ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに!   作:じおじお

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MS IGLOO『大蛇はルウムに消えた』編
転生したら地獄だった件について


「あの、すいません。僕、ただの警備任務だって聞いてたんです。万が一にも戦闘はないだろうって、そう聞いてたんですけど……?」

 

「絶対にないとは言われてなかったんだろ!? 状況が変わった! 出番だぞ、新兵!!」

 

 船の外から、断続的に爆発音が聞こえてくる。

 MSのコックピットの中で補給艦パプアの艦長と会話する僕は、予想外の展開に泣きそうになりながらも準備を進めていく。

 

「敵はサラミス級が二隻! ムサイが単独で奮戦してるが旗色は良くない! 少しでも状況を変えるためには、お前がMSで出るしかないんだよ!!」

 

「僕、これが初陣なんですよ!? 無茶言わないでください!!」

 

「うるさい! いいから早く出撃しろ! これは艦長命令だ!!」

 

 ほぼ怒鳴るように叫ぶ僕に対して、艦長も怒鳴り声を返してくる。

 一体全体どうしてこうなったのだと、僕は自分自身の運の悪さを呪いながら操縦桿を握り締めた。

 

(なんでガンダム世界に転生しちゃったんだよ!? どうしてジオン側なんだよ!? せめて連邦軍だったら勝ち馬に乗れたのに!!)

 

 自分が転生者であることに気付いたのは、少し前のことだ。

 前世の最後の記憶は暴走するトラックが突っ込んでくる場面で、次に気が付いた時には今の僕になっていた。

 

 この世界での僕の名前はクロス・レオンハートというらしい。妙に格好良くて逆に困る。

 そんな僕は『ジオン公国軍突撃機動軍司令』ことキシリア・ザビ様が設立した特別競合部隊の一員でもあった。

 

 この特別競合部隊というのは、政治的権力がないせいでエリートコースに乗りそびれた若者たちを集め、功績を競わせることで優秀な人材を発掘するためのものらしい。

 ちなみに似たような部隊がもう一つあり、そちらもギスギスしながら任務をこなしているとのうわさだ。

 

(こんな部隊、原作にもあったのか!? よくわかんね~よ~!!)

 

 ちなみに僕はガンダムはそれなりに好きだが、そこまで詳しいというわけではない。

 宇宙世紀の大まかな流れだとか、一年戦争はジオン側が負けることだとか、ほどなくして連邦軍に天パの悪魔が誕生することは知っているが、詳しい流れだとかは知らないと言っても過言ではない。

 

 唯一の希望は僕にMSを操縦する才能があった、あるいは転生時に与えられたことだろう。

 訓練校時代の演習で乗り込んだザクの操縦方法はすぐに理解できたし、思うがままに動かすこともできた。

 

 だが、僕はこの才能をひけらかしてトップに立つつもりなど毛頭ない。

 競合部隊での競争に勝ち抜くということは、エースパイロットとして激戦地域に派遣されるということ。とにかく死にたくない僕にとって、命が危ないそんな状況に追いやられてしまうことは何が何でも避けなければならないことだ。

 

 ただ逆に無能を演じまくって戦場に一切出ないようにしていても、最終的には追い詰められたジオン軍によって学徒兵として戦場に送り出される未来が待っている。

 それまでに安全地帯に逃げ延びるか、あるいは経験値を積んで最終戦でも墜とされない技量を身に着けるかしないと、待っているのは死でしかないのだ。

 

 というわけで僕は平平凡凡を少し上回るくらいの評価を取るよう、色々調節した。B+狙いというやつだ。

 その目論見は見事に成功。上澄みでもないが普通と呼ぶにはちょっと優秀だな……みたいな評価を得た僕は、戦争がついに始まろうとしている中、なんだか重要な作戦への参加ではなく、補給艦の護衛任務を任されることになった。

 

(ぶっちゃけ、辞令を受け取った時は滅茶苦茶嬉しかったんだよなぁ……)

 

 補給艦の護衛任務、最高じゃあないか。間違いなく競合部隊のトップ層はこれから始まる大規模作戦に参加し、連邦軍と激戦を繰り広げることになるのだろう。

 そんな中、僕はそれとは無縁の護衛任務に就き、パプアの中でのんびり過ごせる……そう思っていた少し前の僕を全力で殴ってやりたい。

 

 合流ポイントでヨーツンヘイムとかいう聞き馴染みのない船と合流し、護衛艦であるムサイに見守られながら荷物の受け渡しを始めたところまでは良かった。

 その最中に連邦軍の艦隊に発見され、あれよあれよというまにメガ粒子砲を雨あられのごとく撃ちまくられる羽目になって……今、こうして護衛任務に就いている僕に出撃命令が下ってしまったというわけだ。

 

(しかも補給艦だから旧ザクしか配備されてない~! いや、こっちも乗りこなせるし訓練校で乗りまくったけど! せめて普通のザクが欲しかった~!)

 

 こういう時、前線に出ることのない補給艦の弱みが出る。

 命を預ける相棒はこの時点での最新鋭機であるザクⅡではなく、旧型のザクⅠ。なんとも心許ない。

 

 しかも一緒に戦ってくれる僚機もいないし、ムサイとサラミスが撃ち合う戦場にたった一機で放り出されることになった僕の心細さといったら、もう絶望以外のなんでもなかった。

 

「レオンハート二等兵! 早く出撃せんか!!」

 

「ちょっと待ってください! 心の準備を――!」

 

 急かす艦長の言葉に怒鳴り声を返し、自分を落ち着けるべく深呼吸を繰り返す。

 願わくばこうして気持ちを整えている間に戦闘が終わってほしいと思いながらも、そんな奇跡があり得るはずがないと知っている僕は思考を巡らせ続けていた。

 

(武器はザクマシンガンとバズーカ、あとはヒートホーク……いや、旧ザクにヒートホークはないんだった! ショルダータックルで戦うとか、戦争舐めてんのか!? 近接武装も用意しておけよ!!)

 

 近接用の武装が何もないことに対し、心の中で不満を漏らしながらツッコミを入れる。

 その瞬間、カタパルトが勝手に作動し、覚悟を固めきれていない僕は強引に戦闘宙域へと放り出されてしまった。

 

「うわああああああああっ!?」

 

 何も言わずに強引に出撃させるとか、この船の人権意識はどうなってるんだ?

 あの艦長、帰ったら絶対に文句を言ってやる……と、僕が悲鳴を上げながら艦長への憎しみを募らせていた時だった。

 

「えっ……!?」

 

 ピンク色の眩い輝きが映ったと思った次の瞬間、その光がパプアを貫いた。

 サラミスのメガ粒子砲が直撃したのだと、そう理解して愕然とする僕の耳に、艦長の声が聞こえてくる。

 

「レオンハート二等兵は出撃できたか!? 船の外に出ているか!?」

 

「は、はい……! 自分は出撃しています!!」

 

「そうか、良かった……! なんとなく、こうなる気がしていたんだ。君が巻き込まれずに済んで、本当に良かった……!」

 

「か、艦長!!」

 

 艦のどてっぱらに大穴が空いてしまったのだ、パプアはもう持たないだろう。

 もしも僕がいつまでも出撃せずにいたら、あの砲撃に巻き込まれて戦死していたかも……と考えたところで、あの強引な出撃の理由を理解した僕は、爆発を繰り返すパプアを見ながら艦長に向かって叫ぶ。

 

「艦長、早く脱出を! もうパプアは――!!」

 

「わかっている。だが、もう間に合わんよ。私はこの艦と運命を共にする。クルーたちもそうなるだろう」

 

「そんな、そんな……っ!?」

 

「……まだ若い君を巻き込まずに済んで、本当に良かった。不幸中の幸いというやつだな」

 

 映像は既に途切れている。爆発音と共に聞こえてくる艦長の声に、僕は愕然とするしかない。

 

「クロス・レオンハート二等兵……艦長命令だ。君は生きろ。戦争が終わるまでじゃなく、戦争が終わった後も生き続けるんだ。命を無駄にするんじゃないぞ」

 

「艦長――」

 

 僕が艦長の言葉に返事をするよりも早く、パプアが青い光を放ちながら大爆発を起こす。

 その光景を目の当たりにした僕は、やり切れない思いに心臓を鷲掴みにされるような感覚を覚えながら……大声で叫び、ペダルを踏み込んだ。

 

「よくも、よくも、よくもっ!!」

 

 バーニアを吹かして急加速。そのまま砲撃を繰り返すサラミスへと突っ込みながらマシンガンを連射する。

 相手はパプアの轟沈に気を取られ、僕の接近に気付いていない。今なら、墜とせる。

 

「みんなの仇だああああああああっ!!」

 

 喉が枯れんばかりに吠えながらブリッジに接近、バズーカを構え、引き金を引く。

 轟音を響かせながら放たれた砲弾がサラミスに直撃し、甲板に穴を空け……その内部で起きた爆発が巡洋艦をただのスクラップへと変えていった。

 

「もう一隻っ!! そっちも墜とす!!」

 

 爆発を起こすサラミスの甲板を蹴り、もう一隻の戦艦へと急接近する。

 既にムサイの砲撃を受けて息も絶え絶えになっている二隻目のサラミスへと、僕はありったけの弾丸を叩き込んでやった。

 

「うわあああああああああああああああああああああっ!!」

 

 爆発。爆発。爆発。爆発。

 バズーカを撃ち切り、マシンガンを斉射し、目の前で何度も起きる青い爆発を見つめながら引き金を引き続けた僕は、やがて弾倉が空になっていることに気付く。

 その時にはもう、二隻のサラミスは宇宙を漂うデブリになっていて……戦闘が終わったことを理解した僕の耳に、ヨーツンヘイムからの通信が響く。

 

「こちら、ヨーツンヘイム……MSパイロット、クロス・レオンハート二等兵で間違いないか?」

 

「……はい」

 

 確認のための質問に、短く返事をする。

 映像もない状態だが、その声で僕の感情を察したらしき通信手は、静かな声でこう続けた。

 

「……パプアは残念だった。しかし、君の奮戦のおかげで積み荷は無事に回収できそうだ。仇である連邦軍の巡洋艦も撃沈できた。君は十分、よくやったよ」

 

「……ありがとうございます」

 

「君とそのザクⅠは我々の艦で預かる。着艦許可を出すから、帰艦したまえ」

 

「了解です……」

 

 プツン、とそれだけを言って通信は途切れた。

 そこからもすぐに動く気になれなかった僕は、ヘルメットを外すと共に顔を押さえ、呻き声を漏らす。

 

「僕のせいだ……僕が、僕が……っ!!」

 

 外伝作品も含めるとあまりにも多過ぎるガンダムシリーズの全てを網羅することなんて相当困難であることはわかっている。だが、パプアの艦長の最後の言葉を思い返すと、どうしても後悔してしまう。

 

 この戦いは、もしかしたら原作のどこかで描写されていたものなのかもしれない。

 僕がもっとガンダムシリーズに詳しければ、この任務で何が起きるのかを理解できていたのかもしれない。

 尻込みせずにすぐに出撃し、サラミスに攻撃を仕掛けていたら、パプアが沈むことはなかったのかもしれない。

 そうなっていれば、艦長も、他のクルーも……誰も犠牲にならずに済んだ。

 

 この世界では人が死ぬ。今、こうしている間にも仲間であるジオン軍の兵士たちが死んでいるのだろう。

 もっとこの世界について詳しければ、彼らを救えたはずだ。この世界に転生するなんて夢にも思っていなかったけど、そんなあり得ないことが起きてしまった今、僕は強く思うのだ。

 

「こんなことになるんだったら、もっと真面目にガンダムのことを勉強しておくんだった……!」

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