Chapter1 年末の大決戦
アブクマポーロのライブレッスンの帰り、一人のウマ娘とバッタリ会った。
「あ。」
「お久しぶりです。ポーロ先輩。」
「久しぶり、バンちゃん。」
船橋の寮で同室のバンチャンプであった。
今年のフェブラリーステークスに地方ウマ娘でただ唯一の出走者だった。
バンチャンプはあることを告げた。
「……そうか、行くのか、寂しくなるな。それで、どこに行くんだ?」
「あの、岩手に……。」
「岩手ってよりにもよって。」
「すいません。」
「いや、謝るほどじゃないけど。」
「ご相談しようかと思いましたが、お忙しそうだったんで。」
「いつから?」
「年末のレース出てそれからお休み頂いて来年度からになります。」
「バンちゃんが転校だなんて。でも頑張ってな。」
毎年、他のトレセン学園へ転校する者は南関東に限らず中央でも岩手でも心機一転や環境を変えるために一定数あった。
(バンちゃんが岩手にか……。)
年末の東京大賞典が迫っていた。
大井レース場で行われる今年最後のダートG1東京大賞典。
昨年の距離2800Mから2000Mに短縮された。
この日は祝日でもあり多くの観客が駆けつけていた。
アブクマポーロのトレーナーイシザキはある男を見かける。
(やはりな……。メイセイオペラのトレーナーは奴だったか。)
そう確信しズカズカと歩いてその男の前に立った。
「おい、久しぶりだな。」
「……お久しぶりです。」
「この間は世話になったな。おかげでポーロの顔に泥を塗る羽目となった。」
「なんの話ですか?」
「すっとぼけてるつもりかよ?……まあいい、今回は前のように上手くいくと思うなよ。」
一方的に言い放ってその場を去っていった。
(俺がトレーナーだってことを思い込んでいるようだな。まあ、当たってるんだけど。このレースで方針をどうするか確かめるためであるんだけどな。)
今回はモニター越しではなくこの目でレースを観ることにしたメイセイオペラのトレーナーであった。
「今回は私達は出ないがいろんなメンツが揃ったな。アブクマポーロにメイセイオペラ、あとグルメフロンティアも出走か。それとコンサートボーイもか。」
「うーん。やっぱアブクマポーロですかね。ブラン先輩に頑張って欲しいですけど。」
タイキシャーロックは浦和記念出走直後であるのとバトルラインは年開けてからの平安ステークス出走のために今回の東京大賞典には出走せず、出走するエムアイブランの応援に来ていた。
「まあ、下バ評通りならな。しかしレースはその通りになるとは限らないしな。南部杯の時のように。」
「そうですよね。」
その後ろには岩手から来たメイセイオペラのファン二人がいた。
「ここで(アブクマポーロに)勝って星を五分に戻して欲しいもんだ。」
「んだんだ。」
「そうは問屋が卸しませんよ。南部杯のときのように上手くいくはずないです!」
そこへアブクマポーロのファンが割って入った。
「お、来たな!」
「そりゃ来ますよ。」
お互いに不敵な笑みをしてレースを見届けることにした。
アップをしているアブクマポーロは話しかけられた。
「おい、私のこと忘れたわけじゃないよな?」
コンサートボーイであった。
アブクマポーロの視線が自然とメイセイオペラに向かっていたのに気づいていた。
「忘れるものか。昨日のことのように覚えている。昨年の帝王賞の借りは返させて貰う。」
「さんざん返して来たじゃねぇか!」
「G1の借りはG1で返して貰う。」
「返り討ちにしてやんよ。」
「言ってろ。」
そう応酬して離れていった。
メイセイオペラは知り合いのウマ娘に挨拶に行った。
「アマゾンさん、今日はよろしくお願いします。」
「おう、来たか岩手の。よろしくな。」
南関東トレセン学園船橋校のアマゾンオペラに頭を下げた。
「あ、そうだ、お前、『テイエムオペラオー』って知り合いか?」
「いえ、まったく。」
「この間船橋に来やがって『名前を変えて欲しい』だのわけわからんこと抜かしやがったんで塩撒いて追い返してやったわ!」
「あ。(マジで行ったんだあいつ。)」
思い当たる節があった。
タイキシャトルとの模擬レースの数日後、そのウマ娘に呼び出された。
「え?なんだって?」
「だから、名前を変えてほしいんだ。『オペラ』とつくウマ娘は二人と要らないと思うんだよね。ドトウもそう思うだろう?」
無理難題を不躾に言って来た。
その横にはメイショウドトウが不安そうな表情で答える事も出来ずテイエムオペラオーを見ていた。
「(何言ってんだコイツ。)そうか、だったら君が名前変えたらいいじゃないか?」
機転を利かせて無理難題を返してみたが無駄であった。
「ハーハッハ!何を言ってるんだい?親から貰った大切な名前を変えろって言うのかい?それは無理な話だなぁ。ボクのほうが『オペラ』に相応しいし。」
(オレに親いないとでも思ってんのか?って、コイツはアレだ。人の話聞かないタイプのやつだ。さて、どうしたものか……。)
ぶん殴りたい気持ちを抑え、ある妙案を思いついた。
「条件次第だな。それでどうだ。」
「言ってみたまえ。僕は寛容かつ柔軟に対応できる覇王だ。」
(コイツ、年下でしかもユウシャと同い年でどうしてこんな偉そうになれるんだ!)
怒りを抑えつつ口を開いた。
「船橋に『アマゾンオペラ』っていうウマ娘がいるんだがその人を説得して改名できたら何でもやってやるよ。」
「なんだって!船橋にもいたのか!こうしてはいられない!ドトウ、船橋に行こう!」
「待って下さい、オペラオーさん!」
メイショウドトウはメイセイオペラにちょこんと頭を下げてオペラオーについて行った。
(ドトウちゃんめんこいなあ。なしてあんなやつとつるんでるんだろ。)
一人になったメイセイオペラはそう思った。
その後、南関東トレセン学園船橋校に行ったようであった。
「すいません。なんかご迷惑かけて。」
「まあ、いい。今日はその代わりと言ったらなんだがお前もポーロもコンサートも中央の奴らもまとめてちぎってやるわ。」
「胸をお借りします。」
メイセイオペラはアマゾンオペラに頭を下げて言った。
メイセイオペラがその場を離れると睨みつけていたウマ娘が寄ってきた。
「やっと対決だな!南関東の力を見せてやる!クマ先輩と私でワンツーフィニッシュしてやる!」
「えっと、誰だっけ?」
「東京盃のとき会っただろ!」
「ああ!確かサドンデスパワーさんだっけ?」
「違うって!なんだよ『突然死の力』って!」
「え、もしかして君って頭いいの?」
「エッヘン!私のお父さん国際政治学者なんだよね!」
「もしかして『朝生』とか出てる人?」
「そうだよ!」
「あ、あの人か。女性の学者さんと『ハゲ』だの『ブス』だのテレビで罵りあった人でしょ?」
「そうだけど、って!その話は家ではタブーなんだよ!」
「そっか、なんかごめん。よろしく!サンライズパワーさん。」
「コノヤロー!ワザとだろ!サプライズだよ!絶対に徹底的にぶっ潰す!南関東で上位独占してやる!クマ先輩が一着で私が二着でゴールしてやる!」
「君さ、なんで一着目指さないの?」
「だって、クマ先輩強いし……。」
「ま、オレはこの間そいつに勝ったけどね。それにどんなレースでも一着目指すよオレは。たとえ相手がトウケイニセイであっても。」
「つくづく癇に障るやつだ!これ以上好き勝手させないからな!フン!」
別のウマ娘が近づいて来た。
「サプライズ、うるさいよ!ごめんね、ウチのがうるさくて。」
「あ、羽田盃で勝った大井のキャニオンロマンさんですよね?」
「嬉しい!あのメイセイオペラさんに名前覚えてもらえるなんて!久々のレースしかもG1なんで緊張してますけど、よろしくお願いします!」
「なんでキャニオンのことは覚えてて東京ダービー勝った私のことは忘れるんだよ!」
「まあまあ、レース始まるから行くよ、サプライズ。」
キャニオンロマンに引っ張られるかのようにサプライズパワーは去っていった。
そして虎視眈々とダートの総決算である東京大賞典を狙っているウマ娘がいた。
(まあ、地方も中央も関係ない。狙うは頂点だけ!フェブラリーの時と同じく美味しくこのレース平らげちゃうからね!)
出走するすべてのウマ娘を見渡し不敵な笑みを浮かべ舌なめずりをするグルメフロンティアであった。
いよいよ枠入りが完了し東京大賞典の出走となった。
〔スタートしました!15名が飛び出しました。さあ、ちょっとバラつきましたけれども、先行争いですがまずは5番のサントスがいきました。岩手の雄はどうする?メイセイオペラはその後ろに控えました。休み明け、ずーっと休んでおりましたキャニオンロマン。ひさびさの出走であります。キャニオンが2番手につきました。無理にはいきませんで岩手の雄メイセイオペラ3番手、そのすぐ後ろが東京ダービーウマ娘サプライズパワー。一歩前にコンサートボーイであります。さあご覧ください、緑とピンクの勝負服アブクマポーロは中団より少し前であります。それと体があって1番のテツノセンゴクオー。その後ろ3バ身差でセントリックが行っています。それからキョウトシチーです。その後ろを追ってみますと川崎記念ウマ娘アマゾンオペラ、内を通ってカワノスパートです。ワイルドブラスターこの圏内でありまして2バ身後方でミナミノジャック、エムアイブランが外めを通っております。それから遅れること3バ身でフェブラリーステークスを制したグルメフロンティアが最後方であります。〕
(今回の東京大賞典、南部杯と違ってペース配分に気をつけろってトレーナーに言われたから無理は禁物だな。まあ、先に行きたいなら行かせといてやるよ。問題は最終直線だ。今回は我慢比べだな。)
前方のサントスを見つつメイセイオペラは先行策で先頭のサントス、2番手のキャニオンロマンを追走していた。
(ペースは思ってたよりもさほど早くもないな。これならラストで脚が十二分に使える。ここは僕の庭だ。盛岡では苦杯を舐めたけど、ここでもそう上手くいくと思うなよ!)
静かに中団で闘志を燃やすアブクマポーロであった。
〔さあ、向う正面であります。一人旅、サントスが大逃げに打って出ました。そのリードはどうでしょう?10バ身以上でしょうか?第3コーナーへと向かってまいります。2番手にはキャニオンロマン。メイセイオペラはまだ動かないか?まだ3番手。コンサートボーイ、1バ身差で4番手であります。それからサプライズパワーが追走、その後にアブクマポーロとキョウトシチー。外回りコース、今、第3コーナーから第4コーナーへと流れてまいります。グルメフロンティアは最後方で様子をうかがっておりますコンサートボーイが今3番手。〕
(メイセイオペラさんやっぱ強いな。こんなペースでレースをしてるんだ。ひさびさのレースだし脚、最後まで持つかな?でもせっかくのG1だし、自分の力がどれだけやれるのか精一杯できる限りやってみる!)
キャニオンロマンはメイセイオペラをマークしていた。
(キャニオン、メイセイオペラが前、サプライズ、ポーロが後ろか。まあ展開的には想定内だが、さて……。)
コンサートボーイは前後の様子をうかがいながらレースの流れを読んでいる。
各ウマ娘達は次第にペースを上げていく。
〔さあ、前の差が縮まってまいりましたが、サントスが大逃げを打って先頭、2番手キャニオンロマン、外からメイセイオペラ。バ群の真ん中にアブクマポーロ。拍手大歓声が沸き起こって、メイセイ、メイセイ、メイセイ!メイセイオペラが先頭に変わった!〕
メイセイオペラが先頭にいたサントスを捉え、キャニオンロマンも交わし先頭に躍り出た。
(よし!このままゴールまでスパートかける。やっと大井で勝てるかもだけど後ろから来るだろうな、譲るつもりないけどさ。)
最終直線で観客も盛り上がっていた。
だがそのスパートを見極め、したたかにペースを上げていくアブクマポーロであった。
(確かに君は川崎記念のときよりはだいぶ強くなった。けど……、その程度じゃまだ僕の敵ではない!)
コース内側で視界がひらけ勝ちを確信した。
〔内からさぁきた!さぁきた!さぁきた!アブクマポーロが一気にあっという間に捉えた!メイセイオペラ2番手、コンサートボーイが、今3番手!やっぱり強い!今年はこのウマ娘の年だった!アブクマポーロ優勝!メイセイオペラ2着、3着にコンサートボーイ!帝王賞の時もそうでしたが、この大一番グランプリもアブクマポーロ決して慌てる事はありませんでした。自らの力を信じてサッとサッとあっという間に抜けきりました!本当に強い勝ち方でした。王者です!〕
先行するメイセイオペラをあっという間にインで交わし先頭に躍り出るとその差を広げ盤石のレース展開をみせた。
メイセイオペラはなんとか後ろにいたコンサートボーイに抜かせず2着に踏みとどまるので精一杯だった。
(やっぱりここでは一筋縄ではいかないか。川崎記念で4着、帝王賞で3着、今日の東京大賞典で2着か……。次こそ南関東でも勝ってやる!)
悔しさはあったが次に望みを繋げることはできたとメイセイオペラは思った。
アブクマポーロは勝利を祝福するファンに手を振り充実感を味わっていた。
「!」
一瞬脚の痛みが走った。
(なんだ?今の。)
すぐにその痛みは消えたが少し不安を覚えた。
2着のメイセイオペラをみた。
(まあ、あいつが2着か。それにしても……。やっぱり南部杯勝ちたかったな。)
悔しさが込み上げてきた。
アブクマポーロのこの年の戦績は9戦8勝。
唯一の敗戦はメイセイオペラが勝った南部杯であった。
文句なしでこの年の地方代表ウマ娘に選ばれた。
「よう、お疲れ、お互い、残念だったな。」
アマゾンオペラにメイセイオペラは声をかけられた。
「お疲れ様でした。ええ、力不足でした。」
「まあ、そうだろうが川崎記念のときよりはだいぶ強くなってるぞお前。勝ち負けなってたし。」
川崎記念の遠征のとき、アマゾンオペラとは併走トレーニングを何度か行っていた。
「そうですかね?実感ないですけど。」
「で、次はどうすんだ?」
「次ですか?多分川崎記念かと……。」
「ふうん。ま、次頑張れや。」
「はい、ありがとうございます。」
アマゾンオペラは離れていった。
「残念だったな。そう何度もポーロに勝てるとでも思ったか?甘いな。」
アブクマポーロのトレーナーイシザキはメイセイオペラのトレーナーを前にそう言い放った。
「強いですね。アブクマポーロは。」
「心にもないこと言ってんじゃねえよ。次、川崎(レース場)で会おうぜ。会う勇気があるならな。」
イシザキは去っていった。
(向こうは川崎記念か。距離的にも妥当か。連覇もかかってるし。だがこっちはあなたの思惑に従う義理はないよ。悪いけど。やはり、距離的にあっちの方が向いてるかもしれないな。)
メイセイオペラのトレーナーは次のレースについて考えていた。
「すいません。2着でした。」
メイセイオペラはレース結果を電話越しにトウケイニセイに伝えた。
「アブクマポーロに負けたか?」
「はい……。」
「次だ。切り替えろ。で、次は?」
「多分、川崎記念かと。」
「そうか。」
「一週間後、水沢に帰省しますのでその時にでもハッキリすると思います。」
「ゆっくり休め。」
「はい。(よかった!怒られなくて……。)」
手短に通話が終わった。
(アイツ、本当に川崎記念なのかな?)
疑問が少し湧いたトウケイニセイであった。
Chapter2 哲学者のライブ
メイセイオペラはアブクマポーロの控室に入ろうとしていた。
「手の位置、逆。って足ちゃんと揃えろ!」
ノックをして入ると知り合いのウマ娘がいた。
アブクマポーロにマンツーマンでダンスの最終チェックをしている。
「おう、オペラか、悪いけどこういうことなんでな。コイツ一人でライブやらせるわ。お前が出ると主役がどっちか分かんなくなっちまうし。」
南関東のダンスレッスンのトレーナー、スイフトセイダイだった。
「スイフト先輩、わかりました。ではこれで失礼します。」
「あ、悪いけどコンサートの奴にも伝えといてくんない?二度手間になるし。」
「はい。わかりました!」
控室を出ていこうとするメイセイオペラにスイフトセイダイは呼び止めた。
「そうだ、オペラ。」
「なんすか?」
「コチラ側(東京大賞典2着)の世界にようこそ!」
「どちら側の世界ですか!」
スイフトセイダイがニチャァと笑い言い放ったので思わずツッコんでしまった。
部屋を出るとコチラに向かってくるウマ娘がいた。
ちょうどコンサートボーイが来たところであった。
「……そうか、ポーロが一人でライブするのか。わかった。」
スイフトセイダイからの伝言を伝えコンサートボーイも了承した。
「コンサートボーイさんもスイフト先輩のライブレッスン受けてるんですよね?」
「うん、まあ、週1で。ヒマな時は2の時もあるけど。」
「大変でしょう?」
「え、いやキツいことは全くないけど。」
「本当ですか?あの……ランニング20キロ走ったあと、休憩5分挟んですぐさまダンスレッスンとかやらないんですか?」
「ちょ、メイセイオペラ、お前……。(よっぽど期待されてるんだな。)」
羨ましく思った。
後にコンサートボーイはそのトレーニングをスイフトセイダイに提案したもののレーストレーニングは管轄外という理由をつけて却下されてしまった。
そしてもう一人のウマ娘が近づいて来た。
「へへーん!やっぱりクマ先輩には勝てなかったじゃないか!南関東を無礼るなよ!」
サプライズパワーがからかうためだけにやって来た。
「えっと?君って何着だっけ?」
「……。」
メイセイオペラの問に無言になってしまった。
コンサートボーイはサプライズパワーの肩をポンとたたいた。
「サプライズ、お前はもうちょっと自分のこと頑張ろう。」
「はい……。」
サプライズパワーは13着に沈んでいた。
「あの……、すいません!ポーロのウイニングライブ見てもらえませんか?」
アブクマポーロのファンが誰彼構わずあちこちに声をかけていた。
多くの来場者はそれを無視するかのように素通りしていく。
「兄ちゃん、なにしてらの?」
メイセイオペラのファン二人はそこに立ち止まる。
「あの……、ポーロのウイニングライブを見て頂けませんか?」
「えっと……。そうだな、兄ちゃんも南部杯の時、オペラのライブ見てくれたっけからな。えらく感動してたし。」
「んだな、あ、でもこのサイリュームだっけ?いつも青と白にしかしてねえがら、緑とピンクにするのはどやすんだべ?」
「それはですね……。」
色の切り替えをしてあげた。
そんなこんなで二人はライブに参加することにした。
「ありがとうございます!」
「いやいや、まあ、オペラに比べたらアレだど思うけど。」
「そうですね……。でもポーロも今ライブレッスンにも力を入れてますで。確か講師がスイフトセイダイっていう人だったかと。」
「スイフトセイダイ……?」
「あいつ、生きてやがったか!ニート三昧で行方不明って噂にもなったけがら。」
「ご存知なんですか?」
「知ってるも何もライバルのグレードホープと同学年で岩手を盛り上げた一人だべ。」
「んだんだ、岩手で初めてダービーグランプリ勝ったウマ娘だべよ。ダンスも歌も上手くてな。そうが、先生さなったが。」
「そんな方だったんですね!ではライブも期待できますね!」
「うんまあ。(それ程では……。)」
「そうだな……。(南部杯のオペラと比べたらなあ。)」
ライブ会場は帝王賞の時とほぼ変わらずまばらであった。
その中でアブクマポーロがウイニングライブをなんとかやり切った。
「どう思う?オペラ。」
スイフトセイダイがメイセイオペラに感想を聞く。
「まあ、前よりはだいぶ良くなってますけど、ニセイ先輩が見たらまた苦虫を噛み潰したような顔するんじゃないんですかね?」
「ま、あいつはな。そっか、前よりはマシか。そうだな、まだ二か月しか経ってないんだ。大目に見てやってくれ。」
そう言ってスイフトセイダイはメイセイオペラの肩をポンとたたいて去っていった。
アブクマポーロは決して満足できるウイニングライブではなかったがなんとかパフォーマンスを終える事ができた。
(次の川崎記念でもっといいパフォーマンスを見せるよ!今日より多くの観戦者に立ち止まってもらえるようにダンスレッスンも頑張るよ!今度はあいつを従わせてやろうかな。)
などと考える余裕すらできるようになっていた。
数日後、寮の部屋で就寝前、機嫌がいいのか珍しくメイセイオペラはアブクマポーロに声をかけられた。
「おい、川崎記念楽しみにしてるぞ。」
と言って眠りに入った。
(ヤロウ、またなった気さなって!ああ、川崎記念ではオレが勝ってみせるよ!)
そう思っていたのだが、後に思わぬ方向へかじを切ることになったメイセイオペラであった。
Chapter3 果断なる者
メイセイオペラは年末帰省することにした。
たまたまユキノビジンも新幹線の指定席を確保できたので一緒に帰省することになった。
その前に年末の挨拶と次走のレースの話し合いをトレーナーとする予定でいた。
トレセン学園から少し離れた貸し会議室で行われる運びとなった。
「東京大賞典はお疲れ。疲れはどうだ?」
「まあ、多少はありますが水沢に帰ってリフレッシュしてきます。」
「そうか。」
ちょっと沈黙があってトレーナーは本題に入った。
「次はどうする?」
「やっぱり川崎記念ですか?」
「川崎記念か……。まあそっちでも悪くはないが……。思い切ってこっちに出てみないか?」
「こっちって……もしかして?」
登録用紙をメイセイオペラに見せた。
「君は1600、2000どちらが得意かと考えるとこっちが向いてると思うのだがどうだ?」
「フェブラリーステークス……。」
東京レース場、1600Mのダートで争われるトゥインクルシリーズ(中央)G1で、年最初の中央G1でもあるフェブラリーステークスの登録申込用紙であった。
「このレース出ることできるんですか?」
「出れられるだろ。南部杯勝ってるし。地方で君ほど相応しいウマ娘はいないと思うが。」
「まだ、オレにそんな力はないと思ってました。出られるんなら再来年って思ってましたし。」
メイセイオペラは迷っていた。
アブクマポーロの出る予定の川崎記念に出走したい、でも中央G1のフェブラリーステークスもいつか走ってみたかった。
そしてこの2つのレースは日程が近いこともあり2つとも出走するのは不可能である。
「どうだ?決めかねてるのであれば年明けまで考えてもいいが……。」
トレーナーは即答を求めてはいなかった。
その時ふと偉大なる先輩の言葉を思い出した。
「あ……。」
思わず声を出してしまった。
〈アブクマポーロだけ見てりゃ良いってことじゃねぇんだよ!〉
聖蹄祭での模擬レース後に言われたその言葉が頭の中でよぎった。
トウケイニセイはレース中の展開でそう言ったのだが違う発想で決断に至った。
「あの……。今ここで決めてもいいですか?」
「ああ、構わないよ。」
「オレ、出られるんならフェブラリーステークスに出走したいです!あいつに勝ちたいって気持ちも正直あるんですけど、いつか中央に挑戦したいって気持ちもありましたし。今回は府中で走ってみたいです!」
「わかった。では登録しておく。」
トレーナーからは少し笑みがこぼれた。
「でも勝ち負けになりますかね?」
不安を漏らした。
「なるだろそりゃ。よっぽど体調悪いとか、あと芝の有力ウマ娘が出ることとかでなければ。あと、芝コースのトレーニングもしないとな。」
「でもスタートだけですよね?トレーニング必要ですか?」
「スタートを甘く見るなよ。出遅れならまだしも昔、芝とダートの切れ目で脚取られ骨折してそのまま引退したウマ娘いるからな。念入りにやるぞ。」
「(え?嘘?怖っ!)……わかりました。」
メイセイオペラは年明けで最初の中央G1のフェブラリーステークスに出走を決断した。
そのまま東京駅に向かいユキノビジンと合流して水沢に帰省したのであった。
「ふ~む、どうしたものか?」
アブクマポーロの所属するチーム「ダイオライト」のトレーナーアキヤマは頭を抱えていた。
「どうした?ダンナ。普段以上に浮かない顔して。」
チーム部屋にいたイナリワンが茶化して言った。
「いや、(キョウエイ)マーチの次のレースどうしようかと思って。って!普段以上ってなんだよ!」
「何、お嬢のレースのことで悩んでたのか?」
「ここのところ勝ちきれてないからな。決して不調な訳でもないのだがなぁ。」
「(ティアラ路線はメジロドーベル、短距離マイルはタイキシャトルに勝負付されたか感じだからそれ以外)となるとあとは……。」
イナリワンも考えたが良い案は思いつかなかった。
「なぁ、イナリ。お前にとって『負けたくない相手』って誰だ?」
「そりゃ聞くまでもねぇだろ、ダンナ。向こうは浪速、こっちは江戸ってことで……。」
「やっぱりそうか。」
「って!最後までちゃんと聞けよ!……って言いてぇとこだが、やっぱり同じ地方出身、中央に転校後大活躍したあいつだよ!」
「オグリキャップ……。」
イナリワンはオグリキャップ、スーパークリークと並んで「永世三強」と言われてはいた。
「ああ、向こうがなんでも先行しているのを承知の上で意地でも負けたくなかった。あいつも笠松を背負ってるかもしれねぇがこちとら南関東の大看板背負ってんだ!っていう気持ちだったな。特に有馬(記念)の時はな。」
「そうか……。」
「で?ダンナどうすんだい?」
「思い切ってこれに出してみようかと思う。イナリ、協力してくれないか?」
登録用紙を見せた。
「はは~ん、そういうことか。だったら、あたしより今こっちにいるあいつらにお願いしてみたらいいんじゃねぇのかい?こっちには出走しないだろ?でもこのこと知ったらお嬢、血相変えて飛んでくるな。」
「まあ、その時はその時でなんとかしてみるよ。」
「しかし随分と思い切ったな。」
「まあ、荒療治みたいなもんか。一か八か賭けてみる。負けたくない相手がいれば尚更二冠目いけるかもしれない。」
「負けたくない相手か。するってぇとダンナ、そいつは……。」
「まあ、川崎記念に行くかもだが距離適性を考えると当たる可能性がある。」
「なるほどな。負けたくないってのは『地方のウマ娘』ってわけだな。まあ、あとはお嬢の返答次第だな。」
アキヤマは決断した。
「さて、つぎのレースはどうするべきか?」
カフェテリアにてタイキシャーロックはエムアイブラン、バトルラインにティータイムで次走の話題を振ってみた。
「シャーロック先輩は決まってるんですか?」
「まあ、去年と同じかな。バトルもだろ?お前はその前に平安ステークスあるけど。」
「そうですね。まあ、そんな感じです。ブラン先輩は?」
「まあ、次のレースで50戦目の節目だからな。それに相応しいレースに出るよ。」
三人は同じレースに出るのを確信した。
「あとは……。他に誰が出てくるか?ですよね。」
バトルラインは疑問を提示する。
「まあ、どっちかは来るかな?」
「誰が来たって勝ちに行くまでだ。」
「そうだけど、ブラン、やっかいなのは……。」
タイキシャーロックは言いかけてやめた。
「やっぱ、オペラ出て来ますかね?南部杯勝ってますし。」
バトルラインが言った。
「まあ、可能性はあるけどな。ただ、南部杯の時のような逃げの戦術は取れないぞ。」
タイキシャーロックは答えた。
「え?どうしてですか?」
「いくらコース形体が似通っていても府中と盛岡では事情が違いすぎる。最終直線も府中は長い。 それにスタートは芝を100Mほど走るから無理にはいかないだろ。まあ、前目でレースするとは思うが。」
バトルラインの問にタイキシャーロックは冷静に言った。
「メイセイオペラか……。アブクマポーロに東京大賞典で敗れたから川崎記念行くかもだが、対策考えないとな。他にはワシントンカラーとかメイショウモトナリとか今年出走したのは登録して来るだろうな。」
エムアイブランは東京大賞典を振り返っていた。
帝王賞、南部杯、東京大賞典とメイセイオペラ、アブクマポーロの着順より下であることもあり忸怩たる思いとなっていた。
「初めて走るんだろ?メイセイオペラは。まだ府中の大観衆にも慣れていないだろうしG1ということもあって注目度も違う。簡単にはいかないさ。それに今まで地方トレセンに所属したままで中央G1に勝ったウマ娘は存在しない。こちらが有利なことに変わりはない。今年のフェブラリーはとりそこねたからな。南部杯の借りもあるし頂点を目指すさ。」
「そう簡単にはさせませんよ。シャーロック先輩。」
「シャーロック、復調してきたな!倒しがいがあるぜ。」
三人はライバルでもあり仲間でもある。
互いに切磋琢磨しあいダートの最前線で戦ってきた自負もあった。
それだけに来年最初のG1にかける思いはひとしおであった。
Chapter4 里帰りの一夜
メイセイオペラはユキノビジンと共に岩手トレセン学園水沢校、水沢レース場に着いた。
年明けの三日「桐花賞」の準備で大わらわであった。
「先輩、帰って来ました!」
「おう、来たか。まあ、ちょっと慌ただしいがゆっくりしてけ。ユキノもよく来たな。」
大みそかで雪も少し降ってきて岩手に帰って来た実感がした。
「お姉、お帰り。ユキノさんもお久しぶりです。」
「あ、ユウシャちゃん、久しぶりだね。昨日レース勝ったって?初勝利おめでとう!」
ユキノビジンが祝福した。
「ありがとうございます。ユキノさん、やっと勝ってホッとしました!お姉が東京大賞典勝てなかったんでその分頑張りました!」
「うるせぇ!」
デビューから5戦目での初勝利であった。
その分気分が軽くなって軽口をたたきメイセイオペラが反応した。
「そういや、(トウホウ)エンペラーは?」
メイセイオペラが聞くとトウケイニセイとメイセイユウシャは顔を見合わせ、トウケイニセイは答えた。
「あいつは実家に帰した。」
「それって……。」
「いや、まだ身体がな。走りはまずまずだが、こればっかりはな。あと半年、それ以上時間かかるかもな。何しろ誰かさんみたいに身分不相応にハードなトレーニング隠れてしてたからな。」
「さあ?誰何でしょうね?不相応なトレーニングしたのって?」
「鏡を見ろ。鏡を。」
すっとぼけてるメイセイオペラにトウケイニセイはツッコんだ。
そこへサカモトサクラが通りかかった。
「お、サクラ!今帰って来たよ!」
「……お帰り。オペちゃん。」
うつむき加減で表情が硬くなっていた。
「どした?元気ないみたいだけど。何かあったか?」
「何でもないって。」
「そか。じゃあ、今日大みそかだから年明けに駒形神社行こうぜ!去年も行ったから。」
「初詣?別にいいけど……。じゃ、私ごはんの用意あるから……。」
「また後でな。」
サカモトサクラは去っていった。
「サクラ何かあったの?」
メイセイオペラは妹のメイセイユウシャに訊ねた。
「サクラさん、最近ちょっと元気ないんだよね。お姉帰ってきたから元気になるかと思ったけど。お姉の方こそ何かやらかしたの?」
「やらかしたってなんだよ!そういや最近電話しても素っ気なかったから気になってたんだけどな。あ、お前も初詣行くか?」
「私はパス。残念だけどバイト。(新聞の)新年号の配達あるから。朝早いし普段よりも重いから早めに寝たい。」
「それもそうか。」
その後、大みそかということもあってささやかな宴が行われた。
「そういや、お前、次のレース決まったのか?」
「ええ、こっち帰ってくる前にトレーナーに呼び出されて相談した結果、次走『フェブラリーステークス』に出走することにしました!まだ、出れるかどうかわかりませんけど。」
宴会の中、トウケイニセイの問にメイセイオペラは率直に答えた。
「そうか、中央を選んだか。まあ、距離的にはそっちのほうがいいかもな。川崎記念よりも。」
「いつか出てみたいレースだったんで。」
「アブクマポーロはやっぱ川崎記念か?」
「そうみたいです。まだこっちは(次走)決まってもいないのに『川崎記念楽しみにしてるぞ。』って言ってましたし。」
トウケイニセイは続けて問うてメイセイオペラも答えた。
「オペラちゃん、アブクマポーロさんさ次のレースのこと言ったほうがいいじゃねぇのが?」
ユキノビジンが心配になって言った。
「そうですかね。まあ、年明け戻ったらそれとなく言いますよ。」
「いやいい、オペラ黙っとけ!突然知ったらビックリして鳩が豆鉄砲食らったようなツラするんじゃねぇのか?あいつ。」
メイセイオペラは素直に答えたが、トウケイニセイはケラケラ笑いながら意地悪く言った。
「ニセイちゃん、性格悪すぎだべ。」
「先輩のそれは今に始まったことではないですから。」
「あいつが悪いんだろ?どれだけ勝ってんのか知らねぇが俺の勝数超えてからデカいツラしやがれっててんだ!」
トウケイニセイはそう言いながらニンジンジュースをあおった。
「そういや、オペラ。以前、ユニコーンステークス(骨折のため回避)の前に俺が言ったこと覚えてるか?」
「覚えてますよ。」
「まあ、そんな感じで走れたらいいとこいけるかもな。ただ、最初芝だからそれ次第だな。」
「ええ、なのでそこら辺のトレーニングしろって言われました。」
「そうか。まあダートに入る時にいい位置つくかだな。(まあ、アドバイスは全部俺の担当だったやつの受け売りだったけどな。)」
その時のことをトウケイニセイは思い出して少し不機嫌になった。
毎年フェブラリーステークスの日にトレーナー室に呼び出され無理矢理レースを観させられた。
「出れやしねぇのに……。」
「今はな。でもあの画面の向こうのウマ娘達よりお前の方がもっと強い。いつかお前の力を中央のやつらに認めさせるまでさ。」
そうして耳にタコができるくらい府中ダート1600の走り方を喋り続けていた。
(あいつ、ホントどこ行きやがった!見つけたら速攻でぶん殴ってやる!)
思い出し怒りで手に持っていたニンジンを無意識で粉々にしていた。
「先輩!オレ何かしましたか?」
「なんでもねぇよ!」
メイセイオペラが怖怖訊ねたが不機嫌にそう答えるトウケイニセイであった。
次走フェブラリーステークス参戦にサカモトデュラブも反応した。
「え、オペラ次フェブラリーだって!すげー!って、南部杯勝ってるしまあ妥当っちゃ妥当か。」
「ええ、まだ正式ではないですけど。」
「府中か……。私もガーネットステークス走ったけどブービーだったから……。」
「デュラブ先輩……。」
「あ、そうだ、サクラにも伝えてくる。」
サカモトデュラブは厨房へ向かって行った。
「サクラ、オペラ次フェブラリーステークス出るってよ!」
「フェブラリーステークス……。スゴイね……。」
姉のサカモトデュラブのテンションとは対称的にサカモトサクラの方はやや沈んだ面影になっていた。
「どうした?疲れてんのか?無理しないで早めに休むか?」
「大丈夫よ。それにこれからオペちゃんと初詣行くし。」
「そっか。んじゃ、お前もそんなとこいないで席ついて食え。なくなっちまうぞ。」
「うん、これ片付けたら行くから。」
サカモトデュラブは去って行く。
(ああ、オペちゃんはスゴイね。どんどん実績上げて……。どんどん私から離れて行くね……。中央のレースに参加するってことはやっぱり……。)
拭いきれない疑念が湧いていた。
年明けすぐに駒形神社へ一年のレースの無事と勝利を祈願するためメイセイオペラはサカモトサクラと初詣に向かった。
列が並んで多少時間がかかったもののお参りを無事に終え二人はうっすら雪の積もる帰り道を歩いていた。
「去年も色々あったけど、今年はもっと成績上げたいなあ。まあ、一戦一戦やるだけだけど。」
メイセイオペラはそうサカモトサクラに言いながら歩いていた。
学内に入ると一緒に歩いていたはずのサカモトサクラが突然歩みを止めた。
それに気がつき振り返る。
「どうした?サクラ。」
意を決して深呼吸してからサカモトサクラは白い息を吐きながら問いただす。
「オペちゃんさ、春になったらこっち(水沢)帰って来るんだよね?」
「え?そのつもりだけど。」
「嘘……でしょ?私には本当の事言ってよ!中央へ転校するんでしょ?」
「そんな話なんかないって!どっから聞いた?ガセに決まってんだろ!」
サカモトサクラは突然ポロポロ泣き出した。
「だって……。オペちゃん南部杯勝つし、東京大賞典は2着だったけど好走して。それに模擬レースでもあのタイキシャトルさんとほぼ互角だったって言うし。今度、フェブラリーステークス出てそれに勝ったら……。中央の人達黙ってオペちゃんのこと手放すわけないよ!人の気も知らないで!オペちゃんなんかもう知らない!」
そう畳みかけるよう言い放ちサカモトサクラは泣きながら叫ぶように言うと反対方向に駆け出してメイセイオペラから離れていった。
「おい、サクラ!サクラ……。」
呼び止めたものの反対方向に駆け出していったサカモトサクラの雪の足跡が残っていただけだった。
偶然、暗い中そのやりとりにトウケイニセイが出くわしていた。
(そういうことか……。)
南部杯の時浮かない表情だったのも最近元気がない様子も合点がいった。
メイセイオペラはしばらくその場に立ち尽くしていた。
その後、メイセイオペラはサカモトサクラと誤解を解くため話し合おうと思っていたが急に実家に帰ってしまったらしく自分自身も実家に帰ったため、話し合えないまま府中に戻ることになってしまった。
水沢江刺駅で新幹線を待っているメイセイオペラにトウケイニセイが見送りに来た。
「先輩!珍しいッスね。見送りに来てくれるなんて!」
「まあな。お前に渡すの忘れてたから。ほれ。」
蹄鉄をレジ袋に入れて渡した。
「靴もって考えたがお前のサイズ知らなくてな。サクラに聞こうって思ったら急に実家帰っちゃうし。」
「ありがとうございます。靴はなんとかします。」
「おう、……ところでサクラの事、心配か?まあ、なんだ、お前とサクラが初詣行った帰りのやりとり偶然見ちまってな。」
「見てたんですか?そうですか……。気にはなりますが……。」
「その件については俺に任せろ。多分なんとかしてみせる。で?本当に中央行くって話はねぇのか?」
「あったらいの一番に先輩に相談しますよ。」
「それもそうか。とりあえずはだ、レースの事だけ考えてろ。」
「わかりました。サクラの事お願いします。」
「ああ、ぶちかまして来い!」
新幹線にメイセイオペラは乗り込んでトウケイニセイに深々頭を下げていた。
ドアが閉まると東京行きの新幹線はうっすらと雪をまといながら静かに動き出して行った。
番外 ある雪の日
(雪か……。)
冬になって毎日のように雪が降ってくるようになった。
(あいつと初めて会った時のこと思い出すな。)
空を見上げながらトウケイニセイはその日を振り返っていた。
4月になって暖かくなったもののその日は季節はずれの水分を含んだ重たい雪が降っていた。
「おい、部屋くらい片付けとけよ。今日来るって言っただろ?」
トウケイニセイの担当トレーナーは散らかった部屋を見てそう言った。
「え?誰が来るんだよ?」
「この間、『中央から一人来る』って言ったじゃないか。お前の部屋、お前一人だからそいつと相部屋なるって。」
「言ったっけ?中央ってことは訳アリのやつか。無礼られないようにしねぇとな。」
「おい、揉め事はやめろ。」
トウケイニセイの部屋は先輩と相部屋だったが、その先輩が卒業していったので一人部屋になっていた。
「早く片付けろよ。」
「名前はなんて言うやつ?」
「ユキノビジンっていうそうだ。」
そう言うとトウケイニセイは怪訝な顔になった。
(子どもにビジンって名前つけるか?めぐさかったらどうすんだよ?※めぐさい=めんこいの対義語)
なんとか部屋を片付けてしばらくするとノックする音がした。
ドアを開けると大人しそうなウマ娘が立っていた。
「お前がユキノビジンか?」
トウケイニセイが問うとそのウマ娘は黙ってうなづいた。
「入りな。(親スゲー!めんこいじゃねぇか!なんで訳アリなんだ?)」
恐る恐るユキノビジンは部屋に入った。
「あ、ここの寮オンボロでな。雨漏りしてるから気を……。」
「しゃっけ!(冷たい!)へなが(背中)さ入ったじゃ!」
「お前……。」
「あ!」
ユキノビジンは咄嗟に出た訛りで赤面し両手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。
「……で、訛って言葉が通じなかったり笑われたりで恥ずかしくなって誰とも話しができなくなって中央にいられなくなってこっちに来たと……。」
トウケイニセイが時間をかけてゆっくり色々問いただすと顔を両手で覆いつつ無言でうなづいてそういう事情であることがわかった。
「事情はわかった。でもここがどこだと思ってんだ?お前の言葉大体通じると思うぞ。」
「んだね!それ忘れてたべ!なしてこっただ心配してたんだべ!」
手で覆ってた赤い顔が平常に戻った。
(こんなに訛ってるやつは今どき珍しいけどな。)
トウケイニセイは思わず苦笑いしてしまった。
岩手トレセン学園のウマ娘達よりも訛る中央のウマ娘として親しまれるようになった。
その後、ユキノビジンはトウケイニセイを通じて岩手のウマ娘達と打ち解ける事ができ、岩手でメイクデビューしデビュー戦も勝利。4戦3勝の成績で中央へ戻りティアラ路線で活躍するのであった。