ビューチフルドリーマーズ(ウマ娘)   作:ききき三左衛門

6 / 13
第6R 聖蹄祭魔王襲来

 

Chapter1  物産展

 

 秋の感謝祭(聖蹄祭)が近づく中、メイセイオペラはユキノビジンと岩手物産展についてとある喫茶店にて作戦会議を行なっていた。

「去年も高知のハルウララさんさ負けでしまったんで、どうしても今年は一矢報いたんだども。」

ハルウララに対抗意識を燃やすユキノビジンだった。

メイセイオペラも少しでも役に立とうと思っていた。  

「一応、アドバイザーも呼んであるんでその人からアイデアもらいましょう。」

そしてその人はやってきた。

「スイフト先輩お久しぶりです。」

スイフトセイダイとは帝王賞以来だった。

「おう、オペラ。今更だが南部杯優勝おめでとう!ユキノも久しぶり。」

「ご無沙汰してました。スイフトセイダイさん。お忙しいどごすいません。」 

挨拶が済むと本題に入った。

「『物産展』ねぇ……。南部せんべい、冷麺、ゴマすり団子、岩谷堂羊羹、岩泉ヨーグルト、じゃじゃ麺、かもたま、サヴァ缶、前沢牛カレーとご当地ラーメンか……。」

事業企画書に目を通すスイフトセイダイだったが反応はイマイチだった。

「これくらいだったらわざわざ足を運ばなくてもネットでポチったりできるものばっかだなあ。いやまあ、方向性はいいと思うけど。物産展っていうよりはお土産屋さんみたいだな。」

「昨年よりも種類を増やしてみたんですが、やっぱりわがねーですか?」

「いや、そういうんじゃなくて、もっとこう、『目玉!』みたいなもんがあればいいんだけど。あ、そうだ。お前ら『レース場グルメ』って知ってる?」

レース場で食べられる名物をそういう風に呼ばれるようになったのはつい最近のことであった。

そこに行く人々にとって当たり前であっても普段足を運ばない者にとっては珍しいものとして取り上げられるようになった。

メイセイオペラとユキノビジンは顔を見合わせ思いついた。

「ジャンボ焼き鳥!」  

「モツ煮込み!」

盛岡のジャンボ焼き鳥、水沢のモツ煮込み(ホルモン)は定番でもあり名物でもあった。

「盛岡の『とりっき』さんさ電話してみるべ。なんとか取り寄せられれば目玉さなるべ。」

「見栄えもいいですし目を引くんでそれだけで宣伝にもなりますね。オレの方は水沢の食堂に連絡してみます。あと今の時期なら『芋の子汁』もいけるかと。北上は『二子里芋』の産地で有名ですし。」

トントン拍子に話が進み、物産展はその方向性でまとまった。

 

数日後、メイセイオペラとユキノビジンは生徒会室に呼び出された。

「実は『聖蹄祭』のことで相談があるのだが……。」  

シンボリルドルフは話を切り出した。

傍らにはいつものエアグルーヴ、ではなくフジキセキがいた。

「今回、『リギル』が中心となって演劇をやることになってね。岩手の遠野地方の民話をベースとした話をやることになって、ユキノビジン、君にヒロイン役を頼みたいのだが、どうかな?」

「わたしがですか?……いやいや、そっただ大役無理です。第一物産展の準備もありますし。せっかくお誘いして頂いたんですが……。」 

「そうか、そうだったな。無理強いしてすまない。」

シンボリルドルフは陳謝した。   

「遠野の民話っていうと、村でご法度だったウマ娘と駆け落ちした青年の悲劇をやるんですか?」

メイセイオペラが質問するとシンボリルドルフはうなづいた。

「ああ、ちょっとアレンジはするがな。脚本は出来上がっていて配役を決める段階だったんだが、ユキノビジンにやってもらおうという声が上がって呼び出したんだが。まあ、仕方ないか。」

「ユキノビジンにヒロイン役は無理だって言うと……。まあ私がやるか。」

フジキセキが口を開いた。

「フジキセキ。君が主人公の青年役ではなかったか?では、誰が主人公役をやるんだ?」     

「そりゃ、時間もないし脚本書いた本人にやってもらうしかないんじゃないの?セリフもバッチリ入るはずだし。」

フジキセキは脚本を書いた本人を眼の前にそう言い放った。

「私が主人公役をか?確かにセリフは記憶してはいるが……。」

「じゃあ、決まりだね!明日から稽古しないと。あ、そうだ。二人にはセリフの監修やってもらえないかな?訛りとかよくわからないから。会長は岩手住んでたことあるからある程度理解できるかもだけど私も含めそういうところよくわからないから教えてもらえると嬉しい。」  

「そうですね……。せっかく岩手を舞台とした劇であればある程度はできるかもです。そういうことであればオペラちゃんと協力してやってみます。」

物産展の準備の合間に劇のセリフの監修もやることになってしまった。

 

聖蹄祭まで慌ただしく物産展、演劇と往復しながら準備を進める二人であった。

聖蹄祭前日、その隣の高知物産展からハルウララが偵察にやってきた。

「あ!ユキノちゃんズルい!メイセイオペラちゃんに助っ人してもらえるなんて!」

ハルウララはそうユキノビジンに声をかけた。

「ウララちゃん、今年こそこっちが勝つべ!オペラちゃんも手伝ってくれるがら、負ける訳にはいかねぇべ!」

ユキノビジンは気合が入っていた。   

「フフフ……。でも、助っ人、高知でもいるんだもん。」

そしてやってきたのが高笑いと共にやってきたこのウマ娘だった。

「オーホッホ!このキングが来たからには負ける訳には行きませんわ!このキングが『一流の物産展』をお見せいたします!」 

ハルウララと同室のキングヘイローが高知の助っ人として名乗りをあげたのであった。

(なんだろう?『一流の物産展』ってなんだろう……?)

ユキノビジンとハルウララが対抗心を燃やして火花を散らすなか、メイセイオペラは冷静に疑問を抱いていた。

聖蹄祭一日目。岩手の物産展は好スタートで始まった。

思惑通り、ジャンボ焼き鳥が目につくらしく飛ぶように売れていった。

そして、オグリキャップ、タマモクロスもやって来たのであった。

「オグリさん、タマモさん。良かったら一本どうですか?」  

メイセイオペラはジャンボ焼き鳥を勧めた。

「うん、水沢に行った時もそうだったが美味そうだ!とりあえず10本くれないか?」  

「えっと、味が塩、タレ、梅ちゃん、ノサカスペシャル、タバスコってありますが、それぞれ2本ずつします?」 

「ノサカスペシャルってなんや?」

「よくわからないんですけど、ガーリックにレモンソースがかかっているやつです。」

「なん……だと……。味が5種類もあって決められないじゃないか!とりあえず5種類10本ずつを頼む。」

「ありがとうございます!」

「オグリ!飛ばしすぎや!」

「タマ。こんなのウォーミングアップだ。問題ない。」

 オグリキャップが大量買いで一気に品薄となった。

「タマモさんもなんか買っていきます?」

「まあ、一通り見てからやな。どれどれ、おっ、この『前沢牛カレー』ってのが安くてうまそうや。これにしよか。」 

「一個1000万円です。お買い上げありがとうございます。」

「何やて!桁間違えとったわ!1000万やて!ボッタクリやないか!」

そうツッコむタマモクロスを見てメイセイオペラはホッとした表情を浮かべた。

「なんや!その顔は!」

「いや、正しい反応されたんで安心しました。さっき、同じクラスの(メジロ)ブライトさんが爆買いされて3億8000万円ですって言ったら、少し間が空いて『すいません、持ち合わせがないので爺やに小切手持って来てもらいます。』って真顔で言われて。慌てて3万8000円って言い直しました。」 

「アカンアカン。本物のお嬢にそないなネタ通用せぇへんわ。まあ、一個買っとくか。せっかくのお祭りやし。」

「ありがとうございます!」

メイセイオペラはそう言ったが、タマモクロスは財布を出そうとしなかった。

「すまんオペラ。一個1000円以上の買い物しよ思たらウチの3台の脳内コンピュータが全会一致せないかんのや!ツッコミ、アホの2台はオッケーなんやがドケチがどうしても許可下りないんや!」 

「難儀な性格だな。タマ。」 

「やかましい!放っといてくれや!」 

ジャンボ焼き鳥を頬張りながら言うオグリキャップにタマモクロスはそう言い放った。

メイセイオペラは苦笑いするしかなかった。

   

ジャンボ焼き鳥も一通り売れて一段落した頃、そのウマ娘はやってきた。

「ほう、水沢のモツ煮込みとは。」

ナカヤマフェスタが来た。

「一つくれないか?」   

メイセイオペラが差し出すとお金を払ってすぐに口に運んだ。

「……うん。これだ。モツとこんにゃくとネギだけでこの味とは。もう一杯くれないか?」

「フェスタさん。水沢来たことあるんですか?」 

「ん。……まあな。」

あまり言いたくない雰囲気だったのでメイセイオペラもそれ以上詮索しなかった。

ただ、満足そうな表情でもう一杯を手に持ち、去っていった。

しばらくすると騒がしい二人がやってきた。

スピカのゴールドシップとメジロマックイーンだった。

「お、『岩手物産展』か。マックイーンなんか買ってこうぜ!」

ゴールドシップが見渡すと首をかしげた。

「おい、あれがねぇじゃねぇか!」     

「あれってなんすか?」

「お前、あれっつったらあれだろ?あんだろ?焼きそばに目玉焼き乗っかったやつ。」

「それ、秋田の横手焼きそばですよ。」

「そっかぁ!そっちだったか。でもあれはあんだろ?焼きそばなのにそばつゆとかかけて食うやつ。」

「それ、青森の黒石ってとこのつゆ焼きそばですよ。」

メイセイオペラは冷静につっこんだ。

「あなた、冷やかしで言ってますの?オペラさんも迷惑されてるじゃありませんか。……コホン。その……、スイーツとかはありませんの?」 

 メジロマックイーンが問いかける。

「スイーツですか?ああ、花巻のデパートでメッチャ長いソフトクリームあったんでお願いしようかと思ったんですが季節外れなんでやめときました。お菓子とかしかないですね。あ、売り物じゃないですけどユキノさんがまかないで『へっちょこ団子』作ってますので一つ召し上がりますか?」 

「なんですの?『へっちょこ団子』って?」

「お汁粉ですね。団子は真ん中を凹ませて味を染みやすくしてます。『へっちょ』とは『おヘソ』の意味で形が似てるんでそう呼ばれるようになったようです。」

そうメイセイオペラが説明すると隣の高知物産展からキングヘイローが怒鳴り込むようにやってきた。

「誰が『へっぽこ』ですって!?陰口とは聞き捨てなりませんわ!メイセイオペラさん!あなたそういう方でしたの!見損ないました!」

「待って、キングさん。『へっぽこ』ではなくて『へっちょこ』。郷土料理の紹介してたんですよ。」

「あらヤダ、聞き間違いでしたか。そういう料理があるとは思いもしませんでした。失礼いたしました。」 

メジロマックイーン、ゴールドシップ、キングヘイローにへっちょこ団子を振る舞った。

メジロマックイーンはゴールドシップに「太るぞ……。」と囁かれたので遠慮して半分だけに留めた。

(なんか、マックイーンさんとゴルシさんてお爺さんと異様にはしゃぐ孫の戯れに見えるときがあるんだよな。気の所為かもだけど。)

二人が去って行く姿を見つつメイセイオペラはそう思った。

その後、いろいろ買い込んで紙袋をいくつも抱えたアグネスデジタルがやってきた。

「もう、シンドイ……。見るところ多すぎて……。明日は『リギル』の演劇、抽選で当たったから見に行かなきゃだし。」

「楽しそうだな。デジタル。なんか買ってけ。」

メイセイオペラがそう言うとアグネスデジタルは見渡してその商品を手に取った。

「お前、これでいいの?」  

「ええ、さっきファインさん見てたら食べたくなって。あとファインさんにも献上しようかと。」

ご当地カップラーメンが二つ。

「サンマだしが決め手!ラーメン『黒◯』」というものだった。

「あ、もう4個下さい。SPさんにもあげないと。」

「お前、この間、そのSPさんに捕まってこっぴどく怒られてたじゃねぇか!」

「グヘヘ……。でもファインさんには『小さなSPさん』ねって言われちゃいました。」

「お前……。(この変態でストーカーをSP……。やっぱ、ファインモーションさんて恐ろしいわ。)」

メイセイオペラはドン引きした。

「おらよ。6個で1800万円です。」

アグネスデジタルは二千円渡した。

「2000万円お預かりで200万円のお返し。」

商品を渡すとアグネスデジタルは次の目的地へ駆け出して行った。

(満喫してやがる。)

メイセイオペラはそう思った。   

  

  

 

 

 

Chapter2  聖蹄祭、笠松からの訪問者

 

 聖蹄祭で騒がしいトレセン学園ではあったが、閑散としたところがあった。

「ダートウマ娘に挑戦!」

というイベントで脚に自信のある一般人や子ども達にハンデをつけて競走するという主旨であった。

アブクマポーロはそこで他のダートウマ娘数名、責任者のヒシアマゾンと担当していた。

ただ、ダートトラックはへき地のせいか最初何人か挑戦してから人は来なくなり、喧騒からはかけ離れていた。

「悪いな留守番ばかりさせて。もし行きたいところがあれば交代するよ。」

ヒシアマゾンがアブクマポーロにそう声をかけたが首を横に振った。

「いえ、騒がしいのは好きじゃないので。ここで読書してますよ。寮長、僕に構わず楽しんで来て下さい。」     

「そうか。もし用があれば遠慮なく連絡してくれ。」

そう言い残してヒシアマゾンは去って行った。

(ここで2日間安静にしてその後はトレーニングを徹底的にやるんだ。東京大賞典であんな恥をかくわけにはいかないしな!)

そう思いつつ読書三昧のアブクマポーロであった。  

 一方、その頃岩手物産展に再びオグリキャップがやってきた。

「オグリさん、すいません。まだジャンボ焼き鳥焼けてなくて。もうちょっと待ってもらっていいですか?あ、こっちのモツ煮込みと芋の子汁ならすぐに食べられますけど。」

メイセイオペラの問に意外な答えが返ってきた。

「いや、そうじゃなくて。実は君に会いたいって言う笠松の後輩がいてな。是非会ってやってくれないか?」  

「え?オレにですか?」

「ああ、少し時間をくれないか?今、校門の前で待っているんだ。」

「ハイ、わかりました。ユキノさん。ちょっとはずれても大丈夫ですか?」

メイセイオペラはユキノビジンにそう言って許可をもらって物産展のレジを離れた。 

校門の前に見知らぬウマ娘が立っていた。

いや、正確にはテレビや雑誌で見たことはあっても実際に会うのは初めてだった。

岩手でも中央の制服でもない姿でメイセイオペラと同じく赤いキャップをかぶっていいる。

RLと表示されているキャップであった。 

「あ、来た来た。オグリ先輩、すいません。わがまま言って。」  

「いや、これくらい、なんでもない。では、後はよろしく頼む。」

そう言うとオグリキャップは去って行った。

「はじめまして。笠松トレセン学園のライデンリーダーです。」  

(やはり、そうだったか)

ライデンリーダー。

笠松トレセン学園所属でオグリキャップが中央トレセンに転校したことによって特例で1年間中央トレセンで特別短期留学第一号の地方ウマ娘であった。

クラシック期でティアラ路線で桜花賞、オークス、 エリザベス女王杯に出走。

しかし、思うように結果を出すことができなかった。

「あ、はじめまして、岩手トレセン学園水沢校のメイセイオペラです。」

「見てたよ。この間の南部杯。優勝おめでとう!」     

「いやぁ、ありがとうございます。」

「聖蹄祭で何やってるの?」

「岩手物産展です。ユキノさんの手伝いしてます。」

「そうなんだ。私もこっち来た時『岐阜物産展』やったなぁ。オグリ先輩と。でもオグリ先輩、すぐにお腹がすきすぎて片っ端から商品食べまくって結局大赤字になっちゃったんだよね。」

(すんごく目に浮かぶようだ。)

「あの、ここじゃアレなんで中にはいりますか?」 

ライデンリーダーは首を振った。

「ううん、ここで良いよ。そんな長い話になるわけじゃないから。」  

メイセイオペラは疑問をぶつけた。

「……ところで、なんで面識のないオレに用があったんですか?」 

「それはね。君と一度会って見たいと思ってたんだ。それに………、期待もしてるし。」

「……期待ですか。でもそれだったら船橋のやつがいるじゃないですか?」

「あのコは駄目よ。南関東なんて中央とそんな差がないし。後、それにかまけてウイニングライブ雑だし。その点君は水沢だし、パフォーマンスもスゴイから同じ地方ウマ娘として誇らしいよ。」

「そんな、褒めすぎですって。」

面映ゆい思いをするメイセイオペラだった。

「ね?手を出して?」 

ライデンリーダーに片手を出すと小指を絡ませてきた。

二、三度それを上下させて指切りをした。

「オレ、なにを約束させられたんですか?」  

「ナイショ。」

「内緒ってあの……。」

「じゃあ、頑張ってね!地方(ウマ娘)の未来は君にかかってるんだから!」

「えっ?ちょっと!あの……。」 

そう言い残してライデンリーダーは去って行った。

(期待か……。自分の力ではもう無理だから期待するしかないんだよね。正直悔しいけど。でも君なら私のできなかったことを託せると思うから。叶えることができなかったあの夢を。)

そう思いながらトレセン学園を背に去って行くライデンリーダーだった。

物産展に戻るとタマモクロスがいた。

「どこ行ってたんや?」 

「いや、オグリさんが紹介したいっつって、ライデンリーダーさんのところに連れて行かれました。」

「ライデン!来とったったんか!かーっ!水くさいやっちゃな!あ……。」

「どうかされたんですか?」

「いや、なんでもあらへん。(そっか、ライデン来てたんやな。でも、ここに来るといろいろ思い出してまうから……。まだ心の整理もついてへんやろしな。そんでオグリに頼んだんやろな。)」  

タマモクロスは瞬時に理解した。

そして少し切ない気持ちにもなった。

日が傾きかけて聖蹄祭一日目が終了した。

「ユキノさん、売上どんな感じですか?」

「うん!目標も達成でぎだし。この調子で二日目も頑張るべ!今年こそ勝てそうだべ!」

「ホントですか!良かったです!」

手応えを感じ意気揚々の二人であった。

だが、二日目に起きる波乱など予期できるはずもなかった。

      

 

 

 

 

  

Chapter3  魔王来襲

 

 二日目に入り岩手物産展は好調を維持していた。

ウマッターでもハズり飛ぶようにジャンボ焼き鳥が売れていった。

「いい感じですね!」

「んだね!このまま高知さ差をつけて逃げ切って勝つべ!南部杯のオペラちゃんみたいに!」  

ユキノビジンとそう話すくらい余裕があった。

一方、高知物産展は閑古鳥が鳴いていた。

「まずいですわね。やはりウララさん。あの策を取るしかないようですわね。」

「キングちゃん。最終手段を取るの?」

「ええ、背に腹は変えられませんから。」

そうして高知物産展は一時閉店し「休業中」と張り紙をしていた。

午後になるとメインイベントの演劇で人もまばらになる。

それを見越してその前にある程度売っておきたいとメイセイオペラはユキノビジンと事前に打ち合わせていた。

目論見通りその通りに進んでいた。

しかし、高知物産展が予想外の動きを見せた。

営業再開すると所狭しと商品が並べられていた。

「皆様!ただいま高知物産展ではここでしか手に入らない『ハルウララグッズ』を販売中です!いかがですか?」 

キングヘイローが客寄せでそう叫ぶとすぐさま人だかりになっていった。  

飛ぶように売れるハルウララグッズ。

今までがウソだったかのように高知は大繁盛している。

「しまった!こっちも対抗して『ユキノさんグッズ』作っとくべきだったか!」  

「やめでけろ!恥ずかしいべ!」

メイセイオペラの言葉にユキノビジンは赤面して顔を覆った。 

高知物産展の最終兵器を前になす術はなかった。

しまいにはオークションまで始まった。

「こちらの『ハルウララ(女児用)自転車サイン入り』限定品です!一万円から!」   

金額がどんどん上がっていく。  

もちろん、大きな赤いリボンをつけたウマ娘がそれに参加しないはずがなかった。

「三万円!推しのグッズ、こんな値段なら安いもんですよ!絶対落とします!」 

アグネスデジタルが幾度も手をあげていた。

(あのヤロウ。こっちではカップラしか買わなかったのに!よくそんな金出せんな!)  

メイセイオペラは苦々しく見ていたがあることをふと思いついた。

(いや、待てよ。これって物産展の規約に違反するんじゃ……。)     

すぐさま、聖蹄祭実行委員会にメールをした。

昼下がりとなり、次第に客足も減って徐々に片付けを始める準備に入った。

「オペラちゃん、だいぶ片付いたからどっか遊びさ行ってきたら?」

「いや、それだったら片付け終わってから一緒に行きましょうよ!」

などと話していると不意打ちのようにそのウマ娘はやってきた。

黒ジャージにサンダル姿で岩手に居る時の格好そのままであった。 

「よう!オペラ。来てやったぞ!ユキノも久しぶり。」

「ニセイ先輩……。(え?なんで?)」 

トウケイニセイがやってきたのであった。  

「早速だが案内しろ。」 

「え?」

メイセイオペラは少し考えてすぐさま何を企んでいるのか理解してしまった。

そうするとトウケイニセイは不気味な笑みを浮かべた 

「すいません。ユキノさん。先輩をダートコースに案内して来ます。」  

「わがった!後はやっとぐがら任せてけろ。」

「わりぃな。ユキノ。コイツ借りてくから。」

ユキノビジンの許可を得てトウケイニセイを連れて行くことになってしまった。

トウケイニセイが人混みを歩くと邪悪なオーラを感じ、周りが危険を察知するかのように遠ざかっていった。

「先輩……。一応聞きますけど引く気とかないんですよね?」

「……ったりめぇだろ!わざわざ来てやったんだ。そもそもケンカ吹っかけてきたのはむこうだ。」

聞いても無駄だった。

メイセイオペラは心のなかで大きく深いため息をついた。 

ダートコースに着く。

受付の方に向かって行った。

「おい、ここで勝負できるのか?」

「はい、こちらにお名前を書いていただいて……って!あなた、ウマ娘じゃないですか!駄目ですよ!参加は認めません。」  

「あ?ツレねぇこと言うなよ。どうせヒマなんだろ?こっちは遠いとこから来てやってんだぞ!とっととあいつを連れてこい!」 

受付のウマ娘は凄みで怖くなりすぐに走って逃げていった。

それを見てアブクマポーロは何事かと思い近づいてきた。

「よう!テメェの渇望に答えてわざわざ来てやったぞ。」 

「なんなんですか。あなた達。なんの用ですか?」

「あ?テメェが帝王賞の時に売って来たんだろが!それとも怖気づいて逃げる気か。いいぜ、だったらここで土下座しろや。この三下が!この俺には敵いませんってな!」

「は?ピークをとっくに過ぎたあなたになんでそんなことしなきゃなんないんですか!ここのところレースにだって出てないじゃないですか?」

睨み合って対峙しているとヒシアマゾンがやって来た。

逃げていたウマ娘から事情を聞いていた。 

「すまんが、ここではイベントの主旨に反するからできないんだよ。悪いが。」

ヒシアマゾンはそう断った。

「いや、あんたの言い分は分かるがこっちも岩手から来たんだ。コイツ(アブクマポーロ)と『タイマン』張らせてくれないか?」    

トウケイニセイはヒシアマゾンに頭を下げた。

「『タイマン』……だと?」

(しまった!) 

アブクマポーロは即座に思った。 

ヒシアマゾンを熱くさせ見境がなくなり判断が鈍る言葉であった。

「そうか。せっかく来てもらってんだし、どうせ誰も来ないからやるか!あたしはタイマン張るのが好きだが他人(人の)のタイマン見るのも好きなんだ。よし、あたしが立会人になってやる!」

思わぬ展開となり準備を始める事になった。

「先輩。『タイマン』はいいんですけど、その足でやるつもりですか?」

サンダル履きの足を見てメイセイオペラは訊ねた。

「あ、そうだ!靴持って来るの忘れた!オペラ、お前の靴貸せ!」   

「え?いや……。」

「ホラ、ダッシュ!早く持って来い!」

「あ、って、もう!」

走って寮へ向かって行った。

「ところで距離はどうする?お前の好きな距離でいいぜ。」  

トウケイニセイはアブクマポーロに聞いた。

「だったら2000でお願いします。」

「ほう、奇遇だな。俺も得意なんだよ。2000。」

「だったら、好都合です。(あなたが)負けて距離適正を言い訳にされても困りますし。」

「俺は言い訳はいくらでも聞いてやるぜ。俺、優しいから。」

トウケイニセイは笑みをこぼして言った。

「あなたの引退に花を添えてあげますよ。」 

アブクマポーロは冷酷に煽った。

「そうだな。お前程度に負けるくらいなら引退したほうがマシだな。言っとくがオペラより甘くはねぇからな。」 

(こんな人、大勢の前で恥をかかせてやりたい!レースに出てないで過去の栄光にすがって威張ってるだけじゃないか!)

アブクマポーロはそう思っていた。

メイセイオペラがレース用のシューズを持ってきた。

「ちゃんとしたやつだろうな?」 

「南部杯のとき使ったやつです。」

「そうか、これに2度も(アブクマポーロは)負ける訳だ。」

トウケイニセイは軽口を叩きながらジャージをまくりあげ両足ミイラのようなバンテージを巻きまくった状態のままで履きはじめる。

「少し『イズく』ないですか?」 

メイセイオペラは問いかける。

「こんなの大丈夫だろ。……って、ちょっとキツいな。」

「ホラ、だから言ったじゃないですか。」

「うっせーな。この程度のやつにこれくらいで負ける訳ねぇだろ!」

「『この程度』のやつにこの前オレやっと勝ったんですけど。」

「それはお前が弱いからだろ!」 

「……。」

メイセイオペラはもう言葉が出て来なかった。

聖蹄祭のメインイベントの演劇が始まろうとするその裏で最強地方ウマ娘の称号をかけてダート模擬レースが始まろうとしていたのであった。 

 

 

Chapter4  哲学者対魔王

 

 模擬レース。

本番のレースを想定し数名で行う。

一対一で行うことが主であるが相手の力量を図るには最も有効なトレーニングの一つである。

心ならずもアブクマポーロは大願であったトウケイニセイとの対決が実現した。

(まあ、いい。いずれ勝負するつもりだったんだ。ここでは勝てばもう僕の実力も地方ウマ娘一のものとなる。)  

そう思いつつアップを始めていた。

ただ予想外のことが起きた。

この模擬レースを見るためワラワラと多くの野次ウマ娘が集まって来たのであった。

そしてそれは思わぬ展開にもなっていった。

実行委員でもあるエアグルーヴが模擬レースを喧伝するウマ娘を目撃した。

すぐさま確認し、阻止しようと思ったが対戦相手を見て生徒会長シンボリルドルフに確認せねばならなくなった。

すぐさま演劇の控室に向かった。

「すいません。会長。実はダートコースで模擬レースを勝手に行おうとしていまして中止にさせてよろしいでしょうか?」

エアグルーヴは問うた。

「そうだな。予定外で許可もないからな。それでいいと思うが。ちなみに対戦相手は?」          

そういうとエアグルーヴは耳打ちした。

少し間を置いてシンボリルドルフは答えた。

「すまない。エアグルーヴ。前言撤回だ。レースは黙認していい。ただ、終わったら対戦相手を引き止めておいてくれないか?」

そういうとエアグルーヴは黙ってうなづき退出した。

すぐにでも行きたい気持ちを抑え今は演劇に集中しようとした。

そして、シンボリルドルフはおもむろにスマホを取り出しある者へ連絡した。

「エアシャカール君か。私だ。頼みがあるんだが。」

エアシャカールにあることを頼んだ。

(こんな近くに来てすぐに会えないとは。いや、演劇が終わったらすぐにでも向かう。この千載一遇のこの機会を逃すわけにはいかない!)

ルドルフはそう思いながら演劇へのボルテージをあげていった。 

 

 ダートコースは意外にも人が集まってきた。

そして突発的に「ニンジンオッズ」まで立つようになった。

どっちが勝つか予想し、ニンジンをかけて行う賭博である。

当然トレセン学園では校則違反となっていた。

「さあさあ!どっちに張るんだい!今、アブクマポーロ1.5倍でそっちはなんと!8倍だよ!」

「ほう、ニンジンオッズか。で?対戦相手は……!」

そこへ通りかかったナカヤマフェスタは目を疑った。

「おい、このオッズで間違いないんだよな?」 

オッズの主催者にナカヤマフェスタは尋ねた。

主催者は懇願した。 

「フェスタ!あんたこっち(トウケイニセイ)に賭けてくれよ!誰もベットしてくれないんだ!なんか岩手からきたらしいんだけど無名過ぎて。それに足もバンテージで両方ぐるぐる巻いてやがるし。なあ、10本でいいから!」  

「フフフ……アハハ!コイツは傑作だ!(こいつ等全員節穴だ。壊れてやがる!)」

ナカヤマフェスタはニンジンカードを出した。

「こいつに50入ってる。賭けるぜ。」  

「おお、マジか!毎度!おい、フェスタがむこう(トウケイニセイ)に賭けたぜ。」 

そういうと他の野次ウマ娘達は我先にとアブクマポーロに賭けはじめた。

「『フェスタの逆張り』はセオリーっしょ?」  

「アブクマポーロはこの間負けたけど今年はその一敗だけ!負ける要素ないでしょ?鉄板だろ鉄板!G1を二勝だし!」

などと言いつつ前評判は圧倒的支持でアブクマポーロ優勢だった。

すぐさまオッズは1.3倍対10倍までになった。

シリウスシンボリも聞きつけてやって来た。

「シリウスさん。どうします?あ、オペラいるじゃん。」 

チームのウマ娘とともに来ていた。

シリウスシンボリはメイセイオペラの様子を見る。

普段と変わらぬ平静さを保っていたように見えた。 

(なるほどな。そういうことか。)

「おい、チームの(ニンジンの)在庫どれくらいだ?」

「ニンジンですか?60はあるかと。」   

「じゃ、それ全部持って来い!」

「え?全部ですか?」

「ああ、早くしないと間に合わなくなる。急げ!」

シリウスシンボリは指示した。

(久しぶりだな。ニセイ。お前の『魔王』の力、見せて貰う。)

トウケイニセイはシリウスシンボリに気がつきちょっと会釈した。

シリウスシンボリは不動のままトウケイニセイを見ていた。

その後ズカズカとニンジンオッズに近づき、「あっちに60。」と宣言した。

周りから「おお!」と歓声があがる。

「随分と自信があるんだな。シリウス。」    

ナカヤマフェスタは同室でもあるシリウスシンボリに声を掛ける。

「お前さんほどじゃないがな。」

シリウスシンボリも答えた。

ダートの模擬レースだと聞きつけてタイキシャーロック、エムアイブラン、バトルラインも駆けつけた

「やっぱり、賭けるとしたらアブクマポーロか……。」

バトルラインが言うとタイキシャーロックが制した。

「やめといたほうがいい。」

「え?どうしてですか?」

「岩手のあの人は別格だ。お前(トウケイニセイに)勝てる自信あるか。」

「そりゃ、あんなバンテージ巻きまくった人に負けるはずなんか……。」

「『砂の女王』と揉めた相手だぞ。」

「え?あの人が……。」

バトルラインは言葉にできなかった。

「まあ、ここは高みの見物でいいんじゃねえのか?バトル。」 

エムアイブランも同意見であった。

  

偶然、スペシャルウィークとゴールドシップが通りかかった。

「今日、おかぁちゃんからたくさん北海道のニンジン届いたんですよ!」

たくさんのニンジン入ったビニール袋に手にぶら下げていた。

「ヘー。」  

全く興味のないゴールドシップだった。

しかし、ニンジンオッズを見て色めきたった。

「おい、スペ!今それ何本持ってる?」  

「えっと、ちょうど40本ですね。」

「それさ、全部ぶち込もうぜ!」

「あ、ちょっと!ゴルシさん!」

強引に奪ったニンジンを持ってゴールドシップはニンジンオッズに行った。

「えっと、こっちの方が15倍?よしきたこっちで!」  

こともあろうにトウケイニセイに全部ぶち込んだ。

「ゴルシさん!ヒドいじゃないですか!せっかくおかぁちゃんが送ってくれたのに!」

「泣くなよスペ!勝ったら600本だぞ!」

「そんなうまい話があるわけないじゃないですか!」

そこへサイレンススズカがきた。

「スズカさん!ゴルシさんが……。」 

話を聞いてドン引きした。

「ヒドいわね。でも……。」

サイレンススズカは続けた。

「もしかしたらいい勝負になるかもしれないわよ。」

以前、メイセイオペラから岩手にものすごく強いウマ娘がいると聞いていた。

そのウマ娘では?と思ったからである。 

「そうだぞ!スズカを信じろ!」  

根拠なくゴールドシップは言う。

「もう!駄目だったら弁償してもらいますから!」 

スペシャルウィークは腹の虫がおさまらなかった。

シリウスシンボリはともかく、生粋のギャンブラーナカヤマフェスタ、奇行ばかりでアタマのおかしいと評判のゴールドシップがトウケイニセイに賭けたことによりアブクマポーロにベットする者が跡を絶たなかった。 

 

 模擬レース開始まで手間取っていた。

エアシャカールが乱入してきたからである。

エアシャカールがヒシアマゾンに耳打ちすると頷いてエアシャカールが作業を始めた。

「あの、シャカールさん何してるんですか?」

メイセイオペラがヒシアマゾンに聞く。

「何やらレースの映像を取るんだってよ。」 

「映像ですか?」  

「ルドルフ会長の要望らしい。」

「ルドルフ会長の……ですか。(やっぱりニセイ先輩に興味あるんだ。)」 

数台のカメラを設置し映像チェックをしている。

そんな光景を見ているとアグネスデジタルからメールが入ってきた。

「なんで模擬レースあるって教えてくれないんですか!あああ!演劇、模擬レース、どっちも見たいっ!いっそのことこの体を2つに引き裂いていただけませんか!」  

意味不明のメールだった。

メイセイオペラは黙って「うるせぇ。」と返信した。

エアシャカールがOKサインが出るとヒシアマゾンが模擬レースの開催を宣言した。

「これより、アブクマポーロ、トウケイニセイ……って言ったっけ?の模擬レースを行う!ダート2000M左回り。両者スタートにつけ!」   

本日のメインイベント演劇にも劣らぬ熱狂であった。

旗を持つスタート、ゴール係、そしてなぜか時計係担当になってしまったメイセイオペラが配置につく。  

「よーい!スタート!」

旗を振り下ろすと一斉にスタート……しなかった。

アブクマポーロは通常通りダッシュしたが、トウケイニセイは大きく出遅れてしまった。

(あぁあ、やっぱり。勝負ついたじゃん。)

多くの見守るウマ娘達はそう思わずにはいられなかった。

「フ……。遊んでやがる。」 

ナカヤマフェスタはまだ余裕でいた。

過去にその光景を見ていたのである。

 

「ちょっと、アンタ!もうすぐメインレースだよ!そんなもの(モツ煮込み)食べてないでレース見なさい!ウマ娘でしょ?」  

水沢レース場にモツ煮込みを食べに来ていただけであったが、食堂のおばちゃんがウマ娘という外見だけでレースを見させにスタンドまでに強引に腕を引っ張られ連れて行かれた。

そのウマ娘は圧倒的一番人気。

しかし、やる気のないのかよそ見をして大きく出遅れてしまった。

(なんなんだ。あのウマ娘は。)  

そう思っていたが、あれよあれよと最後尾からまくり上げ一着でゴールした。

思わず呆気に取られた。

「どうだい!すごいでしょ?ウチのニセイちゃんは。」 

おばちゃんの言葉にうまく返せなかった。

(多少の出遅れはまあ想定内だな。)

ナカヤマフェスタは楽観していたが相手はアブクマポーロ。

次第にバ差が開いていった。

野次ウマ娘達もアブクマポーロ圧勝で結論付けていた。

「あちゃー、出遅れたか!」   

「ちょっと、ゴルシさん!あの人思いっきり出遅れちゃったじゃないですか!おかぁちゃんのニンジンが!」

「おいコラ!真面目に走れよ!」

スペシャルウィークはゴールドシップに向かって言うもゴールドシップは野次を飛ばす。

(おい、ゴールドシップ。今お前の背中にでっけぇブーメラン突き刺さってるぜ!)

ナカヤマフェスタは鼻で笑いながらそう思わずにはいられなかった。

後にウマッターで「ゴールドシップ、『真面目に走れ!』って叫んでてブーメラン過ぎて草wおまいう案件w」と投稿され大いにバズった。

アブクマポーロは振り向くと大きく差が開いていたのに落胆した。

(やはりあの人はもう……。残念だけど力の差は火を見るより明らかじゃないですか。あんな大口叩いて。でも勝負は勝負だ。手を抜かず徹底的に叩きのめしてあげますよ。これで心置きなく引退できるでしょ?) 

そう思いながら走っていた。

レース中頃になると10バ身ほどの差。

誰が見ても勝負は決まったかに思えた。

(いや、待てよ。ちょっとずつ差が縮まって来ている。) 

ナカヤマフェスタはいち早く気がつく。

周りのウマ娘達も少しどよめき始めた。

(なんだよ。強ぇ強ぇって言うからどんなもんかと思えばこの程度か。モリユウのほうがまだ強ぇっての!)  

トウケイニセイはそう思いつつ徐々に差を縮めていった。

残り200メートル。

まだ差はあったが、ここでアブクマポーロはスパートをかけた。

しかし、もうそこには黒い影が迫っていた。

岩手の魔王、トウケイニセイ。

ラストの直線で走るというよりフッ飛んで来るという感じの力強いスパートを見せている。

(すげー、なんだ、あれ。こんなの見たことない!)

(あんなに差があったのに無茶苦茶すぎる。)

中央トレセンの人々はその姿に目を見張るのであった。

アブクマポーロが気づくと背後に迫り並びかけていた。

(嘘だろ?あんなに突き放していたのに!でも末脚勝負で負ける訳にはいかない!)

必死でスパートを続けていたがトウケイニセイが並んで来る。

残り50メートル。

(よし、いける!)

さらにアブクマポーロは加速した。

だがその瞬間だった。

「甘ぇな。小僧。」     

そう囁くとトウケイニセイは少し前に出ていった。

(こんな、デタラメな力が。なんて人なんだ!)

「ゴール!」  

アブクマポーロが食らいつくもアタマ差で先にトウケイニセイがゴールした。

(負けた……。そんな馬鹿な……。)

アブクマポーロは悔しさで膝をついてうずくまり砂を掴んだ。

(ピークはとっくに過ぎているはずなのに……。実戦だって遠ざかっているはずなのに……。何故……。)

受け入れがたい現実を直視することはできなかった。

「フェスタ、お前(トウケイニセイのこと)知ってたな?」

「さあな。それより15倍ついた配当もらわなねぇとな。」

シリウスシンボリの問にナカヤマフェスタは回答を濁した。

「あの、すいません。これおかぁちゃんのニンジンなんで!後で560本ゴルシさんが貰い受けます!」

スペシャルウィークはそそくさと奪われたニンジンを取り戻して安堵の表情を浮かべた。

「時計(タイム)は?」

ヒシアマゾンがメイセイオペラに聞くと無言でストップウォッチを見せた。

「……これは。すげーな。『砂の女王』とも渡り合えるタイムじゃないか!」

(その人のこと本人の前であまり言ってほしくないんですけど。過去に思いっきり揉めたんで。)

メイセイオペラはそう思ってしまった。

 

「甘すぎたな。相手のこと知らねぇからそういうことになるんじゃねぇのか?」

「いや……だって。聞いたことないウマ娘だったし。払い戻し待ってくれないか?」

「まあ、いいけどよ。トンズラすんなよ。」   

ニンジンオッズの主催者にナカヤマフェスタはそう答えた。

「私の方は今すぐ耳揃えて払ってもらおうか。900本。早くしな。」

シリウスシンボリが取り立ててきた。

「いやだから待ってくれ!だって実績もないのにそんなことになるとは……。」

「実績?それはお前の見当違いだ。見ろ。」

シリウスシンボリはスマホでトウケイニセイの戦績を見せた。

「嘘だろ……?いくら地方でもそんな……。あ、もしかしてこの人、日本のレースの連勝記録塗り替えた人じゃ……。」

「レース前に調べることだってできたはずだ。怠慢ってやつだな。って!アイツのようにダジャレじゃないからな!」

無意識のダジャレにちょっと赤面してしまったシリウスシンボリだった。

 

「やはり、強いな。」  

タイキシャーロックは端的に言った。

「賭けなくて良かったんですけど、なんでそんなに強いのにレース参加しないんですかね?」       

バトルラインは疑問を呈した。

「さあな。バトル、聞いてみたらいいんじゃないのか?ヘラヘラしながら『なんでそんな強いのにレース出ないんですか?』ってね。」 

「ちょっと!言えるわけないでしょ!ブラン先輩!オレを殺す気ですか!『砂の女王』と揉めた相手にそんな口きいたら殺されますって!怖すぎてできるわけないでしょ!」

エムアイブランがけしかけるがバトルラインは全力で拒否した。

(何故だ……。どうして……負ける要素なんて一つもなかったはずなのに?)

アブクマポーロはうずくまりながらレースを振り返っている。

すると視界にバンテージを巻きまくった二本の両足が見えた。

見上げると鋭い眼光のウマ娘が見下ろしていた。

そのウマ娘は言った。

「どうだ?これが俺の力だ!岩手を……、いや、この俺を無礼てんじゃねぇぞ!小僧が!」

アブクマポーロは珍しく感情を露わにし掴んだ砂を叩きつけた。

「化け物め!」

とっさにそう口に出してしまった。

「『化け物』か……。ま、褒められたと思っとこうか。」  

トウケイニセイはそう答えた。 

そして、それとなくトウケイニセイに近寄ってきたウマ娘がいた。

「ようよう!すげー末脚じゃねぇか!ま、アタシほどじゃないけど!」

トレセン学園一の奇人ゴールドシップだった。

「あ!ゴールドシップだ!いつも見てるぜ!ウマチューブでお前がレースのスタートしくじって細江さんが悲鳴上げたやつ!」

そう言った途端、ゴールドシップの表情は険しくなった。

「あ?テメェ!ケンカ売ってんのか?」  

「おうよ!あんたと違って出遅れても余裕で勝てるしな。芝2000でも2400でも3200でも相手になってやるぜ!」

一触即発になりそうな二人に慌ててメイセイオペラとスペシャルウィークが止めに入った。

「ゴルシさん、ニンジン貰えたからもういいじゃないですか!」 

「先輩!これ以上の揉め事は!モリユウ会長にまた怒られますって!」

別の戦いが始まろうとしたその時だった。

「コラー!何やってるんですか!」

「学園内のニンジン賭博は校則違反ッスよ!取り締まるッス!」

理事長秘書駿川たづな、風紀委員長のバンブーメモリーが騒ぎを聞きつけて駆けてきた!

「ヤベ!」

それぞれ蜂の子散らすかのように逃げて行った。

「先輩、こっちです!」

メイセイオペラはトウケイニセイを逃げ道に誘導してなんとか学園の外へ逃れていった。

「ここまでくれば大丈夫ですね。……先輩?」 

トウケイニセイが少しよろけていたのをすぐさま支えようとした。

「大丈夫だって!年寄り扱いすんな!」         

メイセイオペラの手を振り払った。

「すいません。あ、そこのベンチで少し休みましょう。オレ、ちょっと疲れました。」

トウケイニセイも無言で同意し、ゆっくりと腰かけた。

模擬レースの興奮でアドレナリンが出ていたのが少し落ち着いてたのか足に痛みがはしった。

「わりぃな。オペラ。お前の靴こんなにしちまって。」   

「いいですよ。どうせ次のレースで買い替えようと思ってたんで。むしろ吹っ切れました。」

「あと、ついでにサンダル買って来てくれねぇか?」

「あ、すいません!気がつきませんでした。今買ってきます!」

メイセイオペラは駆け出して行った。

(ガラにもなく気を使いやがって。やっぱ、痛ぇな。アイツがいたらもっと軽減できたけど。まあ、仕方ないか) 

十数分してメイセイオペラはサンダルを片手に戻ってきた。

「すいません。こういうのしかなくて。でもやっぱ先輩すごいです!オレがやっと勝った相手にあっさり勝っちゃうなんて。」

サンダルに履き替えながらトウケイニセイは答えた。

「あ?模擬レースのことか?ありゃ俺のほうが駄目駄目だったな。」  

意外な答えだった。

「え?でもアイツに勝ったじゃないですか?」 

「勝負はな。でも実際のレースならどうだ?ま、末脚勝負なら負ける気なんぞないけど。」

「あ……。先輩はレース想定してたんですね?」

「当たり前だろ!ホントお前は抜けてんな!なんのための模擬レースだ!どうして駄目か説明できるか?」

「それは……。アイツの前後に他がいるとかでゴールまでに抜き去るの難しいってことですよね?」

「そういうことだ。アブクマポーロだけ見てりゃ良いってことじゃねぇんだよ!」

メイセイオペラは自分の考えの甘さを痛感した。

(この人は常にレースのことを考えている。目先の勝負とかじゃなくて。だからこそあれだけ勝ち星をあげることができたんだ。オレはまだまだだ。だけど、この人からいろんなものを学んでいかないと。)

「そろそろ行くか。」

足元が不安定ではあったがトウケイニセイは立ち上がって駅に向かった。

不安そうにメイセイオペラが見守る中トウケイニセイはなんとか東京駅にたどり着き東北新幹線に乗り込もうとしていた。

「やっぱオレ付いて行きましょうか?」

メイセイオペラがそういうもトウケイニセイは頑なに拒んだ。

「いいっつってんだろ!お前は次の次『東京大賞典』の心配でもしてろ!じゃあな!」

不安そうにメイセイオペラが見送る中トウケイニセイは足元がおぼつかないままで新幹線に乗り込んで行った。      

もう限界だった。

フラフラで自分の席になんとかたどり着き新幹線はゆっくりと出発した。

となりには顔見知りのウマ娘がいて安堵した。

ユキノビジンだった。

ユキノビジンはクーラーバッグから保冷剤を取り出しトウケイニセイの足に巻き付けていった。

「すまねぇな、ユキノ。」

「何言ってらの?いつものことだべ?」

「あいつ(メイセイオペラ)にはこんなみっともないとこ見せられないからな。」    

「オラさばいいんだ?(※私にはいいんだ?)」

「お前にはいろいろ見られてるからな。取り繕いもできないほど。」

ユキノビジンはトウケイニセイにブランケットをかけてやった。

「わりぃな。少しねまる。」 

「そのほうがいいべ。それにしてもほにほにへっちょはいだね。(※へっちょはぐ=だいぶ無茶をする)」

「ああ。」

ユキノビジンは岩手にいた頃トウケイニセイと同室だった。

レースやトレーニングで脚が痛むことがよくあり、トウケイニセイの手当も手慣れていた。

トウケイニセイにとって自分自身の弱さを知り、理解者でもあるユキノビジンには頭が上がらないウマ娘の一人でもあった。

安心したかのように眠りにつくトウケイニセイを見てユキノビジンはスマホを取り出して連絡を取った。

「あ、デュラブちゃんが?……んだ。今、新幹線さ乗ったとこだ。悪いんだけど盛岡さ着いたらいつものアレ用意してけろ。」  

サカモトデュラブに連絡した。

(それにしても今日はいろいろあったべ。)

聖蹄祭はメインイベントの演劇も盛り上がった一方、その裏で模擬レースもそれに劣らぬ盛況ぶりを見せた。

物産展の方は高知が終盤の売上爆増ぶりを発揮し大逆転したのであったが、規定違反によって売上没収、それに伴い岩手の勝利となった。

 

「そうか……。逃げられてしまったか。」

シンボリルドルフはエアグルーヴの報告に対し少し落胆した。

ただ、ニンジン賭博の校則違反もあり、騒乱となってしまった以上それで引き止めるのもの無理があるのも致し方ないと思った。

エアシャカールが撮影した模擬レースの映像を眺めている。

(こうなったらもう手段を選んではいられない。いつか直接会って話をしてみたいものだ。やはり……、実績通りの力を発揮ししている。ただ、実際のレースだとどうかな?ってところではあるが。ただ、力そのものは本物だ。私以上に『絶対』というに相応しい。)

後日、シンボリルドルフは岩手トレセン学園生徒会長モリユウプリンス宛に私書をしたため郵送するのであった。

 盛岡に着くとすっかり日も暮れ真っ暗になっていた。

ユキノビジンに支えられながら改札を抜け、駅の入口に着いた。

サカモトデュラブが待っていた。

そしてその横にはことの詳細を聞いた鬼の形相のモリユウプリンスが仁王立ちで待ち構えていたのである。

「先輩!」 

「おう、モリユウ。あ、もう今日は疲れたから説教はあとにしてくんねぇか?おい、デュラブ。アレ持ってこい。」

サカモトデュラブは無言で折りたたみチェアと氷水の入ったバケツ2つを置いた。

「……よいっしょっと……。ああ~。これよこれ。はぁ~生き返る。」

トウケイニセイは両足を2つのバケツに突っ込み折りたたみチェアに座りこんだ。

「ちょっと!天下の往来『滝の広場』でそんなみっともないことしないでください!」

「いいじゃねぇか。いくら人がいても真っ暗だろ?」   

モリユウプリンスが注意するもトウケイニセイは全く聞く耳を持たなかった。

「で?どうします?このまま歩いて帰ります?」     

「ええ?もう歩きたくない……。疲れたし。」

「じゃあ、『ジャンボタクシー』呼びますよ!ユキノさんもすいません。こんな馬鹿な人の馬鹿なことに巻き込んでしまって……。全く……いつもご迷惑ばかりかけて。」

ワンボックスのタクシーで一同は盛岡校に向かった。

普段は乗り物嫌いなトウケイニセイも流石に疲れで乗り込むとすぐに眠りに入った。

モリユウプリンスがそれを見つつスマホで連絡を取った。

「あ、オペラ。うん、今ユキノさんも一緒に(盛岡)駅から学園に向かってるところ。今日はいろいろありがとね。……うん、で、散々だったでしょ?……え、嘘でしょ?勝ったの!あのアブクマポーロに!2000で!」 

メイセイオペラとの通話を驚愕したまま終えた。

「先輩……。ちゃんと走るんならレースでてくださいよ。」

眠っているトウケイニセイにそう言葉をかけた。

 

寝静まる時間になってもアブクマポーロは一睡もできずにいた。

(何故だ。いくら考えても勝ち筋が見当たらない……。)  

ずっとトウケイニセイとの模擬レースを振り返っていた。

どうすれば良かったのか見当もつかない。

フラフラっととなりでスヤスヤ眠っているメイセイオペラに構わず真っ暗な部屋をでていった。

聖蹄祭で賑わい喧騒であったトレセン学園も深夜になって今はそれが嘘かのようにしんと静まり返っている。

(何故だ……。どうして……?僕は……。)    

フラフラさまよい歩き気がつくと学園の片隅にある『大樹のウロ』に来ていた。

アブクマポーロはウロの底に向かって叫びたかったが声すら出なかった。

(何故……。どうして……。わからない……。)  

コンサートボーイに負けた昨年の帝王賞。メイセイオペラに敗れた南部杯。負けても反省材料や勝ち筋がいくつもあった。

ただ、今回の模擬レースの敗因が何処にあるのか見当もつかない。

わからない悔しさで少し声が漏れた。

(レース運び、コンディション、気合どれも完璧だった。あんなに出遅れた相手に負けるはずはなかった。なのに……どうして……僕は……負け……たんだ……。)

すすり泣く声、そして大粒の涙がいくつも漆黒のウロのそこの闇へと吸い込まれるかの様に落ちていった。

今まであった実績、プライドがトウケイニセイによってズタズタに引き裂かれた思いのアブクマポーロだった。      

   

 

 

番外 緊急指令!ハルウララを調査せよ!

 

メイセイオペラの妹メイセイユウシャは毎朝トレーニングがてら地元新聞の新聞配達のアルバイトをしていた。

その縁もあってトウケイニセイも一部とっていた。

スポーツ欄とテレビ欄しかほとんど見ていなかったがたまたまコラムを目にした。

「高知トレセン学園、レース場 ハルウララ効果で売上倍増か?」

読み進めていると最後に「……低迷している岩手トレセン学園、盛岡、水沢レース場もこれに見習ってもらいたいものだ。」などと締めくくられていた。

その文言を読むやいなや行き場のない感情が爆発し紙吹雪のように思わず新聞を四分五裂にして破り捨てた。

「この野郎!『おべだふり』ばりしやがって!※おべだふり=知ったか振り」

ただ、好調という高知の状況も気になっていた。

同じ地方レース場でどんな策を弄しているのか気になってしまった。

「でだ、オペラ。そういうことでハルウララ及び高知トレセンの調査をせよ!」

いきなりの無茶振りに流石に困惑した。

「ウララちゃんの動向を調査ですか?後、高知に行って来いと……?」

「旅費ぐらいは出してやるよ。なんで行って来い。」

メイセイオペラは次のレースまで間隔はあったが、南部杯で勝った事により、同世代や下の世代から併走の申込みが殺到していた。

「(いやぁ、今結構忙しいんだけどね。)……どうしても……ですか?」

「なんだよ!嫌ってぇのかよ!こっちが頭を下げて頼んでるっちゅうのに!」

「や、やりますよ!(どこが頭を下げてるんですか!)」

「じゃ、頼む。」

といって連絡は終了した。

(どうしよ。とりあえず、ウララちゃんの普段の姿を観察してみるか。)

しかし、ハルウララを見ても収穫はなかった。

(はぁ~。)

そう思っていると隣にいつの間にか赤いリボンのあのウマ娘がいたのである。

「いいですよね。ウララさん!永遠に見てられますよね?」    

「うわ!誰かと思えばただの変態か。」

「ちょっと!そういうオペラ先輩だってかなり怪しい行動でしたよ。まさか私のお仲間になられるなんて!」

「そうじゃねぇよ!(コイツと同種類に見られたんじゃ……。あ、そうだ!)」

メイセイオペラはひらめいた。

「デジタル。今週末予定ある?」  

「え?今週末ですか?そうですね~。まあ、あるといえばありますが、オペラ先輩のためなら空けますよ。」  

「そうか!丁度良かった!じゃ、ちょっくら高知まで行って来てくんない?」

「へ?高知ですか!」  

「いやぁオレ、今週末空いてなくてよ。旅費は出すからオレの代わりに高知の情勢を調べてくれんか?」 

「なんでですか?」

「まあ、岩手も財政厳しくてな。今、高知が好調らしくてその謎を解き明かしたいんだ!協力してくれないか?」

「そうだったんですね!承知しました!徹底的に調べて参ります!」

かくしてメイセイオペラはトウケイニセイからの依頼をアグネスデジタルに丸投げした。

 

 アグネスデジタルは急遽空路で高知に飛んだ。

アグネスデジタルにとっても南関東、盛岡についで他の地方トレセン学園、レース場に足を運びたいと思っていたのが心ならずも実現できテンションが爆上がった。

(えっと、高知レース場は三月にG3のレースがあるんですね。いつかは参加できたらいいですけど。おっと、もうすぐ着きそうです。)

レース場にたどり着くと長蛇の列が待ち構えていた。

(なんなんですか?この列は。) 

とりあえず並んでみた。

行き着く先はお守りサイズのブロマイドの販売であった。

(こ……これは!)

ハルウララのものであった。

「あのう、これって?」

「君、ウマ娘みたいだけど、車の運転するの?これ、ウララちゃんのブロマイド。なにせ負け続けているから『一着予想が当たらない』ってことで交通安全のお守りとして売ってるんだよ!」

販売員は言った。 

「そうでしたか!まだ免許持ってないのですが、車持ったら必ずつけておきます!あ、もう一個買えますか?」

そう言ってもう一個追加で買った。

(もう一個はお土産に通学で車を使うマルゼンスキーさんにあげよう!)

などと思っていた。

ハルウララはレース場内の実況ブースにいてレースの予想をしていたようだった。

これも1Rからことごとく外していたが周りにはハルウララファンが大挙押し寄せて盛況であった。

「ウイニングライブのあと、ハルウララ出演!夜さ恋ライブあります!チケット発売中です!是非お買い求め下さい!」

岩手同様レース運営スタッフは在学中のウマ娘達が行なっていて宣伝をしていた。

夜さ恋ライブ。

調べて見るとハルウララが中心となって行うライブのようであった。

(これは……何が何でも是非見に行かないと!あ、これ夜遅くなりそうなんで今日の宿も取らないと!) 

アグネスデジタルに謎の使命感が発動した。

トイレの個室にこもりライブチケットをポチった。

すると誰かがトイレに入って来たようだった。

「はぁ~。今日も2着かよ。」  

「頑張ってたよ。惜しかったね。」

高知のウマ娘らしかった。

「ああ~、でもどんなに頑張ったってここは高知レース場じゃなくて『ハルウララランド』だしなぁ。」  

「言うな。あのお方のお陰で売上好調で設備も新しくできたんだから!昔じゃ考えられないんだぞ!廃校の危機もあったんだし。」

「そうだったんですね!いつか私も岩手のメイセイオペラさんみたいに全国各地でシノギをけずるようになりたい!そうしたらハルウララさんだけじゃないってアピールできるし!」

「その意気だ!次頑張ろう!」

「ハイ!」

(さすが!オペラ先輩です!高知まで名を轟かすとは。でもやはりハルウララさん一辺倒で不満を抱える方もいらっしゃるんでしょうね。) 

高知レース、トレセン学園は低迷を続け廃校の危機であった。

だが、ハルウララという救世主が現れ、その危機を脱しつつあるようであった。

(わかりますよ。ハルウララさんはもうどこでも誰にも好かれる愛嬌もありますし。でもそれにかまけてるようではないみたいですね。)    

アグネスデジタルはそう思っていた。

全レース終了後、ウイニングライブ、そしてハルウララの夜さ恋ライブを堪能し翌日アグネスデジタルは帰路に着いた。

 

「そういうことだったか……。」

後日、トウケイニセイのもとにアグネスデジタルが作成した調査書に目を通しそう言葉をもらした。

自分とは対極の負け続けて話題になるハルウララにいささか困惑した。

「そういう妙手があったとは。ウチだったらトレジャー(スマイル)先生か?いや、あの人1回だけ勝ってるし、駄目か?」

「先輩のブロマイドなら、『当たり屋』か『鉄砲玉』か『スナイパー』にしか需要ありませんしね。」

メイセイオペラが軽口を叩くとトウケイニセイは声を荒げた。

「おい!オペラ!調子こいてんじゃねぇぞ!ぶっ飛ばすぞ、テメェ!」

(やべぇ。魔王様がお怒りでらっしゃる。)

メイセイオペラは戦々恐々としていた。

「で?オペラ。この交通費、宿泊費の請求書は良いがこの『グッズ購入費三万五千円』ってのはなんだ?交通と宿泊なら支払うが、わけわからんからこれは払わんぞ!」 

「あ、すいません。(デジタルのヤロウ!余計なことでしやがったな!)え?いや、……わかりました……。」

「じゃあな。」

(あのヤロウ!勝手に自分のコレクションの為に経費にしやがったな!)

翌日、アグネスデジタルを呼び出した。

「で?こいつはなんだ?『グッズ購入費』って?」  

「いやぁ。やっぱり、現地でしか手に入らない『ハルウララ』グッズがありすぎて。ついつい購入しちゃいました!」 

「こんなの経費に入らんだろ?」   

「え?そんな訳ないじゃないですか?調査の為にやむなく購入したんじゃないですか。」    

「で?そのグッズとやらは何処にあるんだ?」 

「それは……。大事に部屋に飾……。いやいやお渡ししますよ。何なら。」

「おま……。いやもういい……。」

メイセイオペラはもう金の事はどうでも良くなった。

だが、腹の虫が収まらかったのであることを思いついた。

南部杯の数日後、アグネスデジタルの同室アグネスタキオンに呼び止められた。

アグネスタキオンはサカモトサクラの「拷問マッサージ」に興味を持ったらしい。

できれば苦痛と身体回復の関連性について実験もしたいと告げられたがどうしたものかとメイセイオペラは思っていたのだった。

そして、図らずも実験の日がやってきた。

「済まないねぇ。デジタル君。今モルモット君(タキオン担当トレーナー)が不在でね。大事な研究の為に多少の苦痛は我慢してくれたまえ。」

「デジタル、この間の礼だ。高知のレポートの。」  

「ちょっと、それってお礼じゃなくてお礼参りじゃないですか!待ってください!いやぁ!それだけは!」

「(ちっ。バレたか。まあいいや。)先生!オナシャス!」  

メイセイオペラに体を押さえつけられ、水沢から呼び出されたサカモトサクラによって三たび地獄のマッサージを受ける羽目になってしまったアグネスデジタルであった。

不敵な笑みを浮かべたサカモトサクラは怨念をこめて言った。

「(オペちゃんに損失を与えた分)MAXでご奉仕いたしますね。デジタルさん。」  

案の定、栗東寮にこの世の終わりを告げるような叫び声が響きわたった。

   

 

 

   

 

 

 

 

 

  

   

 

  

    

 

    

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。