしお待ち下さい。
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