ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
「はい、コーヒー。砂糖とミルクは自分で入れてね」
「あ、ありがと……」
……リリアに頼まれた薬は、すぐわかる場所に置いてあった。
銀色の小さなケースに入ったそれを取って自分の部屋に戻った僕は、彼女に薬を渡すと共にコーヒーを淹れる。
その間に薬を飲んで落ち着いたであろうリリアは、僕からマグカップを受け取ると気まずそうにしながらそれを飲み始めた。
「約束通り、話をしてもらうよ。それを聞いた上で、このことを秘密にするかどうか判断するから」
「……ん」
ミルクと砂糖をたっぷりと入れた、もはやカフェオレみたいになったコーヒーを一口飲んだ後でリリアが頷く。
彼女とは真逆の何も入れていないブラックコーヒーを飲んだ僕は、早速気になっていたことを質問してみた。
「さっきの薬は何なの? もしもあれが危険な薬だっていうのなら、流石に僕も黙ってるわけにはいかない」
「……そういうのじゃないよ。ただの精神安定剤」
「本当に?」
「疑われて当然だとは思ってるけどさ、麻薬とかだったら飲むんじゃなくて注射する方が一般的でしょ? それに、そんな危ないものを飲むところをわざわざ誰かに見せたりしないって」
リリアの言う通りかもしれない。
もしもあれが覚せい剤のようなものならば、必死に隠そうとする方が自然だ。
そうではなく、堂々と僕の前で飲んでいる姿を見せたのだから、薬自体は非合法なものではないのだろう。
そう納得した僕は、彼女に次の質問を投げかける。
「この薬はどこで手に入れたの? 基地内の医務室だとしたら、ヨハンソン大尉にも報告がいってるはずだよね?」
「……お金を渡せば秘密にしてくれる軍医もいる。そういう人に頼んで、こっそり処方してもらってるの」
そこまでして隠すか、と思いながらも、リリアの行動はある意味当然だとも思ってしまう。
精神的な病に罹ったと知られたら、過酷な戦場のストレスに耐えられない軟弱者扱いされてしまう可能性はある。
そうなればエース部隊への転属も夢のまた夢……評価に関わる以上、ヨハンソン大尉にも隠しておきたいと思うのは当たり前だろう。
「……いつから薬を処方してもらうようになったの?」
「地球に降りてちょっと経った頃かな……北米を転戦して、色んな所を見て、それで……コロニー落としの被害を自分の目で見ていく内に、段々具合が悪くなっちゃってさ」
自嘲気味な笑みを浮かべながら、リリアが僕の質問に答える。
どこか遠い目で床を見つめる彼女は、この一か月で思ったことを僕へと吐露し始めた。
「コロニーが落ちたせいで地形が変わったり、街が滅茶苦茶になってたりしてた場所を幾つも見てたらさ、心の中がモヤモヤするようになった。上手く言葉にできないんだけど……死んだ人たちの怨念みたいなものを感じるようになってきたんだ」
「それは……」
「ヤバいよね? 自分でももう末期って感じがしてる。全部、自業自得なのにね。あの作戦に参加してる時は何も思わなかったのに、自分がしたことを自分の目で確かめたら急におかしくなっちゃっただなんて、本当にバカバカしいよ」
ここ、北米大陸にはブリティッシュ作戦で地球に落としたコロニーの一部が落下している。
ガンダム本編でもやっていたが、セント・アンジェという町がコロニー落としの影響で荒野になっていたりと、戦争の爪痕が大きく残る地でもあった。
思えば、キャリフォルニア・ベース攻略作戦中にもリリアはどこか妙な態度を取っていた。
あの頃から彼女は自分のしたことを後悔し始めていたのかと……そのことに気付いた僕へと、彼女は語り続ける。
「戦ってる最中は大丈夫なの。むしろ、感覚が冴えるっていうかさ……普段感じてる敵意とか悪意みたいなものが、戦ってる相手のものに切り替わるだけ。だから、逆に戦いやすくなるんだよね。でも、ふとした時にさっきみたいな感じになっちゃって、それを抑えるためにこの薬を使ってる」
「……そっか」
「……納得してもらえた? それで、次はどうするの? ちょうど時間もベッドもあるけど……」
言うべきことは言ったとばかりにそう呟いたリリアは、自分が腰掛けていたベッドを見やった。
彼女が言わんとしていることを理解した僕は、息を吐いた後に言う。
「別に、これ以上君に何かをしてもらおうだなんて思ってないよ」
「えっ……?」
僕の答えはリリアにとって予想外だったようだ。目を丸く見開いた彼女が驚いたような声を漏らす。
とんでもない弱みを握ったというのに、別段何かを要求しようとしない僕の態度が相当予想外だったのか、何も言えなくなっている彼女に対し、僕は顔をしかめながら口を開いた。
「その薬が危ないものじゃないってことはわかったし、秘密にしてる事情も聞かせてもらった。ここ一か月の間、作戦行動中に君に異変があったところは見てないから、本当に戦闘中は発作も起きないんだと思う。だったら、僕は何も言わないよ。リリアの意思を尊重して、このことは秘密にしておくから」
「……本気で言ってる? 今なら何でもできるんだよ?」
「本気だよ。まあ、仮に手を出すとしてもさ……吐いた後の女の子とキスしたくない」
「むっ……!」
ぶっちゃけ、僕は元の世界でも童貞だったしまともに女の子と付き合ったことすらなかった。
リリアの弱みを握った今、彼女を好きにできると言われても……あんまり喜べないし、むしろ罪悪感がすごい。
そういった気持ちを隠すついでに少し冗談めいたことを言えば、彼女は怒るべきか笑うべきか迷った後でため息を吐き、僕へと言った。
「……ありがと、助かる」
「わかってるとは思うけど、容態が悪化したり状況が変化したら隊長に報告することもあるかもしれないってことは頭の片隅に置いておいてね?」
僕の言葉に小さく頷いたリリアは、再び甘いコーヒーを飲み始めた。
結構リラックスしてくれてるみたいだなと、安心したせいか無防備な姿を見せるようになった彼女は、顔を上げると共に口を開く。
「見られたのがクロスで助かったよ。これがガスとかだったら、もう色々終わってた。ベッドの中で無茶苦茶にされた後であっさり約束を反故にされて泣き叫ぶ自分の姿が簡単に想像できるもん」
「あはは……笑えないけど、そうだね。まあ、不幸中の幸いってやつだと思いなよ」
やっぱりガスって印象最悪なんだなと思いながら、改めてリリアを見やる。
抜群にかわいらしい顔立ちと小柄ながらも胸とお尻は大きなトランジスタグラマーな彼女の弱みを握ったら、確かに大半の男は手を出そうと考えるだろう。
僕もこの宇宙世紀の倫理観で生きていたら、ここで彼女を襲っていたのかなと少し不安になった。
同時に、こんな重大な秘密を握っても大したことができない自分はかなり情けないのかもなと思っていたところで、マグカップを置いたリリアが言う。
「変な奴だよね、クロスってさ。っていうか、甘い。ライバルが死んだり、弱みを握れたりしたら、普通は大喜びするはずなのに……そういうことしないじゃん」
「ああ、うん……誰かが苦しんだり、いなくなったりするの、好きじゃないんだよ。それが戦功を争うライバルだとしても、死んでほしくない。そもそも僕たち、同じ部隊の仲間じゃないか。困ったら助け合おうよ」
「……やっぱり甘いね。でも、そういうの嫌いじゃないよ」
甘いと言えばその通りなのだろう。今、リリアが飲んでいるカフェオレみたいに、僕のしていることは甘っちょろい。
周りを蹴落とすこともせず、ライバルの不幸を喜びもせずにいる僕は、特別競合部隊にとっては異端児なのだ。
ただ、僕はやっぱり周りの人たちに死んでもらいたくないし、自分から蹴落として殺してやろうだなんてもっと思えない。
そういう甘さを抱えて、この宇宙世紀を生きていこうと……そう決めた僕もまた、ブラックコーヒーに砂糖とミルクを大量に入れると、甘ったるいそれを一気飲みするのであった。
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