ジオン兵に転生するって知ってたら、もっと真面目にガンダム見てたのに!   作:じおじお

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ソンネン少佐に相談だ

 アリゾナ砂漠での戦いから、数日が過ぎた。

 

 マイ中尉たちの予想通り、ヒルドルブの運用試験中に起きた偶発的な戦いは連邦の悪辣さとジオンの新兵器の強力さをアピールする絶好のプロパガンダとして扱われ、大々的な広報によってジオン軍の士気は大いに上がった。

 しかし、ヒルドルブが量産されるといった話が持ち上がる気配はなく、ほぼソンネン少佐専用機として扱われることが既定路線のように感じられる。

 

 その話は置いておいて、めでたく(めでたいとは言ってない)曹長に昇格した僕はというと……やっぱりガスたちに妬まれていた。

 今回の行為を得点稼ぎの抜け駆けだとヨハンソン隊長に訴える者もいたようだが、隊長はそれを「そういうのは立候補した者、言った者、そして作戦を成功させた者勝ちだ」と一蹴してしまったらしい。

 

 しかもどこからどう話が流れたのかはわからないが、僕が初陣でサラミス二隻を沈めたことやルウム戦役に参加していた話が尾ひれが付いて広まってしまっていた。

 やれ「ブリティッシュ作戦に参加しなかったのは極秘任務のためだった」とか、「あの赤い彗星と轡を並べた」だとか、「既にキシリア様からエリート部隊への転属を打診されている」だとか、そんな根も葉もないうわさが広まってしまって、それが僕の孤立を加速させていた。

 

 幸い、リリアとアクセルは仲良くしてくれているが……やっぱり、嫉妬と憎しみの視線を浴び続ける日々というのは心労がかさむ。

 そういう悩みを抱えながらも、それ以上に大きな悩みを抱えていた僕は、キャリフォルニア・ベースに一時配属となったソンネン少佐の下を訪れていた。

 

「ソンネン少佐、少しお時間よろしいでしょうか?」

 

「ん? なんだ、クロス……んっ、んんっ! レオンハート曹長じゃあねえか! どうした? 俺に何か用か?」

 

「からかわないでくださいよ。僕だってまだ、慣れてないんですから……」

 

 人が多い食堂の中で大声で階級についてからかわれた僕は、サブナック隊のメンバーの視線を感じながらソンネン少佐をやんわり窘める。

 これ以上、余計な火種を抱えたくないと思いながら少佐の対面に座れば、彼は上機嫌に話をしてくれた。

 

「何を恥ずかしがってる? お前は昇進するに相応しい手柄を立てたんだ。胸を張れよ、クロス曹長。俺だったらなんで尉官に昇進させないってキレてるところだぞ?」

 

「いや、流石にそれは……」

 

「そういう弱気なところがいけねえんだ。まあ、悪いのは年齢を理由に尉官に昇格させなかった上層部の連中だがな。過去のヒルドルブの試験結果といい、上の連中は頭が固くて嫌になるぜ」

 

 こんなところで上層部の批判ができるだなんて、ソンネン少佐って良くも悪くもぶっ飛んでるよな~と考えながら乾いた笑い声を漏らす。

 ひとしきり世間話をしたところで、少佐は僕にこう問いかけてきた。

 

「それで? わざわざ俺に声をかけた理由はなんだ? まさか、ただ世間話がしたかったってわけじゃないんだろう?」

 

「はい……実は、ソンネン少佐に小隊長としてのイロハを教えていただきたくて……」

 

「俺に? どうしてだ?」

 

「ソンネン少佐は戦車教導団の教官だったとお聞きしました。集団での戦術や部隊の指揮を執る者としての知識や経験がおありだと、そう思いまして……」

 

「……キャディラックの奴か。勝手にベラベラ話しやがって……!!」

 

 キャディラック特務大尉が疑われているが、これは僕の生前の知識であって、彼女からは何も聞いていない。

 まあ、もう宇宙に上がってしまったことだし、ここは申し訳ないがソンネン少佐に誤解したままでいてもらおうと思いながら、僕は言う。

 

「曹長に昇格し、小隊を任されることになりました。ですが、部隊を預かる指揮官としての経験も知識も皆無で、こんな状態で仲間の命を預かることなんてできません。せめて少しでも勉強しようと思って、それで……」

 

「……俺に声をかけたってことか」

 

 サブナック隊はザクの改修作業で休暇中、ソンネン少佐も代わりのヒルドルブが届くまで待機状態となっている。

 このチャンスを逃すわけにはいかなかった僕は、ダメ元で彼に声をかけ、色々と教えてもらえないかと頼んでみた……ということだ。

 

「……悪いが無理だな。俺じゃお前の力になれねえ」

 

「そんな!? どうしてですか!?」

 

「簡単な話だ。俺が学んだのは戦車を用いた集団戦術。お前が学びたいのはMSの集団戦術だろう? 戦車とMSじゃ何もかもが違うんだよ」

 

「それはそうかもしれません。でも――!!」

 

 何か少しでも、小隊長として学んでおきたい。

 リリアとアクセル、サブナック隊のみんなの命を預かる立場になった者として、その責任に恥じない努力をしておきたいと、僕は思っている。

 

 問題は何をすればいいのかがわからないことで、藁にも縋る気分で縋った僕のことを哀れに思ったのか、ソンネン少佐はため息を吐いた後で仕方がないといった様子で言った。

 

「……まあ、戦術の定石くらいは教えてやれるか。学んだことをどう活かすかはお前次第だが、何も知らないよりかはマシになれるだろうさ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「俺も本国から代わりのヒルドルブが届くまで暇だし、お前には借りもある。仕方ねえから付き合ってやるよ!」

 

「あ、ありがとうございますっ!!」

 

 立ち上がり、大声で感謝の気持ちを伝えながら深々とお辞儀をする。

 そんな僕のことを少し驚いた表情で見つめていたソンネン少佐は、小さく笑うと共にこう言った。

 

「変な奴だな、お前」

 

「あ、あはは……その、よく言われます……」

 

「あのリリアとかいう小さいが乳とケツはデカい子にだろ? そういうタイプの女だと、俺は睨んでるね」

 

 見事に正解を言い当てられた僕が苦笑を浮かべながら頷く。

 でも、ソンネン少佐も十分変な人だよなと考えつつもそれを言ったら全てがおじゃんになってしまいそうだったから黙っておくことにした僕に向かって、少佐は真剣な表情を浮かべながら口を開いた。

 

「クロス、色々教えてやるのはいいが、今のお前には何よりも大事なものが抜けている。小隊長になるのなら、それを身につけなきゃ話にならねえ」

 

「な、何ですか? 僕に抜けているものって、いったい……?」

 

「……()()だよ」

 

「は、はぁ……?」

 

 足りないものが多くあるという自覚はあるが、返ってきたのは威厳というちょっとよくわからないものだった。

 てっきり戦術眼だとか、そういうものを指摘されると思っていた僕がぽかんとする中、ソンネン少佐は至って真面目な様子で話をしていく。

 

「お前、部隊の連中から嫌がらせをされてるだろ? つまりそれはお前が舐められてる、威厳がねえってことだ。特別競合部隊だったか? そんな状況だから、出る杭は打たれるって話はわかる。だがな、本来それは軍隊じゃ絶対にあっちゃならねえことなんだぜ?」

 

 圧のようなものを放ちながら話すソンネン少佐の雰囲気に、思わず息を飲んでしまった。

 重々しい口調で語る彼は、軍人としての心得と威厳の大切さについて話を続ける。

 

「軍隊ってのは上からの命令は絶対って組織だ。曹長であるお前に対して、下の階級の連中が嫌がらせを仕掛けるだなんて言語道断……その場で粛清されてもおかしくないレベルのやらかしだ。そういうところを咎めないヨハンソンにも問題はあるが、それが特別競合部隊の方針だってんならしょうがねえ」

 

 俺は部外者だしな、と深くはサブナック隊の内部に関わるつもりはないと前置きしつつ、ソンネン少佐は続ける。

 

「クロス、お前はひよっこだ。だが、かなりマシな部類のひよっこだ。少なくとも軍隊がどんなところかもわかってねえ周りのガキどもと比べたら……いや、比較にならねえな」

 

「そ、そのレベルなんですか?」

 

「ああ、こないだ会った二人が合格点、それ以外は話にならねえってレベルだな」

 

 ソンネン少佐にすっぱり言い切られた僕の背中に変な汗が流れる。

 褒められているんだろうけど、サブナック隊全体の評価ってそんな感じなんだなと思う僕へと、少佐は真剣な表情を浮かべたまま、最も重大な部分について語っていく。

 

「いいか、クロス? 上官を舐める部下ってのは、どこかで言うことを聞かなくなる。っていうか、そういうことをしてる馬鹿がサブナック隊に一人くらいはいるだろ?」

 

「ええ、まあ、はい……」

 

 ガスのことだなと思いつつ、ソンネン少佐が彼のことを知らずに言ったというのならばかなりすごいなと思いながら、僕は話に耳を傾ける。

 

「言うことを聞かなくなった部下が作戦行動中に独断で勝手な真似をすれば、それは隊全体を危険に晒すことを意味する。その馬鹿や舐められ続けたお前が死ぬならまだ自業自得だが……お前を慕い、信じる仲間が死んだりする可能性だってあるんだぞ?」

 

「……!」

 

「だからクロス、舐められるな。嫌がらせを仕掛けてくる馬鹿をぶん殴って修正してもいい。命令違反した奴を怒鳴り付けても構わねえ。周りの連中にわからせろ。お前は上の存在なんだってな」

 

 ……ソンネン少佐は、決して僕に偉ぶれだとか、傲慢に振る舞えと言っているわけではない。

 上官として、部下を守るためには厳しさも必要だと、そう言っているのだ。

 

 実際、プライドの高いガスが小隊長の座を降ろされ、他の小隊に配属された時に隊長の命令を聞かず、全体を混乱に陥らせたこともあった。

 でも、ヨハンソン隊長の小隊に配属されてからはそういった事態はピタリと収まって……それがソンネン少佐が言う、威厳の力なんだと理解する。

 

「……善処します。今言った方法を使うかどうかはわかりませんけど……」

 

「ああ、別にそうしろって言ってるわけじゃねえ。方法は何でもいいから、同じ部隊の連中から嫌がらせを受けなくなる程度にはなれって話だ。お前や、お前の小隊に配属されるひよっこたちのためにもな」

 

 ソンネン少佐の言葉は厳しい。だけど、その中には間違いなく僕たちを思いやる優しさがある。

 戦術よりもずっと大切なことを教えてくれた少佐に感謝しながら……僕は、自分に必要な威厳の身につけ方について、考えていくのであった。




感想返信できずに申し訳ない……
このお話から再開したいです!(したいという気持ちはある)(できるかどうか定かではない)
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