ビューチフルドリーマーズ(ウマ娘)   作:ききき三左衛門

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第5R 哲学者の苦悩

Chapter1 ライブアーカイブ

 

 南部杯で勝利したメイセイオペラだったが登校時誰にも話しかけられず普段と変わらずに登校できていた。

(まあ、アイツも帝王賞勝っても大した話題にもなんなかったしな。)

まわりの会話も毎日王冠を勝ったサイレンススズカの話題で持ち切りだった。

(これが芝とダートの格差ってやつか。) 

自虐的にそう思うしかなかった。

「おっはよー。オペラ!」

「おはようございます。メイセイオペラさん。」

「あ、おはようございます。テイオーさん。マックイーンさん。」

トウカイテイオーとメジロマックイーンが近づいてきた。

「やるねぇ!一昨日の南部杯!」  

「いやぁ。おかげさまで。なんとか勝ちました!」

「ま、レースもウイニングライブもボクに比べたらまだまだだけどね!」

「ハハ、そうですね。テイオーさんにはまだまだ及ばないので精進します。」

「エッヘン!」

そういう偉ぶるトウカイテイオーにメジロマックイーンは水を差した。

「あら、そんな事はありませんわよ。ウイニングライブを見てて『あんなことやって!』とか散々嫉妬されてたのはどなたでしたっけ?」   

「ちょっと!マックイーン!そんなこと本人の前で言わないでよ!もう!調子に乗ってつけあがるんだから!」

「いいえ、私は客観的に言ったまでですわ。本当に素晴らしかったです。レースもウイニングライブも。」

「ありがとうございます。メジロマックイーンさんにそう言っていただけるとちょっと自信になります。あ、そうそう、お二人のチームのサイレンススズカにアドバイスいただいたんで勝つことができたんですよ!」 

「あら、そうでしたの。確か同じクラスでしたわよね?」

「ええ、『逃げ』の極意を伝授していただきました。」

「スズカの毎日王冠には遠く及ばなかったけどね!」

トウカイテイオーに意地悪く言われた。

「まあこっちは付け焼き刃なんで本物に比べられても……。」

メイセイオペラも否定はしなかった。 

「ちょっと!テイオー!もうちょっと認めてあげてもよろしいのではないですか!」 

「やだね!オペラはもっとできるはずだから認めてやんない!」

トウカイテイオーは意固地になっていた。 

 教室に着くとサイレンススズカの席の周りに人だかりができていた。

(まあ、そうだよね。) 

メイセイオペラは「霞んだな。」とトウケイニセイに言われた一言を思い出した。

「おはよう。」

誰に言うでもなくそう言って自分の席に着いた。 

しばらくするとそのウマ娘は話しかけて来た。

「オペラ。南部杯優勝おめでとう。」

サイレンススズカだった。

「おめでとうって……。スズカの毎日王冠の話題で持ち切りなんだけど。」

「そう?でも私はG2。オペラはG1でしょ?」

「いや、そうだけどさ。まあ、おかげさまでなんとか勝てたよ。」

そういうとサイレンススズカは微笑んだ。

「よ!お二人さん!レース勝利おめでとう!」

ワシントンカラーが会話に加わった。

「ありがとう。ワシントンさん。」

「いやあ、うちのクラスでG1G2を2日連続で勝利だなんて誇らしいよ。でも、私も南部杯出れば良かったかなぁ。シャーロック先輩やアブクマポーロさんをさしおいてまさか勝つなんて。オペラが勝つくらいなら私も!なんて。」

 ワシントンカラーの言葉にメイセイオペラは苦笑した。

「何言ってんだ。レコードで勝ってんだぞオペラは。お前は距離が長すぎて盛岡の上り坂で失速するだろ。ま、G1初勝利おめでとうって一応言っとく。」

 同じクラスのオースミジェットも勝利をたたえた。

「オースミジェットさん。 太秦ステークス(京都•ダート•1800M)勝利おめでとう。」

「ありがとう。って、G1勝ってる人に言われても。まあいつか一緒にレースできたらいいけど。」

その後、メイショウモトナリ、ファストフレンド、マチカネワラウカド等がお祝いの言葉を口にした。

クラスのダートで出走するウマ娘達に祝福され、G1レース勝利を実感するメイセイオペラだった。

「一体、何の騒ぎですか?」

クラス委員長キョウエイマーチが来た。 

ワシントンカラーが詳細を言うとキョウエイマーチは鼻で笑った。

「そうですか。たかだかG2と地方のG1の勝利で騒いでたんですね?」

鼻につくような感想を述べると一同は沈黙した。

「あのさ、委員長。そういうのはG1勝ちまくってる人が言うもんじゃないの?委員長、ここ一年全くレース勝ってないじゃん。」

ワシントンカラーが言葉を返す。

「お黙りなさい!私は事実を言ったまでです。」

「私も事実を言ったまでだけど。なんかさ、最近感じ悪いよ、委員長。」

そういうワシントンカラーにキョウエイマーチが睨みつけた。 

そうこうしているうちに始業のチャイムが鳴り、周囲にモヤモヤした不穏な空気が流れたままそそくさとそれぞれ自分の席に着いた。

(ダートなんて……。)

キョウエイマーチのデビュー戦はダートであった。

デビュー当時、足もとが不安なことが要因だった。 

そのレースを見事勝利したものの厳格な父親からは認められなかった。

「お父様、デビュー戦勝利いたしました!」

喜んで報告したが冷酷に鼻で笑われ言い放たれた。 

「フン、たかだか『草レース』ごときで勝って何の自慢だ!」  

(『草レース』……。)

そのレースは後の菊花賞ウマ娘マチカネフクキタルも参戦したレースであったが、芝レースしかもG1以外のレースはまるで興味ないという態度であった。

桜花賞をメジロドーベル相手に勝利したときは父親も自分のことのように喜んでいたが、オークス、秋華賞を敗れそれ以来まともに口を聞いてくれなくなってしまった。

(父に認められたい。)  

キョウエイマーチの原動力であった。

それ故、ダートを拒絶し芝のレースをせざるを得なかった。 

その上、同じ脚質で昨年のマイルチャンピオンシップで先行争いで勝ち、着順が下だったサイレンススズカが今年になって大活躍、注目を浴び、勉学では今まで無敗だったのがメイセイオペラにテスト1位の座を奪われてその両名を忌々しく思っていた。

 

昼休みに入り中頃にメイセイオペラは放送で生徒会から呼び出しがあった。

ワシントンカラーに「なんかやらかしたの?」と茶化され戦々恐々として生徒会室に向かった。

開口一番、生徒会長シンボリルドルフは言った。

「急に呼び出して悪かったね。実は先日の南部杯だが……。」 

(え?ホントになんかやらかした?) 

メイセイオペラは思わずつばを飲み込んだ。

「君のウイニングライブが評価され『ライブアーカイブ』に登録された。それを君に伝えたくて呼び出したんだが。」 

「え?『ライブアーカイブ』って何ですかそれ?」 

メイセイオペラがそういうとシンボリルドルフとエアグルーヴは思わずキョトンと顔を見合わせた。

「そうか。君は岩手にいたからそのことは知らなかったんだな。エアグルーヴ、軽く説明してくれないか?」

シンボリルドルフはエアグルーヴに説明させた。

「『ライブアーカイブ』とはライブパフォーマンスで優れたものに送られる大変名誉なものだ。ライブ関してのレッスンでも模範となるものと評価される。そしてトレセン学園で半永久的に記録され教材となる。G1レースを勝っただけで得られるというものではない。誇っていいぞ。」

「はぁ。」

イマイチ、ピンと来なかった。

「どうした?不服か?それとも納得してないのか?」

シンボリルドルフの問にメイセイオペラは答えた。

「いやぁ。岩手の厳しい先輩にライブ『75点』って言われたんですよ。もっと頑張らないとって思っていたところなんで。ですので、なんか実感がわかなくて。」

「75点って随分手厳しい先輩だな。」  

「そうなんですよ!本人が勝ちまくってるんでホント評価が辛すぎなんです。」

メイセイオペラがそう答えるとシンボリルドルフは少し笑みをこぼした。

「とにかく、そういうことだ。ダートウマ娘でも地方ウマ娘でも初の栄誉だ。おめでとう。」

メイセイオペラはやらかしたことではなかったことで胸をなでおろした。

メイセイオペラが退室するとシンボリルドルフはエアグルーヴに命じる。

同室のアブクマポーロを生徒会室に呼び出しする旨を伝えた。 

 

「で、呼び出しってなんだったの?ホントにやらかした?」 

教室に戻ると率直にワシントンカラーが聞き出そうとした。

「なんかよく知らないけど、『ライブアーカイブ』ってのに南部杯のウイニングライブ選ばれたらしくて……。」 

「え!スゴイじゃんオペラ!オペラ、『ライブアーカイブ』に選ばれったってよ!」

ワシントンカラーがそういうとクラスの一同が寄ってきた。

「『ライブアーカイブ』ってG1勝っても滅多に選ばれないからな、大したもんだ。」

オースミジェットも祝福した。

「すごいわ。オペラ。あのパフォーマンスなら相応しいと思うわ。」  

サイレンススズカは自分のことのように喜んでいた。

しかし、キョウエイマーチの反応は違った。

「え?なぜ、『草レース』なんかに『ライブアーカイブ』が登録されたんですか!」 

(草レース……。)      

それはトレセン学園ではダートレース全般の蔑称で禁句とされていたが思わず口に出してしまった。

「おい!いくらなんでもひどすぎだろ!委員長!」

ワシントンカラーがすぐさま反応した。

サイレンススズカも応戦した。

「いくらなんでもあんまりだわ!撤回して下さい!」

静かな口調ではあったが怒りをあらわにしていた。

「スズカ……。あなたとは決着をつけなければならないようね。今度、『本物』のマイルチャンピオンシップ出て来なさい!あなたと先行争いで勝って逃げ切って見せるわ!」

キョウエイマーチの言葉に対してサイレンススズカは即座に答えた。

「残念だけど、その要望には答えられないわ。天皇賞のあとジャパンカップに出てそれからアメリカ行く予定だから……。」     

「アメリカですって!どこまで思い上がれば気がすむの!あなたなんて……。」

「おい、授業始まったんだが。」

キョウエイマーチが話していると教官がいつの間にやら入って来ていた。

一同はそそくさと席に着き授業を受けた。 

放課後、メイセイオペラはサイレンススズカに話しかけた。

「ごめん、スズカ。矢面に立たせてしまって……。」 

「気にしないで。大丈夫よ。」

キョウエイマーチと言い争いになり心配だったが少し安堵した。 

「そっか、じゃあその代わりと言っちゃ何だけど今度の天皇賞応援行くね。しばらくオレ、レース出ないから。」

「ありがとう。頑張らないといけないわね。」    

サイレンススズカは微笑んだ。

(デジタルのやつもついでに連れて行くか。)  

ふとそう思うメイセイオペラだった。

 

 

 

 

Chapter2 哲学者の苦悩

 

 南関の哲学者アブクマポーロは生徒会室に呼び出しを受けた。

(一体、何の用だ?)

思い当たる節はなかったが……。

「さて遠征直後に呼び出した理由が何か君には解るか?」  

生徒会長シンボリルドルフはアブクマポーロに問いかける。

「……いえ。何も思い当たる節はないのですが。」

「そうか……。」

シンボリルドルフの表情を読み取ると褒めるために呼び出したようではないことは容易に想像できた。

「先日の南部杯、メイセイオペラが勝利し、ウイニングライブでも評価され、正式に『ライブアーカイブ』として登録される運びとなった。」  

(まさか!)

表情に表すのを隠し通すので精一杯だった。

「君もそのウイニングライブを見ていたそうだね?率直な意見が聞きたい。特に君自身のライブパフォーマンスと比べて。」

口調はおだやかではあったがその内容はアブクマポーロにとって辛辣そのものだった。

「それは……。」

いつもであればはっきりと返答するアブクマポーロでも言葉が出てこない。

「君はこちらに来てからもほとんどライブのレッスンはほとんど行ってないようだね?」

(それは……。)       

口を開こうとするアブクマポーロを遮るようにシンボリルドルフは続けて言った。

「確かにレースのトレーニングを優先したい気持ちも理解できる。だが、メイセイオペラは週に最低一回以上はボイトレ、ダンスのレッスンを受けている。その上で今回、結果を出した。反論の余地はないと思うが。」  

自分の意見を先読みするかのようにシンボリルドルフにそう言われては反論すらできなかった。

「南関東では通年レースが行われているためライブ関連のレッスンがおろそかになっている傾向はやむを得ないかもしれない。だが、君はいずれ海外挑戦するつもりだろ?海外のウイニングライブは君が思っている程甘くはないぞ。」  

(そんなことを今更言われたって……。)

「なので、それにはついても『善処』してくれないか?」

(善処って言われても具体的にどうすれば……。)

「それに君は今年度末まで当学園の生徒の一人でもある。いいな?」

アブクマポーロは黙って首を縦に振るしか選択できなかった。 

レース敗戦で挽回しようとトレーニングの充実を図りたいと思う矢先、今まで避けてきた問題が束になってやってきた。

一礼し生徒会室を出ていくアブクマポーロであったが苦悩を抱えざるを得ななかった。  

元々、歌もダンスも苦手であった。

中央の華やかなウイニングライブにも興味がなかった。

南関東トレセン学園に入学した理由もそこにあった。

魅せるのはパフォーマンスではなく走りだ。

そう信じて今までやって来たのだが、根本を覆された気持ちであった。

   

「おい、どうした?ポーロ。シケたツラしやがって。さっきからずっと小鉢の里芋、箸でコロコロ転がしてるじゃねぇか。なんかあったかのかい?」

食事中に同じチームメイトであり南関東の先輩でもあるイナリワンにカフェテリアで話しかけられた。

「イナリ先輩……。いえ……。何も。」

表情が曇っていて強がっているのは明白だった。

「ちょっとこっち来い!」

イナリワンは強引にアブクマポーロの手を引っ張り、人気のない場所に連れて行った。

「洗いざらい言ってみな。スッキリするかもしれねぇし。それともこのあたしにも言えねぇことなのかい?」

そう言われポツリポツリとアブクマポーロは口を開いた。 

「……『善処しろ』って言われても意味がわからなくて。」   

「そうかい。まあ、今更ライブのレッスンを受けてもついていけないって言いてぇってことか。お前さんの言い分もわからなくもない。しかしな、レッスンをサボってきたお前さんにも非があるんじゃねぇのかい?」

「でもどうしたらいいんですか?こっちの初級レベルのレッスン受けてもついていけませんし……。」

腕組みしつつアブクマポーロの話を聞いていたイナリワンだったが、不敵な笑みを浮かべて答えた。

「フフ、そこで悩めるポーロ君に朗報だ。実はな今度南関東の大井に新しくダンススタジオが開設されることになってな。ここなら少人数でお前さんのレベルにも合わせることができるはずだろ?」

「大井にそんなものができるんですか?」

「ああ、ダンストレーニングだけでなくボイトレもトレーニングできるやつであたしもよく知ってるやつだ。ま、行ってみるといい。」

「でも……。」

「あ?このあたしに恥をかかせる気か、ポーロ?」

「いえ、そういうわけでは……。」

「そういや、そのトレーナーからお前さん宛の案内状を預かっててな。ほらよ。悪いようにはならないと思うぜ。」

イナリワンから1通の案内状を手渡された。

「南関もやっとライブトレーニングに力を入れようってんで、やっと重い腰を上げやがった。コンサートもサプライズパワーって言ったっけ?アイツ等も参加するって言ってたぞ。お前さんも参加するってぇのが筋ってもんじゃねぇのかい?」

アブクマポーロは半ば強制的に行くことになってしまった。

 

Chapter3 大井ダンススタジオ開設

 

 正直乗り気ではなかった。

モノレールで大井に着くと案内状に記載された地図に頼ってその場所を訪れた。

(ここがそのスタジオか……。でも本音を言わせてもらえば今は少しでもレースのトレーニングに時間を割きたい。)    

南部杯の敗戦を思い浮かべ、その思いが強まる一方だった。

(ライブのトレーナーの方には申し訳ないが丁重にお断りしよう。担当のイシザキトレーナーには気分転換しに行って来いって言われたけど……。)

スタジオに入ると意外な人物がそこにいた。

「よう、来たな!南関のリーディングが来ねえと俺の仕事の評価にも響くからな!」   

6月の帝王賞、メイセイオペラの応援でトウケイニセイの隣にいた人物だった。

「俺のことは知ってるだろ?」

「(東京)大賞典二年連続で2着だった人。」

「名前を言えよ!第一お前だって去年3着だったじゃねぇか!一応南関にもいた事あったんだから少しは敬え!」

その人物こそトウケイニセイの前に「岩手の怪物」と呼ばれたスイフトセイダイだった。

(なんでこんな人が。よっぽど予算ケチったんじゃ……。)

「お前、俺の能力疑ってるだろ?」

「いえ、そういう訳では……。ただ、地方のウマ娘がどんなにライブに力入れたって……。」

「なるほどな。でもよ、お前に勝った南部杯のオペラはどうよ?」

「それは……。まあまあだとは思いましたが。」

「まあまあか、じゃあお前はそのまあまあよりは上手くできるんだな?」

そう意地悪く問われると沈黙するしかなかった。

「そう言ったって所詮地方のウイニングライブはたかが知れてるし……。」  

やっとでそういうとスイフトセイダイは言った。

「お前さ、オペラの南部杯が一番の地方ウマ娘のウイニングライブだと思ってんの?確かに『ライブアーカイブ』になったのは相応しいとは思うけど。ただそれよりも上を行くウイニングライブってのがあるんだな、これが。」

そう言われアブクマポーロは半信半疑でスイフトセイダイを見た。

「ちょっと待ってろ。あれ?どごさいった?」  

いろいろもの探しをしていたがお目当てはなかったようだ。

「わりぃ!それ見せてからレッスンのメニュー考えよって思ってたけどなかった。スマン。今日は申し訳ないが帰ってくれ。また今度見せてやるからそん時具体的にトレーニング内容を打ち合わせすっから。」

せっかく来たばかりで帰らされたアブクマポーロだった。

 

「っていう訳でニセイ、お前が勝った『みちのく大賞典』のときのウイニングライブの映像貸してくれよ。就職祝いってことでさ。」

 久しぶりにスイフトセイダイから電話が来て開口一番にそんなこと言われ戸惑うトウケイニセイだった。 

「なんすか急に、スイフト先輩。」

「お前は先輩の新たな門出に協力する気ないのかよ!」

「いやぁ、南関のやつら大変だろうかなと。めちゃくちゃなハードトレーニング押し付けられて。あ〜クワバラクワバラ。」

「あ、そんなこと言いやがって。今でもお前にトレーニングでランニング(高松の)池10周な、つったらスロ打ちに上堂のマッチョランド行ってサボってたのこっちは根に持ってんだぞ!」

「先輩それ違います。マッチョでなくて今はなき道路の向いのニュー豪楽ですよ。」

「サボってスロ打ってたのに違いはねぇじゃねぇかよ!とにかくだ!至急よこしやがれ!」

「ちなみに誰に見せる気ですか?」

「ま、そりゃあ、コンサートボーイとかサプライズパワーだろ。あとアブクマポーロ。」 

「え?アブクマポーロ?あんな奴に見せても無駄でしょ?今のオペラとだって雲泥の差ですし。無理なんじゃないですか?」

「うっせーな!こちとら仕事なんだよ!四の五の言わずよこしやがれ!」

「ハイハイ」

「ハイは一回で!」

「ハ〜イ」

気の抜けた返事をトウケイニセイはした。

 

 

Chapter4 魔王からの果たし状 

 

 

後日、DVDが届き、アブクマポーロは呼び出されてしぶしぶ鑑賞するハメとなった。

今はなき旧盛岡レース場で行われた「みちのく大賞典」。

眼の前のスイフトセイダイ、そのライバルで前の年同着1位だったグレートホープ。その世代に挑むモリユウプリンス。だが、重賞に初参加であったトウケイニセイがそれらをまとめて撃破した。

その時のウイニングライブであった。

勝ったトウケイニセイを中心とし、2着モリユウプリンス、3着スイフトセイダイがウイニングライブのパフォーマンスを行なった。

(これが……地方のウイニングライブか?)

センターのトウケイニセイは不動のまま歌うことに専念していたが、サイドのモリユウプリンス、スイフトセイダイが狭いステージいっぱいを使って元気よく踊っていた。

「どうよ?南関でこれくらい、できるやついる?中央からきた奴以外で。」

「まあ、素晴らしいとは思いますが。」

そういうと思わぬ事態が発生した。

ウイニングライブが終了するやいなや映像が切り替わり一人のウマ娘が映し出されていた。

「おい!南関東のクソ哲学者!よもや俺の顔を忘れたとは言わねぇよな。そのうち、お前をぶっ潰しにそっち行くから首洗って待っとけ!お前が売ってきたケンカ、高く買ってやるよ!」  

「あのやろ!余計なもの仕込んでやがった!」

トウケイニセイのアブクマポーロに対する宣戦布告だった。

スイフトセイダイが慌てて動画を止めようとしたがそこで動画は終了していた。

(僕と対決するだって?直近のグランド2000は出走登録終わってるのに。まさか東京大賞典にでてくるんだろうか?)

アブクマポーロはそんな思案を思い浮かべていた。

「で、どうする?とりあえず週一いいからで来てくれねぇかな?悪いようにはしねぇから。」

「しかし……。」 

まだ踏ん切りがつかないでいた。

「帝王賞でのお前のパフォーマンスは実際この目で見ている。正直今のままだとオペラにおいてかれるぞ。少しでもレッスンしておくことを勧める。行くんだろ?海外。」 

中央の生徒会長シンボリルドルフにも海外での事情を言及していたがそうなればいよいよレッスンを避けることはできなくなる。

アブクマポーロは決断した。

「では、トレーニングに支障をきたさない程度であれば……。」   

「それは保証する。妨げることはしない。ただし、レースで勝ったときはウイニングライブ、キッチリやってもらうからそのつもりで。」 

アブクマポーロは大井のダンススタジオに通うことになった。 

「そう言えば、イナリ先輩があなたことをよく存じてるっておっしゃってたんですが。」

「ああ、昔、ちょっとな。」

スイフトセイダイははっきりとした言及は避けた。

イナリワンとスイフトセイダイとのつながりを多少不可思議に思いつつダンスの基礎レッスンを受けるアブクマポーロだった。 

  

 

Chapter5 バトン

 

トウケイニセイが初重賞をレコードで制した「みちのく大賞典」。

それは世代交代の意味を含んでいた。 

その翌年の三月、卒業する二人のウマ娘に声をかけた。

「先輩方……。なんで卒業しちゃうんですか?俺まだいろいろ教えてもらいたいことたくさんあったのに。」

トウケイニセイはスイフトセイダイ、グレートホープにそう言った。

「それは前にも言っただろ?もう限界だったって。お前にはもう勝てないしここらで身を引くのがいいって思ったんだよ。何度も言わせるなよ。」

スイフトセイダイは答えた。  

「でも……。これからどうしたら……。」

トウケイニセイはこれからどうしたらいいか二人の先輩が卒業でいなくなることに先々の不安を覚えた。

「甘えるなよ。ニセイ。これからは俺達がやってきたようにお前が後輩達に背中を見せていくんだ。別に難しくはないだろ?」     

先輩であり部屋の同室であったグレートホープは答えた。

「そ、ホープの言う通り俺達がやってきたように今度はお前がその役目を負うんだよ。お前に『岩手のバトン』託すぜ。」

スイフトセイダイがそう告げた。

「『バトン』ですか……?」

「お前同じくらい勝ち星あげるとか、あとG1勝つとかでもいいと思うぜ。そんな後輩達を育ててくれよ。そんでその後輩にお前が託せばいい。」    

「でも荷が重いっすよ。」

「俺だって、スイフトと一緒になんとかやってきたんだ。モリユウに相談しながらでもいい。まあ、俺達もお前の姉ちゃんにそうしろって言われたときは今のお前のように困惑したけどな。」 

グレートホープが笑いながら言った。

そして二人の偉大なウマ娘が岩手トレセン学園を去った。

 

南部杯も終わり、秋も深まり涼しくなったところ、トウケイニセイはメイセイユウシャ、トーホウエンペラー相手に併走トレーニングを珍しく行っていた。

(やっぱり、お姉が言ってた通りゴール寸前で交わされる。勝てる気がしない。強い!) 

メイセイユウシャは息が乱れたままであったが、息をすぐに整え涼しい顔でいるトウケイニセイを見てそう思った。  

(何なのだ!こんなに強いのになんでレース出ないのだ?)

同じくゼイゼイしながらトーホウエンペラーも軽く交わされて悔しく思いながらもその力を認めざるを得なかった。

モリユウプリンスがやってくる。

「先輩、トレーニングしてたんですか?」 

「ああ、たまにはな。体が鈍ってしまうんでな。」

「ふ~ん。そうなんですか?」

「何だよ!俺がやっちゃ駄目なのかよ!」

「そういう訳ではないんですが。(なんか嫌な予感がする。アヤシイ……。先輩って必要以上に体を絞ることしないし。)」

不審な目をモリユウプリンスはトウケイニセイに向けた。

(なんか、勘付かれた?いや、そんなことはないはずだ。)

それを感じ取ってトウケイニセイもそう思ったが気にしない素振りでタオルで汗を拭き取っていた。

その後、折りたたみチェアに座って二つの氷水が入ったバケツに両足を突っ込みアイシングをしていた。

走ったあとはこれをやることで炎症を抑える効果があるというので欠かさずに行っていた。

(バトンか……。いやまだアイツには早い。南部杯勝ったぐらいで満足してもらっちゃ困る。ま、その前に中央行ってちょっと遊んでやるか。哲学者とやらと。) 

日に日に日没が早くなるのを実感しつつトウケイニセイは夕焼けを眺めながらそう思った。

  

 

番外 カウンテスブートキャンプ

 

 

「あの……。メイセイオペラさんですか?」

カフェテリアで話しかけられた。

「ええ、そうですが。」 

声をかけて来たのは芦毛のヒシミラクルであった。

「つかぬことをお尋ねしますが、岩手に夢のような場所があるって聞いたんですが。」

「夢のような場所って?」 

「何でも何もしないで食っちゃ寝しても怒られないって言う……。」

「もしかして『プータロ村』のことですか?」

「そうです!その『プータロー村』ってところです!」

「誰からそんなこと聞いたんですか?」

「(アグネス)デジタルちゃんが言ってるの聞いたんです。」

(あの野郎、デマ撒き散らしやがって!)

苛立ちを覚えた。

そこへヒシミラクルのトレーナーらしき男がやって来た。

「おい、ミラ子。トレーニングの時間だぞ。」

「あ、トレーナーさん、聞いてくださいよ!今度の合宿で『プータロー村』ってとこに行きたいんですけど。」

「は?何処にあるのそれ。」

「岩手にあるらしいんです。それで今岩手のメイセイオペラさんにお話を聞いてるんです。そこで何もしないで食っちゃ寝して過ごしたい。」

「何言ってんだ!見ろ!このブヨブヨの肉を!これ以上ひどくする気か!」

トレーナーはヒシミラクルの腰の肉をつまんでそう言い放った。

「ヤダなー。これは私の唯一無二のチャームポイントじゃないですか。」

「何がチャームポイントだ。どうこってり絞ってやるか考えてんだよ!こっちは!」

メイセイオペラも誤解をどう解くか思案して思い出した。

「あ、そういやプールありますよ!」

「何……。プール……だと?」

「ええ、岩手山の湧き水の流れる冷たいひんやりしたプールだそうです。」

ヒシミラクルのトレーナーは考え込んで何かアイデアが浮かんだようだ。 

(ふと閃いた!これはヒシミラクルとのトレーニングに活かせるかもしれない!)

早速スマホで検索するとどうやらそうらしい。

「よし!それじゃミラ子のご希望通り今度の合宿はそこでこってりプールトレやるぞ!」

「え!ちょっと待って!前言撤回!ヤダヤダヤダ!絶対ヤダ!」

嫌がるヒシミラクルを無理やり連れ去りながらトレーナーはグッジョブのジェスチャーをして去っていった。

(後でデジタルの野郎も詰めないとな。)

などと考えているとイナリワンが話しかけてきた。

「プータロ村か……。懐かしいな。」

「イナリさん行ったことあるんですか?」

「まあな。ま、夢のようなところではなかったけどな。」

その経緯を話し始めた。

 

イナリワン。

南関東トレセン学園大井校より中央へ転校し、芝レースは当初苦戦を強いられるも春の天皇賞で初G1を制し、その力を十二分に見せつけた。

しかし、懸念もあった。

初G1制覇後、タマモクロスがすれ違うと堪えきれず吹き出した。

「アカン、どうしてもわろうてまうわ!あのウイニングライブ!ウチのチビの腹踊りの方がよっぽど上手いで!ワハハ、珍喜劇入れるちゃうんか?」

「あ?ケンカ売ってんのか!」

つかみかかろうとしたが、まわりにいたウマ娘達もつられて笑っていた。

「クソ!覚えてろ!」

そう言い放ちそそくさと去った。 

イナリワンのウイニングライブはレースの出来とは対称的に酷評されていた。

無論、地方からの成り上がりと言う偏見もあった。

ただ、イナリワン自身もダンスレッスンにまともについていけずどうしたものかと悩んでいた。

相談するにも孤立無援でどうすることもできずにいた。

(チクショウ!いったいどうすりゃいいんでい!ダンスなんて南関東じゃ……。)  

春天祝勝会の日。

イナリワンはやや曇った表情でそれを迎えていた。

南関東の後輩のウマ娘が話しかけてきた。

「イナリ先輩、G1初制覇おめでとうございます!」

「ああ……来てくれたのか。ありがとな。」

「なんか勝ったのに嬉しそうじゃないですね。」

「そんなことねぇよ。」

「やっぱり、ウイニングライブのことを気にかけてらっしゃるですか?」

「うん、まあ……。お前に言ってもしょうがねぇけどな。」

「えっと、実はダンスの上手い子なら一人知ってるですけど。」

「何?本当か!ロジータ!」  

「ええ。」  

話しかけたのは南関東トレセン学園川崎校のロジータであった。  

「どこのどいつでい!お前のとこの川崎か?船橋か?それとも浦和か?大井にはいなかったはずだ!」

イナリワンはロジータの両肩をつかんで問いただした。 

「落ち着いてください!南関東の人じゃないです!岩手のスイフトセイダイって言う私と同い年のウマ娘です。」

「岩手か……。遠いな……。」

「一度頼ってみてはいかがですか?何でもあのカウンテスアップさんにしごかれて耐え抜いたって言う噂もありますよ!」

「そうか、あの人の……。まあ、一か八かやってみるか。」

こうして単身岩手トレセン学園盛岡校に乗り込んだ。

 

「どうしよ。ホープ。」

「『どうしよ』ったってなぁ。」

突如として岩手トレセン学園盛岡校に春の天皇賞覇者イナリワンがやってたのだ。

しかもダンスを教えてくれとのことだった。

スイフトセイダイは困惑し、同い年のグレートホープに別室で相談していた。

そこへもう一人のウマ娘も来た。

「イナリワンさんが来たって?」   

「そうなんですよ!フリート会長。ダンス教えてほしいって。」

岩手トレセン学園生徒会長トウケイフリートであった。

少し考えてトウケイフリートは言った。

「スイフト。依頼を受けてイナリワンさんに教えてやれ!」

「え?何でですか?」

「あの春天のパフォーマンス見ただろ?それで藁をも掴む思いわざわざ岩手くんだりまでお前を頼りに来たんだ。それに……。」

「それに、何ですか?」

「今、断ったとしてイナリワンさんがまたあんなことなったら当然、カウンテス先輩に話行くだろ?んで、『スイフト、お前なんとかしろ!』ってなるだろ、どうせ。それに見返りで併走してもらえりゃお前にもプラスになるだろ?」

「あ……。(それもそうだな……。断っても結局こっちにお鉢が回ってくるのか……。)」

スイフトセイダイは腹をくくった。

 

スイフトセイダイはイナリワンのいる部屋に戻る。

「イナリワンさんお待たせしました。私でよければご教授いたします。その代わり……。」 

「ああ、併走でも模擬レースでもやってやるぜ!」

「ありがとうございます!では、1か月くらいこっちに通っていただいて……。」

「すまねぇ!時間がねぇんだ!1週間でなんとかならねぇか?」

「1週間ですか!それはさすがに……。」

「無茶も承知だ!」

「それだと相当身体に負担が……。」 

「それでも無理とは言わねぇんだな。じゃ、それで頼む。」

「えっと……。ここじゃ限界あるんで、ちょっと離れたところで1週間集中してやってみましょう。(あれやるか。『カウンテスブートキャンプ』)」

二人は盛岡よりさらに北にあるプータロ村へ向かって行ったのであった。

カウンテスブートキャンプ。

岩手トレセン学園門外不出のダンストレーニングのプログラムであった。

岩手トレセン学園OGカウンテスアップが考案したのだが、あまりにも過酷過ぎて完遂できたのはスイフトセイダイのみであった。

だが、そのスイフトセイダイも二週間の期間でできたのだが、これを二分の一の一週間でとなると計り知れない努力と根性を要したのであった。   

プータロ村で猛特訓の末、身体がボロボロになりながらもなんとか耐え抜いてイナリワンは一週間で完遂した。

 

「……てなことで連れていかれたわけよ。」

イナリワンはメイセイオペラに事の経緯を言った。

「そうだったなんですね。スイフト先輩だと相当ハードだったでしょう?」

「まあな。お、こんな時間だ。じゃあ、またな。」

イナリワンは去って行った。

「なるほど、そないなからくりがあったとはな。」

タマモクロスがいつの間にかいた。

「聞いてたんですか?」

「途中からやけどな。春天のあと、宝塚記念でアイツ勝ったやろ?別人のようなパフォーマンスやったからてっきり替え玉使ったんちゃうかってめっちゃ疑ってたんやで。」

「替え玉ってさすがに……でもそんなに春天の時ってひどかったんですか?宝塚のときのは拝見したんですがそれはまあ普通にこなしてたんで……。」

「これや!もう入手するの大変やったで!なにしろ学園の映像データもすぐに消されたからな。ウチの爆笑コレクションの一つや!」    

スマホに映し出された映像は笑撃的なものであった。

「クククッ。アカン。もう堪えるの無理や!」

「悪いですよ。笑っちゃ。」

「そないなこと言うてオペラも目が笑っとるで!」     

「いや……。こんなとこイナリさんに見つかったら……。」

「かまへん、かまへん。バレるわけないやろ!」

その時、メイセイオペラは肩を叩かれ振り向くとニヤケ顔が真顔に戻った。

「タマモさん!」  

メイセイオペラはタマモクロスの肩を叩く。

「なんや!こっからが爆笑するところやで!あ……、イナリ……。」

振り向くと鬼、いや不動明王のような怒りに満ちたイナリワンが立っていた。

「お前らいい度胸してんじゃねぇか!」

案の定、映像データは消され、後日、メイセイオペラはスイフトセイダイに呼び出されコンコンと説教を受ける羽目となるのであった。  

    

    

         

    

番外 ファインモーション紛争協定

 

ある日のカフェテリア。

他愛もない会話の中で「誰が学園一怖いウマ娘か」が話題となった。

メイセイオペラは言った。

「この間、『パッとさ◯◯りあ〜♪』とか鼻歌交じりで歌ってたらいきなりウインディちゃん(シンコウウインディ)に腕噛まれて『変な歌、歌うな!なのだ!』って言われて怖かったです。」  

「そら、オペラ、お前が悪いやないか!知らんけど。」

タマモクロスに一蹴された。

「オラはそっただでもないんだけど、同じ部屋のカフェさん(マンハッタンカフェ)が結構怖がられてて気の毒でした。」

ユキノビジンは答えた。

「まあ、あれもオカルト的にっちゅう意味でやからな。少し意味合いがちゃうねん。」

タマモクロスは否定した。

「じゃあ、誰が怖いんですか?シリウス(シンボリ)さんですか?それとも奇行でおなじみのゴールドシップさんとか?」

メイセイオペラが問うた。

「ちゃうちゃう。一番怖いのはな……。ファインモーションや!」 

「え!そんな!裏の顔とかあるんですか?」

タマモクロスの意外な答えにメイセイオペラはそう反応した。

「ファインモーションさん、そっただ怖いとか印象ないべ。あんまり会話したことないけど怖いって感じたことながんす。」 

ユキノビジンもそう感じていた。

「ちゃうねん、あの怖ろしさは今でも身震いするわ。なあ。イナリ。」

そばにいたイナリワンも同調した。

「ああ、あれは身の毛がよだつ思いだったぜ。」  

二人の経緯を語り出した。

かつてタマモクロスとイナリワンは犬猿の仲であった。

一方は江戸(関東)もう一方は浪速(関西)。

気が合うはずもなく当時は殺伐とした雰囲気だった。。

お互いに些細なことでもいがみ合う。   

そして決定的なことが起こったのであった。

ある日の朝のカフェテリア。 

タマモクロスは大の納豆嫌いであったが、イナリワンはこれ見よがしに納豆を糸を引かせてかき混ぜていた。

「アホか。そんな腐った豆食う方がアタマおかしいんや!」

タマモクロスは独り言のように言った。

「おい!タマ!いっぺん食ってみろ!」    

「んなけったいなもん、よう食わんわ!」 

「そう言うなって!ほらよ!」

「いらん!っちゅうとるやろ!」

押し付けられてタマモクロスはイナリワンの手を叩くと納豆はひっくり返ってボールごと床に叩き落とされてしまった。

「なにすんでぃ!食いもんを粗末にする奴ぁ罰が当たるぞ。タマ!」   

「無理強いするからやろ!んなもとから腐ってるもん食いもんやあらへんやろ!この大井の女狐が!」

大井の女狐。

イナリワンにとって言ってはいけない地雷ワードであった。

「おい……。いくらなんでも言っていいことと悪いことの分別もつかないたぁ、どういうことでぃ!まあ、売ってきたケンカは高く買うまでよ!この貧乏舌!」

貧乏舌。

タマモクロスにとって言ってはいけない地雷ワードであった。

「誰が貧乏舌や!」

取っ組み合いの大乱闘が始まってしまった。

周りのテーブルというテーブル、椅子という椅子がひっくり返り他のウマ娘の食事の皿もお椀も落とされて粉々になっても殴り合いは止まらなかった。

そして問題にならないはずもなく生徒会室に呼び出された。

お互い血が登ってアドレナリンも出まくっての興奮状態でもあり、主張しあい平行線のままでその日は終わった。

後日、生徒会室に呼び出されたタマモクロス、イナリワンは再度話し合いになると思っていたが異変に気がついた。

生徒会のメンバーではない者がいたのである。

それがファインモーションであった。

「今回、君たちのいざこざを仲裁するため彼女が仲裁人に名乗りを上げてくれた。」

シンボリルドルフがそういうとファインモーションが立ち上がった。

「ごきげんよう。ファインモーションです。今回の仲裁人として努めさせていただきます。よろしくお願いいたします。」

深々と頭を下げた。

(なんでぃ!やんごとなき方が務めるたぁ、随分舐められたもんよ!) 

(はぁ?ファインの姫さんがやるんかい。こら上手く丸めこんでイナリをギャフンと言わせたるわ!) 

両名はそう思っていた。

ファインモーションは一人ずつ個別に事情を聴取、その上で裁定すると宣言した。

そしてその裁定が両名にとって苦難の道になるとはよもや思いもしなかった。

「タマモクロスさん。あなたは、納豆を粗末になさいました。納豆の素晴らしさを知っていただくため、毎朝一パック、納豆を召し上がって下さい。」   

「何やて!そんな!殺生な!関西はそういう風習ないねん!」

「異論は認めません。私のSPが毎朝確認しますのできちんと食べてくださいね。」

タマモクロスはうなだれた。

「イナリワンさん。あなたは朝風呂に入られますよね?」 

「おう!それが駄目って言うのかい?」

「いえ、そのお風呂なんですけど、最高温度40度までにして下さい。他の生徒からあなたが温度を上げすぎて熱すぎると苦情が来ています。」 

「ちょっと待ってくれ!ちと熱いかもしれねぇが、御徒町の銭湯よりは低くしてるぜ!それでも駄目ってぇのかい?」

「ええ、お風呂の方は女性SPが確認します。上げすぎた場合即座に水で冷やします。」      

「なんてこった……。」 

イナリワンは絶望した。

「あと、どちらかがそれで先にギブアップした場合、ギブアップした方はトレセン学園を退学していただきます。」

「コイツと我慢比べやれっちゅうんか。やったるわ。イナリを大井に帰したるわ!」

「へっ!そいつはこっちのセリフでい!タマは新大阪行きの新幹線の切符予約しとけよ!」

お互いメラメラ対抗意識を燃やしていた。

「では、調印をお願いいたします。」

ファインモーションがそう言って両名にサインを求めた。

意気揚々に二人はサインをした。 

「ここにタマモクロスさん、イナリワンさんの紛争協定が調印されました。」

生徒会のメンバーも見届けてここに終結した。

……かに思われたのだが。

「あかん、フラフラする……。」       

朝、納豆を食すというノルマで食が進まずゲッソリとなっていた。

ただでさえ普段食が細いのに納豆で食欲が減退していた。 

「タマ、大丈夫か?」   

オグリキャップも心配して声をかけた。

「ああ、オグリか。大丈夫や……。いや、もうだめかもしれへん……。」

「おい、タマ!」

タマモクロスは全身の力が抜け倒れてしまった。

オグリキャップは急いで医務室にタマモクロスを連れて行った。

「イナリ先輩、大丈夫ですか?」

南関でも後輩であったトロットサンダーが声を掛ける。

「おう、これくらい平気の平左だ。……へっくしゅん!」 

少し体が震え、くしゃみも出たイナリワンであった。 

「なんか寒そうですよ?この間も湯冷めしてましたよね?」

ティッシュを差し出すとイナリワンは鼻をかんだ。

「わりぃな。今、風呂の温度40度以下にしろってお達しがあってな。」

「顔も紅いですよ。」

そう言ってイナリワンのおでこに自分の手をそえると思ったよりも熱くなっていた。

「熱っつ!これ結構ヤバいですよ!医務室行きましょう!イナリ先輩!」

トロットサンダーはイナリワンを連れて医務室に行った。

奇しくもほぼ同時に運びこまれた二人は隣同士のベットになった。

もはや、いがみ合う気力もなかった。

タマモクロスは納豆を義務で食すことによりもともと食が細いのがさらに細くなりとうとう栄養失調にまでなってしまった。

イナリワンはの方は熱い風呂に入れなかった事により長風呂で湯冷めしたり体が冷えてとうとう季節外れの風邪になってしまった。

少し落ち着いてからタマモクロスが話しかけた。

「なあ、このままやと共倒れや。二人でファインのところに行って協定破棄してもらおうや。」

イナリワンも同意した。

「ああ、ここらで手打ちにするのが賢明だな。」 

お互いに同意したのを安堵して安静に務める事にした。

次の日、生徒会室へ二人は向いその主旨を述べたのだが思わぬ事態になった。

「すまない。ファインモーションだが、祖国の王室の行事出席のため、二週間程トレセン学園から離れる事になった。」  

シンボリルドルフがそう説明すると二人は唖然とした。

「何やて!二週間って!そこをなんとかならへんですか!」

「おいおい、この生活をあと二週間って生き地獄を味わえってぇのかい?」 

二人はそう言うがルドルフの返答は変わらなかった。

やっとで二週間後に二人でファインモーションの帰国によって協定は破棄された。

しかし、新たな協定を結ばされたのである。

「タマモクロス、イナリワン両名、仲好くすること。」  

お互い思うところはあれどしぶしぶサインをして事は終結した。

 

「あの姫さん、人の弱点をピンポイントでついて来るんやで!恐ろしいやろ?」 

タマモクロスは振り返ってそう言った。

「ああ、今でも夢に出てくるぜ。ファインの顔が般若に見えるときがあるぜ。」

イナリワンも同意した。

直後、ファインモーションがやってきた。

「ごきげんよう!お二人さん仲好くされてますか?」

にこやかに話しかけた途端、二人はビシッと背筋を伸ばし直立不動で答えた。

「はい!もちろん仲良うやっとります!なあ?」      

「ええ、ほんとにあの時から仲好くなりまして……。」 

二人はそう言うとファインモーションは満足したのか笑顔になった。

「あ、メイセイオペラさん、この間『キムチ納豆ラーメン』いただきましてありがとうございました。」

「いえいえ。」

ファインモーションがメイセイオペラにそう言ったやり取りの間でも二人は緊張してガチガチになっていた。

ファインモーションが去っていくと二人は緊張の糸が切れた。

「な?怖いやろ?」

「ええ……。」

タマモクロスがメイセイオペラに問うたが曖昧な返答しかできなかった。

(それはお二人の日頃の行いが悪いからじゃ……?)

本心はそう思ったがとりあえずファインモーションを敵に回すのは避けたほうが良いと思うメイセイオペラだった。

        

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