ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに! 作:じおじお
――宇宙世紀0079年5月10日。連邦軍の鹵獲ザク部隊を撃破した僕たちは、無事にキャリフォルニア・ベースに帰還した。
マイ中尉たちとはここで一旦別れ、作戦についての報告を行うべくヨハンソン隊長の下に向かう。
指揮官用の部屋に入れば、既に大体の成り行きを聞いていたであろう隊長が微笑みを浮かべながら僕たちを出迎えてくれた。
「クロス・レオンハート軍曹、リリア・ヴァレンタイン軍曹、アクセル・クリムゾン軍曹、ただいま任務を終え、帰還しました」
「報告は聞いている。よくぞ連邦の卑劣な作戦を打ち破り、『第603技術試験隊』と試験対象を守り抜いてくれた。大手柄だな」
敬礼をしながらの報告に対し、上機嫌な様子でヨハンソン隊長が言う。
休めの指示をいただいたところで、僕は改めて隊長にお礼を言った。
「これも全ては上に掛け合ってくださった隊長のおかげです。本当に、感謝しています」
「ふっ……! 世辞は止せ。今回の作戦に敵軍が介入してくる可能性があると進言したのはお前だ。私は、お前の意見は正しいと判断したから動いたに過ぎない」
なんだかこんなふうに褒め殺しにされるのは慣れていないから、ムズムズしてしまう。
褒めてくれる相手が普段は恐ろしいが飛び切りの美人であるヨハンソン隊長だからこそ、なおさらそう思ってしまうよなと思う僕に対して、隊長は微笑みを浮かべながら言った。
「これからもお前の活躍に期待しているぞ、クロス・レオンハート
「はっ! ……は? 曹長……?」
ただの激励の言葉かと思って一瞬スルーしてしまったが、その後でとても気になる言葉が聞こえた気がした僕は慌ててヨハンソン隊長にその部分について聞き直す。
今、隊長は確かに僕を曹長と呼んだよな……? と困惑する僕に対して、ヨハンソン隊長は愉快気な笑みを浮かべながら頷いてみせた。
「ああ、そうだ。今回の作戦での活躍を受け、お前は軍曹から曹長に昇格となった」
「ぼ、僕だけですか? リリアやアクセル、他のサブナック隊のみんなは……!?」
「当然、お前だけだ。相手の動きを予測する戦術眼と高いMS操縦技術を併せ持つお前は、他の隊員と比較して頭一つ飛び抜けていると判断された。今日からお前は、私に次ぐサブナック隊のNo.2だ」
「そんな、僕が曹長だなんて……!?」
光栄……という感情よりも、本当にいいのか? という思いが勝ってしまう。
今回の襲撃を予測できたのは、僕が転生者で原作を知っていたからだし……本当は優れた戦術眼なんて持っていない。
そんな僕の迷いを笑い飛ばすように、ヨハンソン隊長は少し呆れ気味に言った。
「クロス、お前は少し謙虚が過ぎる。初陣でサラミス級二隻を撃沈し、ルウム戦役にも僅かではあるが参加。地球降下作戦でも潜水艦ドックの制圧に大きく貢献し、今回の任務で友軍を助けつつ敵のMS部隊を撃破した……ここまでのお前の活躍を考えれば、曹長どころか少尉に昇進していない方がおかしいくらいだ。上層部からの若過ぎるという意味不明な意見がなければ、お前は間違いなく尉官になっていた。サブナック隊のエースパイロットとしてな」
「サラミス二隻撃沈に、ルウムでの戦いにも参加……!? クロス、そんなことしてたの!?」
「なるほど、能ある鷹は爪を隠すというやつか。ガス辺りがこのことを知ったら、厄介なことになるだろうからな。黙っていて正解だ」
「いや、あの、違くってぇ……!」
急に周囲から持ち上げられると、どうしていいのかわからなくなる。
確かに今、ヨハンソン隊長が挙げたのは全て僕の戦果なわけだが、だからといって部隊内で唯一の曹長だとか、No.2だとか、エースパイロットだとか言われても、実感がわかない。
だというのに、隊長はそんな僕に向けてもっと驚くべきことを言ってきた。
「クロス、今日からお前をサブナック隊ホワイト小隊の隊長に命じる。リリアとアクセルも部隊員として、お前の隊に配属しよう。これからはエースパイロットとしてだけでなく、リーダーとしても活躍してみせろ」
「しょ、小隊長!? 僕がですか!?」
「次のステップに進む時が来たんだ、クロス。サブナック隊のメンバーたちからより強い嫉妬を向けられるとは思うが、それを乗り越えるのも優秀な軍人として必要なプロセス……これからの活躍に期待しているぞ」
報告に来たはずが、逆に報告されている。その内容も驚きを通り越して愕然とするしかない内容で……僕は言葉を失い、ただただ立ち尽くすことしかできなかった。
△ ▽ △ ▽ △ ▽ △
「クロス」
キャリフォルニア・ベースの格納庫、そこで整備を受けている自分のザクを見つめていた僕は、背後から聞こえた声に振り向く。
エレベーターを使って昇ってきたのはリリアで、軽く手を上げて彼女に応えた僕は、そのまま近くに置いてあったコーヒーに手を伸ばした。
「飲む? 夜は少し冷えるでしょ?」
「おおっ! 流石は曹長殿、部下への気配りも完璧だね~!」
おどけるようにそう言うリリアへとマグカップを渡し、砂糖とミルクもあると近くの台を指差す。
自分のコーヒーにそれを入れ、甘ったるいカフェオレを作った彼女は、それを一口飲んでから僕へと言った。
「すごいよね、クロスは。ヨハンソン隊長からの信頼も厚くて、専用機まで貰っちゃって、その上昇進して小隊長だもん」
「止めてよ。まだ自分でも受け止められてないんだからさ」
「ガスとか、すっごい顔してたよ? ま~た面倒くさいことになりそうだね」
褒めているのか、からかっているのかわからないリリアの言葉に苦笑を浮かべながら応える。
正直なところ、僕はやっぱり自分が小隊長という立場に就くことを喜べていない。サブナック隊のみんなから妬まれることもそうだが、誰かの命を預かることに対して、恐怖を抱いているからだ。
僕が何かをしくじれば、誰かが死ぬかもしれない。それはもしかしたら、今、隣にいるリリアかもしれない。
こうやって話をする彼女が、次の作戦の時には僕のせいで命を落とすことになるのかも……と、僕が恐れを感じる中、リリアが小さな声で呟く。
「ホント、すごいよね。こんなものに頼ってばかりの弱い私とは大違いだ」
驚いて彼女を見れば、その手には精神安定剤が握られていた。
きっと、ソンネン少佐の
「ヒルドルブのパイロット……ソンネン少佐も、戦いに臨むために薬を捨てた。でも私は、そんなことできない。これがないと不安で不安で……心が押し潰されそうになる。ホント、弱い自分が嫌になっちゃう……」
「リリア……」
強気だったり、無邪気だったり、そんな彼女の姿を見ていた僕だったが、もしかしたら今の彼女こそが本当の彼女なのかもしれないと思う。
強過ぎる感受性と、もう一つの要素……この宇宙世紀に出現した、新たな可能性を発現させた人々としての才覚が組み合わさってしまったが故に苦しんでいるであろう彼女へと、僕は思ったことをそのまま告げた。
「そんなこと、ないと思うよ。僕は、リリアは強い人間だと思う」
「……無理に励まさなくっていいよ。自分が情けない人間だってことは、自分が一番わかってるから」
「そうじゃないよ。本気でそう思ってる。だってリリアは、逃げてないじゃないか」
「え……?」
これは憐れみとか隊長としての義務感として言っていることではない。正真正銘、僕が本心から思っていることだ。
目を見開く彼女へと、僕は話を続けていく。
「地球に降りたサブナック隊のみんなだって、ブリティッシュ作戦に参加した。コロニー落としの責任は、みんなにだってあるはずだ。でも……みんな、自分がしたことから目を背けてる。自分が何億もの人たちを殺したって事実を見ないようにして、罪悪感から逃げてるんだ。その罪と真正面から向かい合っているのは……僕が知る限り、リリアだけだよ」
「クロス……」
「……僕も、みんなと同じだ。もう何人も人を殺してきたし、守れなかった人たちもたくさんいる。今日だって何人も殺した。誰かを守るためには他の誰かを殺さなくっちゃいけなくって……本当、嫌になっちゃうよね」
僕の始まりは、恐怖から始まった。死にたくないという、情けない願望から始まってしまった。
その恐怖のせいでパプアからの出撃が遅れ、そのせいで乗組員のみんなが死んだ。マイ中尉を助けるためにセイバーフィッシュのパイロットたちを殺し、降下作戦を成功させるためにキャリフォルニア・ベースの防衛隊を殺し、今日もザクの乗組員を殺した。
そこまでやっても、守り切れない命がある。自分のザクのシールド、そこに描かれた十字架と蛇を見る度に、ヘンメ大尉のことを思い出す。
今日、僕はまた一つ
これを繰り返した先に、何か答えのようなものは待っていてくれるのかと……そう思いながらため息を吐く僕へと、リリアが言う。
「……クロスもいっぱいいっぱいなんだね」
「まあね。でも、それはみんな同じだよ。だから……お互いに助け合おう。リリアが苦しい時は僕が助けるし、僕が苦しい時はリリアに助けてほしい。そうやって支え合っていこうよ。これから、同じ小隊の仲間になるんだしさ」
「そうだね……持ちつ持たれつでいこうか……」
僕の情けない提案に、リリアは静かにそう答えた。
暫しの静寂が流れた後、彼女が不意に口を開く。
「クロスって、やっぱり甘いね。そういうとこ、結構好きになってきた」
「そう? リリアにそう言ってもらえて嬉しいよ」
「……ば~か」
急に馬鹿にされたが、リリアが普段のメスガキっぽくなったということは元気が出たということだろう。
そのことを喜びながら夜空を見上げ、そこに瞬く星々の輝きを目に焼き付けながら……僕は、いつかみんなであの宇宙に戻れる日が来ることを、強く強く望むのであった。