ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに!   作:じおじお

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遠吠えは天高く轟く、一抹の苦さを残して

(いける……! 流れはこっちだ。多少、敵の方が数が上でも、勢いで乗り切れる!)

 

 相手は予想外の増援と変形したヒルドルブに面食らい、勢いを削がれている。

 一応、単純な数としては三対二なわけだが、こちらの方が勢いも性能も上だ。

 

 何より、相手の隊長機はダメージを受けている。ヒルドルブもダメージこそ受けているものの、あのザクに比べれば軽傷だ。

 まずは小回りの利く戦車を潰し、次に万全な状態のザクを潰す。手負いの隊長機は最後に倒せばいい。

 

 ……そう、普通は考えるだろう。だが、僕の考えは違った。

 

(あの隊長機だ! まずはあいつを潰す必要がある!!)

 

 輸送機の中で話していた、敵部隊の恐ろしさ。アクセルの言葉を借りれば、()()()()()()()というのがそれだ。

 この部隊の隊長であるあのパイロットには、勝利に向けてのビジョンがある。同時に、ザクを運用しての戦闘経験とMS部隊をどう動かせばいいのかという実践を経て培われた知識があるのだ。

 

 何より、『MS IGLOO』のヒルドルブ回、そのラストを知っている僕からすれば、あの男の執念は決して軽く見られるものではない。

 ここで確実に仕留める……あの男だけはここで倒さないと、後の連邦軍の戦いに大きく貢献してしまう存在になるという確信が、僕にはあった。

 

「ヒルドルブ、僕が前に出ます。なんとしても、あの隊長機だけは潰さなくては」

 

「あぁ? 手負いのザクを最優先で狙うのか?」

 

 ヒルドルブのパイロットも僕の言葉に困惑しているようだ。

 しかし、揉めている暇はない。一刻も早く隊長機を撃破しなければと、僕が考えたその時だった。

 

「ぐああっ!?」

 

 突然の爆風を浴びた僕のザクが軽くよろめく。

 周囲を走り回っていた61式戦車が、ヒルドルブに攻撃を仕掛けたのだ。

 

 考え過ぎて先手を取られてしまったことに舌打ちを鳴らした僕は、急いで走り回る61式戦車を仕留めようとしたのだが……五体満足だった方のザクが、ヒートホークを手に飛び掛かってきたではないか。

 

「くっ! こいつら……!!」

 

 急いでヒートホークを取り出し、その攻撃に対応した僕は、直感で相手の目的を理解した。

 僕が考えているのとほぼ同じ、だが真逆のことを……こいつらは考えている。

 

 その証拠に、同じザクだからか拾えてしまった相手側の通信が、僕の耳に響いてきた。

 

「隊長! ここは俺たちに任せて、撤退を!!」

 

「このデカブツだけでも仕留めてみせます!」

 

「何言ってんだ、お前ら!? 逆だ! ここは俺がなんとかするから、お前たちは撤退を――!!」

 

(間違いない! こいつら、理解している!!)

 

 この場で誰が生き延びたら脅威になるのかを、連邦軍の兵士たちは理解している。

 自分たちよりもこの隊長が……経験豊富かつ自分たちをここまで育て上げた男が生き延びる方がジオンにとって脅威になると、わかっているのだ。

 

 だから捨て駒になろうとしている、敬愛する隊長を生き延びらせるために。

 相手の考えを読むと同時に部下たちにここまで信頼されている隊長の恐ろしさを改めて認識した僕であったが、相手側の必死の妨害によって反撃が上手くできずにいた。

 

「マリオン、ボロゴロフ……すまん!!」

 

「くそっ、マズいっ!!」

 

 部下たちの自己犠牲を目の当たりにした隊長機が、踵を返して逃亡を図る。

 それを追おうとする僕であったが、隣のヒルドルブが砲撃を受けてダメージを受ける様を目にして、まずは味方を守らなければと考えを切り替えた。

 

「これを使ってください!」

 

「ぐっ、すまん!!」

 

 弾切れになったザクマシンガンを放り捨てたヒルドルブへと、使っていない自分の武器を投げ渡す。

 それを使ってようやく61式戦車へと反撃を始めたヒルドルブを横目に、僕もまたヒートホークを振るって目の前のザクを押し返した。

 

「退けっ! 邪魔だっ!!」

 

「ぐおおおおっ!?」

 

 J型に改修を加えたこのG型ザクの方がパワーは上だ。

 スラスターを吹かし、一気に相手を押し退けながら相手のザクのヒートホークを持つ腕を叩き斬った僕は、そのまま逃げる隊長機を追う。

 

(振り返らない! 逃げることに集中している! あるいは――!!)

 

 迫る敵に対して反撃を仕掛けることもせず、ただただ前に前にと走り続ける隊長機の行動は正しい。

 脚を止めることなく走るのは、それが自分のすべきことだと理解しているからか、あるいは……後方で自分のために命を捨てる部下たちの最期を見たくないからかなのかは、僕にはわからない。

 

 マシンガンをヒルドルブに渡してしまった今、僕の手にあるのはこのヒートホークだけだ。

 これを叩き込むためにも、どうにか接近しなくては……と陸戦高機動型ザクの機動力を全開にして隊長機を追撃しようとした僕は、その瞬間に言いようのないプレッシャーを背後から感じた。

 

「っっ!?」

 

 何か脅威が背後から迫る感覚に、肉体が勝手に反応する。

 前方ではなく横方向へと回避運動を取りながらザクを百八十度回転させれば、そこには先ほど片腕を叩き落したはずのザクが仲間の物と思わしきマシンガンを拾い、こちらに攻撃を仕掛けている姿があった。

 

「こっ、こいつ! 後ろに目があるのか!? ぐああっ!?」

 

 不意打ちを完全に読まれたザクのパイロットが驚愕する中、肉薄した僕は再びヒートホークを振るった。

 ギリギリで致命傷は回避されたが、残るもう片方の腕を叩き落した僕へとザクが最後の反撃を仕掛けてくる。

 

「うおおおおおおおおおっ!」

 

 腕もない、武器もない、そんなザクができる最後の反抗といえば、体当たりだ。

 少しでも時間を稼ぐためにと抵抗を繰り出すザクであったが……僕は、こうなることを予測していた。

 

 軽くサイドステップを踏み、横薙ぎにヒートホークを振るう。

 赤熱している刃にザクのコックピット部分が触れ、そのまま両断されるのと、61式戦車を撃破したヒルドルブが逃げる隊長機のザクに向けて砲撃を繰り出したのは、ほぼ同時だった。

 

「生きてください、フェデリコ隊長っ! 俺たちの仇を――!!」

 

 断末魔の叫び、あるいは願いを託した咆哮。

 その叫びは最後まで紡がれることはなく……ザクは、上半身と下半身を両断されて動きを止めた。

 ヒルドルブに砲撃されたザクも上半身が吹き飛んでおり、全てが終わったことを理解した僕はやり切れない気持ちを抱えながら息を吐く。

 

(わかっていたことだ。でも、僕たちが戦っている相手も、やっぱり人間なんだな……)

 

 頭では理解している。でも、こうして戦っている相手の声を聞いてしまった今、その当然の事実を改めて認識してしまう。

 連邦軍の兵士たちも、僕たちと同じ人間だ。誰かを信じ、仲間を大切に思い、命を懸けて戦う……普通の人間なんだ。

 

 僕は今まで、その人間を数え切れないほどに殺してきた。

 その事実を再認識し、崩れ落ちたザクたちの残骸を見つめる僕へと、ヒルドルブのパイロットが声をかけてくる。

 

「お前さんがマシンガンを渡してくれたおかげで邪魔な戦車をどうにかできたぜ。こいつはデカい借りが出来ちまったな」

 

「気にしないでください。間に合って良かった……その機体の状態はどうですか?」

 

「ああ……中破ってところだな。弾はほぼ使い切ったし、移動機能もやられた。だがまあ、戦果としては上々だ」

 

「そうですね……誰も死ななかった。今は、それだけで十分過ぎる戦果ですよね……」

 

 ヒルドルブは原作以上のダメージを負ってしまったようだが……原作では死んだパイロットは、こうして生きている。

 今はそれだけで十分だと考えを切り替えながら息を吐いた僕に対して、その彼は言った。

 

「そういえば、まだ自己紹介をしてなかったな。デメジエール・ソンネン少佐だ。助けてくれてありがとよ、クロス」

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