Chapter1 フランス帰りのマイル王
秋も深まったある日のカフェテリア。
タイキシャーロック、エムアイブラン、バトルラインらがティータイム中であった。
(シャーロック先輩、まだ元気ないな……。)
普段ともに行動するバトルラインはそう思っていた。
そのところへあのウマ娘がやってきた。
「ハウディ!シャーロック!」
「ああ、シャトルか。」
「ゲンキありませんネ。」
「そうかな……?体調悪くないけど。」
(シャトルにバレてるくらいなんだ……。)
タイキシャーロックは笑顔で答えたつもりだった。
世界のマイル王、タイキシャトル。
今ではフランス遠征でジャック・ル・マロワ賞(G1)で勝利し話題の一人となっていた。
「今度、『マイルチャンピオンシップ』出マス!シャーロックがダートのナンブ杯二連覇したようにワタシ二連覇目指しマース!」
「え?いや、私普通に二着で負けたけど。……ついでにレコードも抜かれちゃったんだけど。」
「Oh……。誰に負けたんデスカ?」
「メイセイオペラ。地元のウマ娘だよ。今、こっちのトレセン学園にいるけど。確か君と同じ学年だったハズだけど。」
「……(メイセイオペラ)どっかで聞いたような気もシマスガ……。そうデスカ……。」
しょんぼりしてタイキシャトルは去って行った。
その後、タイキシャトルはサイレンススズカのお見舞いに行った。
病室には花が飾ってあった。
「キレイなお花デスネ!」
「うん。オペラからもらったの。」
「オペラってテイエムオペラオーさんからデスカ?」
「ううん。メイセイオペラ。今、同じクラスなの。」
「メイセイオペラ……。」
「どうかしたの?タイキ?」
「イエ、何でもないデス!」
タイキシャトルは作り笑いで答えた。
美浦寮に戻るとタイキシャトルは同室のメジロドーベルがいたので質問してみた。
「メイセイオペラ?知ってるよ。岩手から来た子でしょ?あの子頭いいよね。テストで(キョウエイ)マーチより上だったし。」
「アタマがイイ……。」
テストではいつも赤点スレスレの自分とは正反対の学業優秀なウマ娘に何故か対抗心が芽生えた。
珍しく机に向かってなにか書き始めた。
「タイキ何やってんの?」
タイキシャトルはそれに答えず一心不乱で書いていた。
メイセイオペラ宛へのものであった。
Chapter2 果たし状?
翌日、メイセイオペラはタイキシャーロックに呼び出されていた。
「シャーロックさん。何か用ですか?」
「うん、実は私じゃなくてこっちなんだけど。」
隣にはタイキシャトルがいた。
「アナタがメイセイオペラさんデスカ?」
「はい、となりのクラスのメイセイオペラです。」
「……アナタに決闘を申込みマス!」
「え?」
果し状を渡された。
「アレ、これシャトルさん、字、間違ってる。果し状の『果』が『菓』になってる。」
「ホントだ。草かんむりいらないよ。シャトル。」
「Oh!ジャパニーズカンジ、ディフィカルトすぎマース!」
ちょっと空気が和んだ。
「決闘って、あの西部劇みたいに何歩か歩いて振り返って銃で撃ち合うやつですか?」
「イイエ!ウマ娘同士はレースで勝負デス!」
「模擬レースってことですか?」
「Yes!」
「でもオレ、ダートしか走れないですよ?」
「ノープロブレムデース!ワタシ、ユニコーンステークス(東京・ダート・1600M・G3)、勝ってマス!」
(知ってるよ……。そのレース、オレ出る予定だったし。)
「どうかな?悪い話ではないと思うけど。」
タイキシャーロックが尋ねる。
「まあ、そうですけど。なんでこんな話になったんですか?」
「いや、私もよく分からないんだけど、君に南部杯で(私が)負けたのでその仇討ちらしい。」
「仇討ちって……。」
「君にシャトルが勝って私を元気づけたいだって。」
「全くわからないんですけど。まあ、模擬レースは願ったり叶ったりなんで。あ、でもこういうのってトレーナー同士の話し合いで決めるんじゃないんですか?」
そういうことでタイキシャトルはリギルのトレーナー東条ハナに打診することになり、それまでその話は保留となった。
Chapter3 おハナさんの苦難
「駄目に決まってるじゃない!」
トレーニング前のことであった。
タイキシャトルはリギルのトレーナー東条ハナに模擬レースを打診したが即座に却下された。
「Why?トレーナー、どうしてダメなんデスカ?」
東条ハナは子どもをなだめるように静かに言った。
「いい?タイキ。あなたはもう『世界のタイキシャトル』なの。格下の、しかも地方のウマ娘でダート(の模擬レース)なんてなんのメリットもないはずよ。」
「でも 、(タイキ)ファミリーのシャーロックが元気ナイの見過ごせマセン!」
「駄目なものは駄目!トレーニングに入りなさい!」
東条ハナは指示を出した。
しかし、タイキシャトルは納得してなかった。
その場で腕を組んで鼻息荒く座り込み抗議する。
「ダッタラ、もうトレーニングしまセン!次のレースも出まセン!ストライキデス!」
「タイキ……。」
それにはさすがの東条ハナも困惑し戸惑ってしまった。
(こんなワガママいう子じゃなかったのに……。)
しばらく対峙しているとシンボリルドルフが近くに来た。
「トレーナー、どうかされましたか?」
「それが……。」
事情を説明するとシンボリルドルフはタイキシャトルにも事情を聞き、東条ハナへ提案した。
「次のレースから1週間後に模擬レースを行ってみたらいかがですか?」
「ルドルフ……。」
「このままですとトレーニングもままならずレースも散々になりますよ?」
「そうね……。気が進まないけど。」
しぶしぶ承諾し、シンボリルドルフから模擬レース承諾の件を告げるとタイキシャトルは重い腰をあげ張り切ってトレーニングに入った。
「それでは先方(メイセイオペラのトレーナー)への模擬レース申込みお願いします。」
「あ、……ええ。(あのクソエロトレーナーに申込みするの……。普通に嫌なんだけど……。)」
一気に気が重くなった。
「で、どうなの?無理にとは言わないけど。」
東条ハナはメイセイオペラのトレーナーを例のバーへ呼び出していた。
渡されたタイキシャトル直筆の果し状で間違った「菓」の文字をバッテンで訂正されていた。
「お前どう思う?」
メイセイオペラのトレーナーは隣にいたスピカのトレーナーに聞いてみた。
「そうねぇ……。まあなんでと言う疑問はさておき、メイセイオペラ側にしかメリットないんで受ける一択かと。」
「まあ、そうだよな。じゃあ、それでよろしく、おハナちゃん。」
「ハァ、なんで私が……。言っとくけどダートだからって万に一つ勝てる可能性なんかないからね。それじゃ後で日程とか連絡するから。」
そう言って立ち上がって去ろうとした瞬間、メイセイオペラのトレーナーは言い放った。
「あのさ、もし間違ってうちのメイセイオペラが勝ったらどうすんの?もし、勝ったら一晩付き合ってくれる?」
「は?今なんて?」
「おじさんズルい!俺も混ぜてよ!」
「お前もかだるが?※かだる=参加する、混ざる」
「アンタ達何言ってるの?『世界のマイル王』相手に本気で勝てるとでも思ってる訳?」
「レースってのは『絶対』はないからね。そう言えるのはおハナちゃんとこのシンボリルドルフと俺が育てたニセイぐらいだからな。」
「ルドルフと一緒にしないで。」
「あ、おハナちゃんもしかして自信ないんだ。そうかそうか。」
メイセイオペラのトレーナーが煽ると東条ハナが青筋を立てた。
「ああ?だったらメイセイオペラが勝ったら裸踊りでもなんでもやってやるわよ!」
ブチギレて言い放ちバーをあとにする東条ハナであった。
「裸踊りって、そこまで言わせるくらいタイキシャトル強いよ。おじさん、勝算あるの?」
「ないよ。おハナちゃんが言うように万に一つも。ただ、これはメイセイオペラにメリットはある。負けてもまあ、ノーダメージだろ。」
「たしかに。」
スピカのトレーナーの問にメイセイオペラのトレーナーがそう答えた。
模擬レースの日程が決まった。
奇しくもタイキシャトルは芝のマイルチャンピオンシップ、メイセイオペラは地元の北上川大賞典で同日のレースであったことも幸いし、その一週間後に行われる運びとなった。
「聞きました?マーチ先輩。」
カフェテリアでキョウエイマーチは親戚筋で仲の良い後輩キングヘイローとティータイム中にそう言われた。
「なんのこと?キングちゃん。」
「タイキシャトルさんがマイルチャンピオンシップの一週間後に模擬レースをやるそうです。しかもダートで。」
「は?なぜダートなんですか?それでお相手は?」
「それが……。岩手のメイセイオペラさんなんだそうです。」
「え?本当ですか?信じられない。どうしてそんなことに。」
「私も事情はわからないのですけど、同じクラスのリギル所属グラスワンダーさんエルコンドルパサーさんがそう言っていましたので。」
「わからない。理解できない。」
「ですよね。なぜわざわざダートでなのか。それも地方ウマ娘相手に。もしかしてドバイも視野に入れてるのではとか憶測が飛び交ってます。」
「芝で十分活躍できてるのにダートも参戦するなんて変態の所業にしか思いません。」
G1でタイキシャトルに何度も負かされている恨みもあってか辛辣な表現で語るキョウエイマーチであった。
「ダートなんて……。」
思わずそうつぶやいた。
盛岡レース場のコース外は11月末で雪がうっすら積もっていた。
北上川大賞典(盛岡・ダ・2500M)はメイセイオペラの圧勝で終わった。
最終コーナーから流しての大差勝ちであった。
「なんだこれ、レースでなくて公開トレーニングじゃねぇか!」
トウケイニセイは呆れたように言った。
場内実況の笹屋木アナも圧勝過ぎて最終直線2着争いに焦点を絞って実況する程であった。
(今年の盛岡もこれで終わりか……。)
メイセイオペラはレース後すぐに息を整え感慨深くそう思った。
「ったく情けねぇな。オペラに少しはハラハラさせろよ!」
レース直後、2500のダート長距離で息絶え絶えである2位以下のウマ娘達を叱責した。
「特に(メイショウ)ユウシ!お前、殿(負け)じゃねぇか!」
「だって、距離適性が……。」
「つべこべ言うんじゃねぇ!お前、後で特訓な!」
「そんなぁ!」
メイショウユウシはうなだれてしまった。
「先輩、明日、1600のトレーニングやるんで見てもらっていいすか?」
メイセイオペラはトウケイニセイに依頼した。
「は?お前、次の東京大賞典は2000だろ?」
「ええ、ですが一週間後に模擬レースがあって。」
「模擬レースでか?相手は誰なんだよ?」
「……タイキシャトルさんです。」
「へ?なして?マジでか!よく受けてくれたな!」
「それが向こうから申し込みあって。」
「ちょっと、何言ってるか分かんない。」
「ですよね。まあ、南部杯でタイキシャーロックさんに勝ったんでその仇討ちと言いますか。」
「仇討ちって時代劇じゃあるまいし。タイキシャトルってアメリカから来たんだよな?」
「そうなんですけどファミリー(家族)が大事とかなんかで。」
「うん、よくわからん。が、模擬レースはやって損はない。わかった。見てやる。」
「あざす。」
メイセイオペラは模擬レースの準備を張り切って行っていた。
模擬レースはリギル主体となって行われようとしていた。
何バ身離してタイキシャトルが勝つのかなどと駆けつけたヤジウマ娘達は無神経に話していた。
思ったよりギャラリーが多く、便乗して勝手にゴールドシップが弁当を売り始めた。
「スピカ特製タイキシャトル弁当、いかがすか?洋風弁当にハンバーガーのついた炭水化物と炭水化物の夢のコラボ弁当だよ!さて、こっちはメイセイオペラ弁当!わっぱ飯弁当に不釣り合いなティラミス付いてるよ!」
「ティラミスですって!あの……メイセイオペラ弁当10個下さいまし!」
メジロマックイーンが色めき立って買おうとしていた。
「マックイーン……。マジで太るぞ。」
「うぐっ……。そうですわね……。いくらなんでも。」
メジロマックイーンは自重した。
トウカイテイオーも居合わせていて追い打ちをかけた。
「そうだよ、マックイーン。オペラ弁当のティラミスはボクがもらってあげるからマックイーンは弁当だけ食べなよ!ゼロカロリーでしょ?楕円形の弁当でゼロの形してるから。」
「何がゼロカロリーですか!私がスウィーツに目がないのをわかってイジワル言って!テイオーあなたは鬼ですか!」
トウカイテイオーにからかわれてむくれた。
「全く、どうしてこんなことになったのやら。」
ワシントンカラーも観戦に来ていた。
「ワトソン君も来てたのか。」
「だから、ワシントンですって!シャーロック先輩!」
タイキシャーロックもエムアイブランとバトルラインとともに見に来ていた。
ダートレースに参加するほとんどのウマ娘が観戦しに来ている。
そして、キョウエイマーチもしぶしぶ来ていた。
(なんで、ダートなの?もう日本で芝の短距離マイルに敵がいないからダートに行こうってことなの?)
などと考えていると隣に同い年のティアラ二冠ウマ娘がやってきた。
「マーチ、あんたも来てたんだ。」
メジロドーベルだった。
タイキシャトルの同室でもある。
「タイキシャトルを見に来たの!どうせ大差で決着するわ。」
周りの予想と同調していた。
「そうかな?あの岩手の子、結構やるんじゃない?タイキ、ダート走るの一年振りくらいだし。」
「ドーベル、あなたに何がわかってるっていうの?」
「まあ、よく知らないけどさ。知り合いにやたら(メイセイオペラに)詳しい子がいて、さすがに互角とはいかないけどいい勝負になるかもって言ってた。」
「誰よ!そんな適当なこと言ってるの!」
「まあそれはちょっと言えないけど。」
メジロドーベルは赤い大きなリボンのつけたウマ娘を見ながら言った。
そのウマ娘は双眼鏡でヨダレを垂らしながら周囲を見渡している。
スペシャルウィークとスピカのトレーナーも駆けつけた。
「オペラさん、勝てますかね?」
「さぁ?多分無理なんじゃない?タイキシャトル、スペの(模擬レースの)時よりもっと速くなってるし、それに海外のG1も制した相手においそれと勝てるウマ娘なんかいないよ。」
「そんな!でも私はオペラさんを応援します!」
「まあ、スペの時と違って今回の模擬レースは(メイセイオペラが)どれだけの力があるか確かめるのに好都合ではあるな。あ、ひょっとして……。」
「トレーナーさん、どうかしましたか?」
「いや……。(もしいい勝負になったら、おじさんアレ狙っているのか?)……全く食えない人だ。」
「え、食べられますよ。トレーニングの後でお腹空いちゃって……。あげませんよ!」
スペシャルウィークはわっぱ飯のメイセイオペラ弁当をいつの間にか頬張っていた。
「おい、ほどほどにしとけよ。」
「食べて応援です!」
「応援じゃなくても食ってるだろ。」
思わず突っ込んだ。
アブクマポーロも来ていた。
(まったく……。ムカツク奴だ。事前に模擬レース決まってたのに直前まで黙ったままでいやがって。第一なんで相手は僕じゃなくて奴なんだ?)
メイセイオペラを見ながら苛ついていた。
(せいぜい大恥をさらすといいさ。勝てる要素なんて一つもないし!)
そう評して模擬レースを待っていた。
Chapter4 激突!幻のユニコーンステークス
(さしずめ、幻のユニコーンステークスってところね。)
リギルのトレーナー東条ハナは一年前を思い出していた。
中央のウマ娘はもとより南関東のウマ娘のチェックも万全でタイキシャトルの勝ちは盤石だと考えていた。
ただ一つの懸念を除いて。
それがメイセイオペラの存在であった。
ともかくデータが少なすぎであり、そして噂もあった。
あのウマ娘の再来であると。
言うまでも無く岩手の最強ウマ娘と言われたトウケイニセイの再来と言う意味であった。
その上、トレーナーが存在せずその上での参戦でもあって不気味な存在として見ていた。
幸か不幸かメイセイオペラの頭蓋骨骨折によって参戦は回避され安堵したのを覚えている。
そしてこのユニコーンステークスこそタイキシャトルが世界に羽ばたくターニングポイントにもなったレースであった。
スタートは以前行われたスペシャルウィークとの模擬レースの時と同様エアグルーヴを任命、ゴールはヒシアマゾン……ではなく、エルコンドルパサーとグラスワンダーに託した。
「タイキ先輩が大差で勝つに決まってマース!グラスもそう思うでデショ?」
ゴール前でタイキシャトルの勝ちを確信していた。
「ええ……。でも……。(バ場はダートですよ……。メイセイオペラさんはダート専門で走って来ましたし、タイキ先輩もダートでも有利なことに変わりはないとは思います……。ただ……油断は禁物だと思うのですが……。)」
ゴール前で待機している二人であったが、楽観していたエルコンドルパサーに対しグラスワンダーはうつむき加減でダートのコースを見ながら不安を隠しきれないでいた。
「シャトルさん、今日はよろしくお願いします。」
模擬レース前メイセイオペラはタイキシャトルに挨拶に行った。
タイキシャトルは黙礼するだけで普段の陽気な雰囲気とは打って変わって真剣モードになっていた。
(レース前、シャトルさんってこんな感じなんだ。でも本気でやってくれそうで嬉しい。ま、こっちも大差負けで大恥かかないようにしないとな。『強いものに揉まれて強くなる』シャトルさん胸をお借りしますよ。)
メイセイオペラはそう思いながらウォーミングアップに入った。
かたや世界のマイル王、かたや地元のG1を勝ったばかりの岩手のウマ娘。
両者の差は実績からみても歴然たるものであった
「これよりタイキシャトル、メイセイオペラの模擬レースを行う。ダート左まわり1600M。両者、スタート位置につけ。」
スタート役のエアグルーヴがそう言い配置につくように促す。
赤い旗を振り上げた後、振り下ろした。
その合図で模擬レースが始まった。
両者飛び出して行く。
序盤の先行争いでメイセイオペラがわずかにリードを取った。
(ま、ハナを取ったはいいけどけど、これは「おてなみ拝見」ってところか。)
そう思っていた。
無理にペースを上げず平均ペースのままでいこうとしていた。
(仕掛けどころをどうするかだよな。早すぎても遅すぎても多分対処されてしまう。ゴールまえ前200Mあたりが勝負どころだな。)
そのタイミングで仕掛けるつもりでいた。
タイキシャトルは追走するのみで動く気配は1、2コーナーまでなかった。
表情もまだ余裕がうかがえていた。
(そのままで大丈夫よ、タイキ。最終直線で捉えればいいのよ。)
東条ハナも落ち着いて観戦していた。
3コーナーから4コーナーへ向かうと坂が待ち受けている。
ぴったりマークするかのようにタイキシャトルは追走している。
(坂を過ぎたら……いや、過ぎる前か?)
依然としてメイセイオペラがペースを握る。
しかし、タイキシャトルも余裕で追走。
坂を登り最後の直線、メイセイオペラは徐々にペースを上げていった。
タイキシャトルはそのペースに最初のうちはついていけたが少しずつ突き放されていく。
東条ハナがそれに気づく。
「タイキ!」
思わず身を乗り出して叫んだ。
(おい、嘘だろ?あのタイキシャトルが……。)
観戦に来ていたウマ娘達も驚いていた。
残り100M。
差が開いていったが……。
タイキシャトルは焦っていた。
(信じられマセン!こんなに強いなんて!)
スパートに久しぶりの砂のためか踏ん張りが効かず思うようにペースを上げられなかった。
だが……。
引き離され、思い出した。
かつてのレースで同じ栗毛のウマ娘が先行している姿を。
異次元の逃亡者「サイレンススズカ」。
それに重ね合わせていた。
(デモ……負けマセン!)
引き離されていたが地力を出して差を詰めていった。
予想外の展開にギャラリーも盛り上がっていた。
「エル!来ますよ!エル!」
グラスワンダーは声を上げた。
接戦になる。
ゴールの瞬間を見逃すまいと集中していた。
「うぉーおおおおおおおぉー!」
「負けマセン!」
残り50M。
両者並び一進一退のラストスパートであった。
残り25M、10Mになってもそのままであった。
大接戦で両者が同時にゴールになだれ込む。
「ゴール!」
エルコンドルパサーが赤い旗を振り下ろした。
タイキシャトルはすべての力を使い果たしたのか足元がフラフラになってゴール直後ヘタれ込んでしまった。
(同着かな……?)
エルコンドルパサーはそう思い宣言しようとした。
観客も信じられないという雰囲気で静まり返っていた。
「両者、同ちゃ……。」
「いえ……違うよ。」
判定に異を唱える。
メイセイオペラであった。
「……ハナ差でシャトルさんの勝ちです。」
そうハッキリと告げた。
思わずグラスワンダーに視線を移した。
「恐れながら申し上げます。メイセイオペラさんのおっしゃる通りタイキ先輩のほんのわずかなハナ差で勝ちと判定いたします。」
その発言にうなづきエルコンドルパサーは宣言した。
「勝者、タイキシャトル!」
一斉に歓声が沸き起こる。
だが、勝者と敗者の姿が対称的であった。
ヘタれ込んだ勝者タイキシャトル、まだ余力もありすぐに息を整えた敗者メイセイオペラ。
レースを見ずに二人を見たら結果を勘違いするほどであった。
(負けたか……。でも、見せ場は作れたかな?)
そう思っているとタイキシャトルがヘタれ込んでいるのに気がついた。
「シャトルさん、大丈夫?」
すぐに駆け寄った。
うつむいたままで息は整えられたようであったが、立ち上がれないようであった。
肩を貸して医務室に連れて行こうとした。
「メイセイオペラ。私たちに任せてくれないか?」
シンボリルドルフとエアグルーヴがタイキシャトルを立たせた後、両肩を抱え医務室へ連れて行った。
「まいったな……。」
タイキシャーロックはそうつぶやいた。
「これじゃ、元気になるどころか逆に凹んでしまうよ。」
苦笑いしながら言うしかなかった。
「あんなになるなんて。信じられない。」
バトルラインも言葉がそれ以上出なかった。
「『負けて強し』ってやつか……。これはまずいな。」
エムアイブランもそういうしかなかった。
「『まずい』って何がですか?ブラン先輩。」
「え、いやこっちの話だ。」
「そっすか。」
エムアイブランは次の東京大賞典の出走予定であった。
(次の東京大賞典は、まあアイツもだがアブクマポーロもいるしな。いや、問題はその次だ。)
来年のあるレースをどうするか、そう考えていた。
タイキシャーロックはその後、浦和記念(浦和・2000M・G2)を勝利し復活の狼煙を上げた。
シンボリルドルフとエアグルーヴは医務室についてベットにタイキシャトルを寝かせた。
徐々に体調は良くなり落ち着きそうであったが大事をとって休ませることとなった。
「どうだった、今回の模擬レースは?」
率直にシンボリルドルフが聞いてみる。
「……(メイセイオペラは)強かったデス……。」
「そうか。じゃあ今日はゆっくり休むといい。無茶は禁物だぞ。」
シンボリルドルフとエアグルーヴは医務室を後にした。
「ああ、あど『わんつか(※ほんの少し)』だったのに!」
「ホント残念だったね!おじさん。」
その夜、例のバーにてメイセイオペラのトレーナーはスマホでレース映像を見たあと悔しさをあらわにした。
隣にはスピカのトレーナーもつきあっていた。
「おハナさんだけにハナ差で……。俺の甘い一夜が……。」
「おハナさんの裸踊り見たかったなあ。」
二人ともガッカリの雰囲気にその隣では東条ハナは満足げにグラスを傾けていた。
「何、馬鹿なこと言ってんの。ま、あの子なかなかやるわね。いけるんじゃない?」
「いけるって、何が?」
「トボケてるつもり?まあ、いいわ。ウチからは来年最初のG1出すつもりないから。やってみたら?じゃあまだ仕事あるからこれで。」
東条ハナは立ち上がってバーを去っていった。
「おじさん、どうすんの?出すの『フェブラリー(ステークス)』?」
スピカのトレーナーは率直に聞いた。
「そうだな……。まあ、次の東京大賞典次第だな。これにもし勝ったら……。いっちょ海外でも目指してみるか!」
「海外か……。夢が膨らむねぇ、おじさん。」
「夢か。正直ここまでうまくいくとは思わなかった。これも……。」
「これも……何?おじさん、勿体ぶっちゃって。」
「なんでもねぇよ!もうちょい反省会付き合え。」
オーダーを追加した。
(これも……ニセイのおかげだな。さて、東京大賞典が今年最後の決戦だ。これも勝ちたいなあ。でもなあ、アブクマポーロがなあ。)
などと思いつつ酒をあおった。
次の日、メイセイオペラが教室に入ろうとするとタイキシャトルが待っていた。
「ハウディ!オペラ!」
「は、はうでぃ……。シャトルさん。うわ!」
一瞬でタイキシャトルはメイセイオペラの身体を引き寄せ豊満な恵体いや胸を押し付けるかのようにハグしてきた。
「ワタシたち、トモダチになりまショウ!ユウジョウのハグデス!」
あまりの力強さと胸を押し付けられて息が苦しくなって思わずタップしてしまった。
「ちょっと!苦しいって!」
そこへアグネスデジタルもやってきた。
「そうですよ。オペラ先輩!『仲良きことは美しきかな』ですよ!」
変態の目で覗き込むように見ていた。
「そういや、デジタル、お前も向こう(アメリカ)の生まれだったな。二人ともウザいわ!」
模擬レースのあと、何故かタイキシャトルに気に入られてしまったメイセイオペラであった。
Chapter5 お菓子言葉
(しまった!大きく出遅れた!こんな日に限って……。デジタルのヤロウのせいで!)
カフェテリアに急いで向かうメイセイオペラであったが日も傾きかけ薄暗くなっていた。
普段のトレーニング中、またしてもアグネスデジタルが倒れていると呼び出され医務室に向かい、様態が回復するやいなや今度は風紀委員会に直行し謝罪させられた。
とばっちりも甚だしかった。
(東京大賞典も近づいてるってるのによ!いや、今日はよりにもよってアノ日なのに……。)
好物がカフェテリアに並ぶ日と聞いてトレーニング後を楽しみにしていたのだが予定を狂わされた。
午後最後の配給らしく一個だけ残っていた。
(あった!なんとか間に合った!)
「あの……ティラミスください!」
「あの……ティラミスくださいまし!」
同時に声を発したのはメジロマックイーンであった。
「あ……。(どうしよう。よりにもよって……。)」
メジロマックイーンのスイーツ好きは超有名だ。
それを差し置いてまでティラミスを手に取る勇気はなかった。
「あの……、どうぞマックイーンさん。」
「いえいえメイセイオペラさんどうぞ。」
お互いに譲り合うがメイセイオペラの目には今にも泣きそうな潤んだ瞳のメジロマックイーンの表情が映っている。
「いえいえ、どうぞマックイーンさん。」
強引にメジロマックイーンに手渡した。
「そうですか……。申し訳ございません。今度何か返礼させていただきますわ。」
カフェテリアは「ティラミスの日」であった。
しかし、ティラミスを手に持つメジロマックイーンの背後に二人のウマ娘が忍び寄っていた。
「オメェ、懲りてねぇな、マックイーン!」
「スイーツ警察だ!マックイーン。現場を押さえたゾ!」
同じチームのゴールドシップ、トウカイテイオーであった。
(スイーツ警察ってなんだ?いつもの茶番か?)
メイセイオペラはそう思いながら見守っている。
「マックイーン、昨日お前、『シュークリームの日』で15個も食ったじゃねぇか!んでトレーナーにスイーツ禁止令でてるの忘れたのか?ん?」
「一個だけ!一個だけじゃありませんか!見逃して下さいまし!」
「駄目だよ!マックイーン。その一個が命取りになるんだよ!『スイーツやめますか?それともウマ娘やめますか?』だよ!」
「ちょっとテイオー!スイーツを禁止薬物にように言うのお辞め下さいまし!」
「マックイーン、お前、それじゃ……。いや、もうお前はマックイーンなんかじゃねぇ!このままじゃ(メジロ)ゴーリキに進化しちまうぞ!」
「誰がばんえいウマ娘ですか!なんちゃらモンスターじゃありませんわよ!」
「『パクパクですわ』から『ブクブクですわ』に得意技も進化しちゃうよ、マックイーン。」
「ですからそれから離れてくださいまし!」
メジロマックイーンも意固地になっていた。
「駄目だ、テイオー刑事。あたし達じゃ言う事聞きゃしねぇ。」
「ゴルシ刑事、刑事長呼ぼうよ!」
(刑事長、誰だろ?)
メイセイオペラは疑問に思った数秒後即座にそのウマ娘はやって来た。
「マックイーンさん……。やはり……。残念です。」
「イクノディクタスさん……。」
同室のイクノディクタスであった。
「観念しろ、マックイーン。16時19分逮捕。」
ゴールドシップにメジロマックイーンはおもちゃの手錠をかけられた。
「それではスイーツ裁判を開廷いたします!」
(今度はイクノさんが裁判長か?まだ続くんだ。)
メイセイオペラは茶番につきあわされていた。
「裁判長、被告メジロマックイーンは名優と言うにふさわしく抜群の演技力でスイーツを詐取、さらに文字通り私腹を肥やす行為を働きました!極めて悪質な犯罪行為でありますので死刑を求刑します!」
「ちょっと!重罪すぎますわ!」
「ええ、テイオー検事の求刑は死刑と言うことですが、弁護人ゴールドシップ、異議ありますか?」
「え?異議?もう死ななきゃ治りそうじゃねぇからいいんじゃね?」
「ちょっと!弁護人は真面目に弁護なさいまし!」
「では結審いたします……。被告メジロマックイーン、主文『ロイヤルビタージュースの刑』に処す。」
「待ってくださいまし!そうだ、控訴いたしますわ!」
「スイーツ裁判は一審制です。」
「ひど過ぎますわ!あんなもの飲み物ではありませんわよ!一晩中口の中に苦味が残りますの!いっそ死んだ方がマシですわ!」
(そんなひどいんだ。特級呪物だと噂には聞いてたけど……。昔、体力回復で重宝してたらしいけど今ではそれがセンブリ茶級の罰ゲームのアイテムと化したと言う……。)
「今回はそんなこともあろうかとゴルシちゃん特製濃縮還元苦味120%のロイヤルビタージュース作ってやったぜ!」
「お辞め下さいまし!何故無駄に進化させますの!こんなの不当裁判ですわ!」
喚き散らすメジロマックイーンは三人に連れ去られ、メイセイオペラはティラミスをポンと渡され一人取り残された。
(ま、せっかくだから食うか。)
閑散しているカフェテリアでメイセイオペラはティラミスを口に運ぶ。
(人生の味だなあ。)
そして、あの日のことを思い出すのであった。
その日は人生で最悪な一日だった。
中央トレセン入試当日である。
実技で謎の腹痛が起こり、ベストタイムから程遠い記録で不合格は明らかであった。
すぐさま家に帰宅したものの自室にこもり布団をかぶって泣き続けしまいには涙も枯れ果てていた。
「お姉、ごはんだって!」
妹のメイセイユウシャの声にも応えず、ただただ後悔の念に支配されていた。
しばらくして父親が帰って来た。
母親が詳細を伝えると父親がメイセイオペラの部屋へ向かった。
「おい、入るぞ。その……なんだ……、残念だったな。」
「ごめん……。」
しばしの間沈黙が続いた。
「やはり、血筋かな?父さんな、若い頃、映画スター目指してたって前言ってたろ?実はな、オーディションで主役をつかんだんだよ。……でもな、こともあろうに事故に巻き込まれて顔に何針も縫う大怪我しちまってな。その道を諦めることになったんだよ。」
(そうだったんだ……。)
「でもな、俺と今のお前とじゃ明らかに違うとこがある。まだ地方トレセンの入試残ってるだろ?父さんは諦めざるをえなかったが、お前はまだ完全に道が断たれたわけじゃない。そうだろ?」
地方トレセンの2次募集はまだ先であった。
「今はゆっくり休んでこれからのことを考えようや。それにはしっかり身体を作らないと。腹減っただろ?母さんが料理作って待ってるぞ。」
そう説得されようやくムクッとゆっくり起き上がりダイニングに向かった。
テーブルにはメイセイオペラの好物ばかり並べられていた。
少しずつ口に運び、そしてデザートが運ばれてきた。
数年前大流行していたティラミスであった。
ただ、母親の作るティラミスは格別だった。
一口口に運ぶとポロポロ涙がこぼれた。
「ごめん……。結果出せなくて……。」
そう言うのが精一杯だった。
両親はただ黙って見守っていた。
後日、学校から帰宅すると見慣れない靴が玄関にあった。
(お客さんが来てるのかな?)
メイセイオペラがそう思っていると母親が出迎えた。
「あなたにお客さまよ。」
居間に岩手トレセン学園水沢校の校長が来ていた。
無試験で入学許可がおり、さらに授業料免除の特待生として迎えると言うのであった。
(地元の岩手か……。あの人が盛岡にいる。ほとんど負けなかったあの人が……。いつか戦ってみたい!)
無論、反対する理由はなかった。
(ホント、人生どうなるか分からないよな。結果、こうして中央に来ることにもなったし。もし中央合格しても腹痛で長くやれなくて実家戻ってグレてたかもしれないし。)
そう思いながらティラミスの味をかみしめた。
ちなみに ティラミスのお菓子言葉は「私を元気づけて」である。
番外 謎の組織、謎の会合
アグネスデジタルは川崎にある居酒屋の前に立っていた。
(確かここですよね?「居酒屋一輪の百合」って。)
休業日と張り出されていた。
恐る恐るドアを開けてみる。
「あのう、すいません。こちらで……。」
「あら、デジタルちゃん、いらっしゃい!待ってたわよ。」
目の前には店の店長ロジータがいた。
「ロジータ会長お久しぶりです!」
「デジタルちゃんも元気そうで何より。もうみんな集まってるわ。」
ロジータに席を案内された。
集合しているのはウマ娘ばかりであったが、現役、引退、あるいはレースに関わることがなかったもの達と様々であった。
「えっと、盛岡支部長は今回も欠席っと。」
名簿にロジータはチェックを入れた。
「あの人は忙しいんですか?」
「ええ、岩手のほうで忙しいからこっちはね。それにもともと隠密行動派だから。名前も隠れてるし。」
「なるほど。」
アグネスデジタルの問にロジータは簡潔に答えた。
「それでは、『盛り上がるユリの会』通称『モリユリ会』の会合を始めます。」
議長役のウマ娘が会の開始を告げた。
「まずはロジータ会長よりお話があります。」
ロジータは立ち上がって発言する。
「はい、今回はちょっと会合の趣旨と離れてしまうんだけど、実は来年の地方ウマ娘のOG会の幹事に選ばれてしまいました!で、まあ、二次会はこの店で決まり!なんだけど、もう一つイベントが欲しいのよね。そのアイディアを考えていただけるとありがたいわ。」
「OG会かぁ。イベントってどんなことを前やってたんですか?」
会合に出席しているウマ娘の一人が聞いた。
「そうね。まあ、主に近くのレース場に行ってレース観戦とかなんだけど、なんかありきたりなのよね。」
「時期はいつ頃ですか?」
「確か、川崎記念あたりを予定してるんだけど。」
「そうなんですね。急に言われてもなかなかアイディアが……。」
「いいわよ〜。後で思いついたことがあったらメールでもいいから教えてちょうだい!それじゃあ、通常の会合に戻します。」
会合は粛々と進み、閉会となった。
「あのすいません。ロジータ会長。」
アグネスデジタルは声をかけた。
「何?デジタルちゃん。」
「あのですね……。」
アグネスデジタルはOG会のアイディアをこっそり耳打ちした。
「あ、それいい!」
「でも、まだ確定ではないので……。」
「そうね。もし実現できたら素晴らしいものになるわ!私たちの活動も捗るし!」
ロジータは上機嫌となった。
アグネスデジタルは帰り道、変態の笑みがこぼれてしまった。
(ああ、もし出走となったら……。いえ、間違いなく出てくるはずです!南部杯でレコードですし!それに……そのレースが終わったら……。)
いつの間にか真っ暗になった夜空を見上げていた。
(そうか……。もう……一年になるんですね。)
突如、寂しさが込み上げてきた。
そして、あるウマ娘との別れが近くなったのを実感するアグネスデジタルであった。
番外 東方より来たりし者
メイセイオペラが春に特別短期留学して数日後。
そのウマ娘は中央のトレセン学園理事長に呼び出されていた。
理事長室での面談が行われていた。
「イヤなのだ!ドコにも行きたくないのだ!」
納得いかずそのウマ娘はそう叫んで理事長室を飛び出して行った。
「待って!トーホウエンペラーさん!」
秘書の駿川たづなの制止も聞かず走り去った。
(でも……どうすればいいのだ……。)
面談内容は深刻なものであった。
メディカルチェックの結果、トレセン学園にこのままとどまることは難しい、レースを続けるのであれば地方トレセン学園への転校するしか方法はないという趣旨であった。
トレセン学園に入学して一年。
決して成績も走りも悪くないのにナゼ?と思わずにはいられなかった。
(他のところになんて行きたくないのだ!)
ふとダートコースにたどり着いた。
ダートのウマ娘達がトレーニングに励んでいる。
見学に来ていた他のウマ娘達が言った。
「あの栗毛の人が『岩手のメイセイオペラ』さんね。G1でてる事もあっていい走りしてますね。」
「『特別短期留学』で一年いるらしいよ。」
(何だって!地方ウマ娘なのにここに一年いられるなんて!許せないのだ!)
思わずトレーニング後に話しかけた。
「お前がメイセイオペラなのか?」
「ああ、君は?」
「トーホウエンペラー、なのだ!」
「(ウインディちゃんみたいな話し方するなぁ。)で?なんか用?」
「模擬レースをしたいのだ。」
「オレと?なんで?君、まだ新入生だよね?」
「違うのだ!今年メイクデビューするのだ!だから選抜レースのためにしたいのだ!」
「ごめんごめん。そっか。(ユウシャと同い年か。)それで距離は?」
「1600でお願いしたいのだ。芝で。」
「は?なんで?芝?」
「いいからやるのだ!」
半ば強引に推し進められ芝1600で模擬レースをすることになった。
(芝か。久しぶりだな。)
そう思いながら受けて立つ事にした。
(地方のウマ娘ならダートしか走ってないから楽勝なのだ!そして勝てば理事長もどこかに転校するのも考え直してくれるかもなのだ!)
トーホウエンペラーは意気込んで勝負に挑んだ。
スタートで先行し得意気になっていたがメイセイオペラはピッタリとマークしている。
(意外に走るのだ。けど、ラストスパートで振り切ってやるのだ!)
残り200を切るとスパートし始めた。
だが……。
メイセイオペラは並びかけてあっさり交わして先にゴールした。
(なぜなのだ?地方のウマ娘になんか負けるはずないのだ!)
ゼイゼイ息を切らしながらメイセイオペラの方をみた。
近寄って来たメイセイオペラは口を開いた。
「君、オレがダートしか走ってないと思って無礼てただろ?一度だけだけど出たことあるんだよ。芝のレース。知らないかもしれないが盛岡に地方レース場唯一の芝コースがあってな。」
(そうだったのか!知らなかったのだ!)
トーホウエンペラーは決意した。
中央から岩手トレセン学園への転校することにした。
(芝のレース勝ちまくれば中央に返り咲くことができるかもなのだ!)
トーホウエンペラーは岩手に行くことに希望を見いだしていた。
だが、トーホウエンペラーはある事実を知らなかった。
盛岡芝のレースは天候不順でダートにあっさり変更されることがたびたびあることを。
そして自身も身体ができるまで時間を要しクラシックのシーズンオフ寸前の大晦日、桐花賞の催される日にやっとこさデビューするのであった。