ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに!   作:じおじお

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勝ったからこそ変わるもの、勝ったとしても変わらないもの

「お久しぶりです、マイ中尉」

 

「事情はこの二人から聞いているよ。また君に助けられることになるとはな……」

 

 戦闘からしばらくして、リリアたちと合流した僕は、そこで待っていたマイ中尉とキャデラック特務大尉と久方ぶりの再会を喜び合っていた。

 二人とも大した怪我がないことに安堵する僕に向け、マイ中尉は言う。

 

「予想外の戦闘でヒルドルブはかなりのダメージを受けてしまったみたいだ。輸送機に乗せるにはスペースが足りないし、コムサイと一緒にここに投棄していくしかないな……」

 

「今は死者が出なかったことを喜ぶべきです。兵器は、また生産できますよ」

 

「その通りだ。今はあのクソッタレな連邦のザク部隊を殲滅できたことを喜ばないとな!」

 

 僕とマイ中尉の話に割って入ってきたのは、左目の上に大きな傷跡が残る男性だった。

 彼がヒルドルブのパイロット……デメジエール・ソンネン少佐だと一発で理解した僕の肩をバンバンと叩きながら、少佐が言う。

 

「まさか、あのザクのパイロットがお前みたいなひよっこだったとはな! まあ、お前がいなくとも奴らを倒せてたとは思うが……おかげで楽ができた。礼を言うぜ、クロス」

 

「ソンネン少佐こそ、ザクの小隊二つを相手に見事な立ち回り……感服しました」

 

「俺だけの力じゃあない。このヒルドルブの性能があってこそだ。今回のこの成果があれば、頭の固い上の連中もきっとこいつの量産を認める。そうすれば、ジオンの勝利は間違いないぞ」

 

 ……そう語るソンネン少佐の表情は、どこか狂気的に見えた。

 上手く言えないが、何かに憑りつかれているようなその顔を見て息を飲む僕に対して、彼は小さなケースを放り投げてくる。

 

「ほらよ、クロス。そいつは今回の礼だ」

 

「え? これは、いったい……?」

 

()()()()さ。俺にはもう必要ねえ。お前にやるよ」

 

 そう言って、少佐は輸送機のコックピットから出ていった。

 今しがた渡された物が何なのかわからずにいる僕が手の中のケースをしげしげと見つめる中、キャデラック特務大尉が僕の手から奪い取る。

 

「……これは、精神安定剤よ。あの人は色々あって、精神を病んでた。時折、手の震えが出るようになってたの」

 

「っっ……!!」

 

 キャディラック特務大尉の話を聞いたリリアが目を見開く。

 他人事ではないと考えているであろう彼女のことを案じながらも話を聞く僕へと、キャデラック特務大尉は言った。

 

「これを捨てたってことは、あの人も負け犬以下の存在から一端の軍人として立ち直る覚悟ができたみたいね。でも――」

 

「でも、どうしたんですか……?」

 

 ソンネン少佐の復活は喜ばしいことだ。しかし、キャディラック特務大尉はどこか悲しそうな表情を浮かべている。

 それが気になったであろうリリアが話の続きを促す中、マイ中尉が僕へとこんな質問を投げかけてきた。

 

「レオンハート軍曹、率直な意見を聞かせてくれ。ヒルドルブは、量産に値する機体だと思うか?」

 

「………」

 

 マイ中尉の、キャディラック特務大尉の、リリアとアクセルの……真っすぐな視線が、僕の心に突き刺さる。

 敢えてこの場にソンネン少佐がいないタイミングでこの話を切り出したということは、そういうことなのだろう。

 マイ中尉たちのヒルドルブへの評価を確信しながら、僕は静かに自分の答えを述べる。

 

「……ヒルドルブが素晴らしい機体であることは間違いないと思います。しかし、先ほどの戦闘での活躍は、ソンネン少佐の技量があってこそのもの。仮に今、僕やここにいる二人がヒルドルブに乗ったとしても、あれほどの活躍はできません。製造、運用面のコストを考えても……量産には向かないと思います」

 

「そうか……君も、そう思うか……」

 

 ヒルドルブは機動性と火力を併せ持った素晴らしい機体だ。しかし、運用方法が独特過ぎる。

 普通のMSとは違う戦車を運用する際の知識だったり、榴弾や焼夷弾といった砲弾を適切に使い分ける判断力だったり、MS形態と戦車形態をどちらも使いこなせるだけの技量だったり……求められるものが多過ぎた。

 

 これを量産しても、ソンネン少佐のように扱える者は少ない。ほぼ皆無だといっても過言ではないだろう。

 ヒルドルブが今の重力戦線を支えるJ型ザクやこれから開発されるグフ、ドムといったMSに代わる存在になれるとは、僕には到底思えなかった。

 

「きっと、上層部は今回の戦果を大々的に宣伝するでしょう。戦争犯罪まがいの卑怯な手段を用いて我が軍の集積所を襲撃していた連邦軍を撃破した兵器として、ヒルドルブは脚光を浴びる。でも――兵器として有用だと認められることはない。せいぜい、プロパガンダのために数機が生産されて、それで終わりよ」

 

 その現実を知った時、ソンネン少佐は何を思うのだろうか?

 再び、あの()()()()が必要な状態に戻ってしまうことも十分に考えられた。

 

 期待が裏切られた分、ショックも大きくなるのかもしれない。

 今度はもう、立ち直れなくなってしまうかもしれない。

 

 ……だが、それでも――

 

「……今は、彼が希望を取り戻したことを喜びましょう。ソンネン少佐が再び立ち上がったからこそ、これから先の話ができる。未来がどうなるかなんて、誰にもわからないんですから……」

 

「そうね……腐った軍人以下の男が、牙を取り戻した。今はそれを素直に喜ぶべきなんでしょうね……」

 

 少しだけ、嘘を吐いた。僕はこの先、ジオンがどうなっていくかを知っている。

 だけど、ここで死ぬはずだったデメジエール・ソンネンという男が、この先の歴史にどう関わり、どんなふうに生きていくかは、何一つとして知らないのだ。

 

 願わくば、彼の未来が幸せに溢れたものでありますようにと願いながら……僕は、アリゾナ砂漠を飛び立った輸送機の窓から、投棄されたヒルドルブへと敬礼の姿勢を取り、その最期を看取り続けるのであった。

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